24.私のリディアお嬢様① ローレッタ視点
私の主は、リディア・クロフォードという。美人で根性があって、たまにどこか抜けているおもしろい人だ。
お嬢様は双子で、ご主人一家の子供にはもう一人リディアがいるのだけれど、私にとってのリディアお嬢様はリディアお嬢様だけだ。
……お嬢様のことを説明しようとすると、何ともややこしくなってしまうから困る。
なので、私は苦し紛れにリディアお嬢様とリディア様と呼び分けて区別している。
お嬢様は名門クロフォード家の娘として生まれながら、双子に生まれたというだけで不遇な目に遭ってきた方だ。
三人の兄妹が地上で大事に育てられる一方、お嬢様は地下室に閉じ込められて搾取され続けてきた。
お嬢様の扱いは到底納得できるものではなかったが、拾われてきただけのメイドに何かを変える力などない。私は日々当主やのん気に笑うその家族たちに憎悪を燃やしながら生きてきた。
けれど、そんな日々もやっと終わりを迎え、お嬢様が地上に出る日がやって来た。
お嬢様がリディア様の代わりではなく、本当のお嬢様としての生活ができることが嬉しかった。
***
リディアお嬢様が私を選んでくれた日のことは決して忘れられない。
貧民街で親から放置されて育った私は、ある日人買いに目をつけられてさらわれた。そして怪しげな店に連れて行かれ売られているところを、クロフォード公爵の使いの者に買われたのだ。
公爵が得体の知れない子供を買うなんて誰も思わないだろうけれど、あいつは私を「悪魔の壺」の贄にしたかったようだ。
屋敷に連れて行かれるなり、私は手術台のような場所に寝かされ、手枷と足枷を嵌められた。
しかし、台の横にいた黒いローブの女は、「その子はあまりにも魔力が少ないので、使いものになりません」と淡々と告げた。
なんのことだかわけがわからなかったが、私はそのおかげで拘束から解放されることができた。
公爵は私に雑用をさせることにした。
しかし、ろくな場所で育たなかった私には、掃除をすることも物を運ぶことも何一つ満足にできない。
私が役に立たないと知ると、公爵は私を屋敷で飼育している魔獣の餌にすると言った。屋敷の外に捨てて、贄にしようとしたことがばれてはかなわないからと。
逃げようとしたら、使用人に数人がかりで押さえつけられた。
私は逃げることは無理だと悟った。
それでも悪あがきに抵抗していると、公爵の横に私と同じくらいの年ごろの金髪の女の子がいるのに気づいた。
女の子は公爵と何か話していたが、使用人たちに押さえつけられているせいで、ちゃんと聞こえない。
しかし、一つだけはっきりと耳に届いた。
「私、あの子にします。専属メイド」
それから私はその女の子、リディアお嬢様のところへ連れて行かれた。お嬢様は私の顔を見ると、「よろしくね」と笑いかける。
私はなんだか胸が熱くて、これまで感じたことのない、わけのわからない感情に呑まれそうな気分だった。
お嬢様が後に語ったことによると、あの時は別に私を助けようとしたとか、不思議な運命を感じたとかではないらしい。
ただ、ほかのメイドは自分に会うと気味悪そうな顔をするから、私のようにまだ子供でみすぼらしい者をメイドにすれば不快な思いをしなくて済むと思ったのだそうだ。
どんな理由であれ、お嬢様が私を選んでくれたことには変わりない。
私は自分があのときみすぼらしい子供であったことを幸運に思った。