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cruise ship-01 次の目的地



挿絵(By みてみん)



 【cruise ship】海を渡って




 テレストロードで各地の情報を集める事4日。砂漠に飽きたオレ達は、ホテルのロビーでそろそろ次の場所に移動しようと考えていた。


「ええ、はい。そうです、テレストに拠点はありません。はい、はい……分かりました」

「どうでした?」

「バース共和国の拠点を発見、全員捕えたそうよ。ニータ共和国の拠点はうちの父が確認。拠点を一掃するまでもなくほぼ全員凍死してたって」

「ひええ……」


 主要な町の近くで、人があまり訪れない場所。たったそれだけの条件で探しても、世界で5つの魔王教団の拠点が見つかった。


 魔王教徒がバスターを欲しがっているというアゼスの話から、オレ達は魔王教徒の戦闘能力があまり高くないと睨んだ。

 死霊術には黒い炎を生み出したり、毒沼を発生させる魔法もある。決してアンデッドを操るだけではない。でもそれだけで戦える程、この世界は甘くない。


 死霊術の特性のせいで回復魔法は使えず、攻撃魔法はファイアと同等のヘルファイアくらい。その他は威力があまりない妨害術ばかり。しかもアンデッドの準備には、まずモンスターを倒さなければならない。


 死霊術ってそもそもが対人で使う事を想定しているから、モンスターと戦うのは苦手なんだ。


「読み通りね。アゼスやティート達を引き込めたのは本当に大きかった」

「拠点では自給自足が出来ない。だから人里から離れ過ぎても拠点が維持できない。徒歩で1日、それ以上を移動するには戦闘能力に不安がある、でしたね」

「主要拠点がある町の電話番号から、拠点がある地域を絞れたのも大きい。この貢献度じゃ、あいつらもう十分過ぎる程償ったと言えるな」


 管理所や各町の協力を請い、バスター達は数十人単位で各地点に派遣された。とにかく魔力を封じる魔具を大量に持って。

 人里に近く、見つかり難い場所などそう多くはない。無理をした結果、潜伏して力を蓄えるどころか、拠点の維持すら出来ない場所もあった。


「つか、寒冷地なら探しに来ないだろうと思ったんだろうけどさあ。ニータ高原に拠点って、無謀にも程があるだろ」

「シュトレイ山のくぼ地もそうだったけどね。あの拠点、冬はどうするつもりだったんだろう」

「あの場所、北緯52度、標高1500メルテらしいぜ? テント拠点なんて自殺行為だろ」

「ニータ高原の拠点もそうよ。標高2000メルテの村の更に登ったところだって」

「そりゃ大雪と低温で凍死するよな。何のために魔王教徒やってんだよ……」


 レイラさんがギリングの管理所との通話を終え、その内容を聞いたオレとオルターはガックリと肩を落とした。

 魔王教団は許せない。捕まったメンバーも含め悔い改めてもらいたいし、被害に遭った人にきちんと賠償するべきだと思ってる。


 だけど、無理して勝手に死んだ魔王教徒に対し、「ざまあみろ」とは思わない。そういう拠点にいる上層部なんて、よくて数人。大抵はティートのように使い捨てにされる末端の信者だ。

 事情があって信者になった人なら、救える人は救いたい。


「昨日、ベネスとも話したの。ビアンカさんは、イヴァンさんの里帰りで一緒にママッカ大陸のムゲン特別自治区に。うちの父はニータ共和国を出てエンリケ公国に」

「ゼスタさんにシュトレイ大陸を任せて、ビアンカさん達にママッカ大陸を。うちの両親がケイン諸島と、バース共和国があるカザンスク大陸……オレ達、どこに行きましょうか」


 シュトレイ大陸内では、シュトレイ山麓、テレスト砂漠、そしてニータ高原に拠点があった。あとは南北エジン、エンリケ公国、エバン特別自治区の大森林。

 今からオレ達が動かずとも良さそうな場所ばかり。


 というか、今の時期だと大陸北部のエバン特別自治区には行けない。

 陸路はイサラ村からシュトレイ山の麓の山道を北上するしかないんだけど、雪山で遭難するのは目に見えてる。

 航路で行こうにも、冬の極地方の海なんて船を出してもらえるはずがない。


 というより、大森林はモンスターが強い。パープル等級以上のバスターがいないと、通り抜けるのも命がけだ。オレ達じゃ無理だし、魔王教徒にも無理。


 最北大陸にも小さな村が幾つかあるけれど、あの島は極寒どころじゃないし、特に獰猛で大きな白熊が生息してる。


「かといって、このままテレストにいても仕方ないし……」

「マガナン大陸は? イース、ギタのマイム町にいた事あるんだよな」

「えっ、でもテレストから船で2週間掛かるんだけど……時間が無駄じゃないかな」

「みゃいむ! ぬし、みゃいむ! ぬしお住みしまた、ボク行くたいます!」

「イースが住んでた所に行きたいだけ?」

「ぴゅい」


 まあ、マイムは南半球にあるから今は夏だし、南緯21度でも乾燥地域だから蒸し暑くないし、活動はしやすいと思う。

 だけど、オレ達が行くなら、別の人に頼んでもいいと思うんだよね。オレ達が動くのは、グレイプニールか伝説の武器達かが心を読むのが目的。だから拠点潰しの後で向かってもいいんだ。


「それならさ、いっそ不確定な拠点の場所に行かないか」

「……えっ」

「あたし達で? うーん、許可が下りるかな」


 不確定な拠点、それは南半球にある「エインダー島」だった。

 かつて魔王教徒の拠点があった場所であり、父さん達が乗り込んだ島だ。


 火山活動のせいで立ち入り禁止になっている場所。320年以上前の「勇者ディーゴ」の故郷があった島は、ラスカ火山がいつ噴火してもおかしくないんだ。


 ディーゴの故郷ビズンは、溶岩台地の下に埋もれているという。


 なぜ拠点があると思ったのか。それはアゼスが教えてくれた電話番号の1つが、一番近い「アマナ島」のミスラにあるホテルのものだったから。


「東端のミスラ町と、北部のアニカ町、どっちも町から2日の距離を歩いて捜索してくれたんだよね」

「うん。だからミスラのホテルに滞在している魔王教徒と、頻繁に連絡を取り合うってのはおかしいなと」


 アマナ島はマイムの西の沖、約2000キルテに浮かんでいる。東西約1000キルテ、南北にも200キルテくらいの島だ。


 ただ、アマナ島は独特の生態系があり、モンスターも獰猛なウサギ型モンスターのラビと馬くらいしかいない。

 しかも島内のラビは温厚だ。人に慣れ、モンスターではなくペットとして飼われている。馬と一緒で、人と生きる方が都合がいいと学んだ結果だ。


 最弱モンスターのラビと、草食動物同然の馬を狩ってアンデッドにしたって、戦力にはならない。だから魔王教徒が拠点にする意味がない。


 島の中央部の大半は広大な湿地になっていて、人が活動するには不向きだ。


「エインダー島もアマナ島と同じアマナ共和国の島だけど、無人島で電話回線がないからな。定期的にミスラに行って電話している可能性あるもんな」

「魔王教徒がかつて拠点にしていた場所ってのも気になるんだ。立ち入り禁止の島だけど、巡視船も今は出ていないそうだよ」

「……管理所に相談してみましょ。それか、テレストの東にあるサウスエジン国か、その北のノースエジン連邦か……」

「レイラ・ユノーさん。ギリングの事件屋シンクロニシティからお電話です」

「あ、はい」


 目的地に悩んでいると、ギリングに残ったベネスさんからホテルに電話が掛かってきた。


「え? うん、うん。ああ、まあそれはいいの。え? うっそ、……うん、うん。分かった、有難う。あたし達明日から移動するの、また現地から連絡する」

「レイラさん、内容は?」

「春になるまで、イースの叔父さんのチッキーさんと農鎌のテュールが尋問を手伝うために、南北エジン両国に行ってくれるらしい」

「え、チッキーさんが?」


 チッキーさんは農家で、バスターじゃない。だけどチッキーさんの鎌であるテュールも心を読むのは可能だ。手伝ってくれるなら心強い。


「これ、オレ達の行き先決まったな」

「だな」

「って事で、あたし達はエインダー島の許可を取りましょう。ミスラの管理所に連絡してみる」

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