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Black or White-05 手負いの獣



 バー・シンクロニシティは、素行が悪いお客から距離を置かれるだろう。町で一番の迷惑客を出禁にしただけでなく、大騒ぎにして周囲へ事態を知らしめて追い返す店など、きっと来たくはない。


 おまけに腕利きの元バスター達が飲みに来るとなれば、迷惑を掛けるどころか、大きな態度すら取りづらい。


 そんな店と懇意にしていれば、何かあった際にその店から助けが来る。

 マイムで働いていた時に感じたのは、常識があって顔の広い同業者の存在の大きさだ。

 ただ、今回はそういう知り合いを見つけるんじゃない。この事件屋とバーを、そういう存在にしていくんだ。


「どうしました」


 野次馬の間からふいに警官が2名現れた。誰かが連絡してくれていたのかな。

 オレ達が喋るまでもなく、周囲の人達が「有名な迷惑客だ、店の物を壊したらしい」と伝えてくれる。


 よく見ると、警官は以前魔王教徒逮捕の時に来てくれたうちの2人だった。


「ぬし、あのバスター、わるももますか?」

「ああ、俺達にとっては悪者」

「なおうきょうと、わるもも。あで、何わるももますか?」

「そうだね、器物損壊、侮辱……他人が大事にしているものを壊した、他人に酷い事を言ったっていう悪者」

「おぉう。いむちゅとんかいわるもも、むじょくわるもも、しどいわるもも」


 グレイプニールに教えている最中、警官の1人が男の傍でメモを取り出した。その場で状況説明を求めるのだろう。


 男は今まで許されていたのか、それとも証拠がないと言い張って、いつも逃れていたのか。しかしながら今回は証言者も多く、何よりその現場にいる。男も諦めたようだ。

 ふてくされたように腕組みをし、レイラさんを見下ろす。


「チッ、警官まで呼びやがって。金は払う、それでいいだろ」

「お金を払うのは当然よ。騒動の終息の前提に過ぎないわ」

「あ?」

「代金を払うのは当然の義務。義務を果たすだけで許すつもりはない。警官さん、あたし被害届を提出します」


 レイラさんの言葉に、男の顔色は更に青ざめた。警察沙汰になっただけでなく、実際に逮捕までされてしまえば、バスター資格は停止。有罪となればバスター資格剥奪。


 手に職があるわけでも、手を差し伸べてくれる友人がいるわけでもない。町中から総スカン。そんな状態で無職になってどうやって生きていくのか。


「わ、悪かった! 謝る、すまなかった! ちょっと腹いせをしようと思ってしまっただけなんだ」

「思っただけ? は? 実行したよね。カウンター壊したよね、椅子蹴って壊したよね。花瓶割れたよね。あたしらを侮辱したよね。悪い噂流すって言って脅したよね。お客さんにも暴言吐いたよね」

「申し訳ない! この通りだ」

「あんたに謝られたところで、あたしに何のメリットが? 言ったよね、あたしあんたみたいな横暴な奴が許せないって」

「謝る、弁償額を倍にしてもいい! 被害届だけは……」


 レイラさんは男を睨みつけたまま、表情を変えない。その後ろではお客様達が「いいぞいいぞ!」とヤジを飛ばし、警官から煽るなと注意を受けている。

 紳士的なハーヴェイさんまで注意されてるのが、ちょっと笑えてしまう。


 悪者を成敗する大捕り物、そんな演劇みたいなノリなのかな。悪い奴を懲らしめるって、確かにスカッとするから気持ちは分かるんだけど。


 ただ事態はそれどころじゃない。オレは頬の筋肉を引き締め、真面目な表情に戻す。


「年上で等級が上って事をひけらかして、見た目で威圧して、物を壊して、今は我が身可愛さで許してくれと懇願? あんた、自分が助かりたいだけで悪い事をしたなんて思ってないよね」


 レイラさんは男から離れて警官に淡々と状況を説明し、再度被害届を出すと伝えた。不起訴になったとしても、被害届が受理され事実と断定された時点で、男のバスター人生は終わりだ。


 魔王教徒の影がチラつくとはいえ、管理所も処分に動くだろう。

 このようなバスターに対処しなければ、管理所は何と言われるか。非難され怪しまれるような不可思議な判断は出来ないはず。


「……ハァ。ごめん、お店任せていい? あたしは警察署に行ってくる。初日にトラブルで店を閉めるなんて、意地でもしたくないの」

「はい、任せて下さい。警察の対応、お願いしま……」

「ぬし!」


 それはグレイプニールの声と同時だった。

 オレは咄嗟にグレイプニールを構え、レイラさんの前に立った。グレイプニールへ硬いものにぶつかった時の衝撃が伝わり、踏ん張れなかったオレは革靴の底で半歩分の黒い痕を残す。


 同時に周囲から悲鳴が上がり、オルターがレイラさんやお客さん、周辺の人を店内へと逃がす。

 オレは反射的に動いた後で、男が大剣でレイラさんを殴ろうとしたのだと理解した。


 コンクリート打ちの道に、男を拘束しようとした警官が倒れ込んでいる。警官を強引に振り払って武器を取り出したんだ。


「お前、その剣でレイラさんを殴ったらどうなるか、分かっててやってんだな!」

「ああ分かってるとも! 捕まれば俺の人生は終わりだ! どうせ惨めに死ぬならテメエらを道連れさ!」


 周囲の野次馬が悲鳴を上げて散り散りとなり、警官が男へ銃を構える。

 開き直ってしまったか。追い詰め過ぎたんだ、やってしまった。


「動くな! 撃つぞ!」

「足を撃たれても肩を撃たれても腹を撃たれても、俺は止める気はねえぞ。警官さんよ、人を殺す覚悟、出来てんだろうなあ。おう?」


 自暴自棄になった男は、大剣で俺を圧しながら警官をけん制する。

 警官は訓練を受け、それなりに武術の心得もある。はっきり言って、その辺のバスターより強い。


 ただ、今回は相手が大きく、防具も一式着ている。バスターとしてオレンジ止まりでも力は強い。取り押さえるのは厳しいだろう。

 元バスターのお客様は当然武器を持たず防具も着ていない。オレ達のせいで怪我なんかさせられないから手助けはお願いできないし、してはいけない。


「ぬしがお守ります! ボク使いまさい!」

「警官のお2人はみなさんを守って! オレとオルターに武器の使用許可、下さいますか!」

「あ、ああ、あっ、はいっ!」


 撃たずに済むのだと思ってホッとしたのか、警官が慌てて皆に非難を呼びかける。武器の使用許可なんて滅多に下りない。まあ、相手は大剣を使い、こっちはグレイプニールで防いでいる状態。

 正当防衛となるから、許可を出しやすい状況ではある。


「お前がいくら新人で出来が良いと言ってもな! 経験と力は俺の方が上だ!」

「だから……何だ!」

「俺をコケにした事、後悔しながら死ね!」


 男は大剣で圧しながら肩を差し入れてオレを押し倒した。オレは猫人族の柔軟な体をフルに使い、後ろ回りで回転して起き上がり、すぐにグレイプニールを構える。


 そんなオレに対し、男は剣を水平に振ってきた。

 剣の腹で打つのではなく、しっかりと刃を向けている。殺す意志を持っての行動だ。


「イース!」

「キャアアア!」


 グレイプニールの柄と剣先を支え、男の重い一撃を食い止める。と言ってもさすがに吹っ飛ばされてしまった。建物の壁で背中を打っている間に、男は間髪入れず2撃目を振り下ろす。


 こっちはギャルソン仕様の服で、装備じゃない。背中を強打して息が止まりそうになったけど、休んでいる暇はなかった。


「止めて! 分かったわ、許し……」

「レイラさん! 駄目です!」

「でも!」

「最後まで貫いて、必ず! こいつはオレが止めます!」

「喋る余裕があるのか? あ?」


 男が大剣を振り下ろした。オレはそれに合わせてしゃがみ込み、大きく開いた男の股の間を抜けて男の背後に立つ。

 建物の壁を背にしている奴に大剣を振り下ろせば、剣先が壁に当たるのは当たり前。横に逃げて剣を振られるより、しゃがんでやり過ごす方が安全だ。


 男が振り向く寸前で足払いを掛けたかったけど、硬い足具相手に生身の足じゃ通用しない。オレは背中に体当たりし、男の体勢を崩そうとした。


「ぬし!」


 その瞬間、男が足を後ろに蹴り上げた。その動きを予測出来ていなかったオレは、腹に足具の踵による一撃をまともに喰らい、その場にうずくまって倒れ込んだ。


「ぐっ……!」

「ぬし! ……ぬしを、ボクのぬしを! わるもも、許さまい!」

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