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いつでも愛は【化物】を生む  作者: 夢未多
第1章 黄金林檎
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第6話

 ロバートに震えが襲ってくる。倒した相手を忘れていたのは、魔力が尽きただからだけではない。恐怖が彼の記憶を奪っていたのだ。


「どうしたの? 大丈夫? 」


 サンドラとマリアが戻ってくる。ロバートは打ち合わせを終えたらしいサンドラに答える。


「大丈夫だよ」


「やっぱり魔力を使いすぎてるのよ。全然大丈夫な顔じゃない。真っ青」


 ロバートはどう答えようか迷う。彼は、既にいない悪魔の恐怖に震えたと、恥ずかしくて言えない。だが、魔力切れだと言うのも、不安がらせてしまうので言えない。


「言ったろ? サンドラ。ただの魔力切れだ。心配はいらない。安心して自分の役割を果たせばいい。私も約束は必ず守る」


 ロバートを救ったマリアは、黒いローブに付いている頭巾フードを被っていた。


「ロバート、このお姉さんの言うことは必ず守るのよ」


「お姉さんの言うことはって、サンドラは? 」


「私が説明しておく。準備して派手にやってくれ」


 サンドラはマリアの言葉に頷くと、ロバートを抱き締める。茶色の短髪をくすぐったく感じながら優しく包む。


「ロバートの夢は賞金稼ぎ(ハンター)だったよね。夢を叶えて、成長した姿を私に見せてね。私は剣しか教えられないけど、マリアは物知りだから、魔術が使えるようになったあなたには彼女がぴったりよ」


 サンドラの笑顔は美しい。そして、今日は儚く見えた。


「サンドラは? 」


「次の満月の夜、月影の森で……」


 そう言うと、サンドラはロバートを突き放して、部屋を出て行く。彼も追いかけようとするが、腕を捕まれていた。


「さて、彼女との約束を果たそう」


「約束? 」


「サンドラに言われただろう? カラハタスから逃げるのさ」


「だから何言ってるのかわからないよ! 」


「君をここから逃がす。それが私の仕事だ」


「サンドラを残して逃げるのは嫌だ」


「彼女が逃げるのに、君が邪魔なのわかってないのか? 」


 ロバートは言葉が詰まる。だが、彼は納得したくない。


「俺はちからになれる。魔術だって使える」


「知ってるよ。獣一匹倒すのに、森半分吹き飛ばしたポンコツだってね」


「あ、あれは……あれは、魔獣じゃない……多分、悪魔」


「君が悪魔を御存知だったとは失礼しました。でもね、森半分吹き飛ばした上に、魔力切れ起こして、サンドラに連れて帰ってもらったんだろ? 」


 ロバートは黙るしかなかった。彼は幸運がまやかしでしかなかったのを知っている。


「いいかい? サンドラはめんが割れてる、腕利きの賞金稼ぎとしてな。その彼女がお荷物担いで逃げられると思っているのかい? 彼女は独りなら逃げられる。君がお荷物なんだよ。君は無名だ。だから私に託したのさ」


「……俺は……俺は何もで、で、できないの? 」


「君に出来る事? やるべき事があるだろう。絶対に無事に約束の場所へ行く事、それが彼女に出来る唯一の事さ」


「わかった」


 ロバートは顔を上げて答える。無力だったとしても彼には果たすべき約束がある。そして、それを気付かせてくれたマリアに頭を下げる。


「お願いします」


「素直なのはとても良い。サンドラが大事にしているのはよく分かるな。これを持っておけ」


「え? 」


 マリアが差し出したのは、サンドラが報酬として渡したペンダントだった。


「ちゃんと仕事を果たした時には私が貰うさ。それには強い加護がある。大事に首に下げげときな」


「あ、ありがとう」


 ペンダントには美しい石が嵌め込まれている。その石は薄い青色で、穏やかな春の日の空。サンドラは旅の御守りだと話していた。


「じゃあ、そろそろ行くよ。サンドラからの合図に遅れたら元も子もないからね」



 ※ ※ ※



「これだけあれば、あの旅人の石、簡単に買えるかなあ……」


 サンドラは手に持ったいくつもの破裂石を見つめる。ドワーフ秘伝の破裂石。破裂石は彼等が地中の硬い岩盤を掘り進むのに使われていた。


「さて、派手に行こう」


 破裂石を西門の関所横に投げる。投げた瞬間、サンドラは耳を塞ぐ。


 爆発する。


 帝国第二の都市カラハタスが止まった。


 突然の爆発。それに続く難攻不落と云われ、過去に一度も落とされたことがないカラハタスの赤壁が崩落する。


 一拍を置いて起こる悲鳴。関所に並ぶ人々は壁を見る。関所にいた衛兵達は犯人を見る。


 犯人は一目瞭然だった。今日、関所の取り調べを厳しくした理由が目の前にいたからだ。藍色が鮮やかな麻の外套がいとうに身を包んだ女性。カラハタスでも五本の指に入る賞金稼ぎ。


「サンドラだ! サンドラがいるぞ! 」


「あの女の仕業だ! 」


 サンドラは不敵に笑うと、剣を引き抜き走り出す。背を見せるのではなく、衛兵に笑顔を見せる。一番手前の衛兵の籠手を打ち付ける。激しい痛みにその衛兵は剣を落とす。


 次の衛兵の剣を横に打ち付けてから、すぐに上から叩き落とす。あまりの早業に衛兵達は怯え、じわっと広がる。先頭に立ちたくはないが、逃がすわけにはいかないからだ。


「サンドラ。独りじゃないか? 何で独りなのかな? 」


 その声は、最後にゆっくりと衛兵達のいた詰所から現れた男の声だった。


 サンドラは尋ねずにはいられなかった。


「なんでお前がそこにいる? 」


「賞金稼ぎが仕事をするのがそんなにおかしいか?」


「約束を守ってないどこの話じゃないな」


「俺はサンドラみたいに趣味で賞金稼ぎをしてるんじゃないんだ。金を稼ぐ為に賞金稼ぎしてるんだ」


「仲間を売るのが仕事かい? 」


「仲間? ありゃただの化物さ」


「あー、もういいや。許す気が失せたわ。どちらが正しいかやってみましょ? フレディ」


 フレディも剣を構える。片手半剣バスタードソードを両手でしっかり握って答える。


「力比べが好きってのが、真の一流に成りきれないとこだよ、サンドラ」

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