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噂好きのローレッタ  作者: 水谷繭
第二部
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21.変化②


 人々の目と落ち着かない日常に、日に日に苛立ちが募っていく。


 双子の妹がいなくなった日から、クロフォード家が溜めている魔力を使うことが禁止されていたので、余計に苛立ちは増していた。


「いいか、我が家は今王家から監視されている。生贄のことについては隠し通さなければならない。決して地下室の魔力は使うなよ。妙なことをすれば怪しまれるからな」


 お父様は私たち家族に向かって深刻な顔でそう言った。


 私は不満だった。


 クロフォード家の地下の一番奥には、魔力を溜めて置くための部屋がある。そこには「悪魔の壺」という魔道具があり、その中には常に大量の魔力が溜め込まれているのだ。


 私はいつもここから魔力を補充して、学校の魔術テストを有利に受けたり、肌や髪を美しくしたりといったことに使っていた。


 お兄様にはもっと有意義なことに使ってはどうだと呆れられたけれど、お父様は魔力なら無尽蔵に集められるから好きなだけ使っていいと笑って許可してくれた。


 それなのに、妹が消えただけで使用を禁止するなんて。


 妹がいなくなったせいで、なぜ私が不便な生活を強いられなくてはならないのだろう。


 クロフォード家に常にたくさん届いていたパーティーへの招待状も、ほとんどこなくなっていた。時折届くのは、成り上がり貴族や貧乏貴族からの招待状だけ。


 クロフォード家の立場が悪くなったのを見て、今のうちに取り込もうとしているのだろうと思うとイライラした。



 そんなある時、王宮で開かれるパーティーへの招待状が届いた。


 私はそれを救いの手紙のように感じた。


 きっとアデル様がクロフォード家が不当に軽んじられている現状を憂慮して招待してくれたのだと。


 アデル様とはあの生意気なメイドの件で険悪な雰囲気で別れてから一度も顔を合わせていないが、それでも私たちは婚約者だ。


 きっとアデル様は、理不尽に私を怒鳴りつけてメイドを取り上げたことを反省してくれたのだろう。



 しかし家族の顔色は暗い。お父様なんてさっきから貧乏ゆすりが止まらず、じっと招待状を睨みつけている。


「お父様、どうしたのかしらね。せっかく王家がパーティーに招待してくれたのに、何を苛立っているのかしら。きっと我が家を救おうとしてくれているのよ」


 私は小声でシェリルに話しかける。


「……リディお姉様、本当にそう思っています?」


「どういうことよ」


「いえ、なんでもありません」


 シェリルはそう言ったきり、何も答えようとはしなかった。



***



 そうしてパーティー当日がやってきた。夜になると家族で馬車に乗り込む。王宮に向かうまでの間、皆顔を強張らせていた。


「リディ、余計なことは言うなよ。アデルバート殿下から何か不愉快なことを言われても、決して取り乱すな。いいな」


 隣に座っているお兄様が怖い顔でそう忠告する。意味がわからなかったが、あまりにも鬼気迫る様子で言うのでうなずいておいた。



 パーティー会場にはすでにたくさんの人が集まっていた。


 招待客の顔を見ると、国内でも強い権力を持つ大貴族から弱小貴族まで、幅広い人間が集まっていた。同じ学園の生徒の顔もいくらか見える。


 楽しそうに歓談していた人々は、私達が入ってきたのに気づくと一斉に顔を強張らせた。


 そして周りにいる者同士でひそひそと話し始める。腹立たしくて、そいつらを一人一人睨みつけながら歩く。


 会場の真ん中に、アデル様の姿が見えた。


 私はほっと胸を撫で下ろす。彼に会えたからにはもう安心だ。アデル様はきっと私たちを助けてくれる。人混みをかき分けて、真っ直ぐに彼の元に駆けて行く。


「アデルさ──……」


 彼の目の前まで来たところで息が止まった。アデル様の隣には、あの憎たらしいピンク髪の男爵令嬢、フィオナ・ローレンスがいたのだ。


「リディア、来たか」


「アデル様、なぜその女がここに……」


「もちろん私が招待したからだ。彼女に対する非礼を詫びたかったのでな」


 アデル様は限りなく冷たい目で私を見据えている。


 その目を見てやっと私は悟った。このパーティーへの招待は、決して私やクロフォード家を救済するためのものではないのだと。


 アデル様の横では、フィオナがじっと私を睨みつけている。


「フィオナには本当に申し訳ないことをした。力になると言っておいて、大勢の人間の前で裏切ってしまった」


「本当ですよね。私大分恨みましたよ」


 フィオナはアデル様をちらりと横目で見遣ると、生意気にもうすら笑いを浮かべてそんなことを言う。


「なんの話ですか。私は……」


「リディア・クロフォード。お前はフィオナに散々嫌がらせをして暴言を吐いて、挙句の果てには彼女の大切にしている形見の髪飾りを壊した。間違いないな?」


 アデル様は厳しい表情でそう言う。


 その目は、一切の言い訳を許さないというようにじっと私を睨みつけていた。



 私は確かに、身の程知らずにアデル様に近づくフィオナが憎くて、少々礼儀を教えてあげていた。


 生意気にも口答えするので、友人に頼んで反省を促させたこともあるが、それはすべてフィオナを教育するためだ。


 髪飾りの件だって。あの子がアデル様とは二度と近づかないと約束したのにも関わらず、それを破るから制裁を加えただけだ。


 多少やり過ぎたかもしれないが、それで私ばかり責められるのは納得がいかない。



 大体、その件は翌日にアデル様がかばってくれたのではなかったか。


 その日、私はたまたま体調を崩して寝込んでしまっていたが、代わりに学園に行った双子の妹に向かってフィオナは髪飾りの件を糾弾したのだと言う。そばで双子の妹を監視していたお兄様とシェリルに聞いた。


 せっかく告発しようとしたのに、別人を糾弾してしまうなんて、間抜けな女だと思った。


 アデル様はフィオナではなくリディアの言い分を信じて、人混みから連れ出したそうだ。


 その場にいるのが本物の私でなかったことが悔やまれたけれど、アデル様が私の味方をしてくれたことに大いに満足していた。


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