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1 従姉達は暴力を奮う

 母は彼奴らのせいで気が触れて自殺したのだ、と実の父は憎々しげに、そして涙ながらに言った。



 父に再会したのは、全寮制の学校に通っている時のことだ。

 貴族から金持ちの平民までがずらりと揃うこの学校で、俺、アルゲート・オコンネルは淡々と日々をこなしてきた。


 俺は元々オコンネル家の実子ではない。

 女しか生まれなかったという伯母――父の姉の家に養子に入ったのだ。

 それは俺が本当に四つ五つといった小さな頃だった。

 そして養父母は子爵家であるオコンネル家に入ったのだから、自分達に対してもきちんとした発音で「父上 「母上」と呼ぶ様に、とその時点から強く言われた。


 従姉達は唐突にやってきた俺達に対し、常に冷たかった。

 この時、彼女達はオコンネル家に住んではいなかった。

 俺を引き取ると決めた時点で、母方の祖父母の元に引き取られたのだ。

 俺にとっても祖父母であることには変わりが無いので、幼い頃には機会があるごとに訪問したのだが、その都度彼女達は俺を虐めてきた。

 上のネイリアは四つ上、下のトラディアは二つ上。

 ほんの子供の頃の数歳は大きい。

 彼女達は常に俺に憎しみの目を向けていた。

 たとえば「遊んでくる」と優しい祖母に言っては俺の手を引き、俺の返事も待たず走り出す。

 そしてまだ勝手もわからない領地の端の、森の少し中まで入り込むと、そのまま笑いながら置き去りにして帰って行く、ということを何度も繰り返した。

 無論森番が周回していたので、泣いて彷徨っている俺はその都度回収された。

 どうしたのですか、と問う森番に、「わかんない、置いていかれた」と泣きながら言うと、森番はため息をつきながら俺をおぶって祖父母の館まで戻ってくれた。

 怖かった、と森番の大きな背中の上で嘆くと、彼は静かな声でこう言った。


「森の中には狩りのために動物が居ます。そうそう危険な奴等ではないですが、それでもこんな小さな坊ちゃんを一人で置いておくのは……」


 言葉を濁した。


「いいですか坊ちゃん。三回同じことをされたら旦那様方におっしゃい。私がちゃんと坊ちゃんを見つけます」


 その声はオコンネル家に引き取られてから聞いた、一番暖かいものだった。

 屋敷に戻ると、何故そんなところに迷い込んだのか、と心配半分怒り半分で祖父母が尋ねてきた。

 ネイリアとトラディアは何事も無かった様に薄汚れた俺の姿を見てにやにやとしていた。


「ごめんなさい」


 俺はそれしか言わなかった。

 泣くだけの俺に、祖父母はケガは無かったか、という方の心配に移ってくれた。

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