4.作戦準備
「リディアお嬢様、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「大丈夫よ。これくらいいつものことだから」
そう言いつつも、なかなか起き上がれない。
昨日は何度も連続して魔法を使ったので、すっかり疲れきっていた。こんなことでは、将来クロフォード家を背負うことはできない。もっと力を高めなくては。
「大丈夫ですか。お嬢様ぁ」
ローレッタが泣きそうな顔で尋ねてくる。本当に、心配することなんてないのに。ただ少し慣れないことをして体調を崩しただけなのだ。
「大丈夫だって言っているでしょ」
「でも……、あっ、魔力切れじゃないですか? 昨日たくさん魔法を使ってたから……。補充します?」
ローレッタはそう言いながら、私の手に手を絡ませてくる。
よその国のことは知らないけれど、この国では魔力をあげたりもらったりということが頻繁に行われている。
魔力を移すには魔道具を使ってもいいし、少量の魔力であれば手を合わせるだけで簡単に移動させることも可能だ。
しかし、この程度の体調不良で魔力を分け与えてもらう必要はない。
「補充は遠慮しておくわ。それより、ローレッタ。頼みがあるの」
「うぅ、何ですか?」
「今夜、アデル様に会いたいの。家を抜け出す準備をしておいてくれる?」
「え、今夜ですか? 具合悪そうなのに?」
「だって早めに決行しちゃいたいでしょう?」
体を起こしてローレッタを真っ直ぐ見つめながら言うと、彼女は不満げな顔をした。
「だからこの前の騒動のとき、婚約解消しちゃえばよかったんですよ。フィオナさんの言ったことを認めて悪者になって。そうしたらお嬢様の目的はすんなり果たされましたよ」
「うるさいわね。過ぎたことはどうでもいいでしょう」
「リディアお嬢様ったらアデル様にちょっとかばわれたくらいで舞い上がって計画変更しちゃうなんて……意外と恋愛脳ですよね」
ローレッタが呆れ顔で肩をすくめるので、私はむっとして彼女の頬を引っ張った。
「うるさいわね。黙って言うことを聞きなさい」
「ひぇ、すみません。痛いです」
「私のことはいいから、あなたも教えた通り防御魔法と攻撃魔法の練習をしておくのよ。わかったわね?」
私はそう言いながらローレッタの着ているメイド服のスカートをたくし上げ、太ももの文様を撫でる。触れたところからびりびりと魔力が伝わってくる。
「ちょ、ちょっとお嬢様、やめてください!」
「なによ、女同士だからいいでしょ。ちゃんと練習しておくわね?」
「はいっ。しておきます! しておきますから、離してください!」
私が手を離すと、ローレッタは慌ててスカートを下ろしてもじもじしていた。普段は慎みを感じないローレッタだが、恥ずかしいという感情はあるらしい。
「うぅ、お嬢様に汚されてしまいました……」
「変な言い方しないでよ」
両手で頬を覆ってまだもじもじしているローレッタを呆れ顔で見つめてから、窓の外に目を遣った。この部屋から見える景色はいつも薄暗い。