第88話:ある貴族のつぶやき
短いです
「そうか、フラン様は無事に戻ったか」
「はっ、フラン殿下及び従者の方々、皆無事に王宮に帰還されたとの事です」
フロイオニア王国の、とある貴族の家。
フィサス領へ向かった王女フラン=イオニアが、その帰路にて野盗の襲撃に遭い、逃げ延びた先の魔の森で命を落としかけた、という話はフランが無事に王都へ戻った後、貴族達に報じられた。
襲撃した野盗が健在である事を知らせる為でもあり、フランを救った小さな英雄レキの功績を広める為でもある。
平民であるレキを王宮に住まわせる理由、貴族達を納得させる為には必要な措置だった。
フランを救い、王都まで無事送り届けたレキはその後、フロイオニア国王を始めとした大勢の貴族達の前で王国最強の騎士である騎士団長ガレムを見事打ち破り、その功績が嘘ではない事を証明した。
その功績を讃えられ、レキは王宮に住む事を許されたのだ。
同時に、幼く身寄りのないレキを貴族社会の争いに巻き込まぬ様、国王自ら庇護下に入れてもいる。
「護衛の騎士はどうした?」
「はっ。
フラン殿下とはぐれた後、フィサス公爵家主導の下で捜索に当たっていたようですが、フラン殿下が無事王都に戻られた報を受け今は王都へ帰還する途中との事です」
「ふむ、そうか」
フランが野盗の襲撃から逃れられた理由の一つに、護衛の騎士達がその身を呈してフランを逃した事が上げられている。
護衛の騎士達は十名。
いずれも精鋭ぞろいで、事実その数倍にも及ぶ野盗の襲撃からフラン達が逃れるまでの時間を稼ぐ事に成功している。
しかも一人の死者も出さずに・・・。
「死んではならんのじゃ!」
逃れる際、フランがそう叫んだ。
「その命を忠実に守っただけです」
とは、王都に戻った騎士の台詞である。
「・・・」
「伯爵?」
何れにせよ、野盗の襲撃から逃れ、フランは魔の森から無事生きて戻った。
レキという存在があったとは言え、それはまさに奇跡的な出来事だろう。
「良い、下がれ」
「はっ」
「・・・」
「・・・そうか、姫は無事か」
王都からの報を知らせに来た従者を下がらせ、伯爵はその脳裏にフランの無事を思う。
フロイオニア王国に仕える貴族として、今回の出来事は決して無視できる話では無いだろう。
「・・・ふっ、まぁ良い」
だが、この伯爵にとっては別の意味で無視できる話では無かった。
「幸い数は揃った。
今回の襲撃で姫を攫う事が出来ればなお良かったが、焦ることはあるまい。
それに・・・」
野盗の襲撃。
それを指示したのは他でもないこの伯爵なのだから。
誰もいない執務室。
伯爵の呟きを聞く者はいなかった。




