表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/177

Black or White-03 迷惑客の来店



 * * * * * * * * *




「そうなのよ! あ、あの子うちの次男なんです。もうね、わたし達バスターの事なーんにも知らなくて」

「あの子が一番凄いわけないじゃんって話してたら、新人の中で1番早くブルー等級に上がったって聞いて。どんな手使ったんだか、まったく。オルター、あんた私達を騙してたのね」

「騙してねえよ、何騙す事があるんだよ!」

「仕事がない、銃術士は人気がないって、メソメソ、メソメソ、ずーっといじけてたじゃないの」

「……もう、そういう事バラすのほんと止めてくれ、帰れよもう」


 オルターのお母さんとお姉さんの無双は、なんと30分経っても終わっていなかった。カウンター席は埋まり、テーブル席にも3人組のお客様がいるというのに。


 もう既に名物客のような存在になっている。


「奥さん。バスターってのはなあ、そんなトントン拍子に昇格出来ねえんだよ。おれ達がブルー等級に上がったのなんて、バスター2年目の夏だぜ」

「そうそう。おまけにあの変ちくりんな集団の一斉検挙に一役買ったと来たら、功績はもうオレンジ分まで貯まってるくらいだ!」

「変ちくりんって、魔王教徒だろ。この町にもいるって噂だぜ」

「さてはお前、アンデッドだな! いつも目が死んでるって言われてんもんな」

「うるせ、尻に敷かれてんだよ」


 不遇職だからと自信が持てずにいたオルターは、周囲にその活躍が認められ、更には多くの先輩バスターと知り合えた事で嬉しそうだ。


 先輩方は「何で成すかじゃなく、何を成したかだ」と言った。


 確かにそうだけど、金が掛かる、発砲音が周囲に響き、モンスターを呼び寄せる、応用が利かない。そんな銃で成した事も凄いと思う。


 金が掛かるならその分稼ぐ。周囲のモンスターは全部倒す。応用が利かないなら銃剣だって特注する。……いや、特注品をくれたのはクレスタさんか。


 オルターはそうやってハンデを克服してきた。


「私は大勢のバスターを見てきましたが、あの伝説の英雄に引けを取らない活躍ですよ、私が保証します」

「へえ、君があの噂になってる銃術士くんか! 銃術士にすげえやつがいるなら、パーティーに入れときゃ良かった。お前の代わりに」

「うるせー馬鹿! 入れてやったのは俺だぞ」


 テーブル席の人達も会話に加わり、とても楽しい雰囲気になっている。オレは「あー、あの英雄の息子さん」と言われて愛想笑いになってしまったけど、その後に続けられた言葉は嬉しかったな。


 お父さん達に負けねえくらい活躍してるじゃねえか。

 あんたも頑張ってるみたいだな。


 みんな、「英雄の子だから凄い」「特別待遇を受けている」なんて一言も言わなかった。


「今の時代に奴隷なんてものがあったなんて、本当に驚いたぜ。ビアンカさんとイヴァンさんがいたにせよ」

「あのクレスタ・ブラックアイもいたんだぞ」

「ああ、そうか。その3人と、あとにいちゃん2人だけで魔王教徒を一網打尽、奴隷を何十人と解放。いいねえ、俺達もそんな活躍がしたかった」

「レイラちゃん、男を見る目があるねえ!」

「ふふっ、そうでしょ。なーんちゃって、その代わり彼氏を選ぶ目は濁ってるの。ほーんと嫌になる!」


 最初こそハーヴェイさんから重要な話を聞けたけど、今日は人脈作りだと割り切っている。オルターのご家族も応援してくれてるし、引退したバスターさん達も優しい。


 戦力じゃなく、仲間を増やす。それが自分の実力よりも重要な事なんだ。


「お耳のニイチャン! オレ、このシーサイド……ブリーズっての」

「はい、かしこまりました」


 ホワイトラム、クレームドペシェ、ホワイトカカオリキュール、フレッシュクリーム、それらをシェイカーで振る。その後で氷とミントの葉を数枚、それとオレンジスライスを入れたロンググラスへ。ストローは敢えて用意しない。


 本来は違う作り方をすると聞いた事があるんだけど、マイムではこれだった。

 ギリングでは甘く味付けした青いミントチェリー入れたり、ゴブレッドグラスに注ぐのが主流らしい。


 まあ、いいじゃないか。他所と同じお酒を出したって面白くない。

 向こうではこれだったし、正しいお酒じゃない! って言われても「マイム流です」で貫き通すつもりだ。


「おー、なんか綺麗な酒だなあ」

「お前、似合わねえなあ」

「当たり前だ。こんなの似合う中年男なんかいねえよ」


 お客さんは中年だと開き直りつつ、変わったお酒には子供のようにはしゃぐ。

 オレはカクテル掻き混ぜるマドラーから手の甲へ数滴垂らし、味の確認。そして、この次がグレイプニールの出番。


「どう?」

「じゅうに、ます。ぬし、ミントもう1枚置きまさい」

「分かった、よし。お待たせしました」


 なんと、グレイプニールはお酒のアルコール度数や成分比が分かるんだ。


 食べ物や飲み物に触れて覚えると、次に触れた時、その成分がどれだけ、どの割合で含まれているかを言い当てる。

 しかも、度数6%のビールを間違ってこぼした後、それが「6%」だと記憶したのか、それとの度数の違いを正確に判断できるようになった。


 ……えっと、グレイプニールって、モンスターを斬るための武器だったよな?


「さて、わたしたちはお暇しましょうか。ご馳走様! まさかあのシーク・イグニスタのお子さんからカクテルを作ってもらえるなんて、うふふ」

「イースくん、オルターの事よろしくね。また来るわ」

「有難う御座います!」

「お2人様、有難う御座いました! お子さんを預かる以上は必ず一流バスターに育てますので!」

「あらあ、頼もしいわ! 尻に敷いて、もうどこででも敷いちゃって!」


 オルターがため息をつきながら、お母さんとお姉さんの飲み代を計算する。


「え、2人とも5杯も飲んだのか? 1時間で?」

「いいじゃない! あ、お父さんには内緒よ、2杯で帰った事にするの」

「……バレちまえ」


 3人でオルターのお母さんとお姉さんを玄関で見送り、まだ残ってくれているお客さんの接客に戻る。

 近頃のバスターは冒険心が弱い、すぐカネ、カネと騒ぐ……なんて引退した先輩方の愚痴が出始めた頃だった。


 玄関扉が軋みながら内側に開かれ、いかにもな鎧を着た男が入ってきた。

鋼鉄より重そうに足具の踵を鳴らし、腰回りの不必要な程重ねられた小札がジャラジャラ金属音を奏でる。

 ギラギラ光るシルバープレート、フロントには赤いドラゴンの彫刻。足具や小手の外側にはスパイク。ハッキリ言って悪趣味。


 背には大剣、背はオレと同じくらいか。褐色の肌にもみあげから繋がる顎鬚、太く吊り上がった眉。30代半ばくらい、かな?

 顔はゴツくも太った印象はない。ただ、その図体はオレよりふたまわり以上太いように思えた。


「いらっしゃいませ! カウンター席へ」

「フン、これまた若造ばかりでままごとを」

「……これから成長していくので、宜しくお願いしますね!」


 オレとオルターは思わずムッとしたけど、レイラさんは笑顔を崩さない。オルターがおしぼりを出そうと差し出した時、なんと男はカウンターに足を乗せてふんぞり返った。


「お客様」

「あ? 何だ、文句があるのか。座り方なんかどこにも書いてなかったぞ」

「おい君、みっともない真似をするんじゃない」

「そうだぞ! イキったあんちゃん、若い子相手だと威勢がいいなあ、威張れる相手が他にいねえのかい」


 ハーヴェイさんや他のお客さんが男を叱り、諫めてくれる。それに腹を立てた男はカウンターを小手で叩きつけた。


 オルターのお母さん達が帰った後で良かった。一般人にバスターのこんなとこ、見せたくない。


「なんだてめえら!」

「何だじぇねえよ。その胸のプレート、オレンジ等級だろ? 大した事ねえくせに」

「なんだと?」

「その派手な防具なら威圧できると思ったか。そんな実用的じゃねえ図体に飾りつけ散らかした装備。そんな見せかけ、バスター相手に通用するわけねえだろう」

「あ? 英雄の子供だか最速昇格だか何だかで調子に乗ってる若造の前で、そんなに媚び売らなきゃいけねえのかあんた、あ?」


 ああ、そうか。こいつ、オレ達の邪魔が目的なんだな。きっとウサ晴らしのつもりなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ