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いつでも愛は【化物】を生む  作者: 夢未多
第1章 黄金林檎
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第7話

 サンドラはフレディの動きを再確認する。彼の構え、呼吸、表情。その全てが普段と特に変わらないのを見て、さらに不安と怒りを感じる。


「お前が何でこんなことするのかわからないよ……」


「言葉遣いを多少汚なくしたって、生まれの良さが透けてしまってるぞ、サンドラ」


「どう言うこと? 」


「敵の気持ちなんて考えてるからさ」


 フレディが距離を詰めてくる。じわじわと詰めてくる。


「俺が考えてる事を教えてやろうか? サンドラがあの坊主をどこに隠しているか、どうやって逃がそうとするか、それを考えてる」


 サンドラは逆にゆっくりと後ろに下がる。


「いや、これは間違えてるな……。サンドラが誰に頼むか、それをっ! 」


 サンドラの突然の攻撃をフレディは力強く弾く。


「危ないなあ。でも、正解と。剣の腕だけが賞金稼ぎの実力じゃない」


 今度はフレディがゆっくりと後退する。そして、衛兵達に改めて指示を出す。


「サンドラの周りを囲め」


 サンドラは衛兵隊を無視してフレディに的を絞る。最初の一撃とは違う。確実に倒す為に、彼女の素早さを活かす連撃。だが、フレディは既に勝利を確信していた。


「この女はお人好しだ。衛兵相手だと殺すのを躊躇ためらうぞ。……それと、例の坊主が逃げてる先は、懇意にしてて交易もしているスペーシア商会か……宵闇街にいる【赤髪のよろずや】のとこだ」


 フレディは大声で衛兵達に伝える。そして、彼はサンドラの波状攻撃を力任せに弾き飛ばすと、衛兵達を盾にするように後ろに下がる。


「一対一で勝てない事は、以前に教えてもらってるからな」


 サンドラは衛兵達の槍を次々に捌いていく。時間稼ぎが無意味なら、ロバートに向かう人手を減らすしかない。


 フレディの、サンドラが殺すのを躊躇うという言葉に、衛兵達は恐れを抱きつつも、前後左右から槍を突き出す。しかし、彼女は軽業師のようにその槍を交わして、衛兵達の首や顔に剣の柄を拳にして打撃を入れていく。


「未だに殺さないでいられるってのは驚きだな。だが、わかったろ? この女は殺せないぞ! 」


 サンドラは目の前の衛兵の手首を切り落とす。


「これからは斬ることにするよ、フレディ。おい、お前ら。死にたい奴から掛かってこいっ! 【剣に愛された女】の技を身を持って味わわせてやる! 」


 フレディは周りに聞こえないように舌打ちをする。開き直ったサンドラとやり合いたくはなかったからだ。彼は自分自身の事を棚に上げて、()()()持ちの賞金稼ぎの厄介さを忌々しく思った。


 次々と、先ほどの赤壁の爆発で衛兵は集まってきている。サンドラの体力は無限ではない。フレディからしたら、彼女が衛兵と斬り結べば結ぶほど有利になるのは間違いないが、思ったほど体力を削れていないのが計算違いである。


 本気を出し始めたサンドラは、ほぼ一刀の元に衛兵を倒していっている。


 フレディは改めて愛用の片手半剣バスタードソードを握り直し、自分自身に向けて呟く。


「才能だけで、勝負が決まる訳じゃないよな? 始まりの神ウーヌス。俺は強くなってる。あの女に勝てる……」



 ※ ※ ※



 激しい爆発音。


 ロバートは身体を強張らせる。暗い視界の中で、普段では絶対にない激しい音。彼は先行きの不透明さと合わせて、不安が高まる。


「大丈夫だ。あれはサンドラが持っていった破裂石の音だ」


「破裂石? 」


「西門そばの壁でも壊したさ。彼女には詰所を爆発させることは出来ない」


 どこか不満そうな返答に見えた。ロバートはそれが不満だった。


「マリアは衛兵を殺せばいいと? 西門の関所に並んでる人達にも被害を出せと? 」


「その方が君の為だから。安全に逃げる確率が高くなる」


 地下に流れている下水道をなるべく音を立てずに進んでいる。声もお互いに小声だ。ロバートは自分の声が大きくならないように注意しながら話す。


「関係ない、罪のない人を巻き込むのが正しい訳ない」


「正しいとか、正しくないとか、何を基準に考えてる? 」


「何をって……」


「君が逃げ切る事に対しての最善は、関所を壊す事だ」


「帝国を、帝国の人を恨んでいるの? 」


「私がアータルの民だからかい? 関係ないさ。帝国の民にもサンドラのような人だっているし、アータルの民にも悪い奴はいる」


 赤髪はアータル人の特徴だ。マリアがアータル人である事は一目でわかる。ロバートにわからないのはマリアが何を考えているのかだ。


「不思議かい? 私が今考えている事はただ一つ。君をどうやって無事に逃がすか……」


「俺の事を大事に思ってるのはサンドラで、マリアじゃない」


「私は約束を大事にしてる」


 約束……それはサンドラと交わした契約だろう。


「マリアは……その賞金稼ぎ……なの? 」


「君が成りたがっている賞金稼ぎさ。ま、賞金稼ぎなんてただの呼び名。私は仕事に対して真面目に取り組んでいる。それが信用を生む。私は契約や約束は絶対に守る。だから依頼料も高くなるし、高いことに文句も出ない」


 ロバートが知る賞金稼ぎはサンドラだ。


 野盗を追い払い、魔物を倒す。平和をもたらしてくれるちからある者。それがロバートの知る賞金稼ぎだ。人々に称賛される存在が賞金稼ぎだ。


「サンドラや君を陥れようとしてるのも、多分、賞金稼ぎだ」

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