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直哉と水島

大地達が体育館から脱出作戦を決行する、2時間前…


午後5時00分


直哉たちは校舎内の廊下を静かに…音を立てず…息を殺しながら、少しずつ歩いていた。


「なぁ…直哉…。ここからどうやって弓道部の部室まで行くんだ…俺達は職員室に行ってみるけど…」


水島達が後方の確認を行いながら直哉に問いかける。


「ああ、階段を下りて、校舎内から部室まで向かうルートか…。校庭を走って部室に向かうルート…どちらかで迷っているんだけど。近いのは断然校庭を走るほうが近い…。でも校庭にはあのゾンビがまだ複数体いるだろうから…いや、複数体どころじゃないか…」


「私だって無理…足がすくんで走るなんて絶対無理…、元々運動が苦手だから弓道部に入ったのに…こんな状況で走れるわけないじゃん…」


「私…嫌だよ、そんな校庭に行くなんて…。絶対に嫌だからね…」


「俺と直哉は自主練で結構走ってるから良いとしても…やっぱり2人は置いて来るべきだったんじゃないか…」


「いや…2人とも県大会で入賞できるくらい弓道が上手いんだ…。今こそ練習の成果を見せる時だよ…」


「お前…まさか撃たせる気なのか…2人に…」


「嘘…嘘…嘘…そんなの聞いてないよ…人に向けて撃つなんて…絶対に嫌…」


「嫌々、言っていても仕方が無いんだ…。生き残らないといけないんだよ…俺たち。クラスの皆が待っているんだ…。俺たち以外にはできない事なんだよ…。もし俺たちが死んだら…誰がクラスの皆を救うのさ…。あの死体がほんとにゾンビなら、いずれ教室にもやってくる…。そうなったら皆食われてお終いだ…。俺たちの帰りを待ち望んでいたのに…帰ってくる事無く皆は憎悪に満ち溢れたまま食われて死んでいく、その姿を想像してみてよ…」


少し意地悪かも知れないが…事実だ…事実をそのまま野島さんと花崎さんに伝えたら、2人とも黙ってしまった。


「直哉…、俺達は行くぞ…。こっちからの方が職員室に近い。近い方があいつらに遭遇する心配も少しは減らせると思うからな…。もし、俺達が戻らなかったら…直哉。お前が何とかして皆を助けるんだ。良いか…」


「分かってるよ。それに俺は信じてる…。お前が生きて戻ってくるってな…」


「臭いセリフだな…。俺だって簡単に殺される気はないから…。食われそうになったらこの裁ちバサミで奴らの脳天に突き刺して最後まで抗ってやるさ」


「側面からの方が刺さりやすいと思うぞ、頭蓋骨が薄いから」


「そう言うアドバイスはいらないんだよ…。じゃあな、気を付けろよ…。一応スマホで連絡するが、俺のスマホ…もう殆ど充電が無いんだ…。古い機種だからな、電池が劣化しちまってる。ラインも送れて数回…、電話なら1回って所か…」


「俺も同じようなもんだ…、出来ればモバイルバッテリーも探したいところだけど…。今はそれぞれの目的を達成しよう…」


「ああ…そうだな、教室で落ち合おう…」


「分かってる…」


水島達は廊下の角を曲がり、校舎2階、図書室奥にある職員室へと向かって行った。


普通に歩けば5分…長くて10分の道のり…だが、周りを確認しながらとなると倍以上かかるだろう…。


「2人とも…階段で1階まで降りて、一度校庭の様子を確認してから校庭から部室に行くか、校舎から部室に行くかを決めよう」


「わ…分かった…」


「う、うん…」


一歩ずつ…一歩ずつ…静かに階段の一段一段を降りていく…。


自分たちの足音を鳴らさないように気を付け、他の足音を警戒する。


先ほど水を汲みに行ったとき、既に校舎内にゾンビが侵入していることは知っていた。


その為、なるべく早く挟まれる可能性が高い、階段を降りたかったのだが…。


「だ…ダメ…う、動けない……」


野島さんが目に大粒の涙を浮かべ、階段の中断辺りで立ち止まってしまった。


どうやら足音を鳴らさないようにという緊張感と、いつ死んでもおかしく無い恐怖心が限界に足してしまったのだろう…。


脳が完全にオーバーヒートを起こしてしまった様だ。


こうなっては真面に動けない…。


少し時間が立てば治るかもしれないが…、俺たちにはその少しの時間も惜しい…。


「俺が背負う…、声を出さず、静かに…。ゆっくりと…手を掛けるんだ…」


俺は野島さんの前まで移動し、背負うことにした…。


――女子1人くらいなら背負いながらでも動ける…。


野島さんが俺の肩に手を置き、ゆっくりと身を背中に預けてくる…、ラブコメなら嬉しい誤算だが…今の状況では全く喜べない…。


「花崎さん…できれば、後方を確認しながら移動してください…。俺は上手く後ろを振り向くことが出来なくなってしまったので…」


「わ…分かった…」


野島さんの方がいつもパワフルな性格をしているのだが…どうやら花崎さんの方がメンタルの面では強い用だ…。


俺達はゾンビに遭遇することなく、階段を降りきる事に成功した…。


まさか1体も現れないとは思っていなかったが、出会わないのならそれに越したことは無い。


「よし…1階の理科準備室前まで…たどり着いた…」


「直哉君…ごめん、もう下ろしてもらっても良いよ」


「分かった…ゆっくり下すから…」


静かに野島さんを廊下に卸す…。


「はぁはぁ…大分よくなったよ…ありがとう」


「良いんだ…こんなときの為に鍛えてきたんだから」


右腕を上げ、力こぶを作る。柔道部や剣道部と比べたら貧弱な力こぶだ…。


「何それ…バカみたい…」


そう言って小さく笑う…。


その時だった…。


『ウヲオオオオオオ!!!』


「な…なんだ…」


いきなり大声が聞こえたのだ。


俺は自分のスマホを取り出し、時間を確認する…5時30分…。


「体育館の方から聞こえました…。もしかして、生き残った生徒たちなんじゃ…」


「ああ…その可能性は十分ある…。あれだけ大きな声がここまで響いたんだ…、相当多くの生徒があの体育館内に居る」


「どうするの…今からあの体育館に変更する?」


「いや…僕たちの目的は第1に武器の確保…これが最優先だ…。その次が生き残った生徒を見つける事…救出は武器を手に入れた後。だから向かう先は部室で変わらない」


「わ…分かった…」


「あ…見てください…。ゾンビがあの体育館の方に向かって行きます…これってチャンスなんじゃないですか…今校庭を走ればすぐ、部室に付けますよ」


「ほ…本当だ…、凄い、あんなに大勢が移動するなんて…」


俺は考える…。


――確かに…、今校庭を突っ切れば、5分以内で部室に付く…。でも、兄さん…が言ってた『どんなにその物事がチャンスに見えても、そのチャンスと思っている心の状況によって、判断を誤る。チャンスは甘えだ、チャンス何て不確定なものに頼ってはならない。何事も計画を立てて行動する方が99%安定する。残りの1%がチャンス又は奇跡なんて呼ばれているだけだ。もしチャンスを手にするのなら、その結果だけでなくその後の事も考えなければ成らない』って。もし…このまま突っ切って行けばすぐ付けるかもしれない。でも…あれだけ集まったゾンビが一気にこちらに向ってくる可能性も0%じゃない…。0%じゃないなら…。校舎内を移動していった方が隠れられる場所もあるし安全か…。


「よし…校舎内で行こう…」


「え…校庭じゃなくていいの…。早く行ったほうが、安全なんじゃ…」


「安全かどうかは分からない…、『何事も急ぐと判断を殺める』って兄さんが…言ってた」


「判断を殺める…。確かに目の前の状況だけを見て考えてたかも…」


「私もです…」


3人は一度冷静になり、今後の方針を決めた。


「第1に武器の確保、それが最優先だ。それじゃあ…僕が先頭を行く。その次に野島さん、後方に、花崎さんの順番で歩いて行く。ここから部室までは歩いて15分くらい。でも…周りに注意して歩くから…多分45分くらいかけて慎重に歩いて行く。OK…」


「うん…」


「はい…」


歩き始めてから数分…。


次第に暗くなり始めており、窓からの光は段々はいらなくなってくる。


――ヤバイな…このままだと、暗くなる…。暗くなったらスマホのライトで明かりをつけるか…。でもそうしたら連絡手段が無くなる。急がないと…って。ダメだ、ダメだ、急ぐと判断を殺めるってさっき自分で言っただろ…。冷静になれ…。冷静に判断さえすれば大丈夫なはずだ…。


階段との交差点…窓の方を見ていた俺は…。


「う…うう…うぁぁ…」


「!!!」


交差点でいきなりゾンビが現れ、咄嗟に右手で持っていた裁ちバサミを右側頭部へ向け思いっきり差し込む。


ラブコメならここはパンを加えた美少女が現れる場面だが…これはラブコメじゃない。


『バキ!!』と何かを貫通する音と共に、ゾンビの動きが止まった…。


いきなり鉢合わせ、声が出る間もなく何故か体が先に動き、思考が今になってやっとめぐり始めた。


――クッソ…窓の方を見て階段方向を見てなかったなんて…。でも体が先に動いてよかった。


裁ちバサミはゾンビの側頭部を貫通し、腐り黒く変色した血を流しながら地面へ倒れ込んだ…。


「……」


「……」


2人は声を上げる事も出来ず、その場に膝から崩れ落ちていた…。


俺の右腕は返り血によって黒く汚れ、真っ白だったカッターシャツは見る影もない…。


――ゾンビの血は…口に付いたらやばいよな…多分。


ゾンビは女子の制服を着ていた…顔は見る影もなく…全身腐ったグズグズの肉のようだ…。


俺は頭に刺さっている、裁ちバサミを抜き取り、汚れたカッターシャツで腐った血を拭った。


――女子の身長でよかった…それに僕の腕の高さに頭があってよかった。もし、そうじゃなかったら、上手く力が伝わらなかったと思う…。


2人はその場に座り込んでおり…立ち上がれない様子だ…。


「行こう…時間が無い…」


汚れた右手を何とか汚れたカッターシャツで血を拭き取り、俺は2人に手を差し出た。


「ご…ごめんなさい…何もできなくて…」


「私も…大丈夫だと思ってたら…全然ダメでした…」


「良いんだ…声を出さなかっただけでもすごいよ…。それに俺自身が1番びっくりしてるんだから…」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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