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大地の怒号

大地は団子になっている生徒たちに声を掛ける。


しかし…賛同する者は現れない。


現状を維持したいという人の停滞思考が生徒たちを支配していたのだ。


――誰も動かないか…。こうなったら、俺が動いて他の生徒たちにやる気を起こさせるしかない…。剣道部の部員たちもやはりさっきの光景が目から離れないのだろう。


「分かった…。皆はここに居てくれ、俺だけで行ってくる。何とかしてここまで水と食料…それと合わせてスマホも持て来る。俺1人だけじゃ持って来れる量には限界があるが…、それでも少しは生き残れるだろう」


後ろを向き、剣道部の部室が最も近い出入口へと向かう。


5時半…。


既に学校の電気は止まっている。


――大分気温も下がってきたな…、太陽の光りも段々と弱まっている…。このまま時間が経てば真っ暗闇の中で移動しなければならないぞ。


大地は外していた小手と胴を付ける。


面は視界が悪くなるため付けず、代わりに髪を手拭いで包み、後頭部付近できつく縛った。


手拭いには『必勝』の文字がデカデカと書かれている。


『必勝』の周りには剣道部員のメッセージが書かれており、大地が全国大会で使用した手拭いだった。


大地は決して故意に行った行為ではなかったが…剣道部員たちはその手拭いを見てしまった。


自分たちが書いたその文字が…目に飛び込んでくる。


全国大会まで大地を応援しに行き、一緒になって優勝を喜び合った部員たち…。


その大地がたった1人で外の地獄へ向かおうとしている姿に…自分たちの無力さを呪った。


だが…代わりに大地の助けになりたいと胸の内から熱いものがあふれ出してきたのだ。


初めに声を上げたのは陸だった。


「大地先輩!僕も行きます!先輩だけを行かせるわけにはいきません!だって先輩、方向音痴ですもん!絶対に部室までたどり着けません!だから僕も行きます!」


体育館に響くその声は、周りのゾンビたちにも聞こえ扉や壁を叩く音が大きくなるが…それよりも部員たちのあげる声の方が大きくなる。


「僕たちも!」「私たちも!」


そう口々に言いだす剣道部員たち。


大地はその声を聴きたかったかのように小さく笑うと、


「しゃぁああああ!勝ちにいくぞ!!!」


大地は全国大会最終戦で円陣を汲んだ時と同じ大きな怒号を発した。


部員たちもそれに重ねるように。


大声を上げる。


周りのゾンビたちが反応するが、いま体育館内の空気は剣道部員たちの物だった。


その怒号に感化されたのは剣道部員たちだけではなかった、団子になっていた生徒たち…。も次第に立ち上がる。


男女関係なく…太鼓の音をまじかで聞いた時のように心が震え、恐怖心が吹き飛んでいたのだ。


それぞれの部員たちが固まっていたので、野球部バスケ部バレー部などの数名も自分たちのテンションを上げる掛け声を行い、身を奮い立たせる。


「卓球部!剣道部たちに負けてもいいのか!!俺たちはひ弱じゃないってところを見せてやろう!!」


卓球部の部長である、西岡もこの雰囲気ならいけると踏み、部員たちを感化させ闘志を振るい上がらせた。


立ち上がらなかった生徒たちも周りの雰囲気に押され、立ち上がり大声を出す。


人の同調圧力とは物凄い力を発揮するときがある。


それがこの時だったのだ。


ただ1人を除いて…。


「ただ大声を上げるだけでは意味が無いですよ。ちゃんと分析した結果をもとに作戦を考え実行する。そうしなければ無駄死にするだけです」


そう言い放ったのは眼鏡だった。


彼だけは冷静に物事を判断し、事の重大さを理解していた。


「皆さんがやる気になったのならそれは大きな力を産むでしょう。しかし、このまま無鉄砲に外に飛び出し死んでいく者たちを見ればこの高まった空気間もすべてがぶち壊しになります。ですから、今から私の考えを伝えます。そこからはもう勝手に行動してください」


空気間をぶち壊しているのは自分だと気づいていない眼鏡だが…そのまま続ける。


「今、ゾンビたちは音に反応するという情報が入りました。1通のツイッターですが…しかし、本当の情報かどうか決めあぐねていましたが、今の大声を出しあったことで周りのゾンビたちの動きが活発になっていた所を見ると…あながち間違いでは無いのでしょう。これを使わない手はありません。この体育館には体育倉庫があり、そこで音を鳴らせば体育館内に響くことは無く大きな音を出すことが出来るでしょう」


「つまり…ゾンビどもを体育館倉庫側に集めている時に反対側の出口からそれぞれ行動すれば、出会うゾンビの数を減らせるってことか…」


「その可能性は十二分にあります。しかし…問題なのはどこまでゾンビが音に反応するか…100m…それとも1㎞…もしくは10mかもしれません。もし1㎞なのだとしたら学校内のゾンビだけでなく半径1㎞のゾンビたちもおびき寄せてしまう可能性があり、この体育館全体を覆い隠すほどのゾンビが集まる可能性も0%ではありません。それに音の大きさもどこまでの大きさに反応するのか…先ほどの大音量でなければ反応しないのか、それともごく小さい音でも反応するのか…万が一、大音量でしか反応しないのであれば、積の可能性がありますが…。ツイッターの書き込みを見ると、この方は石の音にも反応したと書いてあります。ゾンビに種類があるのか…それともすべてのゾンビが同じなの…それも分かりません。ですから、辞意分たちの周りにいるゾンビたちが石でも反応するゾンビたちであることを願うしかありません。ここで大事になってくるのが、目的です!全員で助けを呼びに行くのか、それともここで来るかも分からない救助を待つために食料と水分を確保してくるのか。…はっきり言って、僕にもこの後どうなるのか予想できません。学外が学内より安全とは言えないでしょうし、ここで救助を待った方が生きながらえる時間は長いかもしれません。ですが僕の考えとしてはこの学校から出るべきだと考えます。電気が止まっている為、水道が動いているか分かりませんし…学内にある食料もたかが知れているでしょう。遅かれ早かれこの場所を捨てなければならない時が来るはずです。そうなった時、僕たちはすでに限界の状態になっていると考えます。そんな状態でこのゾンビたちから逃げられるとは思えません。生き残るのなら、ここから脱出して救助基地を目指すべきです!以上」


そこから眼鏡は言い切ったかのようにその場に座り込む。


「だ…大地先輩…どうしますか…」


「確かに…眼鏡の言う考えは正しいのだろう、この人数の食料を何とか出来るとは俺も到底思えない…食料が無ければ3週間も持たないかもしれない…。その間に救助が来るとも思えない…。ならば選択肢は必然的に1つに絞られるだろう。この場所を脱出する。そして体育館倉庫で音を鳴らす、おとり役も俺がやる。ここに居る全員でこの体育館から脱出し、眼鏡の言う通り、救助基地を目指せ。この人数で動けば行動が制限されてしまうから5人ずつに振り分けていき、剣道部員はそれぞれ1名か2名は必ず入れ。あのゾンビをいなせるのは竹刀の扱いに慣れた剣道部とバットの扱いに慣れた野球部だけだろう、他の生徒たちを守れとは言わないが、それぞれ分担して行えば生存率も上がるだろ」


「でもそれじゃあ…大地先輩がこの体育館で取り残されてしまうじゃないですか!」


「俺は1人でも行動できる。強いからな…。だがお前たちは違う、それだったら、俺がおとりになり、1人でここの体育館から脱出してみせる!それに俺が言い出したことだ、皆の心に火を付けた責任が俺にはある!だから頼む陸…俺にやらせてくれ…」


「大地先輩…」


陸は涙を流しそうになりながらも、ぐっとこらえ、言った。


「絶対に…外でまた会いましょう。…僕、絶対に死にませんから、後で落ち合って一緒に救助基地に向いましょう」


「ああ…約束だ、俺は絶対にここから脱出して、お前たちと合流する。良いか!ここに居る生徒たちも、既に他人じゃない!俺に心を燃やされた奴は全員剣道部員だ!!何があっても死ぬんじゃねえぞ!分かったか!!!!」


「ウオおおおおおおおお!!!」


体育館内の生徒たちはすぐにグループ作成に入った。


5人で1グループ。


男子3人女子2人といった具合に男女の力量も考慮しグループ作成を行っていき数分でグループ作成を終了した。


剣道部:17人

卓球部:15人

野球部:6人

バレー部:5人

陸上部:8人

他の生徒:16人


合計67人から13グループを作成した。


「良いか…皆、7時になったら各自のグループで話し合ったように行動するんだ。これからは皆各グループで話し合って行かないといけない…」


陸が体育館倉庫の反対側出口に13グループと待機している。


陸が手を上げると反対側の大地が合わせて手をあげた。


――良いか…陸、絶対に死ぬなよ。


陸には、大地のその眼力だけで何を考えているか何となく分かり、大きく頷いた。


大地はそれを見てから体育館倉庫の扉を閉め、音が反響しないようにする。


両手でバトミントンのネットを張るポールを持ち大声を出しながら、壁を叩きまくる!


すると、次第に体育館を覆っていたゾンビたちが、体育館倉庫側へ流れていくのが、壁下の小さなガラスから見えた。


「行くぞ!…皆!」


陸が出口を開ける!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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