16.私とローレッタの秘密①
翌日、私はひりつくお腹の痛みで目を覚ました。
昨日はローレッタの噂話を夢中になって聞いているうちに、疲れていつの間にか眠ってしまったらしい。目を覚ますと再び痛みが襲ってくる。
ベッドサイドのテーブルを見ると、乾いたパンとスープ、それにいらないと言ったはずのシロップ水が置いてあった。苺のシロップ水のようだが、やたら濃い赤い色をしている。
口に含んでみたら甘過ぎて飲めたものではなかった。
けれど、おそらく甘ければ甘いほど私が元気を出すと思ったローレッタが、シロップを多めに入れたのだろうと思ったら、また笑ってしまった。
その時、外から誰かが階段を降りてくる音が聞こえてきた。
「リディア。入るぞ」
そう言ってお父様が部屋に入ってくる。
昨日はにこやかだった父は、今日はいつも通り厳めしい顔でこちらを見据えていた。私は慌ててベッドから出る。
お父様は私に古びた銀色の指輪を渡した。
真ん中に私のお腹に入れられたような不気味な文様のある指輪だった。促されるままに中指に嵌める。
「それを決して外さずつけていなさい。まぁ、外そうとしても私が開錠しない限り外れないがな」
お父様は淡々とそう言う。試しに外そうと指輪に手をかけるが、確かに指輪はぴくりとも動かなかった。
「これは何の指輪なのですか?」
「魔力を封じ込めるための指輪だ。お前は昨日の儀式で体内に大量の魔力を溜め込めるようになった。これからどんどん魔力は増えていくだろう。しかし、その力はお前個人が自由に使っていいものではない。勝手に使わないようにその指輪で封印をかけた」
お父様はそう言った後、私に移された魔力はクロフォード家のために使うもので、時期が来たらこちらの指示で放出させる。だから大切な魔力を減らすことがないように、体調管理をしっかりしておくように言った。
体調管理も何も、今だって私の具合は最悪だ。
こっちは昨日の儀式の疲労でまだぐったりしているというのに、そんな事情はお構いなし。おそらく、私の体調が悪いことなんて気づいてすらいないだろう。
「万が一にでも魔力を勝手に使うことがないよう、三日に一度魔力値を測るように魔術師に命じておいた。魔力量に変化があればお前が魔法を使ったことはすぐにわかるから、おかしな真似はするなよ」
指輪で魔力を封印したとさっき自分で言ったばかりだというのに、一体何を言っているのだろう。そう思いつつも、反論せずにうなずく。
なんとなく、思った。お父様は私に移したその魔力とやらを恐れているのではないかと。
だから外れない指輪で封印した上、頻繁に魔力量を測らせてまで私が魔力を使うことを防いでいるのではないだろうか。
お父様の言った通り、三日おきに必ずあの私に入れ墨を入れたローブの女がやって来て、金色の平たい板のような魔道具をあてて魔力量を測定してきた。
儀式と違って痛みもないし測定はすぐに終わるが、不気味なローブの女と顔を合わせなければならないのは面倒だった。
測定が終わると、女は110や125などの数字を告げた。最初はどういう基準なのかわからなかったが、何度も測定されるうちに基本的には120に近い数字が出ることと、体調によって20程度数字が増減することがわかった。
多分、指輪を外して魔法を使ったとしたら、この数字は大幅に減るのだろう。そうしたら、すぐさまお父様たちのもとに連れて行かれて罰を受けるに違いない。
指輪で制御されているのだから使おうとしたって使えるはずはないが、一応魔力が流れ出ることのないよう気をつけようと思った。
気をつけると言ったって、何をどう気をつけるかはわからないけれど。