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25 帝都中央総合駅から北東へ

「兄さん! アルゲート! こっちよ!」


 帝都中央総合駅では荷物を持ったサリーが手を振っていた。


「サリー!」


 俺は久しぶりの恋人に駆け寄って抱きしめた。

 背後でリチャードが苦笑している気配があった。


「計画のためとは言え、会えなかったのは寂しかった」

「ごめん、私はちょっとその待つ期間もわくわくしていたわ」

「お前なあ……」

「だって兄さん知ってるでしょ、向こうではきっと必要だからって、慌てて料理と裁縫の特訓させられたんだから」


 ああ、と俺達は苦笑した。


「でもまあおかげで、ある程度はできる様になったわ」

「裁縫とかは、まあ俺もできるから無理しないでくれよ」

「そうだなあ、それを考えると繕いやボタンつけを自分でしなくてはならなかった寮生活って大事だったよなあ」


 リチャードは大きくうなずく。

 そう、つまりは学校を移ることになると同時に、寮も引き払ってきたのだ。

 そして俺はサリーと「駆け落ち」もしくは親から「盗んだ」ということにする。

 無論レイベン家とは打ち合わせ済みの件だ。

 だが建前上そういうことにして欲しい、と俺が頼んだ。

 「娘を奪った男」の実家に殴り込みをかけてもらうために。

 要するに、レイベン家自体が俺の共犯になってくれるということだ。

 レント家のアラミューサ嬢も共犯だが、彼女は個人としてだ。

 それだけでも充分レント家は動くだろう。

 そしてばたばたとしているうちに俺達は目的の北東辺境伯領に到着し、今後の生活の基盤を作って行くこととなる。

 やがて予定の列車の乗車時間が迫り、俺とサリーは二等車両の個室に入り、窓からリチャードに別れを告げた。


「分厚い手紙を書いてやるからな!」


 引き返す彼は、この先起こることをしっかりと見聞きして俺達に報告してくれるという。

 走り出す列車の中で、サリーは首を傾げて俺に問いかける。


「兄さんの手紙って見たことが無いのだけど、どんなのかしら」

「そう言えば俺も無いな。そもそも手紙のやりとりなんて、父やアダム伯父以外だったら、そもそも君しか」


 そう言って俺達はくすくす、と笑った。



 北東に到着した俺達はまずアダム伯父のところに身を寄せ、その後学校や夫婦用の宿舎への入居手続き、生活用品の買い出し、領内への転入手続き等、なかなかに忙しい日々を送っていた。

 やがてこちらの医学専門学校への編入も済み、俺は帝都でのカリキュラムとはやや違うそれに戸惑いつつも、充実した日々を送っていた。

 俺が一日家を空けていても、サリーはサリーで、今まで経験してこなかった生活を自分なりに楽しんでいる様だった。

 たとえば市場への買い出し。

 そこでは珍しい野菜や果物の料理法を積極的に店の人々に尋ねているらしい。

 いちいちメモを取り出し書き付けては納得している彼女の真面目さがどうやら周囲からは好感を持たれているらしい。

 生活費用は医学専門学校卒業後の勤務を条件とした奨学金が出る。

 慎ましく生活していけばそれで何とかやっていけるのだ。

 レイベン家の贅沢をしない、できるだけ自分のことは自分でするという生活も、充分サリーの役に立っていた。

 そんなある日、リチャードから分厚い手紙がやってきた。


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