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噂好きのローレッタ  作者: 水谷繭
第二部
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22.窮地①


 屋敷へ帰る馬車の中では、誰も口を開こうとしなかった。


 重苦しい空気に満ちた馬車で、どうしてこんなことになってしまったんだろうと考える。


 すべて双子の妹が悪いのだ。あの子が逃げだしなんかするから、私がこんなひどい目に遭っている。


 あのメイドにも憎悪が湧いた。


 何にも考えていない鈍いメイドだとばかり思っていたのに、我が家の秘密をぶちまけて、リディアを逃がす手引きをするなんて。



 そう考えたところでふと疑問が頭をよぎる。


 あのメイド、いつも双子の妹に張り付いていたのに、今日は会場で見かけなかった。


 私が婚約破棄されて、新たに自分の主が王子の婚約者になる場面なんて、あのメイドならそばで見ていそうなものだけれど、一体どこにいたのだろう。


 しかし、小さな疑問はほかの考えるべきことに押しつぶされてあっという間に消えていった。



 馬車が屋敷に到着する。重い気分で中に足を踏み入れた。


 明日からのことを考えると憂鬱で仕方ない。クロフォードの家は一体どうなるのだろう。


 爵位を剥奪され、公爵家でなくなったらどんな暮らしが待っているのか。平民のような貧しい生活をさせられるところを想像すると身震いがした。


「……?」


 屋敷に一歩足を踏み入れた途端、違和感を覚える。やけに静かで、いつもなら出迎えてくるはずの使用人が一人も出てこない。


 それに、なんだか嫌なにおいがする。鉄が錆びたようなにおい。なんだかまるで……。


「おい、戻ったぞ。誰か出てこないか」


 お父様は不機嫌な声でそう呼びかける。しかし、屋敷はしんと静まり返ったままだ。


 私たちはゆっくりと中へ足を踏み入れていく。住み慣れた屋敷のはずなのに、まるで知らない場所のようだった。


 明かりはついているのにやけに暗く感じる。皆の表情は硬い。シェリルなどお兄様にしがみついて、泣きそうな顔で周りを見回している。



「……地下室を見てくる。お前たちはここで待っていろ」


 地下室に続く扉の前まで来ると、お父様は一層顔を強張らせて言った。それから一人階段の下に消えていく。


 落ち着かない気持ちで待っていると、下からつんざくような悲鳴が聞こえてきた。


 バタバタと階段を駆け上がる音が聞こえてくる。


「旦那様、どうしたんです!?」


「父上、一体何が……!」


「術師が、術師が死んでいる。入れ墨を彫らせていた女だ。胸から血を流して床に倒れ込んでいた」


「な……!」


 言葉の意味を理解するのに時間がかかった。脳が理解することを拒否している。術師が死んでいる? うちのお屋敷で? このにおいは、やっぱり……。


「父上、使用人たちはどこにいるんでしょう。さっきから誰の姿も見えません」


「わからない。それより、一旦外に出るべきだ。死体はまだ温かかった。犯人がまだ中にいる可能性もある」


「ひ……っ!」


 お父様の言葉にシェリルが体を震わせる。


「お父様、これは王家がやったのですか……? 私たちを罰するために?」


「そんなことわかるはずがないだろう! いいから逃げるぞ!」


 お父様は乱暴にそう言うと、一目散に駆けだした。私も慌てて追いかける。玄関まで皆息も絶え絶えに走った。


「……どういうことだ!? 扉が開かない!!」


 やっとの思いで玄関までやって来ると、一番先に扉のところまで来たお父様は声を震わせて叫んだ。お母様とお兄様が後から試すが、誰がやっても扉はびくともしない。


「……なんなの、これ」


 扉をよく見ると、壁との間に黒い霧が舞っているのがわかった。見覚えのある黒い霧だった。地下室の奥で、悪魔の壺から魔力を補充するときにいつも見ていたこの禍々しい色……。


「ご主人たち、おかえりなさいませ! 出迎えが遅れてすみません」


「!!」


 後ろから場違いに明るい声が聞こえてきた。


 振り向くと、ローレッタが三つ編みを揺らしながら怪しく微笑んでこちらを見ている。


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