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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第82話:レキのこれからについて

「レキっ!

 凄かったぞっ!」

「へへ~、ありがと」


謁見の間を出たレキがリーニャに連れられ向かった先、そこには先程の試合を見て興奮気味のフランが待ちかまえていた。

部屋に入ったレキに抱きつき、凄い凄いと大はしゃぎである。


「流石レキじゃ!

 ガレムなど敵ではないのじゃなっ!」

「騎士団長のおじさんも強かったよ?」

「レキ君が言っても説得力がありませんね」


身体強化無しの状態で強化したガレムと互角、身体強化をした後はただの一撃でガレムを下したレキである。

リーニャの言う事はもっともだ。


「やはりレキの「えいっ!」は凄かったのじゃ!

 のう、母上?」

「えっ?」


部屋にはフランの他に、もう一人女性がいた。


「流石はフランの恩人ね。

 フランが懐くのも当然かしら?」


フランの後ろ、豪華なソファーに座る人物。

それは。


「初めまして、かしらね?

 フィーリア=フォウ=イオニア。

 フランの母親よ」


フランの母親にしてこの国の王妃、フィーリア=フォウ=イオニアである。


「えっと、レキですっ!」

「ええ、フランから良く聞いてます。

 ・・・フランを助けてくれて本当にありがとう、レキ君。

 夫共々心から感謝しているのよ」

「うん」


挨拶もそこそこに礼を言われたレキは、フランに抱きつかれたまま元気よく返事をした。

レキを見るフィーリアの目はとても温かく、感謝に満ちていた。


目の前の光景。

娘のフランが元気にはしゃぎ、恩人たる少年と楽しげに会話をする姿に、フィーリアは改めて感謝していた。

つい先日まで、彼女はフランの悲報を聞いてベッドに臥せていたのだ。


自分の目の前で楽しそうにはしゃぐフラン。

一時は諦めていた光景をもたらしてくれたのは、そんなフランが抱き着いている少年である。

絶望から起き上がれずにいたフィーリア。

下手をすればそのまま衰弱し命を落としたかも知れない。

そう考えれば、レキはフランはおろかフィーリアの命をも救った事になるのだろう。

少なくともフィーリアを絶望から救ったのは間違いない。


レキがいるのは王妃の間、つまりフィーリアの私室である。

体調が万全ではないフィーリアは、先程の試合の後自室に戻っていた。

試合の見学も正直厳しかったのだが、フランに誘われた事、そのフランと少しでも長く居たかった事、恩人であるレキの試合を見てみたかった事。

他にも政治的な意味合いなど、様々な理由により少々無理をしていたのだ。


母親であるフィーリアと一緒に居たいのはフランも同じ。

勝利したレキに逢いに行きたいのをこらえ、母親と共に居ることを選んだのだ。

もちろんレキを連れてくるようにと伝言した上で。

本来なら娘の恩人であろうと王妃の私室になどそうそう入れる者ではないが、それに関してはフィーリアも快諾している。


因みに、政治的な思惑と言うのはフランが行方不明である事が直前まで伏せられていた為、王妃が伏している事も同時に極秘だったというものだ。


「レキの「えいっ!」はもっと凄いのじゃぞ?

 何せゴブリンの大群を一撃で倒したのじゃからなっ!

 のうレキ?」

「えっとて、あれは魔術でリル・・・なんだっけ?」

「レキ君、リム・スラッシュですよ」

「そう、それ!」

「ふふっ」


御前試合の前にもさんざん聞かされた話ではあるが、先ほどの試合の興奮もあるのだろう、本人を前にフランのはしゃぎっぷりは止まる事を知らない。

レキはレキで、そんなフランと一緒に王都までの間に起きた様々な事柄を一生懸命フィーリアに話してくれている。

フランが身振り手振り付きで大雑把に語り、ところどころでレキが補足を入れる。

更にはそんなレキの説明に、先ほどからリーニャが随時訂正を入れる。

そんな楽しげなやり取りをフィーリアは笑顔で聞いていた。


先日までまともに眠れず、体調も崩していたフィーリアである。

フランの顔を見て気を持ち直したとはいえ、体調は万全ではない。


それでもフィーリア自身がレキに直接礼を述べたいと申し出た為、リーニャが案内をしたのだ。


「それで・・・ん?

 そう言えばレキはどこへ行っておったのじゃ?」

「えっとね」


レキの武勇伝をひたすら語り終えたところで、フランがそんな事を尋ねた。


「レキ君はあの後陛下にお会いしておりました。

 レキ君の今後についてもその際説明を受けています」

「おおっ!

 レキのこれからか!

 して、どうなったのじゃ?」


試合が終わってから、と言うより王宮に来てからずっと、レキはたらい回しにされていた。

有無を言わさず試合をさせられ、終わったと思ったら今度は国王との謁見。

どちらも事前の説明無しにだ。

本来なら不満の一つも出るだろう。

もっとも、通常の平民なら緊張で不満など抱く余裕も無いだろうし、レキはそもそも不満を抱けるほど現状を理解できていない。


聞かれても良く分かっていないレキに変わり、リーニャが謁見の間での話を端的に説明した。

レキをフランの護衛に任命しつつ王宮に住まわせる、父であり国王であるロランがそう皆の前で宣言したとは言え、詳細は聞かされていないのだ。

王宮に住むからと言って一緒にいられるとは限らず、護衛と言っても王宮内にいる間は必要ないと遠ざけられる可能性も十分にあった。


それが分かっているのか、無意識にレキに抱き着くフラン。

お気に入りのおもちゃを取られないよう全身で抗議する子供のそれである。


「ふふっ、落ち着きなさいフラン。

 それじゃレキ君も話しづらいでしょう」

「にゃ?

 あ、すまぬレキ」

「なんかフィルみたい」

「私が何?」


抱き着いてくるところがまるでフィルニイリスのようだ。

そんなレキの呟きを拾ったのは、他ならぬフィルニイリス本人だった。


「あっ、フィルだ」

「うん」


先程謁見の間で別れたはずのフィルニイリス。

彼女が王妃の間に現れた理由は。


「暇だから来た」

「へっ?」


だった。


「うそ。

 今後のレキの扱いに付いて現段階で決まったことを説明しに来た」


もちろんただ暇つぶしに来たわけではない。

宮廷魔術士長であるフィルニイリスの仕事は多い。

レキの今後についての説明も、どうやら仕事の一つらしい。

説明する相手はフランと王妃である。


「おおっ!

 良いタイミングじゃ!

 して、レキはどうなるのじゃ!?」

「レキは今後魔術士団で「フィルニイリス様?」・・・基本的には騎士団の下で護衛としての心構えを学びつつ望むなら剣術の鍛錬もしてもらう。

 もちろん勉強も」

「にゃ?」


騎士団の下で、というのが気に入らないらしいフィルニイリスだが、護衛に関してはやはり騎士団の方が一日の長があるらしく、おとなしく引き下がった。

リーニャによって訂正させられつつ、決定した内容をフィルニイリスが語る。


「レキが鍛錬?

 何故じゃ?」

「いえ、いくらレキ君でも日々の鍛錬を疎かにしては、剣術もなまってしまいますよ?」

「レキの剣は対魔物に特化している。

 護衛に必要なのは対人の剣。

 それも相手を倒すのではなく対象を守る剣。

 レキにはそれが欠けている」

「そうかのう?」


フランが疑問に思うのはもっともだった。

何せレキは、先の試合でガレムを圧倒したのだ。

それも身体強化なしの純粋な剣技のみで。

そんなレキに今更鍛錬など必要なのだろうかと、フランでなくとも疑問に思っただろう。


「オレやりたい!」

「むぅ」


それでも当のレキがやりたいという以上何も言えなかった。

ちなみに唸ったのはフランではなくフィルニイリスである。


「レキは魔術は好き?」

「ん?

 好きだよ?」

「ならいい」

「?」

「ふふっ」


宮廷魔術士長であるフィルニイリスとしては、騎士団にレキを取られたようで面白くないのだ。

レキが率先して剣の鍛錬をしたいなどと言うのだから余計である。


そんなフィルニイリスにフィーリアが微笑む。


王妃の間で、体調がよろしくないが故にソファーに座る王妃の前で繰り広げられる微笑ましいやり取り。

本来なら許されない事だろうが、咎める者は誰もおらず、フィーリア自身楽しんでいた。


「レキ君はお勉強も頑張らなきゃダメですよ?」

「・・・うん」

「陛下とも約束しましたしね。

 護衛とお勉強、どちらも頑張ると」

「う~・・・うん」

「はいよろしい」


試合はフィーリアも見ていた。

実力に関しては問題が無い。

実力だけでは護衛は務まらない事はフィーリアも知っているが、それは少しずつ学んでいけばいいだろう。


勉強は、確かにあまり得意ではなさそうだ。

リーニャがあえて釘を刺したくらいなのだから、きっと苦手なのだろう。


フランも苦手ですしね。

そんな所もお似合いな二人に、フィーリアが笑みを浮かべる。


「そうだわ。

 どうせなら剣の鍛錬も魔術の鍛錬も、ついでにお勉強もフランと一緒にやればいいじゃない。

 そうすれば護衛も兼ねることになるでしょ?」

「ん?」

「おぉ!」

「ふむ」

「まぁ」


パンッと手を叩き、フィーリアが提案した。

さも良い事を思いついたと言わんばかりの得意げな顔のフィーリアに、四人がそれぞれ異なった反応を示す。

中でもフランの反応は分かりやすく、今度はフィーリアに抱きついた。


「流石母上じゃ!」

「う~ん?」

「あら?

 レキ君は不満?」

「ん~、不満じゃないんだけど・・・」

「ならいいわね?

 はい決まり」

「あれっ?」


有無を言わさず決定され、レキが呆気にとられた。

にこやかにフランの話を聞いていた女性とは思えないほどの強引さに、ついつい声を上げてしまう。


「王妃の決定なら仕方ない。

 大丈夫、勉強も魔術も私が教える」

「仕方ないといいつつ嬉しそうですね、フィルニイリス様?」


フィルニイリスが賛同し、この内容は決定した。

もっとも、レキに不満があったわけではない。

ただ王妃の知られざる一面に驚いただけなのだ。


「一人でお勉強するのはつまらないでしょうし、散漫になりがちでしょ?

 フランと一緒なら互いに注意し合えるし、教え合う事も出来るはずよ。

 落ち着きのないフランもレキ君と一緒ならおとなしく勉強するでしょ?」


意外と、フィーリアはしっかりと考えているようだ。

実際は自分の娘とレキを今以上に親密にしたいだけなのだが。

察しているのはリーニャだけだが、そのリーニャとしてもフランとレキが親密になるのは賛成だった。


「でしたら剣術も一緒に習えば良いと思いますよ?

 騎士の剣術はフラン様には難しいでしょうけど、レキ君となら剣術にも身が入るでしょう」

「まぁ、それはいい考えねリーニャ。

 ぜひそうしましょう」

「おおぉ!」


フィーリアの意見を後押しするリーニャに、フランが嬉しそうに声を上げた。


――――――――――


今後のレキの予定が強引に決められ、日はすっかり傾いていた。


「さて、名残惜しいですが今日はこの辺にしておきましょ?

 レキ君も今日は疲れたでしょうし、明日からもいろいろ大変でしょうからね」

「大変なの?」

「ええ、おそらく」


フロイオニア王国王女を救った英雄にして、皆の前で王国最強の騎士を打ち破った少年。

話題性は高く、誰もがレキに注目している。

にも関わらず、ろくに話もできなかった貴族達。

明日以降、時間を見てはレキに接触してくることは明白であった。


「へぇ~」

「コレも英雄の務め。

 諦めたほうが良い」

「ちゃんと私達で補佐しますから」


色んな人達が尋ねに来ると聞かされ、レキは不思議そうな顔をした。

自分なんかと何を話したいのだろうかと思ったのだ。


フランを救った話なら、自分よりフィルニイリス達に聞いた方がいい。

何せレキは、魔の森の危険性も、小屋を囲う結界の事も、何一つ分かっていないのだ。

知らない人にあれこれ説明する自信も無い。

だからこそ、そんな自分に話を聞きたいと思う人達がいる事が純粋に不思議だった。


「騎士団の方々も、レキ君とはお話ししたいでしょうし。

 稽古もつけてくれますよ、きっと」

「ほんとっ!」


騎士が稽古をつけてくれる。

レキくらいの子供なら喜ぶであろうその話に、レキも当然のように喜んだ。

レキに稽古が必要かどうかはさておき、その反応は何とも子供らしかった。


「あ、でも・・・」

「ん?」


と、それまで無邪気に喜んでいたレキが表情を硬めてリーニャ達を見た。


レキはつい先ほど騎士団で一番偉い人をぶちのめしたばかりである。

もちろんそれは正式な試合の結果であり、内容的にもなんの問題も無い。

唯一の懸念は、レキの一撃が少々強すぎた事くらいだろう。

ガレムを盾ごとぶっ飛ばし、壁に埋もれさせた一撃。

相手がガレムでなければ、もしかしたら大怪我をしていたかも知れなかった。


「もしかして、ガレム様を倒してしまったことを気にしてますか?」

「・・・うん」


いくらガレム本人が気にしていなくとも、皆の前で倒してしまったのは事実である。

それが騎士団ので一番偉い人なのだから、レキが気にするのも当然だろう。

騎士団がどういう者達の集まりかレキには分からないが、騎士団の長であるガレムを倒した以上、嫌われていても不思議ではない。


「気にすることはない。

 騎士団は脳筋集団。

 団長を倒したからと言って敵討ちを挑んでくる者はいない」

「正々堂々同じ条件下での真剣勝負ですからね。

 レキ君の強さを称えることはあっても恨むような方はいませんよ」

「ほんと?」

「はい」


お互い刃引きの剣を用い、魔術の使用を禁じた上での勝負。

体格差や経験などを加味すれば、むしろガレムが有利と言える試合において、前半は身体強化もせずにガレムを攻め続けたレキである。

強さこそ全てな騎士団において、そのトップであるガレムを見事倒したレキは、むしろ騎士団から敬意を持たれていた。


「レキ君に挑まれる方は多いでしょうが、それはレキ君が強者であると認めた上での事でしょう」

「レキに教えを請おうとする奴が出る、きっと」


教えと言われても・・・とレキは思う。

とは言え、ガレムを倒した事で恨まれたりはしないようで、少しだけ安心した。


「む~・・・レキが騎士団に取られるのじゃ」

「あらあら、だったらフランもレキ君に教わればいいでしょ?」

「にゃ?

 わらわが?」

「ええ、どうせ一緒に鍛錬をするのだから、いっそのこと教わってしまえばいいじゃない。

 ねぇレキ君?」

「へっ?」


騎士達に稽古を付けてもらうという話から、なぜかレキが教えるという話になった。

ガレムの考えでは、レキの剣術は我流であるが一定水準を満たす程度には洗練されているらしい。

今更王国騎士団の剣術を教えても意味は無い、というのが騎士団長の見解である。


だが、子供らしくも王国の騎士に憧れを持つレキは、騎士の人達に剣を教えて欲しいと思っている。

にもかかわらず、レキの方が教えなければいけないらしい。

レキからすれば意味が分からず、少なからず残念でもある。

ねぇ、と言われてもレキは困るだけだった。


「やったのじゃ!

 レキに教えてもらえるのじゃ!」

「え~」

「ふふっ、やりましたねフラン様。

 レキ君は教えるの上手ですから、きっと強くなれますよ」

「むぅ、羨ましい」

「あれっ?」


そんなレキに対し純粋に喜ぶフランと、再びレキを取られたせいか不満げなフィルニイリス。


「教えたこと無いよ?」

「そうですか?

 森ではちゃんと教えてたではありませんか」

「森?

 ・・・あっ」


リーニャの言葉に首を傾げたレキだが、一応前例はあった。

魔の森で、オークの解体をフランと一緒にしていた時、レキはフランにあれこれ教えていたのだ。

レキからすれば魔物の解体などいつもの事であり、フランに手伝ってもらう際あれこれ世話を焼いたが教えたと言うほどでは無かった。

だが、フランには好評だったらしい。


何より、レキの強さに憧れを抱くフランとしては、そんなレキに教えてもらえるのが嬉しくてたまらないのだ。


「やったのじゃ!」


今もなお、フランは提案したフィーリアに抱きつき全力で喜んでいる。


そんなフランの姿に、レキはまいっかと諦めた。

フランには皆甘くなるようだ。


「レキ一人で教える必要はない。

 ガレムやミリスにも協力を仰げばいい」

「分かった」


指南役、というより一緒に鍛錬するという形ではあるものの、レキの王宮内での仕事が一つ決まった。

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