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黄金の双剣士  作者: ひろよし
五章:王宮のレキ
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第89話:王宮のレキ

前日の12:00に、短いですが一話投稿しています。

フロイオニア王国内にあるフィサス領に住む友達の下へ見舞いに行ったフロイオニア王国王女フラン=イオニア。

彼女がその帰路にて野盗の襲撃に遭い、逃げ延びた先の魔の森にて更に魔物に襲われたという事件は、その森に住んでいた少年レキによって事なきを得た。

レキはフランを救い、フロイオニアの王都まで無事に送り届けた功績と、国王の御前にて行われた騎士団長との試合に勝利する事で実力を示し、王宮に住む事を許される。

フランを救った功績に報いる為、また、幼く知識も不足しているレキに正しい知識を身に着けさせる為であった。


その力をフロイオニア王国の為に使わせようという話ではない。

悪しき事に使わぬよう、正しい知識を身に着けさせる為だ。


レキもまた、その話を快く受けた。

元々フランに請われて王都まで同行したレキである。

フランばかりかその従者たちの命を救った事と、フランと同い年である事、何よりその強さにフランが惹かれ、旅の間はそれこそ寝る時すら一緒にいた程に二人は、王族と平民という身分さを超えた友達となっている。


御前試合に勝利したレキの望みは、そんなフランとこれからも一緒に居たいというものだった。


こうして王宮に住む事になったレキは、まずこの世界の知識を身につける事から始めようとしたのだが、それにはまずやらなければならない事があった。


それは文字の勉強。


五歳の頃まで魔の森近くの何の変哲もない村に住んでいたレキ。

自給自足が成り立つ村に生まれたせいか、レキの村では文字を習う必要が無かった。

当然レキも文字に親しむ事は無く、更には村を滅ぼされ、魔の森に逃げ込んでしまった為、今まで文字とは無縁の生活を送っていたのだ。


いつか森を出て、死んだ両親の様に冒険者になって世界中を旅したいという夢をレキは抱いている。

そんなレキに「依頼書が読めないようでは冒険者としてやってはいけない」と言ったのは、フランとともにレキに命を救われたフロイオニア王国宮廷魔術士長フィルニイリスであった。


フィルニイリスの言葉に愕然とし、珍しくも狼狽しながら涙目にまでなって文字を教えて欲しいとレキが懇願したのが今から一月ほど前の事。


本人の強い希望により、王宮での勉強はまず文字を覚える事から始まった。

それまで文字とは無縁の生活を送っていたレキ。

勉強時間だけでなく、暇さえあれば書庫から絵本を持ち出して読み、就寝前もレキ付きの侍女となったサリアミルニスに頼んで教えてもらった結果、王宮に来ておよそ一月程で文字の方は大体習得できたのだった。


もちろん、一月の間文字の勉強ばかりしていたわけではない。


勉強の息抜きと称してフランと遊んだり、またそのフランに請われて剣の鍛錬に付き合ったり、その姿を道中一緒だった騎士ミリスや御前試合の相手でもあった騎士団長ガレムに目撃されて騎士団と共に鍛錬するようになったり。


王宮に来てすぐ行われた騎士団長との御前試合で、身体強化を使わずに騎士団長と互角に戦ったレキである。

道中立ち寄った村では、そのあまりにも強すぎる力の為救ったはずの村人から畏怖の目で見られ、その事で寂しい思いをした事もあったが、フロイオニア王国の騎士達は良く言えばおおらか、悪く言えばただの脳筋集団であり、レキの力を称賛すれども畏怖する事は無かった。


そんな騎士達に囲まれながらの剣の鍛錬は、いつしかレキにとって楽しみの一つとなっていた。


また、勉強や剣の鍛錬と並行して行われたのが魔術の勉強である。


初対面からレキの力に興味を示していたフィルニイリス。

レキはその膨大な魔力により、呪文を詠唱する事なく魔術を行使出来てしまう。

だが、魔術そのものの知識が無い為使える魔術が少なく、また制御も上手く出来ない為、宮廷魔術士長のフィルニイリスが魔術を教える事となったのだが。


魔術の勉強が始まった途端、質問攻めにあったのはレキの方だった。


あの膨大な魔力はいつ身に着けたのか?

何故呪文を唱えずとも魔術を行使できるのか?

全力で魔術を放った場合の威力は?

他にはどんな事が出来るか?


などと、レキがゲンナリするほど問い詰めた結果、レキの無詠唱魔術はその膨大な魔力に任せて強引に発動しているらしいという事が分かった。


そんなレキに教える事などなさそうなものだが、何せ魔術の基本となる知識を何も知らないレキである。

何事も基本から、という事で文字や常識、剣の鍛錬と並行して魔術の基本も習う事になった。


そんなレキの傍らでは、フィルニイリスを始めとした魔術士達が、なんとしてでも無詠唱で魔術を使用すべくひたすら研鑽に務めていた。


騎士団との鍛錬の様に、共に魔術の勉強をするレキと魔術士達。

体こそあまり動かさないが、魔術という神秘に触れるレキは楽し気だった。


――――――――――


日々の学習の成果も無事実り、レキは文字を習得した。

剣の鍛錬や魔術の研鑽を通じて騎士や魔術士達とも交流を深め、王宮にもすっかり馴染んでいる。


そんなレキの一日は、朝日と共に始まる。


いつものように、レキ付きの侍女サリアミルニスに起こされるより先に起きる。


村にいた頃は母親に起こされる毎日を送っていたレキだが、魔の森で生活する内にすっかり早寝早起きが習慣付いていた。

朝日とともに起き、友人であるシルバーウルフ達と森で狩りを行い、晩ご飯を食べた後は体を洗って寝るという生活を送っていたレキである。

朝日が昇るより早く起きて仕事を始める侍女達より幾分遅いが、騎士や魔術士、文官等に比べれば随分と早く、フランやフィルニイリスより遥かに早い。

・・・フランは寝坊で、フィルニイリスは夜更かしが過ぎるだけだが。


今日も起こされる事無く自分で起きたレキは、これまたサリアミルニスの手をわずらわせること無く着替えを終え、朝食を取りに自ら侍女たちの下へと赴く。

儀礼用の服でもなければ着替えくらい一人で出来るのだ。


と言っても、最初はこの普段着にも苦労していた。


特にボタンという存在。


別段不器用ではない、むしろ器用な方のレキでも、未知な物を無難にこなせるほどではない。

それでもお付きの侍女サリアミルニスの手を煩わせるのは申し訳なかったのか、あるいは年の近い美少女に服の着替えを手伝ってもらうのが気恥ずかしかったのか。

何とか頑張り、文字同様ボタンの付け外しも身に付けている。


朝食も、放っておけばサリアミルニスが持ってきてくれるのだが、ここでもサリアミルニスの手をわずらわせるのは気が引けるらしく、レキはいつも自分で朝食を取りに行っている。

サリアミルニスを含め、王宮の侍女達は何かとは忙しいと聞いたのもあるのだろう。

狩りに行ったり採りに行ったりする必要が無いだけでもありがたいのに、自分で出来る事をやってもらうのは迷惑だろうと考えたのだ。


「おはようっ!」

「おはようございますレキ様」

「「「おはようございますレキ様」」」


侍女達のいる部屋に入って挨拶をすれば、サリアミルニスを筆頭に挨拶が返ってくる。

「レキ様」という呼ばれ方は今も慣れないが、それでも挨拶を返してくれる人達が居るのは嬉しかった。

王宮に馴染んだと言う以前に、もう独りではないという事が実感出来て、レキは毎朝こうして挨拶をするのだ。


侍女達もまた、毎朝欠かさず挨拶してくれるレキに対し、非常に好意的である。


王女であるフランの命の恩人にして身分を超えた友人。

幼い頃に両親と住んでた村を失ったという悲しい過去を乗り越え、この世界でもっとも危険な森で独りたくましく生きてきた少年。

この世界では珍しい白色の髪と灰色の瞳。

母親譲りの整った顔に少々野性味が強いが健康的な体。

騎士団長ガレムを圧倒し、宮廷魔術士長フィルニイリスも及ばないほどの魔力を持つ少年。

性格は無邪気で礼儀正しく、フランの様な我が儘も言わず、むしろフランを諌める事すらある少年。

まだ慣れない王宮での暮らしに戸惑いつつも、それでも打ち解けようとこうして挨拶をしてくれる少年。


元気で可愛いとは言え少々落ち着きの無さが目立つフランや、そんなフランを溺愛するあまり周囲に迷惑をかける事もあるフランの兄アラン。

王宮に務める侍女達が日々接していた子供は主にこの二人だけ。

フランはまだ幼いが故に微笑ましく感じるところもあるが、その兄であるアランに関しては残念ながら微笑ましさなど皆無。

リーニャを筆頭にアランには非常に手を焼かされたらしく、それを知る他の侍女達もアランに対してはどうしても評価を落とさざるを得なかった。


そんなアランが学園へ行って数ヶ月、アランの代わりにとでも言うようにやってきたのがレキだ。

事前に聞かされていた情報、すなわちフランの命の恩人でありここまで送り届けてくれた少年、という内容から元々感謝の念はあったが、そこはやはり王宮に勤める侍女達。

何か裏があるのでは?と多少危惧もしていた。


蓋を開けてみれば、レキはそんな懸念を抱く必要など欠片も無い純粋な少年だった。


道中、常に共にいたリーニャや、レキ付きの侍女となったサリアミルニスを通じて教えられたレキの性格。

実際に接してみれば、なるほどフランが懐くはずである、と納得せざるを得なかった。


勉強にも意欲的で、剣や魔術の鍛錬も欠かさない真面目な少年。

剣の鍛錬に関しては、剣術なら王国でも五指に入るほどの腕を持つ、剣姫の異名を持つミリスが直接指南しているらしい。

ミリス以外の騎士達とも良く手合わせをしており、先日も騎士団長のガレムが懲りずに挑んでぶっ飛ばされていた。

魔術士達もレキを放っておかず、レキに魔術を教えつつ呪文無しで魔術を使用するコツをレキに教わったりしているようだ。


とにかくこの一月でレキはすっかり王宮に馴染んでいた。

侍女達もまた、そんなレキに非常に好意的に接していた。

具体的には。


「朝ごはん取りに来たっ」

「はい、こちらに用意してあります」

「ん~、今日は部屋で食べようかなって」

「こちらに、用意して、あります」

「・・・うん」


という風に、一緒に朝食を取るくらいには好意的だった。


ちなみに、お昼ご飯はフランと共に食べる場合が多く、晩ご飯はその日によって異なる。

騎士達に連れられて賑やかに食べたり、魔術士達に囲まれて魔術の話をしながら食べたり、時には国王ロラン=フォン=イオニアや王妃フィーリア=フォウ=イオニアに呼ばれて王族と共に食事をしたりである。

フラン達と出会ってからは、もう二度と独りの食事には戻りたくない等と思ったレキ。

最近は、たまには一人で静かに食べるのも良いかも・・・、などと思うようにもなっていた。

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