第81話:謁見
控えの間でレキがご機嫌にお菓子を食べ、会議室では宰相アルマイスやフィルニイリスが国王に対して無遠慮に不満をぶつけた後、ようやくレキの謁見が始まろうとしていた。
リーニャに案内され、レキは謁見の間へと足を進める。
試合場へ向かった時とは別の通路を進みつつ、周りをキョロキョロと見ながら歩くレキ。
いよいよフランの父親と対面するとあって、少しばかり緊張に近い心持になっていたりする。
今回はしっかりとレキの様子を伺いながら歩くリーニャは、そんなレキを見て「大丈夫そうですね」と心の中でそっと安堵した。
やがて、レキはひときわ大きい扉の前へと辿り着いた。
「リーニャです。
レキ君をお連れしました」
「ご苦労様です」
扉の前に控えていた騎士にリーニャが告げる。
騎士も頷き、謁見の間へ報告をした。
「レキ殿がお見えになりました」
「通せ」
「はっ」
短いやり取りの後、重厚な扉が開く。
「さて、レキ君もよろしいですか」
「う、うん」
横に立つレキに声をかけ、リーニャがそっと背を押す。
侍女とはいえ当事者であるリーニャも、客人であるレキの後ろについて謁見の間へと入った。
「先ほどぶりだなレキ殿。
改めて挨拶を。
私がフロイオニア王国国王、ロラン=フォン=イオニアである。
先ほどの戦い、実に見事であった。
フランが自慢するだけの事はあるな」
謁見の間に用意された玉座に座る、この国の王にしてフランの父親であるフロイオニア王国国王、ロラン=フォン=イオニア。
「お初にお目にかかる。
この国の宰相を務めるアルマイス=カラヌスと申します。
先ほどは突然の試合、誠に申し訳ありませんでした」
フロイオニア王国宰相、アルマイス=カラヌス。
さらには。
「お疲れ、レキ」
フロイオニア王国宮廷魔術士長フィルニイリスと
「先程の一撃、実に見事だったぞレキ」
同じくフロイオニア王国騎士団団長のガレムがいた。
「うわぁ~・・・」
「レキ君、レキ君」
「えっ、何?」
「自己紹介を」
「あっ!
うん」
玉座に座る国王を中心に、宰相アルマイス、宮廷魔術士長フィルニイリス、騎士団長ガレムの立つ謁見の間は、おとぎ話のような光景であった。
若干、ところどころ治療しきれていない傷がガレムに見えるが、むしろ試合前より機嫌が良さそうだ。
威厳すら感じるその光景に、レキが感嘆の声を漏らした。
口をぽかんと開けて惚けるレキに、リーニャが促す。
「えっと、オレはレキです」
「うむ、フラン達から良く聞かされているぞ」
フランの父親である事は既に知っているし、先程の試合では声も姿も確認している。
にも関わらず、何故かレキは緊張してしまっていた。
それは一国の王と対面しているからか、あるいは別の理由からか。
「さて、先程試合場でも伝えたが、今後レキ殿は我がフロイオニアの王宮で過ごしてもらおうと思う。
もちろんレキ殿さえ良ければの話だが」
「うん!」
「もちろん無理にとは言わない。
ただ、レキ殿の望みはこれからもフラン達と共に過ごすことだと聞いているのでな。
それならいっそ王宮に住むのはどうかと考えてのことだが、どうかな?」
「大丈夫ですっ!」
「うむ、そうか。
ならば決定だな。
さっそく王宮内の一室を用意させよう。
リーニャ?」
「はい、手はずは整っています」
「うむ、さすがだな」
元気よく返事をするレキに、国王ロランも笑顔を見せた。
いつの間にやらレキの部屋が用意されている当たり、レキがどう返事をしようとも変わらなかったに違いない。
「王宮に住むにあたっての説明はリーニャに任せるとして、後は教育と護衛についてだが・・・これはまぁ後日で良いか?」
「そうですね。
レキ殿もお疲れでしょうし」
「ふむ、確かに」
宰相アルマイスも、レキが二つ返事で了承したのを見て、心の中でそっと安堵していた。
それは、この場にいる誰もが同じだった。
アルマイスが先ほどの挨拶で延べた通り、王宮に来ていきなり試合をさせたのだ。
それも、ガレムを一撃で倒すほどの実力者に。
これまでの対応に万が一不満を抱いていたなら、王宮を出て一人帰ってしまう可能性もあった。
レキが魔の森へ帰ったなら、下手をすればもう二度とレキには会えないかも知れない。
魔の森では魔素の影響で半日ほどしか満足に活動できない。
騎士団の精鋭を連れて向かったところで、レキの住む小屋に辿り着ける可能性は低いだろう。
王族を救った恩人に対し、無礼を働き追い返したという風評が広まってしまえば、貴族達はおろか国民からも何を言われるか分かったものではない。
「さて、こちらの要件は以上だが・・・アル、なにかあるか?」
「そうですね・・・」
ロランに話を振られ、宰相アルマイスが顎に手を当てる。
そのまま考え込んだ後、アルマイスはレキを見ながらこう質問をした。
「それでレキ殿、一つよろしいですか?」
「うん」
「レキ殿は確か魔の森にお一人で住まわれているとお聞きしましたが」
「っ!」
「・・・アル」
「何故だかお聞きしても?」
「アルっ!」
「陛下、コレは必要なことです」
宰相アルマイスの言葉にリーニャが息を呑んだ。
ついで、フィルニイリスからも抗議じみた声が飛ぶ。
その二人を無視し、アルマイスはレキに問いかける。
国王ロランですら止められず、アルマイスはじっとレキを見る。
対してレキは・・・。
「う~ん、なんでって言われても・・・」
腕を組み、首を傾げながら普通に悩み始めた。
「レキ君・・・」
「レキ、大丈夫?」
「何が?」
レキの、触れてはならないだろう過去。
そんなレキの心情を心配したリーニャとフィルニイリスから声が上がったが、レキはただ平然と、アルマイスの質問になんて答えようかと頭を働かせていた。
そんなレキの様子に、二人も安心したようだ。
「えっと、森に住んだのは村がなくなっちゃったからで。
父さんと母さんの墓もそこに作っちゃったし」
「それで魔の森に?」
「うん」
「他の街や村に行こうとは思わなかったのですか?」
「えと、他の街とか村がどこにあるか分かんないし。
それに、ウォルン達もいたから」
「ウォルン?」
「えっとね、フォレストウルフ、じゃなかったシルバーウルフの親子で、オレの友達」
「ふむ、なるほど・・・」
不機嫌な様子も見せず答えるレキに、アルマイスが頷く。
今のところレキの回答におかしいところはない。
いや、魔の森に一人で住んでいる時点でおかしいのだが。
森に住む理由もレキの強さを見た今なら納得は出来る。
普通の子供なら、たとえ生まれ育った村が無くなったとしても魔の森に住もうなどとは思わないだろうが、相手はレキである。
魔の森だろうが竜の住む山だろうが、レキにとっては大差ないのだろう。
それこそ、街の宿に泊まるような感覚ですごしていそうだ。
「いや、失礼しました。
通常なら魔の森に住もうなどと思わないので。
住めない、と言った方が良いですね。
だが、レキ殿のお力ならばそれも適うのですな」
「家あるよ」
「家、ですか」
「うん。
えっとね、その家には結界っていうのがあるってフィルが」
「フィルニイリス殿が?」
「そう、周囲の魔素を吸収し、魔力に変換する魔石を利用した結界。
魔素を吸収する為よほどの事がない限り魔物は近寄らない。
結界の範囲内は魔素が薄くなる為魔素酔いにもかからない」
「ふむ、なるほど。
その結界のお陰で魔物に襲われないと?」
「う~ん、分かんない」
フラン達を家に連れて行った際、フィルニイリスが魔石と結界を解析したわけだが、難しい事はレキには分からない。
結界があったから今まで魔物が入ってこなかった、という事だけはかろうじて覚えていた。
もともと小屋が安全であるというのは母親から教わったレキだが、何故安全なのかまでは教わっていなかった。
母親が安全だと言った以上は安全なのだと、盲目的に信じただけなのだ。
「そう言えば姫様達も泊まったのでしたな。
そういうことでしたら納得です」
レキの、と言うよりフィルニイリスの回答を聞いて、アルマイスは納得したようだ。
レキを疑うつもりは無かったものの、王国一の知恵者であるフィルニイリスに説明されれば信じざるを得ない。
そもそも恩人たるレキを疑うなど不敬なのだ。
謁見の間でのやり取りに加え、フランが懐きリーニャとフィルニイリスの信頼も得ているような少年。
では何故、こんな詰問するような真似をしているのか。
「これだけはお聞きしたい。
いくら結界があろうとも魔の森に住むなど普通は有りえません。
壊滅したとは言え村に残ったほうがマシなはずです。
そうしなかったのは何故でしょうか?
ご両親との思い出が残る村に、残ろうとは思わなかったのですか?」
「・・・えっと」
「レキ殿、お答えを」
ここへ来て、レキが答えに詰まった。
答え辛いのか、あるいは答えたくないのか、拳を握りしめるレキは、どこか辛そうにすら見えた。
あるいは思い出したくないのかも知れない。
それでも聞かねばならないと、アルマイスが答えを催促する。
見守る者達が静観する中、ようやくレキが口を開いた。
「オレ、一度だけ村に戻ったことがあって」
「はい」
「村は本当に何も無くなってて、オレの家も、マールの家も、村長さんの家も、何も無くなってて」
「はい」
村が襲われたとはいえ家は残る。
だが、レキの村を襲った野盗は襲撃の際村に火を放ち、その混乱に乗じて村人を襲い、女子供を捕らえた。
正しくは焼け崩れた家々が残っていたのだが、それはもう何も無いのと同じだ。
「オレ、それでも何か無いか探したけど、何もなくて。
それで探してたら暗くなっちゃって、このまま森に戻るのは難しかったからその日は村に泊まったんだ」
魔物や野盗に襲われる心配をしたのではない。
夜だと方角が分かり辛く、下手をすれば小屋どころか魔の森にすら辿り着けない可能性があったので、レキはその日村に泊まる事にした。
村には何もなかったが、父親と狩りをした村の傍の森に行き、父親がやったようにソードボアを仕留めてその日の食事とした。
火をつけるのに苦労しつつ食べたソードボアの肉は、残念ながらあの時よりも美味しくなかった。
空腹も収まり、その日はそのまま村の跡地で一晩を明かすことにしたレキは、自分の家があったであろう場所で横になり、そのまま眠りについた。
「それで・・・その」
「はい」
「その・・・夢、見て」
「夢、ですか」
「うん」
レキが見たのは村に住んでいた頃の夢。
父がいて、母がいて、幼馴染のマールや村の人達がいて、いつもどうり村で過ごした夢。
父親と一緒に狩りに行って、母親の料理を食べて、二人にその日あった事を聞かせる、そんな何気ない夢だった。
村の跡地で寝たせいか、それともソードボアの肉のせいか。
その夢がとても幸せなものだとレキは思った。
幸せで、もう二度と戻ってこないあの頃の夢。
夢の中でレキは、それがどれほどかけがえのないものだという事を考えず、ただいつもどうり楽しく過ごした。
「夢の中の父さんはやっぱ強くて、母さんは優しくて。
あの時と一緒で、また明日って約束して、明日は父さんが剣の振り方を教えてくれるって、だから早く寝なさいって母さんに言われて」
「レキ君・・・」
「夢の中で寝て、そしたら朝になって、起きたら何もなくて。
夢の中には父さんも母さんもいたのに、起きたら誰もいなくて。
マールの家も、村長さんの家も、やっぱり何も無くて」
「レキ・・・」
「何も無いのに、でもやっぱりそこは村で。
でもだから、ここに居たくないって、何も無いのにたくさんあるから、いろんなもの、たくさんあるから。
だからオレ・・・」
レキの独白に、誰もが声を発せずにいた。
リーニャは自分の事のように辛く悲しげな目でレキを見て、フィルニイリスは初めて聞くレキの想いに胸を痛めた。
アルマイスまでもが、レキをただ見守っていた。
「それから、村には一度も行けなくて、だからオレ、森で過ごすことにしたんだ」
その日は結局、起きてすぐ森へと戻った。
夢で見た光景があまりに幸せ過ぎたから、もう二度と戻ってこないそれらを振り切るように、レキは全力で森へと戻ったのだ。
レキの独白が終わった。
しばらくは誰も、レキ本人も何も言わず、謁見の間には沈黙が降りた。
「申し訳ありません。
辛い事を、お聞きしました」
それでも、語らせたのは自分だと言わんばかりに、宰相アルマイスが頭を下げた。
説明を求めたのはアルマイスである。
故に、レキのつらい過去を掘り返す結果になった事に、心から謝罪を述べたのだ。
リーニャやフィルニイリスも、レキに慈愛を込めた目を向けている。
「えっと、大丈夫だよ。
森にはウォルン達がいたし。
あ、そういえばウォルン達が来てからは村の夢とかあんまり見なくなったし」
ひとしきり話し終えたレキは、心なしかスッキリとしたような顔をしていた。
一人でいた時は見ていた、と暗に告げたようなものだが、レキの顔にはわずかながら笑顔も見えた為、誰も何も言わなかった。
「それに、今はフラン達もいるし」
笑顔でレキが言う。
その後ろでリーニャが嬉しそうな表情をしていたのは仕方のない事だろう。
フィルニイリスまでもが笑顔を見せた。
自分が話した事で気まずいものになったと思ったのだろうか。
自分はもう大丈夫だと伝える為に告げた言葉だった。
その目論見は成功したようで、謁見の間の空気が柔らかく温かいものになっていた。
「・・・ふむ。
まぁ何にせよこれでアルの懸念も払拭できただろう。
そうだな、アルよ」
「はい。
こちらの懸念はなくなりました。
万が一レキ殿の素性を疑うような者が現れても、これで納得されるでしょう」
レキの過去を知り、ロランとアルマイスが頷き合う。
フランを救ったレキ。
それが仕組まれたものである可能性も、わずかながらにあった。
場所が場所だけにそれが難しい事は百も承知だが、それでも疑う者は出てくるだろう。
レキがまだ子供である為疑う者は少ないだろうが、それでもゼロにはならない。
レキの素性が知れない以上、どうしてもそこに一欠片の疑念が残ってしまうのだ。
レキの過去を聞くのは、その一欠片を排除する為に必要な事だった。
「レキ殿。
今後様々な者がレキ殿に接触を図るでしょう。
善意ならば問題はありませんが、中には悪意を持ってレキ殿に言葉を投げかける者も出て来るかと思います。
もし何か有りましたらお話下さい。
このアルマイス、いつでもレキ殿のお力になりましょう」
レキに辛い事を話させた対価とでも言わんばかりに、国王の前で自らレキの力になると宰相アルマイスが宣言した。
もちろん国王が庇護下に置く少年であり、フランの命の恩人である少年なのだから、支援するのは当たり前ではある。
だからこそ、こうして宣言する事で国の支援とは別に個人的にも力になると、そう伝えたかったのだろう。
「うん!」
それが伝わったかどうかは分からないが、レキがいつもどおり元気に返事をする。
先程までの悲痛な様子などすっかり消え、いつものレキに戻っていた。
「本日はこれまでとしよう。
レキ殿もここまでの旅と先程の試合で疲れているだろうしな。
今後のレキ殿の生活についてはまた後日改めて話をするとして、今はゆっくりと休まれるが良い」
謁見を終了させるべく、国王ロランがその場を纏めた。
思えば、城に着くなり試合をさせられ、終わったらこうして謁見をさせられたレキである。
いくら体力があるとはいえ、肉体的にも精神的にも疲れたはずだ。
とてもそうは見えないが、普通は疲れるはずだ。
「それと最後に・・・」
ロランが玉座から立ち上がり、レキの元へと近づく。
レキの目の前まで歩いた国王ロランは
「我が娘フランを助けてくれた事、心から礼を言う。
本当に、ありがとう」
と、レキに頭を下げた。
それは国王としてではなく、一人の父親としての言葉であった。
そんなロランの言葉は、レキがあるいは一番期待していた言葉なのかも知れない。
「へへ~、うん!」
どういたしましてと言った風に、レキは頷いた。
――――――――――
「アル」
「何でしょう、フィルニイリス殿?」
レキが去った謁見の間には、国王ロランと宰相アルマイス、宮廷魔術士長フィルニイリスと騎士団長ガレムが残っていた。
「何故あんなことを聞いた?」
フィルニイリスが先程のレキへの質問に対してアルマイスに詰め寄った。
内容が内容である。
レキの心情を含めて、糾弾したくなったのだ。
「必要でしたので」
フィルニイリスの質問にアルマイスは端的にそう答えた。
「レキ殿の素性が知れないと知った者達は、必ずその素性を調べるでしょう。
レキ殿に身寄りが無いと知れば養子にと名乗り出る者が、武勇が広まれば縁談の話も出てくるでしょう。
ですが、それ以上に問題となるのはレキ殿が魔の森に住んでいるという点です」
「あれだけの力があるのだ。
どこに住もうと問題はあるまい」
レキの実力は先程の試合で確認済み。
いくらこの世界でもっとも危険な場所といえど、あれほどの力なら生きていける。
ロランの言葉は、レキの実力のみを見れば当たり前だった。
「力があるからこそ問題なのです。
レキ殿の力はおおよそ純人族のそれを大きく上回ります。
そんなレキ殿が実は魔の森にいたと知られれば、あるいはレキ殿が魔物であるなどと言い出す輩が出て来る恐れがあります」
「レキが魔物?
笑えない冗談」
確かに笑えない冗談である。
レキが魔物なら、そもそもフラン達を助けようとはしないだろう。
実力を考慮に入れれば、それこそ魔の森を支配していてもおかしくは無い。
そんな存在を王宮に招いたとあれば、明日にでもこの国は滅びかねない。
レキは紛れもなく純人族である。
森人でも山人でも、ましてや獣人でもない。
それはこれまで共に旅をしてきたフィルニイリスが保証する。
「確かに信じる者などいないでしょうが、そもそもそのような話が出ることが問題なのです。
誹謗中傷、差別に迫害、どれもレキ殿の心を苦しめる事になります」
「・・・それほど弱そうな少年には見えんが?」
力どころか心も強いとロランは思っている。
あの年で両親を失い、たった一人生きてきた少年。
にもかかわらずフランを助け、これまで力になってくれていたのだから。
「ええ、レキ殿は強い。
力だけでなくその心も。
だからと言って傷つかないというわけではありますまい。
何せまだ子供なのですから・・・」
「ふむ。
まぁ力はともかく心は確かにまだ子供だな」
「ガレム殿もそう見ましたか」
「うむ」
実際に剣を交えたから分かる事もある。
もっとも、試合中も先程の謁見でも、レキは年相応の子供らしさを隠す事無く見せており、ガレムでなくとも子供だと思うだろう。
「アルはどうする?」
「・・・まずはレキ殿の素性を正しく公表しましょう。
野盗に襲われ、滅びた村の出身であること。
魔の森に住んだのはそのせいであり、今まで無事だったのはレキ殿の力量と同時にフィルニイリス殿が調べた結界のおかげだったと。
フィルニイリス殿が確認済みと言えば文句もありますまい」
「分かった」
まずはレキが魔物だなどと言う者が出ないうちにその芽を潰す。
何処にでもいる村の少年だったと言う事。
その村が滅び、逃げ延びた先がたまたま魔の森だったと言う事。
そこで生き延びた結果、あれほどの力を身に着けたと言う事。
最後のは若干事実とは異なるが、周りを納得させる為にはこの方が良いと、フィルニイリスとアルマイス双方で決めた。
「念の為、レキ殿はしばらく王宮内で過ごして頂きましょう。
知識を与えるのも良し、鍛錬をするも良し。
騎士団の鍛錬場ならば問題はありますまい。
ガレム殿、よろしくお願いします」
「うむ、任された。
まぁレキなら問題はなかろう」
余計なちょっかいを出されぬ様、しばらくは王宮内に留める。
貴族とて王宮内を自由に歩けるわけではない。
王族が普段過ごすような区画に許可なく入れる者などそうはいないのだ。
王宮内でずっと過ごすのは息が詰まるだろうと、騎士団との鍛錬にも参加出来るよう手配する。
騎士団と共にいればそうそう手を出す事も出来ないはずだ。
いたとしたら、それは必然的に騎士団を敵に回す事になるのだから。
「騎士団の剣術は教えぬのか?」
「レキの剣は我流と言えど相当なもの。
今更騎士の剣を教えても意味はありますまい」
「そうか、まぁあれだけ強ければ盾などいらぬかもな」
騎士団の剣術はいわば守る為のもの。
王族の護衛を務める際は、何よりその盾で王族を守りながら戦うのが騎士なのである。
「レキの索敵能力は高い。
盾で守るより先に仕留める事が可能」
「そうか」
そもそもレキに盾は不要。
視界のはるか先にいる魔物にすら気づき、確実に先手を取る事が出来る。
それこそ相手の攻撃を一度も受ける事なく倒せるのだから。
「騎士団と共にいれば余計な事をする者も出ないでしょう。
レキ殿が騎士団に受け入れられるかどうかは不安ですが・・・」
「ん?
我々なら問題はないぞ?
騎士団は強い者が全てだからな」
「さすが脳筋」
「はっはっはっ」
フィルニイリスの脳筋という言葉にガレムが笑う。
脳筋を自覚し、それを誇る当たりフィルニイリス曰く手遅れなのだろう。
そんな脳筋だからこそ、自分を負かしたレキに対して純粋に敬意を持つ事が出来る。
先程の謁見も、ガレムは一言も発する事無くレキを見ていたが、その顔に悔しさや嫉妬と言った感情は一切無かった。
アルマイスが懸念した事は、フィルニイリスの想定外だった。
強すぎる存在は疎まれるのは世の常だが、まさか魔物だなどと言う輩が出る可能性など考えてもいなかった。
実力はともかく、レキは見た目も中身も純人族である。
ただ圧倒的に強いというだけ。
確かに秀でた者を疎ましく思う者はどこにでもいる。
難癖をつけて足を引っ張る者も少なくない。
だからと言ってレキを魔物扱いする者が出るなど、誰が思うだろうか。
そんな極僅かな可能性を物色する為のアルマイスの質問。
考えすぎと言えばそれまでだが、後顧の憂いを少しでも減らす為に必要だったのだろう。
アルマイスの微に入り細を穿つ配慮。
初めからレキに好意的だったフィルニイリスには出来ない芸当だった。
他の貴族達への対応はひとまず整った。
基本的にレキは王宮に留め、教育を受けてもらうつもりだ。
剣術や魔術に関しても、レキが望めば指南する。
剣はガレム率いる騎士団が、魔術はフィルニイリス達宮廷魔術士がそれぞれ教える事になるだろう。
王宮内の環境は、少なくともレキに悪いものではないはず。
フランが懐き、フィルニイリスやミリスが率先して指南に当たり、リーニャが親身になっているのだ。
王女の恩人たるレキを、他の者達とてぞんざいに扱う事はないだろう。
騎士団は騎士団で、ガレムを筆頭にレキには既に敬意を抱いている。
それは先ほどの試合でも良く分かるだろう。
ガレムを倒したレキに、騎士達は心からの称賛を送っていたのだ。
レキに教えを請おうとする者もあらわれるかも知れない。
流石脳筋、いや騎士団である。
レキを庇護する体制はおおよそ整ったと言えるだろう。
あとはレキ自身がこの国を気に入ってくれれば・・・。
レキが出ていった扉を見ながら、そんなことを思うフィルニイリスであった。




