救出(3)
緊張が走る。
――上手くいかなければ僕たちもあのゾンビたちの仲間入りだ…他に何か出来ることがあったんじゃないか…まだ今からでもプラスして考えられることがあるんじゃないか…
いつもの癖で結構前だというのに考えが纏まらない。
――駄目だ、駄目だ…今は脱出することだけに集中しろ。ここまで来る間にずっと考えていただろう。これ以上の事は今の僕に考えられないんだ。
僕は先ほど拾った金属バットにアルコールをしみこませたタオルを巻き付ける。
ライターで火を付け、辺り一帯を放射上に照らした。
ライトとは違い、周りが良く見える…
左腕に付いている時計を見ながら、カウントを取る。
「5…4…3…2…1…きます!」
時計の時間とぴったりにスマートフォンのアラームが鳴り響く、全く音の無い空間に突如として耳を劈くような音がスーパー内に広がった。
[ドドドドド…]と言う足音が聞こえ…足音が聞こえなくなったタイミングで僕はすぐさま、金属バットの火を今まで垂らしてきたアルコールに引火させる。
すると、綺麗にアルコールの上を火が走って行く。
「よし!上手くいった…皆さん、迅速に冷静に…絶対に声を出さないようにしてください…では出口に行きます」
――アラームが鳴り続ける時間は15分に設定しておいた…だから15分間はきっと僕らの方向には向かってこない。それプラス燃え盛る火でこちらに来ることはもうできないだろう…スプリンクラーと警報機が少し気がかりだったが、どうやら予備電源も落ちているらしい…。
その為2つとも発動することは無かった。
「姿勢を低くして、煙を絶対に吸い込まないように、それと手を放さないでください。煙に巻かれたら絶対に見つけられません」
僕、咲ちゃん、由香さん、桜さんの順番で手を繋ぎ、素早く移動する。
途中で非常出口を見つけたが、スルーだ…外の確認が出来てない状態で開けるのは危険すぎる。
しかし…僕はこのことをしっかりと教えておくのを忘れていた。
「樹君!ここに非常出口がある!ここから出たほうが近道だよ!」
後方の桜さんが非常出口に手をかけてしまった。
「よかった、鍵が開いてる」
「ちょっと待って!桜さん!」
「え…?」
桜さんは非常出口を開けてしまった。
「う…うぅ…グァアアア!!」
「ヒィ!!いゃ…」
僕はギリギリで桜さんが大声を出すのを手で食い止める。
金属バットの先に燃え盛る火をゾンビに向け、何とか権勢するも…ゾンビの後ろにはまだ数体のゾンビが見える。
――クソ…このままの状態でいたら挟まれる可能性がある…
しかし、運が良かった。
今いる場所は飲料コーナーだったのだ。
「桜さん…後ろの日本酒を…取ってください」
「う…うん」
桜さんは大吟醸酒の一升瓶を僕に手渡した。
―ふ~大丈夫…大丈夫だ…
「…おら!!」
一升瓶をゾンビのむだに空いた大口にぶっ刺す。
ゾンビはよろめくも倒れることは無い。
僕はその一升瓶目掛けて燃え盛る金属バットを叩きこんだ。
一升瓶は粉砕し、中身の大吟醸酒がゾンビに降りかかる。
燃え盛る金属バットで引火し、ゾンビは業火につつまれた。
最後にバットで押し込み非常出口をしめる。
「はぁ…はぁ…はぁ…、行きましょう…時間がありません」
既に視界は燃え盛る炎によって白く濁っている。
出口がすぐそこにあることを確認し安堵する。
「出口が見えました…あともう少しです。見たところ、ゾンビの姿はありません。しかし、何処に隠れているか分からないので警戒を怠らないようにしてください」
「は…はい…」
軍手をしているが、金属バットの熱が相当熱い。
出口を再度確認し、ゾンビが居ないことを確認すると、僕たちは何とか大型スーパーから脱出することに成功した。
「やった…うぐ」
僕は桜さんの口を再度手で塞いだ。
「桜さん、安易な行動は控えてください。先ほども僕が遅れていたら襲われていましたよ。皆さん…このスーパーを出られたからと言って…もうこの街に安全な場所はありません。すべてが危険です。こんな所で喋っている場合じゃありません、今から大回りで道路に向います」
「ま、待ってください。私の車があるので車で移動した方が良いんじゃないでしょうか…」
「ほんとですか…いや…ダメです。ここら一帯の道路は今、車が走れる状態じゃありません。人一人がようやく通れるような隙間しかない所もあると考えます。確かに車で移動できればいいのですが…まだその時じゃないですね。歩きの方がすぐ逃げられる分、安全だと思います」
僕たちはすぐに移動する。
僕は移動している最中も考えるのを止めない。
――今はまず体力の回復と安全な睡眠をとれる場所に向わないと。って…安全な場所なんてもうどこにも無いんだった。
今考えうる比較的安全な場所…静かで、人が少なくて…ゾンビが向かわなそうな場所…山いやでもここから山に向かうのは距離が遠すぎる。
高い所はダメ…低すぎるところもダメ…後ろがふさがっている所もダメ…そうなると…いったい何処に向えばいいんだ。
1人ならいくらでもやりようがあったが…今は4人だ。
このまま僕が3人を置いて逃げたとしても誰も僕を咎める人は居ない…
しかし…僕の頭が見捨てるという選択肢を破棄している…。
それにこのままだと日が上り、ゾンビたちの動きが活発になってしまう。
「大阪に行きます…」
桜さんと由香さんは何を言っているんだという顔でこちらを見てきた。
「樹君…何言ってるの…ここから大阪ってすごく遠いんだよ」
「分かってます。しかし…ここから一番近い基地が大阪なんです」
「基地?」
「はい…今回の地震発生によって大きな被害が出たため、国が主要都市に住民を避難させる基地を自衛隊に作らせたんです。しかし…大阪に向うのは危険かもしれません。皆さんはここに残って貰っても全然かまいません。大阪よりはゾンビが少ないでしょうし…」
「それなら…なおさら樹君が大阪に向かう理由が分からないよ…」
「大阪に向かうのは最後です。今は生き残ることが最優先ですから、とりあえず…眠れる場所を探します…」
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