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Mirage-04 国王からの任務



 なんと、料理はまだ出てくる予定だったらしい。もちろん、もうバスター達では食べきれない。

 結局、給仕や警備はもちろん、厨房、清掃、事務、補修、色々な係が入れ替わり食事をする事になった。兵士や給仕係ばかりずるい! という声も上がっていたんだとか。ちゃっかり大臣もいたし、みんな食べたかったんだな。


 兵士が警備に戻り、バスターは昼食会に戻る。何の会か分からない程色んな人が混ざり合い、とても賑やかで楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


「それではバスターの皆さん、玉座の間へ」


 王宮で働く皆が概ね持ち場に戻った頃、大臣が昼食会の終了を告げた。真っ赤な絨毯の上を歩き、広い大理石のフロアに。


 真っ白な柱は花で彩られ、正面の大階段の踊り場には国王の肖像画。

 壁に飾られた大きな砂漠や海の風景はまるで写真のよう。大きな鏡は金をふんだんに使った縁の方が目立つ。


「おぉう、剣、きらきら。綺麗ます、でもあの剣斬るよごでぎまい」

「ああ、あれは飾るためのものだからね」

「おぉう、斬るでぎまい、剣かなち……」


 グレイプニールが飾りでしかない剣に同情を示す。

 なるほどね、武器としては見た目重視じゃなくてその性能なんだな。グレイプニールもよくカッコ良いに拘るけど、それは見た目じゃなくて「よく斬れるボク」「質の良いボク」なのか。

 豪華に作られていいなじゃなくて、使われないのは可哀想って発想はなかった。


 それ以外にも金の全身鎧、金の槍、人が隠れられそうなくらい大きな陶磁器の壺……近づくだけでも壊しそうで恐ろしい。


 玉座の間は大階段の裏にあり、オレ達は正面階段に向かって左の扉から1列で入室した。

 劇場のように柱がなく、床から7段上がった玉座まで、真っ赤なカーペットがシワ1つなく続いている。


「すっげ、500人くらいは余裕で入れそうだぞ」

「天井高い……見て、天窓は全部ステンドグラスだわ」

「周囲には建物がない。明り取りが出来て、かつ万が一塀の上に潜まれたとしても中を覗かれる心配もない、か」


 全員が玉座の間に入った後、国王陛下が玉座に着いた。

 やっぱり威厳があるな。この砂に囲まれた厳しい環境下においても、国民は国王陛下のいるテレストこそ楽園と胸を張る。

 慕われている自信も、威厳に繋がっているのかもしれない。


「諸君。先程の昼食会、我が民への気遣いに感謝する」


 王様から感謝を告げられるとは思ってなくて、みんなも互いの顔を見合わせている。なんか、いい人だよな。


「さて、ここからは我からの頼みとなる。こうして諸君を集めた理由を教えよう。大臣」

「はっ!」


 王様の代わりに大臣が左から前に進み出て話しだした。


「アンデッドの件は、魔王教徒の仕業だと判明している。協力者も複数名捕えた。その件については感謝を述べた通りだ。ただ、これで終わりではない」


 大臣が兵士の1人に視線を移すと、兵士が1パーティーに1枚ずつ紙を配り始めた。受け取った茶色い羊皮紙には、テレスト王国の地図が描かれている。


「ここ、王都だよな。この北がジルダで、通った国境門はここ」

「世界地図には載っていない小さな集落が複数載ってるわ。オアシスの位置も」

「ボク、どこますか?」

「ん? これは場所だけで、自分達がどこかは描かれてないよ」

「おぉう……」


 北を示す記号は、テレスト国旗にも使われている大剣のシンボルだ。それを見て自分も地図に描かれてあるはずと思った……のか?


「御覧の通り、我が国の大半は砂の海だ。恥ずかしながら、その隅から隅までを把握できる環境ではない。街道さえも砂に埋もれる過酷な土地だ」

「テレストに立ち寄るなら、陸路は考えずに船を使うものね」

「俺達は1度だけ東の山脈を越えた事があるけど、まあ二度と行かねえや。街道なんて名ばかりで、よじ登るしか方法がない急斜面と切り立った崖ばかり」

「岩肌にへばりついて、足を踏み外したら終わり。あの街道はきっとヤギ専用よ」


 山越え経験者のパーティーもいるみたい。うん、オレ達は絶対に行かないぞ。


「諸君が言う通り、街道でさえも滅多に使われない。北の国境門、及び南東の海辺の国境門を通過する者は週に1、2組だ」


 土地柄については嫌というほど分かってる。でも、何でそんな話を?


「そんな我が国の土地で、先日サンドワームのアンデッドが初めて目撃された」

「それって、オレ達が倒したやつか」

「守衛のおじさん達、見た事ないって言ってたもんね」

「我が国の乾燥した気候と豊富な砂は、アンデッドを隠すのにちょうどいい」


 ……人目に付かず、アンデッドの状態を保つのに気を使わなくていい。確かにテレスト王国は死霊術士にとって格好のアンデッド量産場かも。


「確か、20年くらい前の魔王教徒達って、アンデッドを各地で集めてたのよね」

「どこも人目に付かない場所ばかりだったはず!」

「ジルダ共和国の件、聞いただろ? シュトレイ山の中腹の狭い盆地を拠点にしてたらしいぜ」

「恐ろしいのは、仮に死霊術士がサンドワームをアンデッド化したのなら、奴らはサンドワームを倒せるくらいの実力があるって事だ」

「誰かが倒した死体を利用しているかもよ?」


 バスター達が考察を始める。まだ情報は少ないけど、地図を見ながら場所を探り当てようとしているパーティーもあった。


「コホン。諸君には、このテレストに隠されたアンデッドを暴き、始末してもらいたい!」


 ……何だその宝探しみたいな言い方。ああ、でもこの会話だけで色々分かった事がある。


 少なくともこの依頼は部外者に聞かれてはまずいもの。そうでなければ、あの昼食会の場で依頼してもよかったんだ。

 それはつまり、昨日捕えた魔王教徒以外にもいると確信していて、その魔王教徒が王国の動きを探っているのも把握済みって事。


「……他にも魔王教徒がいると、確信しているのですね」

「如何にも」

「昨日捕えた中で、生粋の魔王教徒……つまり、息子を生き返らせたかったお婆さんのような人じゃない魔王教徒はどれくらいいましたか」

「定かではないが、我が国の民はここ数年で入信した者ばかりだと」

「ん~、渡航歴、滞在歴、出身地などは分かるんですよね」


 この広大な砂漠では、どこかに食料や水を調達できる拠点がないと、数日と活動できない。町の出入りの情報も役に立つはず。


 まあ、それを考察するより手っ取り早い方法が1つあるんだけど。


「なあ、オルター、レイラさん」

「何? ……そういう事ね」

「イースにしては、過激な案だな。でも面白そうだ」


 オレ達は瞬時に作戦を共有した。出来る限り確実に進めたいんだ。


「お願いがあります。その魔王教徒達の取り調べ、同席させて貰えませんか」

「……なるほど、その方が話が早いわね」

「どういう事だ」

「国王陛下、大臣。イースが手にしているショートソードは」

「ぐえいむにーゆます。ゆらしくね!」

「……グレイプニールは、人の思考を読み取ることが出来ます。アンデッドの隠し場所を知っている者がいれば、確実に分かるんです」

「ほう……それは良い」


 戦いや体力なら、ベテランバスター達には敵わない。だけどオレ達ならそのベテラン達の効率を上げる事が出来る。


「その取り調べの際、相手が確実に魔王教徒であり、悪事を働いたと分かった時は、オレ達に任せて貰えますか」

「任せるとは」

「そいつしか知らない秘密を暴いて、周囲に知らしめてもいいっすかね」

「テレストの法における名誉棄損罪、侮辱罪等を適用するな、と」

「ええ。正攻法で時間を掛ける余裕はありません。本人の同意がなくても、知り得た事実を共有したいんです。拷問などは決して行いません。どうでしょう」


 難しい問題だと思う。勝手に心を読み、それを他人に言いふらすなんて。大臣は悩み、国王陛下へ視線を向ける。


 肝心の国王陛下は……何事もないかのように口を開いた。


「我が国の法律は、物にまで適用されない。人を律するものだ。その剣が何をどれだけ喋ろうと、何も問題はない」

「あっ、そっか」

「さっすが王様! ……コホン、有難うございます、陛下」

「皆は怪しい者への警戒を。3人は我が兵と共に取り調べに。動けるものから任務についてくれ」

「はいっ!」

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