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Wish you the best-05 予想外の事態




 * * * * * * * * *




「うわ……嘘だろ?」

「これじゃ渡れないわね」


 ギリングを出て3日目。夕方にはイサラ村に着くつもりだったけど、問題が発生した。


 北のシュトレイ山脈から流れる川が増水し、橋が流されていたんだ。

 橋の北側は付け根から大きく抉られている。木造ならまだしも、コンクリートの橋なのに。

 この橋を元に戻すなら数カ月は掛かるんじゃないだろうか。


「機械駆動二輪を何台も使ってコンクリートを運んで……って、途方もない作業よ」

「イサラ村には行けないんですか」

「危ないけど渡れなくもないよな。水量は減っているし、泳げばなんとか」

「何言ってんの、キラーアリゲーターが喜ぶだけよ」

「うげっ」


 川は深い所でも水深2メルテくらいだろうか。ただし川幅は数十メルテある。よく見ると目だけを出した何かがじっとこちらの隙を窺っていた。


「シュトレイ山脈沿いに西へ行けば、ダイサ村がある。そっちまで回ればギリングへと南下する道があるし、イサラ方面への道もあるぜ」

「もしかして、イサラ村への定期便はそっちを通っているのかな」

「定期便が戻らないと連絡があって、もう1週間近いですよね。だとしたらすれ違いで戻っているかも」


 ギリングからダイサ村までは馬車で2日。ギリングとイサラを結ぶ馬車も2日。

 ダイサ村とイサラ村は1日ほど。回り道をしても、そこまで苦にならないはずだ。


 ダイサ村とギリングとの定期便はないけど、行き来が全くないわけでもない。


「ぬし、おじゃべります」

「あ、うん」

「まぐれいえみますか?」

「いや違うよ」

「まぐれない、いえみますか?」

「いや、これはイエティのせいじゃないんだ。橋が流されちゃったんだよ」

「おぉう。あし、何、流しますか?」

「川の水が増えすぎて、橋を壊しちゃったんだ」


 向こう岸まで泳げなくはない。ただいくら防水鞄といっても、水の中に沈めて無事とまではいかない。銃や火薬にも影響が出てしまう。

 おまけに泳いでいる間は攻撃手段がない。ワニのようなモンスター「キラーアリゲーター」に襲われたら抵抗できないだろう。


「でも、おかしいよな。イサラ村からここまで1日。引き返したとして1日。この時点で3日目にはイサラ村からギリングに電話連絡が可能だ」

「もちろん電話線は繋がってるからな。ダイサ村に向かっていたとしても、同じくらいのタイミングで電話は可能だ」

「私達が町を出発する頃には、連絡が入っていてもおかしくなかった」


 物流を取り仕切るユレイナス商会に連絡が入らないはずがない。嫁いだとはいえ、ユレイナス家はビアンカさんがイサラ方面に向かうと知っている。

 町を出るまでに何らかの情報が入っていてもおかしくなかった。


 つまり、まだ橋が落ちている状況が知れ渡っていない。

 ダイサ村からの連絡もないという事は、ダイサ村も橋が落ちている事を知らないのではないか。


「イサラ村に歩いていくようなバスターは」

「滅多にいない。定期便の馬車で移動するのが基本だもん」


 橋が壊れていると知って引き返すバスターもおらず、馬車とも遭遇しなかった。定期便やイサラ村に滞在する人々は、どうしているんだろう。


「もし連絡が入っていたら、すぐにギリングから馬車でここまで確認に来ますよね」

「俺達は徒歩だし、追い抜かれていてもおかしくないです。野営の時だって街道からは離れていなかったんだし」

「……なんだか、嫌な予感がする。濁流で橋が流されただけにしては、色々動きが遅い」


 そう考えたオレ達は、悩んだ末にダイサ村方面に回り道する事に決めた。向こう岸はたった数十メルテ先なのになあ。


「橋が壊れる程の濁流……って、あれっ、おかしくないですか?」

「何が?」

「山方面の天気が悪かったとして、この川はスタ平原の南東へ伸びて南西に曲がっていきますよね。支流の1つはギリングへ向かうし、オレ達は橋も渡りました」

「そっちは無事だったよな、確かに。そもそも増水なんてしてなかった」


 流木なども見当たらず、川が増水した痕跡もない。何故なのかを考えていた時、オレはハッと気が付いた。


「橋、崩れているけど流されてないですよね」

「えっ」

「橋脚を折る程の濁流なら、橋の残骸は流されていると思うんです。でも、大きなコンクリート片がそこら中に。集めたら橋が出来そうなくらい」

「つまり、誰かが意図的に壊した、ってこと!?」


 オレの推理から、皆が周囲を探し始めた。数分も立たないうちに疑惑は確信に変わった。


「爆破されたんだ」

「橋が流されたとしたら、流されていない部分が粉々になるだろうか」

「3人とも、こっちに来て!」


 ビアンカさんに呼ばれ、オレ達が橋の付け根に戻った。ビアンカさんはある1か所を指で示し、それを見たオレ達は皆で頷き合った。


「あの焦げ跡、爆破だ」

「こりゃまずいばい。ダイサ村方面の橋も落ちとるかもしれん」

「イサラ村は何者かの手によって連絡が出来ない状態に?」

「ギリングに近い橋を壊すと、すぐに異変に気付かれる……だから、辺境付近の橋を壊したのかも」


 イエティを倒し、さっさと昇格する。ギリングのみんなに実力を示す。

 その程度の心構えで旅立ったのに、まさかこんな事件に遭遇するとは思っていなかった。


 本当に定期便はトラブルで戻って来れなくなっていたんだ。


「お嬢、ギリングに戻るかね、それとも進むかね」

「戻って最速で2日、また向かって3日。その間に現地がどうなっているか」

「よし、二手に別れよう。俺とオルターはギリングへ報告に、ビアンカさんとイースはイサラ村に」


 いくら英雄とはいえ、相手が複数だったならビアンカさん1人では戦えない。オレもどこまで戦力になれるか。

 一方、4人全員でも駄目だった時、現状では応援がいつ来るか分からない。

 レイラさんが音信不通に気付いたとして、応援を送り込んでくれるとしても数日かかるのは確実だ。


 そしてその応援が必ずしも強いパーティーとは限らない。

 状況を伝え、確実に対処できる応援を請うのは必須だ。


「道中の休憩や仮眠を考えると、2人ずつの方がいいですよね」

「ああ。急ぐぞオルター。安心しろ、スタ平原程度なら俺1人でだって何度も歩いている」

「はい。イース……頼んだぞ。応援を募ったら全速力で駆け付ける」

「ああ。そっちも頼んだ」


 話し込んでいる暇はない。俺達はすぐに別れ、それぞれ駆け足で進み始めた。





 * * * * * * * * *





「やられてるわ、こっちの橋も」

「明らかに人為的なものですね」


 ダイサ村に向かおうとしたオレとビアンカさんは、夕方になってギリングとダイサ村を繋ぐ橋も落とされている事を確認した。


 主要な町以外、国の管理が行き届いているとは言い難い。村単位ならバスター管理所もない。

 1週間程度の異常なら、気付いていなくても不思議はないんだ。


 おまけにダイサ村は小さく、定期便もない。話によるとモンスター除けの頑丈な外壁のおかげで村の中を覗く事も出来ないそうだ。

 鳥型モンスター以外にはめっぽう強い村なんだけど、異変があった時には気付かれ難い。国も頑丈な外壁があるから大丈夫くらいに思っているだろう。


「20メルテくらいかな」

「そうですね、向こうよりは川幅も狭いみたいです」


 川岸から水面までの高さは5メルテ程。キラーアリゲーターもいるだろう。飛び込んでも岸に上がれる場所がなく、かといって渡れる橋は他にない。


「イースくん。全速力で助走をつけて、飛び越えられる?」

「えっ!? この距離をですか!?」

「気力を使って、猫人族の跳躍力ならいけるはず」


 い、いや、気力を駆使する技術はまだまだ。気力による身体能力の強化も、この数日でようやく意識し始めたばかり。


「……自信、ないよね。分かる。でももう回り道している時間がない」


 そう言うと、ビアンカさんがグングニルを構えて姿勢を低くした。


「まさ、か」

「思い切り飛び上がって。その足の裏を私が思い切り打ち飛ばす。足をばねのように使ってくれたら、必ず向こうまで飛ばせる」


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