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大変大変! 飢饉だからご先祖様に助けを求めたら、見返りとして村の女戦士ノムアイラと農家の娘ムサーカが結婚することになっちゃった!

百合豚ゲロキモクソ先祖だけど、ご先祖様の言いつけは絶対! ノムアイラとムサーカ、いったいどうなっちゃうの~!?

え、結婚自体はまんざらでもないの……?

「私よりもあんたの方が」

「いやいやあんたの方が」


 乾燥した草原の真ん中で、二人の少女が互いに向き合って話していた。

 少女たちの後ろにはそれぞれの両親がおり、間には村のシャーマンが立ちすくんでいる。


「ちょ、ちょっとお父さんもお母さんもなんか言ってよ!」

「なんでさっきから黙ってるのさ!!」


 少女たちは自分の親に向けてぎゃおすと叫んだ。


「いやでもどうすればいいのか分からんし……」

「司祭様ほんとにほんとのほんとなんですかこれ」

「マジじゃよ……いやわしも意味わからんしどうすりゃいいの……」


 片方の母親にぐわんぐわん体を揺さぶられながら、わりとマジトーンの困惑具合でしゃべる司祭。

 場を支配しているふいんきと言ったら困惑と困惑だ。


「……ご先祖様のおっしゃる事だから逆らいはしないんだけど」


 手のひらに槍ダコのできた少女が、力いっぱい握りこぶしを作る。ぶるぶると震えるその手と共に、非常に苦々しい声がこぼれた。


「私も構わないんだけどさー、たださー……」


 手に鍬ダコのできた少女が腕を組んで貧乏ゆすりをしながらぽつりと呟く。

 なんだか似たような雰囲気の少女たちは、ぎゅっと瞑っていたまぶたをほぼ同時に見開き、揃って嫌そうな大声を上げた。


「「ぜったい私は“おっと”にならないからな!!!!!」」



 ★



 時間は半日前に遡る。


「お腹減ったなー……」

「ひもじい……」


 本日の天候、快晴!

 食料備蓄、あとちょっぴり!

 トウモロコシ! 立ち枯れ!!

 ジャガイモ? ねーよんな便利なもん!!


 はい絶賛飢饉中です。


「ご先祖様~ご先祖様~……この苦境をどうすれば乗り越えられるでしょうか……」

「どうか我々の生きる道をお示しください……」


 村の政をつかさどる王族やら年寄りやら老若男女が、村の祭壇に集まって一心不乱に祈っている。

 情熱的な太鼓の音に合わせて呪術師たちが踊り狂い、その身にご先祖様達の魂を呼び寄せる。


 その時突然大きな風が吹いた!


 突風と共に起こった砂嵐によってほとんどの者が目を閉じたあと、中央で踊っていた司祭がぴたりと足を止めていた。


「……あー、テステス。聞こえますか子孫」

「司祭様???」


 突然意味不明なことを言い出した司祭に、ほぼほぼ全員が動きを止めてその様子を見守っている。

 動いているのは太鼓打ちぐらいだ。BGM大事だからか。


「あのさー……君ら、自分たちでなんとかしようとシナカッタわけ? 俺らだって君らを神様のところに連れてく仕事があるんだから、暇なわけじゃないんだぞ」

「は、はぁ……」


 いつもの威厳にあふれたふいんきはどこへやら、妙にチャラい口調愚痴りながらで司祭はため息をつく。

 状況がいまいち読めないながらもなんだか説教されていると悟り、弟子の一人が歯切れ悪く返事をした。


「はぁ~! めんどっくさいわぁ! やっとあの世に行ったと思えば今度は子孫たちの願いを叶えろとか、どんだけ仕事せにゃならんの」

「す、すみません……」

「なんかご褒美でも無いとなー! やってられんなー!」


 髭を蓄えた姿でしょうもないことをしゃべっている為、どんどんと司祭の印象が崩れていくのだがとりあえず暫定ご先祖様に子孫たちは頷いて従う。

 村長がおずおずと、手を挙げながら聞いた。


「それでは……何かを捧げれば良いのでしょうか……牛とか……?」

「はぁーん?? あの世に財産なんか持ってけるわけないじゃん少しは考えろ」

「うぜぇ」


 口元を隠しながら村長は独り言ちた。


「んー……そうだな。あ、そこの娘! ちょっとこっちに来い」

「わ、私ですか!?」

「おうそうだ。そのあたりにお前以外ムスメなんて年ごろの女居ないだろ」


 近くにいた女性全員を敵に回しつつ、ご先祖様が一人の少女を呼び、辺りに鋭い緊張が走る。

 まさか生贄に差し出せというのか。という最悪の事態を想像して少女の親などは特に身構えていた。


「ふーん……ふんふん」

「あの……なんでしょう……」


 美しい少女だった。黒い瞳にスラリと高めの伸長。女性にしては筋肉もあり、凛としたふいんきがある。


「よし、よし」


 ご先祖様は満足そうに大きく頷きながら周囲を見渡した。

 見定めるように周囲の人々を一周眺め、そしてある人物を見たところで体を止めた。


「よしそこの娘だ」

「わ、私?」


 呼び出されたのはまたも少女だ。同じぐらいの年頃で、目を白黒させながらゆっくりご先祖様の前へと出てくる。


「ほうほう」


 今度は健康的で活発な印象を受ける少女だ。少々野暮ったいふいんきがあるが、着飾れば非常に美しい女性になるだろう。


「あの、ご先祖様。私はいったいどうなるのでしょう……」

「みんなの代わりに死ぬんですか……?」


 不安そうに声をあげる二人は、互いの不安を紛らわせるためか、それぞれの手をぎゅっと握りしめた。


「お前たちの名前は?」

「ノムアイラ」

「ムサーカ」


 両親から貰った名前を、これで最後かとかみしめるように語り。ご先祖様は歯を剥いた気持ち悪い笑顔を見せた。


「よし、ノムアイラ、ムサーカ。お前ら二人で結婚して夫婦になれ」


 ニカッとキショい笑顔を見せるご先祖様。


「「いやなんでだよ!!!」」


 少女たちはありったけの大声で抗議の叫びをあげたのだった。

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