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プロローグ

「大変です奥様! アルゲート様が……!」


 メイドの一人が酷く血相を変えて子爵夫人の私室に飛び込んできた。


「何を慌てているの…… しかもお前、ノックもせずに。そんな無作法を今後も続ける様でしたら承知しませんよ」


 げんなりとした、目の下に隈を作った顔で、彼女はメイドを叱責する。


「で、でも奥様、こ…… これを……」


 メイドは震える手で一枚の紙を差し出す。

 本日行われるはずのパーティの主役、彼女の「息子」であるアルゲートの筆跡。

 書かれていたのは。


 十年以上お世話になりました。

 ここいらでおさらば致します。

 俺のことは、貴女が俺の実の母にしたかった様に、共同墓地へ葬ったとでも思えば良いです。

 では。


 その瞬間、夫人の脳裏に高笑いをする「息子」、焦点の合っていない目で自分をそれでも見ようとする痩せた女性、それに泣きはらした目の弟の姿が一気にフラッシュバックした。

 へなへな、と頭痛のする中、夫人はやられた、と失神寸前の頭で考えた。


 

 オコンネル子爵家ではこの日、跡取り息子のアルゲートと、アルミューサ・レント伯爵令嬢との婚約発表のパーティが開かれていた。

 呼ばれたのは子爵夫妻が社交界で何かと懇意にしていた貴族、実業家といった面々。


「レント伯爵家もまたこの子爵家と結ぼうとはね……」

「元々がサンパス男爵家の資産を宛てにしていた家がまたずいぶんと復活したものよね」

「まあでも、何かと活動してらっしゃいますしね」


 貴婦人達は扇の陰でこそこそとこの家のことを噂する。

 必ずしも全てが全てこの家の味方という訳ではない。

 そんな中、子爵と夫人は酷い顔色で登場した。


「……申し訳ございません。本日の婚約発表パーティは中止と致します。宴会自体はこのまま続けますので、皆様どうぞご歓談下さい」


 子爵は弱々しい声で告げる。


「それはどういう意味ですの?」


 この日の主役であるアラミューサ嬢の声がその場に響いた。


「そう言えば、アルゲート様の姿が見えませんこと。どうなさいました?」


 それは、と子爵も夫人も言葉を濁す。


「言えないのですか? もしかして、この大切な日に私をすっぽかすと? それはもしかして、私との婚約を破棄するという意思表示なのですか?」


 「まあ」だの「何てことでしょう」とあちこちからささやき声が。

 そそくさ、と早速立ち去る者も。


「これは一体どういうことですな」


 レント伯爵は子爵家の夫妻に問いかける。



 そんな一幕が繰り広げられている中、当の本人は、大陸横断列車の二等個室に一人の女性と共に居た。


「さて本当に出発だ」


 長かった、と彼は今までのことを思い返していた。


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