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8 「家族写真」に入れられなかった母

 向き不向き。

 そう言えば本当に芯からそれを考えたことが無かった。

 俺は医者に本当に向いているのか?

 それとも子爵家をそのまま継ぐ方がいいのか?

 そこで考えた。

 実父に会いに行って話を聞いてみよう、と。


 俺は父の居場所をこの時知らなかった。

 実家に聞くのははばかられたので、祖父母に聞くことにした。

 久しぶりの祖父母の館は随分と閑散としていた。

 出てきたのは祖父だった。

 彼とだけで顔を合わせるのはどれだけぶりだろう。

 常に俺の相手をしたがったのは祖母の方だった。


「おや久しぶり」

「お久しぶりです。ずいぶんと今はこの館は静かですね。お出かけですか?」

「……」


 祖父は口籠もった。


「どうしましたか?」

「ネイリアとトラディアを嫁に出して以来、あれは変わってしまってな」

「変わった?」

「そう。何と言うか、ぼんやりとすることが多くなってな」


 言葉をぼかしているが、要は呆けてきた、と言いたいのだろう。


「昔あれは、お前の母親にずいぶんと酷いことをしてきたから、その辺りのことが今は結構ぶり返して反動が来ているらしい」

「え?」


 祖父はメイドに茶を用意する様に言うと、自身は棚からアルバムを取り出した。


「見るがいい」


 開いたのは、家族写真。

 その中には赤ん坊を抱いたものもある。


「それはお前だ」

「え、でも」


 何枚も何枚も貼られた「家族」写真。

 その中にあのふんわりとしたあの姿、母は何処にもなかった。


「お祖父様…… これは」

「一応妻にはしたが、どうにもあれが、看護人風情を我が家の写真に収めるのは許さない、とな」

「……それだけですか?」

「具体的に何をしていたのか、儂には判らん。だが結果的にメアリが心を病んでしまった――お前も既に知っているのだろう?」

「……ええ。噂話からの類推ですが。母は自殺したのでしょう? メイド達がさえずっていました。バスタブで首の動脈を切ったと」

「その通り。医師の妻以前に、元々知識があったからこそ、メアリは何処を切れば一番早く出血多量で死ねるのか知っていた。女というものは男より血に強いが、それでも吹き出す血、ただでさえ白い琺瑯のバスタブだ、鮮やか過ぎるその色にメイド達は固まってしまって助けを呼ぶ時間が遅れた。メアリがそこまで計算していたかどうかはわからんが……」

「でもお祖父様、それでもそこまで看護人という気丈な者でないと勤まらない仕事をしていた女性が何故気を病むまで」

「さっきも言ったがアルゲート、儂にはその辺りは判らないのだよ」

「では父に聞けば判るのですね。そもそも今日俺は、今父が何処に居るのか聞きにきたのです。医師の仕事をこの目で見に」


 祖父は目を細めて俺を見た。


「お前もそちらの道へ進もうと思うのか」


 そしてレターペーパーを取り出すと、祖父はさらさらと、一つの住所を書き付けた。


「必ずしもそこに居るとは限らないが」

「判りました」

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