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18 北東で必要とされる仕事

「で、お前の母親の話の続きだ。メアリは知り合った医者と信頼と恋と両方お互いに揃っちまった訳だ。同じ頃、俺等他のきょうだいはあんまりにあんまりな親父に愛想を尽かしてそれぞれ別天地へと足を伸ばした。まあ街育ちでは無いから、相当なところまで馬があれば行けたし、適当なところに居場所を作った。俺は最初に北東に行きたかったから、とそれぞれ居場所が決まったら領都イゲルスリートの駅留めで知らせをくれ、と言っておいた。それで俺達はそれぞれの居場所は確保していた。リリーは北西、エラは南西に居る」

「母さんだけが、帝都に」

「ああ。それであいつだけは勤務していた病院が判っていたから、俺は皆の決まった居場所を知らせておいた。その返事が、医者をやっている男爵と結婚するというものだった。まあ物好きだ、と思ったよ」

「物好き、ですか」

「そりゃあそうだろう。帝都近くの男爵なんて、俺達とは全然かけ離れた奴等だ。一応俺等も準男爵の家の出だと言っても、内実が違う。だいたい爵位なんていらん」

「継ぐことは」

「知らん。そのために音信不通にした」


 にたっ、とアダム伯父は笑った。


「……ああ、なるほど」

「北東はいいぞ。気候は厳しいだけに、生きてくためだけにやらないといけないことは山程あるが、それだけにやりがいはある。草原に居た頃にも近いが、それより形になる感はあるな」

「医者はどうですか?」

「多くは無いな。……ああ、お前確か医者になる勉強しているんだったな」

「ええ」

「こっちだったらいつでも歓迎するぞ。ともかく医師が居着かない」

「居着かない、んですか」

「ああ全く。一応帝都や学都からは規定で一定数辺境には行かなくてはならないらしいが、機材が無い薬が無い自分の腕を伸ばせない、寒いのは嫌だ、とか何とか言って、期間が終われば帰っちまう。ザクセット辺境伯は帝都直通ルートを切り開いてできるだけ様々な物資の搬送を互いに行おうとしているというのに、どうにもそういうところを見ようとする若いのが居ない」

「伯父さんは今は何の仕事を?」

「道路工事の監督」

「道路工事の監督」


 思わず復唱してしまった。


「今さっき言ったろ? 横断鉄道では四日かかる。だが領都直通だったら、馬でも一週間以内に行けるのだから、いずれ来る自動車の時代にはもっと速く行き来ができるはずだ。ただそのためには道路整備が必要でな」

「それに関わっている、と」

「長い工事だぞ」

「でもやりがいがある、と」

「そういうことだ」


 再びアダム伯父はにやり、と笑った。


 半日かけてラバシストクの駅にたどり着いた。

 アダム伯父は荷馬車を駅前の預かり屋に置いていた。


「お前の親父が電信で知らせてくれて良かったな。この駅前じゃそうそう辻馬車だの貸し馬だの拾えない。まああと二十年もすれば、自動車がこの道に待つ様になるかもしれないがな」

「まだ先だ、と」

「そうだ」

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