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いつでも愛は【化物】を生む  作者: 夢未多
第1章 黄金林檎
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第1話

 恋とは迷信であり、愛とは狂信である。

 恋とは魔術であり、愛とは呪術である。



 ※ ※ ※



 夜空には満月が浮かび、街には篝火かがりびが並ぶ。


 春は訪れたばかりでまだまだ寒い。だが神が生まれた日と、街の人々はまだ騒いでいる。


 聖誕祭の行われている街の中心部から少し離れた細い通りを、少年が独り歩いている。茶髪を短く刈り上げた彼は足早だ。肩から提げた小さな鞄を大事そうに抱えている。細い腕に力を入れている。


 少年は幸せな気持ちでいっぱいだった。


「君はツイてる」


 突然、少年は話しかけられる。彼は小さな鞄を抱える腕に力を込める。辺りを見回すが、彼は声の主を見つけられない。


「ここだよ、ここ。右見て」


 少年が右を向くと路地があり、その前に黒猫が一匹いる。 路地の奥を覗き込もうとすると、さらに声がかかる。


「おーい。君の目の前にいる黒い猫だよ」


 少年は黒猫を見てから、もう一度辺りを見回す。やはり人影はない。


「猫が話すのは信じられないのかも知れないが、私はそもそも猫じゃない」


「本当に猫が話してるの? 」


「君は話を聞かないねえ、私は猫の姿をしてるが、猫じゃない。呪いで猫の姿に変えられた可哀想な女だよ」


 少年はしゃがみこんで、猫をじっと見る。彼が聞いている声は確かに女性のものだ。


「今夜、私達が出会ったのは神の采配。私の名前はソフィア」


 ソフィアと名乗った黒猫はきれいな毛並みで、ただの野良猫には見えなかった。


「私を助けてくれないか? 傷つき呪われた女性を助けてあげられるのは君だけだ。今夜の君は無敵さ。そうじゃないか? 」


 少年は頷く。確かに彼はツイていたのだ。


「助けてくれたなら君の願いを叶えてあげよう」


「本当に! 」


 少年は驚きの、いや、喜びの声を上げる。彼は自分が幸運な事を微塵も疑ってない。黒猫の目が光るのを見た。


「ロバートくんの願いはあれか……魔法が使えるようになりたいんだ……」


 人間の言葉を話す猫は、一発で少年の願いを言い当てた。名乗っていないロバートの名前も言い当てていたが、彼は興奮の余り気付いていなかった。ロバートの顔が紅潮していくのを見ながら、ソフィアは続ける。


「魔法が使えるようになりたいと思うのは自然な事だ。使えない者にとっては、ね。君は今まで努力を重ねてきた。運動神経が鈍く、剣も弓も満足に使えない。賞金稼ぎ(ハンター)になるには強力なちからが必要だ。何の才能もないと諦めず、貴族でもないのに君は、薄い可能性にかけて、誰もが無理だと話す魔術師を目指す、図書館で本を読み漁り、魔法の示唆(ヒント)になるようなモノを探していたのも立派だ。なんて素敵な……私が叶えてあげるよ」


 黒猫がにやっと笑った。ロバートにはそう見えた。


「さあ、私を助けて。私にはその黄金林檎が必要なのさ」


 ロバートは小さな鞄をぎゅっと抱きしめる。鞄の中には黄金林檎が入っている。


 聖誕祭の中では神くじがある。ロバートは神くじを引いた。そして、今年一番の幸運な者として黄金林檎が当たった。黄金林檎とは、神に捧げる為に選ばれた神聖な林檎。神が召し上がられた残り物を頂ける栄誉が、彼に与えられたのだ。もちろん黄金林檎を手にした者には、その一年様々な幸せが訪れると言われている。


 ロバートは神官から黄金林檎を受け取ると、すぐに鞄に入れ、落としたり取られたりしないように帰り道を急いでいたのだ。


「ロバートくんはツイてる。私に会えたのが幸運な証。私に会えたからこそ君は魔法が使えるようになる。魔法の才能が手にはいれば、賞金稼ぎ(ハンター)にもなれる」


 ロバートは鞄を開けようとして途中で止めた。何者かが騙して黄金林檎を獲りにきた?


 だが首を振って、鞄から黄金林檎を取り出す。


 ロバートを騙す必要がないのだ。悪者なら、華奢な体格をしていて、見るからに子供の自分から奪い取ってしまえばいいのだ。


 ロバートは黄金林檎を信じた。


 小さい頃から、走ったり、素振りをしたり……()()の教えのままに訓練に取り組んだ。だが、同い年の子供達と、木の棒で打ち合い、共に練習を行えば、ロバートは自身の才能の無さに気付く。


 弓や投石も駄目。素早さも無理。器用さも無い。


 今まで神はロバートに何も与えなかった。今回の神くじの大当たりは初めての恩寵。人並みの才能すら与えなかった神は、きっとこの機会にとてつもない愛を与えてくれるはず……。彼は思う。この喋る黒猫は神の御使いに違いない。


 ロバートは黄金林檎を信じた。


「素直だ。そしてロバートくん。君の瞳は真っ直ぐと物事を見る事が出来ている。だからこそ私は取り引きを申し出た。君の考える通り、魔法が使える私なら、君からその黄金林檎を奪い取ってしまうことは容易たやすい。そうしなかったのは君に好意を覚えてしまったからだ」


 ソフィアはその小さな前肢で、黄金林檎をロバートの手のひらから落として、かぶりついた。


「ああ、美味しい……」


 さらに黄金林檎を貪る。ソフィアは半分食べた処でニャーと一鳴きして、すっと下がって座る。


「さて、残りの黄金林檎はロバートくんが食べたまえ。私には必要な魔力が戻った」


 黒猫であるソフィアがかじった後の林檎を、ロバートは不思議と汚いとは思わなかった。林檎を手に取り、口にする。非常に美味しかった。


「では、お礼をしよう。君が夢を掴み取る物語は今ここから始まる」

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