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黄金の双剣士  作者: ひろよし
五章:王宮のレキ
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第90話:お勉強 -暦と魔術士-

王宮の侍女達に甲斐甲斐しくお世話をされながらも、朝食を食べ終えたレキは勉強の為フィルニイリスの下へと向かった。

文字に関しては、サリアミルニスの協力もありなんとか覚える事が出来たが、勉強はそれからが本番だった。

教えるのがフィルニイリスなのは「レキに教えるのは私の役目」だと言ってフィルニイリスが譲らなかったからである。


内容は、一般常識からこの世界の基本的な知識、簡単な算術など様々である。

元々自給自足で賄われていた村に住んでいたレキは、算術どころか文字すら必要としない生活を送っていた。

その村を五歳の時に滅ぼされ、それから三年もの間魔の森で過ごしていたレキは、一般常識すら疎いのだ。


お金の概念すらレキには無かった。

足りない物は譲り合いや物々交換で補っていた村に生まれたレキは、お金を見た事も無かったのだ。


お金の使い方は王都までの道中で理解したが、レキに足りない知識はまだまだ多い。


「一年は352日ある。

 コレを十の月と二日に分けて暦とする」

「へ~」

「白の月、赤の月、黄の月、緑の月、青の月、黒の月、紺碧の月、深緑の月、雄黄の月、真紅の月。

 この十の月にそれぞれ三十五の日があり、合わせて350日となる」

「あと二日は?」

「一年の内もっとも太陽が強く輝く日を光の祝祭日、太陽がもっとも力を失う日を闇の安息日として、それぞれ白の月と黒の月の前日に祝う」

「ん~?」

「真紅の月の終わり、その翌日が光の祝祭日。

 青の月の終わり、その翌日が闇の安息日。

 光の祝祭日の翌日から白の月、闇の安息日の翌日から黒の月が始まる」

「ん~、なんとなく分かった」


光の祝祭日は新年を祝う日であり、この日より新しい年が始まるとされている。

フロイオニア王国では国を上げて盛大に祝う、一種のお祭りのような日でもある。

逆に、闇の安息日は一年でもっとも昼が短く寒い時期にあり、安息を得る為、各人家でゆっくり家族や親しい者と過ごす日となっている。


「ん~・・・白とか黒とか黄色とか、なんかぐちゃぐちゃしてるね」

「そう?」

「・・・あっ!

 魔術の系統とおんなじだ。

 ・・・でも順番違う?」

「なるほど、じゃあ次は創世神話の話をする」

「そうせいしんわ?」

「暦の月も、魔術の系統も、全ては創世神話が元になっている」


魔術の系統は赤、青、黄、緑の四系統に分かれるが、上級魔術に関してはその威力や規模、難易度、消費魔力から別の系統扱いにもされている。

赤の上級魔術が真紅、青の上級魔術が紺碧、黄の上級魔術が雄黄、緑の上級魔術が深緑と、それぞれ基本四系統と上位四系統という分け方である。

暦の様な順番こそ無いが、使用されている色は白と黒を除いて同じである。


これら十の色はこの世界の精霊神話を元にしており、理解するにはまず創世神話を知る必要があるのだとフィルニイリスは語った。


「ちなみにレキは創世神話を知ってる?」

「ん~、知らない」


フィルニイリスが歌うように語りだしたのは、この世界の始まりの話。


- 始まりは無があった。

- 創世神が降臨し、光を生み出した。

- そこに世界が生まれ、世界は光に満ち溢れた。


- 光あるところに影があり、創生には破壊があり、創世神には対となる神の存在があった。

- それは破壊神であった。


- この世界を生み出した創世神と、この世界を無へと返さんとする破壊神との戦いは果てしなく続いた。

- だが、永遠とも思われる戦いにもやがて終止符が打たれる時が来た。


- 創世神の持つ光り輝く剣が破壊神の胸を貫き、破壊神の持つ常闇の剣が創世神の胸を穿った。


- 胸を穿たれた創世神は、最後の力を振り絞りこの世界の導き手足らん存在を生み出した。

- 創世神の光の力を与えられし、この世界の新たなる導き手たらん存在、それは光の精霊となった。


- 光の精霊を生み出した創世神は、光の精霊にその意志を託し、やがて何処かへと去っていった。


- 胸を貫かれた破壊神は、最後の力を振り絞りこの世界を無に帰さんとする存在を生み出した。

- 破壊神の闇の力を与えられし、この世界に終わりをもたらさん存在、それは闇の精霊となった。


- 闇の精霊を生み出した破壊神は、精霊に己が意思のみならずその精神をも宿さんとした。

- だが、世界に生まれし闇に気付いた光の精霊によって阻止され、破壊神は己が意思と精神を闇の精霊に宿す事なく、その身を大地へと横たえた。


- 破壊神より生み出されし闇の精霊は、その意思を受け継ぐこと無くこの世界に誕生した。

- 無垢なる闇の精霊は、光の精霊と共にこの世界の導き手となった。


- 光の精霊がこの世界を照らし、闇の精霊はこの世界に安寧を与えた。

- こうして世界に昼と夜が生まれた。


- 光と闇の精霊は互いに手を取り合い、この世界をより良き世界へと導かんとした。

- 光の精霊の白き光に闇の精霊の黒い影が差し込み、やがて幾つもの色を生み出した。

- 中でも世界の根源であり基本となる四つの色は、やがて精霊へと至った。

- 赤く燃える勇気あふれる火の精霊、青く穏やかな慈愛あふれる水の精霊、自由気ままな探求を愛する風の精霊、力強く恵みをもたらす土の精霊。


- 白と黒より生まれし四の精霊は、光と闇の精霊と共にこの世界の導き手となった。

- 白き光は世界を照らし、赤き火は熱を与え、青き水は生命を育み、緑の風は種子を運び、黄色の土は恵みを与え、黒き闇は安らぎを与えた。


- そして、世界が始まった。


「これが創世神話。

 この世界を作りし創世神と、その意志を継いだ精霊の話」

「お~・・・」


フィルニイリスの語りにレキは聞き入っていた。

歌うように語るフィルニイリスの姿に、聞き惚れてしまったのだ。

語り終えたフィルニイリスに感嘆の声を上げ、拍手してしまうほどに。


「光と闇と、火と水と風と土・・・あれっ?」


その余韻に浸りつつ今聞かされた創世神話を思い返しながら、ふと首を傾げるレキ。


「ねぇフィル。

 六つしか色が無いよ?」


元々はこの世界における基本の十色の話、それを正しく理解するためにフィルニイリスが語ったのが創世神話だった。

だが、その神話の中に登場したのは六色。

白と黒、そして赤・青・緑・黄、残りの四色は創世神話には登場していない。


「創世神話には全ての基本となる色しか登場していない。

 残りの四色、それが登場するのはまた別の話」

「別?」

「この世界が誕生し、世界に様々な生物が誕生した後の話。

 人々が魔力という力に目覚め、この世界を更に発展させていった頃、魔術の力を信じ極めようとした四人の魔術士の話」


フィルニイリスが次に語るのは、遥か昔に存在した四人の魔術士の話。


――――――――――


「はるか昔、この世界には四人の魔術士がいた。

 四人はそれぞれ赤、青、緑、黄の魔術を極めようと日々研鑽を積んでいた。

 やがて四人は自らの系統を高め、新たなる属性を得た」


「赤の魔術士は力を求めた。

 勇気を司る赤の魔術士は、戦場を駆け抜けていた。

 立ちはだかる全てを焼き尽くすため、赤はさらなる力を得ようとした。

 闘争の中、赤は自らの力を高めていった。

 火はその力を増し、全てを焼き尽くす炎となった。

 こうして赤は、真なる赤、真紅へと至った」


「青の魔術士は癒し続けた。

 慈愛あふれる青の魔術士は、戦乱の中敵味方の区別なく全ての者を救おうとした。

 だが、どれだけ人々を癒そうとも、戦乱は更に人を傷つけた。

 癒しとは別の力を求めた青は、万人を包み込む水を用いて、敵すらも包み込んだ。

 全てを包んだ水は、やがて戦いすらも止める氷となった。

 こうして青は、何もかもを包み込む、紺碧へと至った」


「緑の魔術士は果てを目指した。

 自由を愛する緑の魔術士は、何物にも縛られず世界を旅した。

 行く先々で様々な出会いを経験しながら、緑の魔術士は世界の果てを求め続けた。

 嵐の中、大気を貫く雷を見た緑の魔術士は、その何物にも負けぬ力強さに真の自由を見た。

 自由を貫き通す意思の元、緑の魔術士は雷の力を持って世界の果てへとたどり着いた。

 こうして緑は、果ての色を知り、深緑へと至った」


「黄の魔術士は人々を救おうとした。

 枯れた土地に降り立った黄の魔術士は、飢餓に苦しむ者達を救うべくその地を蘇らせようとした。

 土に干渉し、土に力を与えた黄は、更なる恵みをもたらそうと力を欲した。

 枯れた土、枯れた土地、死にゆく大地、それでも諦めず力を尽くした黄は、やがて大地そのものへと干渉した。

 不動なる大地すら動かす黄の魔力は、やがて大地に恵みをもたらした。

 こうして黄は、大地を蘇らせ、雄黄へと至った」


――――――――――


「可能性を信じ、己を高め、やがてその高みへと上り詰めた四人の魔術士の話」

「ふぇ~・・・」


話し終えたフィルニイリスに、レキが間の抜けた返事を返す。

歌うように語られた先程の創世神話と違い、今度は強く聞かせるような話ぶりだった。

遥か昔に実際した偉大なる先達。

魔術の可能性を信じ、新たなる力を得た者達。

宮廷魔術士であり、研究家でもあるフィルニイリスは、四人の偉大なる魔術士へ心から敬意を抱いているのだ。


対してレキは・・・理解が追いつかないでいた。

小声で「えっと、赤が真紅で炎で、青は・・・」などと復唱している。


「赤は真紅となって炎となり、青は紺碧となって氷を生み出す。

 緑は深緑となって雷を呼び、黄は雄黄となって大地を動かす」

「赤が真紅、青が紺碧、緑がえっと」

「深緑」

「緑が深緑、黄色は・・・雄黄」

「そう」

「う~ん・・・」


なんとか復唱できたが、理解には至っていない模様。

基本の系統すらよく分かっていないレキに、上位系統の話はまだ早かったようだ。


「上位系統の話はまた後で」

「緑がしん・・・あっ、うん」


それでもなんとか覚えようと必死になって復唱していたレキに対し、フィルニイリスが助け舟を出した。

魔術における上位系統の話は暦とも関係があるものの、必ずしも理解しなければならない話ではない。

系統と属性の話は知らずとも、今は色さえ知っておけば問題ないのだ。


魔術の話はまた別途。

「後で」と言った通り午後にはちゃんと魔術の勉強時間があるのだから。


「今必要なのは色の話。

 赤が真紅に、青が紺碧に、緑が深緑に、黄は雄黄に。

 基本系統と上位系統合わせて八色。

 これに光の白と闇の黒を合わせた十色が暦に使用されている色となる」

「うん」


「それで色は覚えた?」

「えっと、赤、青、黄色、緑、真紅、紺碧、深緑、雄黄、あと白と黒っ!」

「正解。

 ではそれを暦の順に」

「えっ?

 えっと・・・白、赤、青、黄、」

「違う。

 赤の次は黄、そして緑、青、黒、紺碧、深緑、雄黄、真紅と続き白に戻る」

「う~・・・」

「暦は色の属性と季節が関係している。

 昼が最も長くなる時期を白、そこから少しずつ昼が短くなる。

 同時に寒い季節へと繋がり黒となる」

「ん~・・・」


そう言われてもレキにはいまいちピンとこない。

村にいた頃から、暦など知らずに育ってきたのだ。

季節の移り変わりは実感していたが、色を合わせるのは無理だった。


「ゆっくり覚えていけばいい。

 時間はたくさんある」

「・・・うん」


本日の授業はここまでとなった。

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