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Mirage-10 黒幕の手のひらでワルツを



 4人はそれぞれ生い立ちから魔王教への入信までを赤裸々に語った。


 他の集落に潜んでいる者の中には、魔王教徒同士で結婚した夫婦の間に生まれ、魔王教団内の常識だけで育ってきた者もいるらしい。

 勧誘の手口も巧妙で、わざとモンスターに襲わせた後、救世主を演じて助け出す事もあったという。


「モンスターに怯える辺境の村は狙い目です。魔王教は悪いものだとして世間に広まっているため、利点を数多く並べて心を揺さぶり、幾つもの村を引き込んでいます」

「モンスターの死骸を貯め置き、必要に応じてアンデッド化すればいい。そうする事で村の警備を担わせる事ができ、村人は戦わずに済む。そう説得して村を拠点という名の死骸置場代わりにしたり」

「そうすれば村に怪しまれず堂々と死骸を確保できます。村そのものは消耗品で、村を救う事など最初から考えていません」

「……なおうきょうと、ほんとうつくしまた」


 場内は静まり返っていた。みんな黙って聞いていたんじゃない、絶句していたんだ。

 それを行われていた土地の1つが、このテレスト王国だったと気付いたから。


「お、おい待って、待ってくれ! 北東のオアシスはどげんなっとる! 俺の故郷、確かモンスターの死骸置場が」

「砂漠のど真ん中に隠しとるっち話やなかったと? もしかして全員が移住した廃村って」


 傍聴人の中には語られた例に心当たりがある者もいた。尋問の際にはグレイプニールが色々と読み取ったはずだし、本人達も質問に対し全てを包み隠さず話してくれたと思う。

 だけど村を拠点化している話は初めてだ。魔王教徒達はその事実を当初伏せていたのか。その理由はすぐに分かった。


「す、すみません、俺達、町の近くには置き場を作ってません」

「ああ、でも確かに北西の死骸置場はかつて集落だったような跡がありました」


 この4人やその仲間でも把握できていない場所があるって事か。

 そうなるとモンスターの死骸置場はもっとあるのかもしれない。


「な、なあ、アンデッド化しちまう事はあると? オアシスや他の集落は無事なん?」

「あんたらまさか村を滅ぼしたと?」

「す、少なくともテレストにいた俺達は、報告のあった場所以外は知らない」


 グレイプニールは嘘だと言わない。触れさせても「ほんとうつき」だそうだ。

 となれば、この4人を含むテレストロード隊とは別で動いている部隊がありそうだ。


「他の村で活動している奴らとは連携しているのか」

「で、電話連絡程度ですが。ああ、半年に1度は全員で集まって進捗確認をします」

「その際の指示はあんたが?」

「は、はい。なので、指示していない事となると」


 指示していないのに、現実は集落の拠点化が整いつつある。


「なあ、あんた。サンドワームに襲わせたのはあんたらか」

「サンドワーム? 俺達はアンデッドを操るのであって、モンスターを操れるわけじゃない」

「だーっ! そのサンドワームのアンデッドに俺達を襲わせただろって聞いてんだよ!」


 オルターがリーダーの男をジロリと睨む。だけどリーダーの反応が何だか鈍い。


「サンドワームの、アンデッド? 俺達はそんなもの、操ってない」

「えっ?」

「りだー、ほんとうつきます」

「本当に操ってないのか? じゃああのアンデッドは?」

「せっかく貯めた死骸を不必要に使ったりしない。運べない個体をアンデッド化して移動させる事はあるけど」


 って事は……こいつらとは別の指示系統で行動している魔王教徒がいるって事だ。


「まずいわ。やっぱり魔王教徒側に動きが知られているかも」

「そもそもこいつらが操っていたアンデッドだったら、みんなとっくに逃げるか別の手段を講じていたはず」

「あの場で魔具を使ってりゃ良かった。操られているなら魔法の痕跡が見つかったのに」


 何か、何かが引っ掛かる。

 サンドワームのアンデッドは誰が操っていた?

 同じ魔王教徒なのに、仲間に知らせず単独で行動しているのか? 一体何のために?


「なああんた本当に何も知らんのか?」

「サンドワームのアンデッドって何よ、そげなもんがおるっち事か」

「こいつらが操っとらんなら、自然に発生したんやないの」

「でも聞いたことがないわ、サンドワームのアンデッドなんて。管理所に記録とか残っとらんのかっち、聞いてみたら……」


 アンデッドが外をうろついていると知り、場内に不安が伝染する。魔王教徒の4人も困惑しつつ、互いの情報をすり合わせようとしていた。


「そもそも他の集落の奴からは、別で動いているチームの話など聞いてないんです」

「えっ?」

「俺達、別で動いている死霊術士なんか、知らないんです。本部からは俺達だけと聞いていたんです」


 どういう事だ?

 何か嫌な予感がする。このモヤモヤの正体は一体何だ?


 もはや裁判どころではない。大臣も刑務官も俺達と一緒に事態について考えていた。傍聴席からも、もう魔王教徒を責める声は上がっていない。

 とにかく今がどうなっているのか、魔王教徒に直接質問している人もいる。


「……ねえ、あたしの推理、聞いてくれる?」


 そんな中、レイラさんが声を張り上げずに響かせた。誰からともなく口を閉じ、場内が静まり返る。

 部屋の左右に5つずつ並んだ木の机から、ペンが1本床に落ちたのを合図に、レイラさんが話を始めた。


「この人達は嘘を付いていない。アンデッドが現れたのも本当。この人達はアンデッドの材料を集めてはいたけど、アンデッド化させたのは墓場だけ」


 レイラさんが魔王教徒に確認の意味を込めて視線を向ける。


「ああ。1人だけ墓から起こせばその身内から真っ先に狙われ捕まってしまう。だからついでにアンデッドの数を確保できたらと、墓地1つ丸ごと術を掛けた」

「何度か仲間に場所を聞いて現地を確認もしたが、死骸を集めて隠しただけだ。墓以外、アンデッド化させる合図は本部から届いていない」


 この魔王教徒達は、グレイプニールが読み取った場所しか知らない。

 その他の場所にも死骸を隠した事を……隠されている?


「その仲間、本当にあなたの指示を聞いているかしら」

「どういう事……ですか」

「あなたの指示に従っていると見せかけ、本部から別の任務を渡されているかもしれない」

「他の集落に潜んでいる奴らが、俺達を欺いている? 何のために」

「本当の目的を遂行するため……あなた達を囮にしているとしたら」


 成る程、そう考えると辻褄が合う。

 こいつらにせっせとアンデッドの材料を集めさせ、その材料は別の指示で動く者達が使う。


「テレストロードに残る奴と、他の集落に向かう奴、どうやって決めた」

「そ、それは……本部からの命令で」

「俺達が自分達で振り分けたわけじゃない」

「やっぱり、そういう事か」


 魔王教徒は元々人の命など気にもかけない連中だ。そんな連中がその辺で拾ったような信者を中枢に招き入れるだろうか。大事に扱うだろうか。

 彼らが目指す浄化された理想の世界に、連れて行く気などあるだろうか。


 レイラさんが頷く。

 オレの質問への魔王教徒の答えは、偶然なんかじゃない。


「あなた達、魔王教団から切り捨てられたのよ」

「切り……? へっ?」

「あなた達が捕まる事は想定済みだったの。本隊はあたし達を監視していて、サンドワームのアンデッドをけしかけた」

「アンデッドに襲われたら、オレ達は魔王教徒がテレストにいると考える。その際、あの老婆のように見つかりやすい信者を準備する。そうすれば疑惑は確信に変わる」

「あ、そうか。それに合わせて墓の遺体のアンデッド化を実行させて、魔具で追跡されたあんた達は捕まる。そのあんたらに……俺達が足止めされて」


 そう、テレストロードの魔王教徒はオレ達が食いつき易い餌なんだ。

 その推理に再び周囲がざわめきだした時、法廷の大扉が勢いよく音を立てて開かれた。


 皆の視線が入ってきた人物へと集まる。それは王宮の警備で見かけた兵士だった。


「た、大変です大臣! ほく、ほ……北東のむ、村が」

「何事だ」

「む、むらが、あ、も、モンスターの、あ、アンデッドに襲われています……」

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