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第4話:揺れ動く心

 異世界で受けた初の授業は、あまりにも普通すぎて同時に面白くなかった。

 唯一雷志が興味を持って受けられたのは、意外にも歴史の授業だった。

 歴史ほど退屈で面白くないものはないという、嫌悪感にも似た感情を持っていたがために居眠りをしていつも受けていた彼自身でさえ、最後まで受けられていたことに驚愕を禁じ得ない。

 歴史上の人物が全員、等しくかわいい獣っ娘に変換されていれば嫌でも目につく――より正確に言うと、教師の授業にはそっちのけで雷志は教科書の方ばかりを見ていた。



(まぁ、確かにかわいい子は多いよな)



 左右どちらを向いても、美がつくほどのかわいい少女ばかりで溢れている。

 スタイルもよくて、下心満載な年頃の男子には(いささ)か刺激が強すぎる。

 胸元を大胆にもはだけさせて、足を大きく広げて下着が丸見えになっていても、彼女らは一切気にしたりしていない。

 後、履いている下着は高校生が着用するものにしては、過激なことこの上ない。

 凝視すればその先が見えてしまい兼ねない薄い生地は、雷志には非常に目に毒だった。



(俺がこの世界の人間として生まれてきていたらな……)



 前の世界のことをきれいさっぱり忘れていたなら、この環境を嬉々として自分は受け入れていたに違いない。

 すんなり受け入れた方が後々楽になる。

 ここまで理解しておきながら未だ身を委ねられずにいるのはやはり、記憶の根底にあるかつての人生(くらし)を忘れらないから。

 十数年という短くも色濃い人生を、そう簡単に切り離せられるほど自分は潔い人間ではない。

 目を閉じれば家族や友人が瞼の裏で鮮明に描かれて雷志を懐古の情へと誘おうとする。

 その度にもう一度会いたい、元の世界に帰りたいという気持ちが雷志の胸中でどんどん強くなっていく。

 例えそれが、二度と叶わぬ願いであるとわかっていても……。



「――、ッ!」

「ちょちょ、ちょっといきなりどうしちゃったのさ!」



 昼休み……思い思いにすごしていた生徒達がどよめいた。

 可梨菜に至っては顔を青ざめさせて、凄まじい勢いで彼の元へ駆け寄っている。雷志は自分の頬を殴り飛ばした。



「いっつ……」



 古典的な方法であるのは否めない。

 痛みで思考を一度リセットするなんて方法は、実に古臭い。

 その古臭さのおかげで、もやもやと頭の中に渦巻いていた邪念が一気に吹き飛んでくれた。

 じんじんと頬に残る痛みと熱に、雷志はふと笑った。

 そして、雷志は手首を掴み上げている可梨菜に誤解を解かなくてはいけない。

 突然目の前で自傷行為をやってしまったのだ、ましてや数少ない男性だから彼女が制止に走ったのは当然ともいえよう。


 この時点ではもう、とっくに雷志には自傷行為をするという気は微塵にもなかった。

 痛いのは最初だけあればいい、後から重ねる痛みにはなんの価値も意味も持たない。

 世の中には十人十色の性的嗜好が存在していて、痛みをあえて負うことで快楽を憶える輩も実在する。

 これに基づけば、祓御雷志の性癖は至って普通だ。



「大丈夫だ、もう殴ったりなんかしない。今のはちょっと気分を切り替えるためにやっただけだ」



 可梨菜も、既に解かれた雷志の拳を見て理解したのか、疑念の眼差しこそ向けつつも、ゆっくりと彼の手を解放する。



(しっかし……なんて馬鹿力なんだよ)



 雷志は、手首にくっきりと残されていった手形を見やり頬の筋肉を痙攣させた。

 さながら万力の如く、それだけ彼女の必死さを物語っているが、拘束されている側からすればいつ手首が跡形もなく粉砕されるのではないか、と内心では雷志はひやひやと肝を冷やしていた。

 頬を自ら殴った時よりもずっと痛みがある。

 しかし、しっかりと可動する手に雷志はほっと安堵の溜息を小さくもらした。



「まるで――」

「ゴリラみたいでしょ、カリカリの力って」

「ちょ、いきなり何を言い出すのさかおるん!」



 つい口に出してしまいそうになった台詞を代わって、彼女の友人――名前は確か、浅田薫子だったか……――が弁明してくれたおかげで雷志は、可梨菜の怒りの矛先から免れることができた。

 身代わりになって可梨菜からの怒りの雷を浴びている彼女はどこ吹く風で、雷志は薫子に心から深く感謝した。

 不意に教室の外が騒がしくなる。



「なんだ?」

「――、ッ! この感じは!」



 可梨菜が廊下の方を、まるで親の仇とも言わんばかりの忌々しそうに見据えている姿に釣られた雷志も、彼女の視線を追従する。

 中窓から見えるのは、わざわざご丁寧に転校生を一目拝もうとしてきた野次馬根性丸出しの生徒ばかり。

 休み時間の間、雷志は絶えず生徒からの眼差しを浴びせられていた。

 関心、品定め、性欲……あらゆる邪念を孕んでいる視線は決して心地良いとは言えなかったが、相手にせずに無視を決め込んでいた。

 昼休みにやってきた野次馬達が、次々と教室から立ち去っていく。

 何かに怯えているような印象さえあった挙措に雷志ははてと小首をひねるしかない。

 その答えは、雷志が可梨菜に尋ねようとした直後にやってきた。



「あれは……!」



 真っ先に飛び込んできたのは、その豊満な胸だった。

 静かに歩けば連動して女性を象徴するそれも上下に揺れる。

 揺れぐらいから察するにあれはとても柔らかいに違いない。雷志は無意識の内に、ごくりと生唾を飲み込んだ。

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