ゾンビの習性
あまりに大きな音が学校中に響く。
直哉はすかさず耳を弓道場の扉に当てた。
――外で何かを食べている音がしなくなった…。扉の前から居なくなったのか…。あの大きな音におびき寄せられたのかもしれない…。今なら…外に出られるかも…。
「2人とも…今から俺が外に出る。もしかしたら、ゾンビが居るかもしれない。その時は俺が囮になるから、2人は教室まで戻るんだ。水島が教室に戻ってきたら、数人編成で救助を…」
野村さんが直哉の手を取り、顔の真ん前まで近寄る。
「直哉君を囮に何てさせない。もし襲われそうになったら、何とか耐えて…。私が射貫くから…」
「の…野村さん…。…分かった、その時は頼むよ」
「わ、私も頑張りますから…」
「うん…花崎さんも、頼りにしてる」
直哉は弓道場の扉に足をかけ、少し開ける…。
弓を左手に持ち、弦と矢もすでに引く前の状態で待機している。
――少し開けたのに…何かが無理やり入って来ようとする気配はない…。それなら…。
直哉は一気に扉を開け、弦を思いっきり引きながら、周りを見渡す…。
「良かった…、何もいなくなってる…。よし、2人とも早く教室へ向かおう」
「うん…」×2
――やっぱりゾンビたちが食べていたのは、野球部のゾンビ…。あいつら共食いするのかよ…。
直哉達は校舎に入るため、開けたままにして置いたドアへ向って走る。
今現在…直哉達が持っている物は、ぞれぞれ自前の弓3丁、又他の部員が生き残っていると信じて、さらに3丁。
計6丁の弓と部室に有った矢を、出来るだけ大量に矢筒へ詰め込んだため、いったい何本矢が有るか分からないが、矢筒6個分の矢は確保した。
他の物はメンテナンス用品などをバッグへ詰め込み、3人で背負っている。
「はぁはぁはぁ! 待って! 2人とも! 新体育館から人が…」
未だに音が鳴り続けている…。
その為ゾンビたちは今の所、周りに居ない…。
新体育館の鉄扉が動き始め…、中から多数の人が出てきた…。
「あれは…。人か…それともゾンビ…」
「皆…、これからは判別行動だ…、それぞれの考えた道筋で避難所まで移動しよう…」
――言葉を使っている…、良かった。やっぱり人だ! …生きている人が居たんだ…。
「2人とも…大丈夫だ。ゾンビじゃなかったよ。このまま、教室へ向かおう」
小さく2人は頷き、開いているドアへ向かって全力で走る。
新体育館から出てきた人達は蜘蛛の子状に広がり、ばらけていった。
剣道部や野球部などが、5人グループになって行動しているようだ。
「うわぁああああ!」
何処かのグループがゾンビに出くわしたらしく、大声を上げてしまった。
その大声におびき寄せられたゾンビたちが新体育館の方から数体おびき寄せられる。
ゾンビ達は、校舎側に居るグループに気づき、勢いよく襲い掛かって行く。
「く!」
1人の剣道部員がグループの先頭に立ち、ゾンビ1体の喉元へ竹刀を突き刺した。
しかし…力が弱かったのか上手く刺さらず、力で押し負けそうになっている。
何とか粘っている剣道部員に他のゾンビも反応してしまう。
「クッソ…力が…強い…」
抑え込んでいるゾンビ以外の、1体が剣道部員に容赦なく襲い掛かった。
「危ない!」
直哉は、剣道部員に襲い掛かるゾンビの脳天に矢を放つ。
見事命中し、ゾンビの脳天から突き抜けた矢が地面に突き刺さる。
突き刺さった矢には、ゾンビの腐った血液を纏っていた。
「オラァア!」
剣道部によって留められていたゾンビの測頭部を後ろから野球部がバッドで強打する。
ゾンビは横に吹き飛び、全く動かなくなった…。
「だ…大丈夫ですか!」
「あ…ありがとうございます…。それに、野球部さんも…助かりました」
「いや、アンタが真っ先に留めてくれたから俺が後ろに回れたんだよ。ほらさっさと立て。まだゾンビどもが蔓延ってる。さっさと移動しないと…。いや、それにしても弓道部のお前…。さっきの弓…凄かったな。約10m位離れた所から、脳天を貫通とか…何もんだよ」
「い、いや…ただの弓道部ですよ。それより、今の状況はどれくらい分かってますか?俺たち全く分からなくて…」
「僕達も同じようなものです…。今は皆で自衛隊の設置した避難所まで向かう事に成っています。貴方も一緒に向いましょう。弓を使える人が居れば、移動も相当楽になるはずですし」
「ご…ごめんなさい。俺…教室で仲間と落ち合う事に成って居るんです…。だから…一緒には行けません…」
「そうですか…分かりました…。えっと…こんな所で自己紹介も何ですけど…、2年4組、剣道部主将の大島陸と言います…。先ほどは助けていただきありがとうございました」
「俺は2年1組島田栄治、野球部で4番バッターをやってた」
「えっと、自分は2年5組、樹直哉と言います。弓道部です…。これで会うのが最後かもしれませんが…。またどこかで…」
「はい、避難所で会いましょう」「死ぬんじゃねえぞ。俺達は一瞬で親友になった仲間だ」
「はい。必ず…生き残って見せます」
「直哉君!やばいよ!」
「野島さん?…何がやばいんですか……ってなんで!」
僕達は野島さんの声に反応し、即座に身を隠せる場所へ移動した。
――未だに音は成って居る…。なのにどうして…。
何故か体育館側に居たはずのゾンビたちが、校舎側に向ってくるのだ…。
「どういうことですか…、奴らは音に反応するはず…」
「もしかしたら、音にも反応するけど…。それより、生きている人間が多い方向に移動するのかも…」
「つまり…俺たちが新体育館から出ちまったから…、あのゾンビどもが校舎側へ逃げた人に反応したって言うのか!」
「すみません…新体育館の中に残っていた人数は…分かりますか…」
「え?…えっと…確か63人くらいだったと思います…」
「63人…それが5人グループになって、外へ逃げた…。じゃあ今、1番人が集まっている可能性が高い場所は…。もしかして…2の5教室…」
「そんな!それじゃあ…。あのゾンビたちがクラスの皆の方に向かって行くかも知れないって事…」
「その可能性が十分あり得る…。早く皆の所に行って知らせないと…」
「いや!無理だろ、あの数だぞ!多少音におびき寄せられている奴らが居ても、半分以上はこっちに向ってきているじゃないか!」
「そうです…こんな状況ですから…誰も文句は言えません…。樹さん達が生き残るべきだと僕は思います…。僕は何としてでも生き残らないといけないので…、ここで失礼します。皆さん…行きましょう。計画道理に事を進めます」
陸君は残りの4名を連れて、その場を離れて行った。
「助けてやりたいのは山々だが…、俺はお前に力を貸せねえ…、俺のグループがこのままだと死んじまう。悪く思わないでくれ…」
「ああ…、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ…、島田君も何とか生き残ってね…」
「お前も、あまり無理しすぎない方が良いぞ。このままだと…いい子ちゃんは死ぬ一方だろうからな…」
島田君も、残りの4名と共に陸君とは違うルートを通って、その場を去って行った…。
「ド…どうするの!直哉君!このままだと、私達の作戦全部、変えないと行けなくなっちゃう!」
「そうみたいだね…。とりあえず、水島にラインを送らないと…」
水島にラインを送ろうと思っていた時、ライン電話がかかってきた。
「水島…どうした…。大丈夫なのか…」
「直哉、車のカギを手に入れた。今から教室に戻る。すぐ合流できるか?」
「教室に近い位置に居るのか?」
「ああ…あと少しで教室だが…、どうした…何かあったのか?」
「今すぐ教室に居る皆をグループごとに分けて、逃がしてほしい。ゾンビは人に群がって行く習性があるっぽい…。そのまま固まって居たら危険だ」
「何だって…。そうなのか…、分かった。皆に伝えるよ…、直哉はこれからどうする気だ」
「俺は…、出来るだけ…食い止める…」
「は!…食い止めるって…、いったいどうやって…」
「出来るだけゾンビの数を減らす…、水島は何とかして皆を逃がしてくれ、俺が何とかして時間を稼ぐ…それじゃあ、頼んだぞ」
「おい!直哉!ちょっと待て…」
電話を切った時…丁度直哉の持つスマートフォンの充電が切れた…。
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