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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第84話:賑やかな団欒

「・・・ふぅ~、お腹いっぱい。

 ごちそうさまでした」

「む~」


腹ペコだったレキの胃袋がようやく満たされ、食事は談笑の時間へと移行する。

「よほどお腹が空いていたのだな」と思うロランやフィーリアだが、元々の食欲を知っているリーニャ達は「相変わらずですね」と納得するだけだった。

なお、最初こそ食事のペースで負けた事に不満げだったフランは、途中から自分を無視して食べ続ける事に対しての不満へと変わっている。

もちろんそんな事にレキが気付くはずもなく、幸せそうに膨らんだお腹を擦っていた。


「はっはっはっ、どうやら満足いただけたようだな」

「うんっ!」


ロランの声にレキが元気よく応える。

国王に対していささか不敬ではあるが、この場にレキの無礼を咎める者はいない。

ロランにしても、レキは娘の友人にしてフロイオニア王国の恩人。

むしろ年相応に子供らしいレキを微笑ましく感じていた。


「作法など知らないのだから気にしなくて良い」

「そうだな、おいおい学んでいけば良いぞ」

「そうそう。

 子供は子供らしく、元気に食べてくれればそれで良いのよ」


この場は無礼講、問題があるなら後日教えればよい。

何より恩人たるレキの持て成しの場でもあるのだ。

主役のレキが不満に感じるようでは、招いた側であるロラン達の失態である。


「料理は口にあったかな?」

「聞くまでもないと思う」


礼儀はさておき、食事中は出来なかったレキとの会話をロランが試みる。

一応この場はレキと会話をする為に設けたようなもので、食事はその潤滑油のつもりだったのだ。


「とっても美味しかったっ!」

「そうかそうか。

 うむ、料理長もさぞ喜ぶだろう」


笑顔で食事の感想を述べるレキに、ロランが笑顔を見せた。

これが貴族であれば、今食べた食事について長々と語ったに違いない。

王家の用意した食事を褒める事で王家を持ち上げるのだ。

もちろんレキにそんな事を期待していないし、期待されたとてレキが語れるはずもない。

「美味しい」「普通」「不味い」しか食事の感想が無いのだ。


「ふふっ、それにしても凄い食欲ね。

 フランと違ってちゃんと野菜も食べるし、レキ君は偉いのね」

「・・・へへ~」

「むぅ~・・・」


フィーリアの言葉に照れるレキと頬を膨らませるフラン。

分かりやすい二人に、フィーリアならずとも笑顔を浮かべた。


「本当に二人は仲良しなのね」

「うむ。

 わらわとレキは友達じゃ」

「あらあら」


からかい半分でそんな事を言えば、不機嫌な様子を一転、フランが笑顔で答えた。

レキに対して不満を感じていても、友人である事は否定しない。

むしろ胸を張って自慢できるほどだ。

そういう真っ直ぐなところがフランの良い所だと、フィーリアならずとも思っただろう。


そこからは、機嫌を直したフランの独壇場となった。


道中の食べ物の話題に始まり、食事の店から武具の店、宿屋の話に馬車での移動の話など、繋がっているようで実際はそうでもない会話の流れだったが、フィルニイリスやレキを巻き込んでの冒険譚は大いに盛り上がった。

最初こそ自分の見聞きした事を中心に話していたフランは、何時の間にやらレキの凄さについて熱く語るようになっていた。

カランの村のゴブリン騒動からエラスやトゥセコの街での騒ぎ、さらには道中のレキの狩りについてと、フランの話はとどまる事を知らない。

その横ではレキが若干照れてはいたものの、友人であるフランの語りを少しだけ嬉し気に、少しばかり自慢げな様子も見せていた。


「ユミに魔術を教える時だって、レキはえいっ!って」

「え~、あの時はちゃんと呪文言ったよ?」

「言えてなかった。

 むしろ途中で諦めてた」

「え~」

「ふふっ」


時折フィルニイリスから訂正が入りつつも語られる一月余りの冒険譚。


そんなフラン達の冒険を、ロランとフィーリアが笑顔で聞く。

ロランは聞きながら道中で起きた事を把握すべく頭を働かせ、フィーリアは道中の様々な困難を乗り越えたフランの成長と、そんなフランを救ってくれたレキに改めて感謝を抱く。


「レキだって魔術と身体強化の違いを知らんかったではないか」

「どっちも魔力使うし」

「呪文は言わないのじゃ」

「オレどっちも言わないよ?」

「それはレキだけ。

 大丈夫、明日からはみっちりと教える」

「え~」

「ふふん、ザマミロなのじゃ!」

「大丈夫、姫も一緒だから」

「にゃ!」


国王と王妃の目の前で繰り広げられる、この一月の間毎日のように行われていたやり取り。

レキはフランが王族と知っても態度を改める事は無く、ごく普通に友人として接している。

それが、二人にはとてもありがたかった。


元々人懐っこい性格をしているフランは、身分をひけらかすような真似を決してしない。

まだ子供というのもあるが、リーニャやフィルニイリスの教育が良かったのだろう。

少々奔放すぎる気もするが、決して不快ではなく、平民であるレキに恩人として正しく感謝しているようだ。


今は恩人より友人という方が強いようだが、それはむしろレキの方に理由がある。

レキがフランを救った事に対し、恩を着せるような真似をしなかったからだ。

それどころか、自分を王宮に連れてきてくれた事に対し、感謝しているようにも見える。

「魔の森で一人で生きてきた自分を連れ出してくれた」とでも思っているのだろうか。

間違いではないが、それもこれもレキに対する恩返しなのだから面白い話である。


つまり、レキとフランは互いに恩を感じ、だからこそ身分の差も無く友人として接していられるのだ。

それがいつまでも続くかは分からないが。


今後成長したフランと、王宮で知識を得たレキが、身分差を理解した後にどちらかが離れていく可能性もある。

フランが王族でレキがただの平民である以上、どうしても付きまとう問題だ。

だからこそ今のうちから正しく友誼を重ねていけば、あるいは将来においてもこのまま対等の存在でいられるかも知れない。

身分はともかく、精神的には対等の友人でいられるはずだ。


あるいは、フランは王族として、レキはその横に立つ英雄として、支え合う存在になれる可能性もある。

フラン達の掛け合いを見ながら、ロラン達はそんな事を考えていた。

そして、フィーリアは支え合う存在ではなく想い合う存在になれば良いと考えていた。


「フランだってあんまり魔術使えないじゃん」

「ふふん、わらわはまだ勉強中じゃ」

「自慢するような事ではない」

「明日から頑張るのじゃ」


「ほう、それは良いことを聞いた」

「にゃ!

 父上?」

「明日から頑張る、そう言ったな?」

「にゃ・・・それはその」

「言ったな?」

「にゃ~・・・うむ」


フランとレキの将来について考えつつも、タイミングを逃さずフランの言質を取るロラン。

自分で言った事を撤回するような真似をフランはしない。

ごまかすような事も無く(素振りは見せたが)素直に認めた。


今まで奔放に育てすぎたが故に、ロランは勉強中たまに抜け出すような真似をしているとリーニャから報告を受けていたのだ。

あと二年もすれば学園に行く娘に対し、どうにも不安が残っていたのである。

フランが思わず発した言葉をすかさず拾う辺りは流石であった。


「ふふっ、明日からはレキ君も一緒なのでしょ?

 むしろ頑張らないとレキ君に追い越されてしまうわよ?」

「にゃ!

 それはダメじゃ」

「あらっ?

 魔術も剣もレキ君に勝てないのではなくて?」

「うにゃ!?

 で、でも勉強なら勝てるのじゃ」

「今はまだ、でしょうけどね」

「これからも大丈夫じゃ」


フィーリアに発破をかけられ、フランが奮起する。

剣術は今まで生きてきた環境が違いすぎた。

魔術は、知識だけならフランが上だが、保有する魔力量に絶望的なまでの差がある。

その魔力を強引に活かした無詠唱魔術は、少なくとも今のフランには不可能な技術だ。


勉強だけは今のところフランが大いにリードしているはず。

平民であるレキは読み書きすら習った事が無く、魔の森に移り住んでからは他者との交流すらない。

勉強どころではなかったのだ。


「俺も頑張る」

「ん?

 どうしたレキ殿?」


だからだろうか、レキは勉強に意欲を見せた。

読み書きが出来なければ冒険者ギルドで依頼書が読めないのだ。

将来の為に、レキも頑張るつもりである。


「そう、レキ君は冒険者になりたいの」

「うん!

 父さんと母さんも冒険者だったから、俺もなりたい」

「そうか、では読み書きだけではなくこの国の地理や文化も習うといい。

 冒険者として国中を渡り歩くとききっと役に立つだろう」

「うん!」


正直に言えば、このままレキを召し抱えたいと考えている。

フィーリアとて、出来ればレキにはずっとフランの傍にいて欲しいと思っているのだが、レキはあくまで平民の子供。

どれだけ功績があろうとも、一足飛びに国に仕えさせるわけにはいかない。

何より、現段階では王宮に仕える年齢に達していないのだ。


恩人としてロランの庇護下に入れても、それでレキの将来を縛るような真似をするわけにはいかない。

多数の貴族がレキを抱え込もうとするのを阻止する為、ロラン自ら半ば強引に庇護下に入れたのだ。

そのロランがそのままレキを召し抱えてしまえば、貴族達の反感を買うのは必然だろう。


だからこそ、ロランはレキの将来について口を出せないでいる。


「レキは魔物の知識も偏ってる。

 植物の知識もあった方が良い。

 レキ自身には必要なくとも、きっと役に立つ」

「うん」


レキ自身に必要ないのはおそらく毒草の類だろう。

竜をも殺す毒草を平然と食べるレキに今更どんな毒が効くのか、という話である。

ただ、冒険者の依頼の中には薬草や毒草の採取というものは多く、植物の知識はあらゆる面で役に立つに違いない。


「魔の森の魔物なら大体分かるよ?」

「魔の森は独特の生態系を構築している。

 あの森が一般的とは思わない方が良い」


レキの知識は魔の森で完結してしまっている。

それこそ、一般的なゴブリンの強さも知らないのだ。


レキの一振りで百を超えるゴブリンが倒れたが、そんなゴブリンも平民にとっては十分脅威である。

ましてや魔の森のゴブリンなど、一流の冒険者ですら危険なのだ。

騎士団でも有数の実力者であるミリスと、宮廷魔術士長であるフィルニイリスのコンビですら苦戦したくらいなのだから。


「フランも頑張らんとな。

 でないとリーニャの言うとおりあっという間に抜かされてしまうぞ?」

「にゃ~、わかったのじゃ。

 ちゃんと頑張るのじゃ」

「うむ、それで良い」


勉強に意欲を見せたレキにロランが感心したように頷き、そしてフランを煽る。

フランも、レキに置いてかれないよう頑張るようだ。

そんなフランを見て、ロランも満足げである。


「それとレキ殿。

 我が娘をよろしく頼む」

「へっ?

 うん」

「うむ」


レキに対し、何やら約束を取り付けたロラン。

何を頼まれたのか良く分からないが、フランの事だからとレキはとりあえず頷いた。

言質を取った形のロランは先程以上にしっかりと頷き、フィーリアが満面の笑みを浮かべていた。

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