第87話:また明日
「どうでした、レキ君は?」
「はい、聞いていた通り心根の真っ直ぐな御方でした」
一連のやり取りの最中、サリアミルニスはレキという少年を図っていた。
自分の立場を利用して傲慢に出るのであれば、サリアミルニスは侍女としてただ淡々と仕事をこなすつもりだった。
表面上は敬いながら、心の中で見下し、ただ言われた事のみをするつもりだった。
レキはそうではなかった。
侍女であるサリアミルニスに対し、何かあれば一生懸命言葉を尽くしてお願いをした。
立場も利用せず、主として命令もせず、それどころか「様」付けで呼ばれたくないなどと言って、頑張ってお願いをしてきたのだ。
元々王女であるフランを救った事に対し、恩義と共にある程度の敬意は抱いていた。
だがそれは、あくまでレキの打ち立てた功績に対してであり、レキ自身に対してではない。
騎士団長に勝利した事ですら、レキ自身ではなくレキの実力に対して敬意を抱くだけだった。
レキの境遇はある程度聞かされている。
生まれた村が野盗に滅ぼされた事。
両親を失い、たった一人魔の森で生き抜いてきた事。
確かにその境遇は悲惨といって良い。
だが、魔物の蔓延るこの世界では、村や街が滅ぶ事は少なからずあった。
レキの様に全てを失った子供も、いなくもない。
王都にある孤児院にもそういった境遇の子供は何人もいる。
レキの境遇に同情こそすれ、それが特別だとは思わず、哀れみからレキに優しくしようなどとは考えない。
感情で判断するなど、王宮に仕える者として決して行ってはならない行為だ。
だからこそ、サリアミルニスはレキの過去を自身の判断材料に入れなかった。
知るべきはレキという少年の心。
実際にレキと接し、言葉を交わした結果、サリアミルニスはレキを認めた。
レキという少年に敬意を抱き、誠心誠意仕えようと思ったのだ。
と、同時に。
サリアミルニスに言い負けするレキの危うさをも知ってしまった。
今後、レキの名は広まるだろう。
そんなレキを利用すべく、心無い者達が近づいてくる。
今のレキではそういった輩を排除するなど出来ず、いいように扱われるだけだ。
そうならない為、サリアミルニスは自分が出来る事でレキを助けようと思った。
自分ごときが出来る事など知れているが、それでもレキという純粋な少年を支えるくらいはできるはず。
いずれ誰もが認める英雄となる少年を、そうして支えていけたらとサリアミルニスは思う。
目の前で、今着ている服がなかなか脱げず四苦八苦している少年を、しっかりと導いてあげたいと。
晴れてレキ付きの侍女となったサリアミルニスは、最初の仕事にとりかかった。
――――――――――
「レキ様。
お着替えでしたら私がお手伝いいたします」
「い、いいよ。
自分で出来るから」
「と、言われましても、苦戦している様子ですが?」
「こ、これはその、ちょっと間違えただけで・・・」
「上手くやっていけそうですね」
サリアミルニスがレキを認め、そのまま仕事に取り掛かったのを確認した後、リーニャはそっと部屋を出た。
出来るなら自分がレキのお世話をしたいところだが、フランとレキ二人の世話をするのはさすがのリーニャでも難しかった。
二人が一緒にいる頻度は多いとは言え、かたや王族、かたや客人となれば、過ごす部屋も時間も異なるからだ。
一緒の部屋に住まわせられるのであれば可能だろうが、さすがにそうもいかない。
まだ子供とはいえ男女である。
口さがない者達がどんな噂を立てるやら・・・。
いや、リーニャ個人的にはそれならそれで構わないと思ってたりするが。
陛下の命令を受け、侍女の中でも優秀かつ一番若いサリアミルニスを当てたのはリーニャである。
魔の森で三年もの間孤独に過ごした少年レキ。
友人といえば、森で出会ったシルバーウルフの親子しかいなかった。
今でこそフランという人の友人が出来たが、常に一緒にいられるわけではない。
年の近いサリアミルニスなら、友人に近い関係になれるだろうと思ったのだ。
「純粋、と言えばそれまでですが・・・」
圧倒的な力。
それを振るうレキの精神は、純粋な子供のそれである。
まだ八歳の子供なのだから当然と言えば当然だが、肉体に対し精神が幼すぎるのだ。
通常なら、今も両親の庇護の下で自由に子供らしく生きていたはず。
それが許されない環境に強制的に落とされたレキは、ある意味歪な存在と言えた。
「フラン様といる時は大丈夫そうですが」
天真爛漫を絵に描いたようなフランは、レキを上手く振り回していた。
振り回されている間は、レキもただの子供だった。
ミリスやフィルニイリス、そしてリーニャ。
彼女達三人は、大人としてレキを正しく子供扱いした。
レキはまだ子供で、本来ならば同年代の子供達と一緒にそこらを駆け回っているはずの年齢だ。
だからこそ、年の近いサリアミルニスをレキに付け、もう少し普通の子供らしさを持って欲しい、そう思う。
王はレキに王宮で知識を学べと言った。
だが、レキが本当に学ぶべき事は、きっと本などでは得られない何かなのだろう。
リーニャはそう考えている。
人と接する事に飢えているレキにとって、傍付きとは言え年の近いサリアミルニスと一緒に過ごすのは良い経験となるだろう。
あわよくば姉弟のような関係を築ければ、とも思う。
まあ、違う関係になっても問題は無いが。
三年もの間孤独に過ごしていたレキにとって、これからの生活が楽しいものになればとリーニャは心から願った。
――――――――――
「失礼します」
レキとサリアミルニスの温かな交流を見届けたリーニャが、再び食事の間へと戻った。
今度は自身の主であるフランを部屋へと連れて行く為である。
「おまたせいたしましたフラン様。
お部屋に戻りましょう」
「うにゃ~・・・」
満腹感と疲労感(主に話し疲れ)、加えて時間も時間である。
レキほど体力のないフランは、夢の世界へ旅立つ寸前だった。
「フラン様、眠るのはお部屋に戻ってからにしましょう」
「にゃ~・・・レキは~?」
「レキ君は本日は客間にお通ししました」
「わらわも~・・・」
「駄目です」
「うにゃ~・・・」
道中は常にレキと一緒に眠っていたフランだが、流石に王宮ではそれも難しかった。
事前に説明しているが、眠すぎて忘れているらしい。
「あらあら、でしたら今日は私と寝ましょうね?」
「うにゃ~・・・」
「ではフィーリア様のお部屋にお連れいたします」
「よろしくねリーニャ」
「はい」
そうしてフランをフィーリアの部屋へと連れて行ったリーニャが、三度食事の間に戻る。
今度はレキの様子を報告する為だ。
「レキ殿はどうだ?」
「問題はありません。
サリアミルニスとも上手くやっていけるかと思います」
「そうか」
リーニャが、主であるフランより先にレキを案内したのには理由がある。
今日の一連の出来事に対し、レキがどう感じていたかを見極める為だ。
人の心の機微を見抜く事に関して、リーニャは他の誰よりも優れていた。
「他に気になった事はないか?」
「今のところは特に。
いきなり王宮に連れてこられて多少は戸惑っていましたが、それもすぐに落ち着いたようです」
「レキは順応性が高い。
王宮でも上手くやっていける」
フィルニイリスのお墨付きを貰ったレキ。
もっとも、普通の人が住む事の適わない魔の森で三年もの間生きてきたのだ。
少しくらい環境が変わったところで、戸惑いこそあれど問題は無いだろう。
食事も用意され、狩りをする必要もない。
普通の、とは言えないかも知れないが、子供らしい生活をこれから送る事ができるはずだ。
「もう少しレキ君とお話したかったのに」
前半は食事に夢中で、後半はフランの独壇場となった今回の食事会。
レキと会話をする為誘ったフィーリアとしては、少々不満の残る結果で終わった。
「空腹というのもあったのだしな。
食事に満足して貰っただけ良しとせねばなるまい。
焦らずとも、またいつでも誘えば良いではないか」
「・・・そうね。
また誘えば良いわよね」
とはいえ、本日からレキも王宮に住む。
誘う機会はいくらでもある。
正直に言えば、本日はレキを振り回しすぎたとロランも反省気味だった。
そんなロランの言葉にフィーリアも気を持ち直した。
「姫の恩人だからと言ってあまり特別扱いしないほうが良い」
そんな二人にフィルニイリスが釘を刺す。
「アルが言っていたように、レキの素性はまだ広まっていない。
姫の恩人である事、ガレムより強い事と、まだ子供であるという事。
その力を正しい物にするため、王家の庇護下に入れたという事」
「うむ、そうだな」
「功績はあれど立場は無いに等しい。
そんなレキが恩人という理由だけで王族と食事を共にするのは良くない」
現段階でのレキの状況をフィルニイリスが端的に説明した。
本来、王族と食事を共にすると言うのはそれだけで非常に名誉な事だ。
招かれる者はそれだけで特別視される。
よほどの事が無ければ王族と食事を共にする事は無く、親しい者ですら稀なのだ。
今回レキを招いたのは、第一にフランの恩人であるという事。
次に、先の御前試合で圧倒的な力を見せつけたことに対する褒賞という側面。
最後に、皆の前で宣言した通りレキを庇護下に置いているという事実を証明する為。
それらを理由にレキを王族の食事に招いたとすれば、周囲は一先ず納得するだろう。
だが、それが通用するのはおそらく今回のみ。
恩人なら恩賞を与えれば良く、御前試合の褒賞なら一度で十分だ。
「レキ君が王宮の暮らしに慣れてきた頃に、様子を伺うという名目で招くのならどう?」
唯一、庇護下に入れたという理由なら、様子を伺うという名目で招く事は叶う。
だがそれも、頻繁に招けば余計な反発を生む事になる。
あるいは王族に親しいレキを利用しようとすり寄ってくる者が出てくるだろう。
「恩人であれば一度の恩賞、友人であれば機会を見て、庇護下の者なら定期的に」
「レキ殿はその全てに当てはまるのだがな」
「問題は周囲が納得する理由。
レキ自身を余計な策謀から守るには、適度な距離を保つ必要がある」
いくら王家の庇護下にいるとは言え、全てから守りきるのは不可能である。
王族だからこそ貴族間のバランスを取る必要があり、一人を贔屓するわけにはいかないのだ。
「フラン様のご友人としてであれば、夕食は無理でもお茶会に招くことは可能かと」
「あら、じゃあその時に私も参加すれば良いわね」
お茶会ならばあるいは・・・とリーニャが提案するが、コレもまた注意が必要である。
王女と同年代の子供を持つ貴族が王女に近づこうとお茶会を開いて招く事もあれば、王族主催のお茶会に参加すべくあの手この手で近づいてくる者もいる。
そんなお茶会にレキが参加するとなれば話題性は十分。
王女の恩人にして騎士団長を打ち倒すほどの強者に近づこうと、いかなる手段を用いてでも参加しようと画策する者が現れるだろう。
一度でも参加すれば、次は今回のお礼と称してレキに招待状を送ってくる。
何せレキには地位も立場もないのだ。
友人として招く事に問題はなく、むしろ貴族のお茶会にただの平民であるレキが呼ばれたなら、それは光栄な話にすらなり得る。
レキが望むと望まないと関係なく、だ。
その程度の事はフィーリア達も理解している。
リーニャが提案したお茶会は、言うなればフランの日常の合間の小休止の事。
今後座学や鍛錬を共にするであろうレキならば、休憩を共にする事もある。
その際、娘の様子を伺うという理由でフィーリアも参加すれば良い。
出来るならこんな周囲を気にするような真似はせず、もっと堂々とお茶会なり食事なりに呼びたいとは思う。
せめて、フランとレキだけでも普通の子供として接する事が叶うならと、リーニャだけでなくフィーリアも思っているのだ。
「レキが護衛として認められればあるいは」
「実力で黙らせる事は可能だろうな」
レキが護衛としての任務をまっとうにこなせるようになれば、フランと四六時中一緒にいても何も問題は無い。
子供であるという事すら、この際有利に働くだろう。
レキの護衛に不満があれば、実力で黙らせろと言えば良い。
レキ以上の実力者など、世界中どこを探してもおそらくは見つからないのだから。
「問題はフランかしらね」
本日のように、夕食をレキと共にするのは当分控える必要がある。
庇護下に入れた子供の様子を伺うという理由でも、月一がせいぜいといったところか。
それも周囲の目を考えれば仕方ない事だが、唯一納得しそうにないのがフランである。
なにせ、フランはレキを友人として対等に見ている。
互いの立場など気にせず、ただの少年として、大切な友人として接しているのだ。
これまでの道中であれば問題にはならなかったが、王宮に帰ってきた以上はそうもいかず、いくらフランが気にせずとも周囲が気にし、フランが良しとしても周囲は良しとしない。
フランが王族という貴族の頂点に位置する以上、どうにもならない問題だった。
「座学はそのうちに、剣や魔術の鍛錬ならば一緒にいることが可能。
今はそれで我慢」
「ですね」
フィルニイリスの提案もその場しのぎにすぎない。
フランはおそらく、これまでのように四六時中共にいたいと願うから。
就寝時すらレキの部屋へ行こうとしたくらいなのだ。
「レキが護衛として認められれば共にいられるようになる。
それまでは我慢してもらうしかない」
今、レキと共にいられないのは共にいる理由がないから。
レキが護衛として周囲に認められれば、共にいる名目が出来る。
そうすれば、流石に就寝時は無理でも、それ以外の時間なら行動を共にする事は可能だろう。
それまでは我慢してもらうしかないのが現状であった。
「フランだって仮にも王族なのだから、言えば分かるわよ。
ああ見えてあの子は誰かを困らせるような我が儘は言わないから」
「はい」
不満はあるだろうし、それを思いっきり口に出すだろうが、それでも聞き分けは良い。
レキが困る、そう言えば間違いなく聞いてくれるだろう。
フランはそういう娘なのだ。
「とりあえず今後のレキ殿の扱いはこんなところか?」
「はい、一先ずは」
「うむ、ならば本日はこの辺にしておこう。
道中の街や村の様子なども聞きたがったのだがな」
「ふふっ、フランはレキ君のことばかりでしたからね」
「まったくだ」
レキを招いた晩餐。
旅の思い出を存分に聞かせて貰おうと設けた場だった。
主賓のレキと、語り部たるフランが退席した以上、いつまでもこの場に留まっていても仕方ない。
聞きたい事は山ほどあるが、改めて機会を設けるしかない。
「詳細は後日。
ミリスと協力して報告する」
「私も協力いたします」
「お願い」
フィルニイリス達も了承し、この場は解散となった。
明日からはいよいよレキの王宮生活が始まる。
リーニャはともかく、フィルニイリスなどは内心楽しみで仕方なかった。
レキの魔力や魔術、何よりレキ自身非常に興味深い存在である。
宮廷魔術士の長としても、魔術研究家としても、フィルニイリス一個人としても、レキという少年に強く惹かれている。
執着していると言っても良い。
レキに座学を教え、魔術の鍛錬を施す傍らで、自身もまたレキからいろいろ学ぶ。
その為にはまず、溜まっている仕事を片付ける必要があるだろう。
魔の森の小屋から持ち帰った書物も読まねばならない。
現時点で分かっている事、魔の森や小屋の結界、そしてレキ。
まとめる事は山ほどあり、知りたい事はそれ以上にある。
明日からの事を頭に思い浮かべながら、フィルニイリスは内心うきうきしていた。
――――――――――
食事の間でレキの今後について話し合いが行われていた頃。
「はぁ~・・・疲れた~」
レキは一人、ベッドに横になっていた。
侍女のサリアミルニスに手伝われ、用意された寝間着に着替えた。
どうにか一人で着替えようと頑張っては見たものの、謁見用に用意された服は無駄に豪華で実に着替え辛く、下手をすれば破ってしまいそうだった。
見るからに高そうで格好もいい服を破ってしまうのは申し訳なく、もったいないとも思ったのでおとなしく手伝ってもらったのだ。
「あれ絶対一人じゃ着替えられないよなぁ・・・」
だから仕方ない、などと言い訳じみた事を呟くレキである。
実際、ああいった儀礼用の服というのは構造が複雑であり、基本的には侍女等が手伝うのが当たり前だったりする。
着た時はリーニャが手伝って、というかほとんどリーニャに着せてもらったのだが、その手際が良すぎた為に自分で脱げると思ってしまったのがそもそもの間違いだろう。
魔の森にいた時は当然、村にいた時ですら着た事のないような服。
レキ久しぶりの敗北である。
それはともかくとして、レキの呟きを聞く者は今はいない。
レキは今、魔の森を出てから初めて一人になっていた。
魔の森にいた頃、日中はウォルン達と共にたレキだが、夜は基本一人で過ごしていた。
ウォルン達は基本的に小屋の外で過ごす為、小屋で過ごすレキは必然的に一人になるのだ。
魔の森にいた頃はそれが当たり前で、日中は一人ではないだけでも良かった。
フラン達と出会ってからは日中どころか夜も一緒に過ごすようになり、気が付けば一人でいる時間が無くなっていた。
普通なら寝る時くらいは一人になるものだが、道中はそんな事も無かった。
出会ったその日の夜、寂しさのあまりフラン達と一緒に寝て良いかとお願いしたのはレキであり、それ以降は常に共にいるのが当たり前となっていた。
だからだろう。
先程から妙に静かで落ち着かないのは。
ここはお城で、フラン達の家で、先程までそのフラン達と楽しく食事をしていて・・・でも今は誰もいない。
フランも、リーニャも、ミリスも、フィルニイリスも、誰もいない。
さっきまで一緒にいたサリアミルニスも、着替えが済んだら部屋を出ていってしまった。
「何かありましたら、先程のように鈴を鳴らして下さい」
と言っていたので、鳴らせば来てくれるのだろう。
だが、何も無いのに呼ぶのは何となく申し訳なかった。
サリアミルニスは先程紹介されたばかりの人だ。
レキ付きの侍女だと言われたが、やはり自分専属の侍女というのは受け入れがたいというか、自分が意味も無く偉くなったようで抵抗があった。
今日の服は脱ぎ辛かったので手伝ってもらったが、明日からはあんな立派な服は着ないという話で、それなら一人でも着替えられるはず。
もちろん着替え以外も出来る事は極力一人でやるつもりだ。
とは言え、お城での生活などした事などレキは無い。
出来る事以前に、何をすれば良いかさっぱり分かっていなかった。
食事は王宮の料理人が行い、食堂ないし部屋で食べるらしい。
着替えは朝起きた時には用意してくれるというし、お願いすれば着替えの手伝いもしてくれる。
その他必要な物はサリアミルニスに言えば用意してくれるらしく、必要な事は説明もしてくれるそうだ。
そこまで頼るつもりは無いが、そもそも何をしてよいか分からない以上最初はサリアミルニスに聞かねばダメだろう。
なお、レキが王宮でやる事など勉強以外には特にない。
国王の庇護下にいる客人という立場のレキに、仕事をさせるなどまずありえない。
剣や魔術の鍛錬も別段やらなければならない事ではなく、そもそも現時点でこの世界の誰よりも強いレキが今更鍛える必要などどこにもない。
騎士団との鍛錬も、フィルニイリスによる魔術の指導も、結局はレキが望むならというだけの話なのだ。
つまり、王宮でレキがやるべき事など何もなく、強いて言えば王宮でおとなしく過ごす事くらいである。
サリアミルニスが付いたのも、何もわからないレキを適時補佐する為。
トイレの場所すら知らないレキを補佐すべく、今もすぐ隣の部屋で待機中だ。
そうとは知らないレキは、寂しいからという理由で鈴を鳴らすのは迷惑だろうと我慢する。
そう、レキは寂しかったのだ。
魔の森で過ごしていた頃には感じなくなっていた感情だった。
もちろん全く感じなかったわけではない。
特に両親を亡くしてすぐの頃は、寂しさや悲しさなどで、よく一人で泣いていたものだ。
ウォルン達と出会って、共に狩りをし、共に食事を取るようになってからは少しだけ感じなくなり、フラン達と出会ってからはむしろ賑やか過ぎて感じる暇も無かった。
数日ぶりに一人になったレキは、隣に誰もいないという事を実感し、寂しいという感情を思い出していた。
「・・・静かだなぁ」
いつも賑やかなフランがいない。
いろんな事を教えてくれるフィルニイリスがいない。
自分達を先導してくれるミリスがいない。
いろいろと世話を焼いてくれるリーニャがいない。
ほんの一月ほど前までは当たり前だった、一人でいるという状況。
誰もいないという事がこんなに寂しいものだという事を、レキは改めて感じていた。
「楽しかったなぁ・・・」
思い出すのは先ほどの食事。
フランがいて、リーニャがいて、フィルニイリスがいて、ミリスがいなかったのは残念だがその代わり(?)にフランの父親と母親がいて。
美味しい食事をお腹いっぱい食べて、フランと一緒に旅の思い出を語って、そして。
「また、明日」
そういって別れて、そして・・・。
レキの両親とは守れなかった、また明日という約束。
その約束は、今度は叶うだろう。
フランと、リーニャと、ミリスと、フィルニイリスと。
フランのお父さんとお母さんと、団長のおじさんと宰相さんと。
サリアミルニスと、それから・・・。
森で、お城で出会ったたくさんの人の顔を思い描きながら、いつの間にかレキは眠っていた。
また明日、みんなと会う為に。
――――――――――
魔の森でフラン達と出会ってから約一月。
レキ達は目的地であるフロイオニの王都にたどり着いた。
これからもフラン達と共に居る為、騎士団長との模擬戦に勝利しレキは自分の居場所を得た。
三年前、全てを失った少年レキの、新たなる生活が始まろうとしていた。
本日は12:00にもう一話、短いですが投稿します。




