20.王宮
※リディア視点に戻ります
「リディア! 大丈夫だったか? 随分痩せてしまって……」
「アデル様……」
「城に来たからにはもう安心していい。誰にも君に手出しはさせない」
城につくと、真っ先にアデル様が出迎えてくれた。アデル様は目に涙を浮かべ、私の手を両手でぎゅっと握りしめる。
クロフォード家の地下牢からローレッタによって連れ出された私は、外で待機していた小さな馬車に乗せられた。それからすぐさま王宮まで運ばれ、アデル様の私室に通されたのだ。
まだ状況がよく呑み込めていない私に、アデル様が説明してくれる。
「そこにいる君のメイドが全て教えてくれたよ。君はずっとクロフォード家の地下で搾取され続けてきたそうだな。つらかっただろう。もう何も心配しなくていい」
「アデル様、私は」
「君への数々の非礼も詫びたい。君は双子だと聞いた。私は君の双子の姉が苦手で、別人だと気づくこともなくリディアに冷たい態度を取り続けた。許して欲しい」
「アデル様が謝ることではありません。こちらこそ騙す形になり申し訳ありませんでした」
謝罪すると、アデル様は驚いた様子で首を横に振る。
「好きでやっていたわけではないだろう? ローレッタから、君が当主に姉の代わりをするよう命令されていたのだと聞いた。君はよく耐えたよ」
「アデル様……」
「リディアはずっとローレッタと二人で頑張ってきたんだな。これからは私にも協力させてくれ」
アデル様は曇りのない笑顔で言う。私は胸がいっぱいになってしまった。
「お嬢様、よかったですね。アデルバート様、クロフォード家のこと随分調べてくれたみたいですよ。それにお嬢様を地下牢から救出するついでにほかに生贄も確認しておきましたし。証拠はばっちりです」
ローレッタが横から説明する。
「リディア、すぐにでもクロフォード家の者を呼んで事実確認しようと思う。当主だけでなく夫人も君の兄妹たちも全員だ」
「まぁ、何も全員呼ばなくても」
「君を利用していたのは当主だけではないだろう? 罪に問わないわけにはいかない」
アデル様は厳しい口調で言った。
「明日にでもクロフォード一家を呼んで追及する予定だ。必要であれば、証人としてほかの大貴族も同席させることを考えている。リディアはどうする? 無理に同席する必要はないが、希望するなら彼らが決して君に危害を加えないように護衛をつけよう」
「アデル様……私のためにそこまで考えてくださってありがとうございます。けれど、私は別の方法でやりたいことがあるのです。私の家族を呼び出すのは少し待ってくださいませんか?」
「やりたいこと?」
アデル様が首を傾げる。私は彼に「やりたいこと」の内容を説明した。そばで聞いているローレッタは、楽しげに顔をにやつかせている。
アデル様の顔がみるみる困惑していくのがわかった。
「いや、君の気持ちもわかるが……それは……」
「私、十七年間ずっと生家に苦しめられてきたんです。復讐したいと思うのはいけないことでしょうか……?」
「そういうわけではない。しかし、罰というものは法律に則って然るべき方法で与えられるべきで……」
アデル様は戸惑い顔で言葉を選んでいる。
「アデル様は、私の味方をしてくれませんの……?」
そう尋ねたら、アデル様は言葉を止めた。そして顔に手を当て、しばらくの間考え込む。
「……わかった。君のしたいようにすればいい」
長い沈黙の後、アデル様は観念したようにそう言ってくれた。
私はローレッタと顔を見合わせて笑った。