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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第79話:レキへの称賛とお礼

ガレムを壁まで吹き飛ばし、更にはその壁すら壊してしまったレキだが、もちろん全力は出していない。

全力を出せと言われはしたものの、さすがに本気の全力を出すのは躊躇われたのだ。


先ほどまで身体強化無しではあったものの、レキは真面目に戦っていた。

そんなレキの攻撃をガレムは全て防いでみせている。


対人戦の経験こそ少ないレキだが、魔物とならそれこそ毎日のように戦っていた。


ゴブリンの集団からオーガまで。

見通しの悪い森の中での、生死を賭けた戦い。

殺るか殺られるか。

それがレキの毎日だった。


そんな日々を送っていた為、戦い方も自然と身に着いた。

身体強化も自然と扱えるようになっている。

全身から湧き上がる黄金の光。

母親を失った事と引き換えるかのように得たそれを、意識的に集中する事で肉体が強化される事も、魔の森で自然に身に着けている。


それが魔力による身体強化である事と、魔力制御の基礎である事は、道中フィルニイリスに教わっている。


だからこそレキは身体強化を使わずに戦っていた。

魔術が禁止であるなら、魔力を用いた身体強化もまた禁止だろうと考えるのは、魔術の事を碌に知らないレキなら仕方ない事だった。


ある意味レキに課せられたハンデのようなモノだったのだ。

後から考えれば、そのハンデがあったからこそガレムはレキと戦えていたのだろう。


そんなレキが身体強化を使えばどうなるか・・・。

レキの実力を知る者はその結果を期待し、知らない者は予想すらしなかった。


魔の森の魔物なら、どのくらい強いのかは大体分かる。

毎日戦ってきたのだ、嫌でも覚える。


ただしそれは毎日の経験から得た知識である。

初めて見る魔物の強さが分かるわけではない。


それは人であっても同じ事。

レキに相手の実力を見抜く力など無く、与えられた情報から推測するしかないのだ。


レキがガレムに関して知っている事などほとんど無い。


ミリス達騎士団の長であり、王国の中でも一番強いという事。

ただそれだけ。


ミリスの実力すら把握していないレキが、ガレムの力を推し量れるはずもない。


レキは最初、身体強化すらせずに戦っていた。

てっきりガレムも同じ条件だと思っていたが、どうやらガレムの方は身体強化をしていたらしかった。


レキが身体強化をすればどうなるか。


壁に埋もれるガレムの姿。

それが全てを物語っていた。


――――――――――


「ガレム団長は気絶。

 試合続行不可能と判断し、勝者、レキ殿!」


闘技場を沈黙が支配する中、宣言されたレキの勝利。

称賛したのはレキを知る四名。

フランが大声でレキに声を投げかけ、レキも無邪気に応じた。


ようやく状況を理解し、結果を受け入れた者達の、ざわざわと話す声が聞こえ始めた。

誰もが予想しえなかった結果だった。

騎士も貴族も皆等しく、あの少年は何者なのかとざわつき始めた。


騎士団長ガレムはフロイオニア王国最強の騎士である。

そのガレムを一撃で沈めたレキ。

彼を見る者達の中には、当然畏怖する者も現れ始めた。


だが、


「うぉおおおお~~~~~!!」


「えっ、うわっ!」


それ以上に多かったのは、勝者に対する称賛の声だった。


「すごいっ!

 団長が一撃でっ!」

「見たかあの魔力っ!

 あの身体強化っ!

 一撃で団長を倒したぞっ!」


先ほどまでフランの声しか聞こえなかった試合場は、今は多くの者達の声で埋め尽くされた。

そこには、レキを非難する声やガレムを一撃で沈めた力に畏怖する声も僅かにあった。


「あの団長を一撃とはっ!」

「姫様の恩人と言うのは嘘ではないな」

「オーガを倒したと言うのも納得だ」


だが、それらを覆い隠して余りある称賛の声に、最初は驚いたレキも次第に笑顔になった。


トゥセコの街で悪漢を懲らしめた時と同じ、周囲から浴びせられる称賛の声。


「お~!」


その声に、レキが笑顔で応えた。


――――――――――


「うおぉ~!レキッ!レキ~ッ!」

「あらあら、フランったら」


観覧席では、騎士達に負けじとフランがレキに称賛の声を投げ続けた。

武舞台上で笑顔で手を振るレキ以上に、まるで自分の事の様にフランが喜び飛び跳ねる。


「ふふっ、レキ君も嬉しそうですね」

「姫も嬉しそう。

 それにしても騎士団は相変わらず」


リーニャもレキの勝利を讃え、フィルニイリスは周囲の反応を伺う。


「良くも悪くも実力主義、なのでしょうね」

「ただの脳筋集団」

「ふふっ」


騎士達がレキを称賛する理由。

それは、ただ勝者には賛辞をという単純な理由である。

負けたのが自分達の長だろうと、否、自分達の長だからこそそれを打ち破った者は本物の強者である事を騎士達は知っている。

だからこそ、騎士達は純粋にレキを褒め称えるのだ。


ガレムが負けた事に思うところが無いわけではない。

曲がりなりにもガレムは騎士団長であり、フロイオニア王国が誇る最強の騎士である。

そんなガレムがフランの恩人とは言え素性の知れない子供に負けた。

同じ騎士として、騎士団の一員として何も無いとは言えなかった。


だが、常日頃から「弱者は何も守れない」と言われ続けている騎士達にとって、勝者を非難するような真似は出来なかった。

今回の試合は正々堂々行われた純粋な剣のみの戦い。

魔術を禁止というルールすら、魔術が不得手な者の多い騎士に有利なルールである。

対するレキは、先ほど見せた圧倒的な魔力からも分かる通り、魔術も使えるのだろう。

そんなレキが魔術を使わず戦ったのだ。

称賛こそすれ非難など出来ようはずが無かった。


やりすぎたという懸念すら、騎士達にはどうでも良かった。


「いつも団長にしごかれてますからね、騎士団の皆様は」

「いい気味」


騎士団長のガレムは、フィルニイリスが脳筋集団と称する団の長である。

その脳筋っぷりも、時に騎士団を率いる者として大丈夫なのだろうかと心配になる程だ。

普段の鍛錬でもその脳筋は存分に発揮されており、やり過ぎなくらい過酷な鍛錬を騎士達に課している。


「いつもはやり過ぎる方なのですから、やられるのも良い薬です」

「壁に突っ込むのも良い経験」


普段はやられてばかりの騎士達。

その騎士達の分までレキがやってくれた!

と言ったところだろうか。


現に、観客席から「よくやった!」「飛ばされる痛みを知れ!」などという声も聞こえている。

本気で思っているわけではないのだろうが、そういう発言が冗談として受け入れられる雰囲気が騎士団にはあった。

武舞台上で喜びを全身で表現するレキにもその声は届いているのか、先ほどから騎士達にも両手を振っている。


「陛下、そろそろ」

「う、うむ」


レキをよく知る者達が試合の結果に破顔する中、レキの戦いを初めて見た国王と宰相はいまだ驚愕から抜け出せていなかった。

だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、一先ずはこの騒ぎを収拾すべく国王が立ち上がった。


「フィル、魔術を」

「分かった」


先ほど、レキに身体強化の説明を行った際使用した風の魔術。

試合場全体に国王の言葉を届ける為、フィルニイリスが再び使用した。


「レキ殿。

 まずは見事であった。

 その力、その魔力。

 どれも聞きしに勝る物であった」


立ち上がった国王に、誰もが騒ぐのを止めた。

武舞台上の真ん中に立つレキも、周囲に合わせて口を閉じる。


フランの横に座っていた男の存在に、レキは今更ながら気づいた。

予想していたよりも若く、ついでに髭も大分短いものの、頭にかぶる王冠を見れば男がこの国の国王だと言う事が分かるだろう。

初めて見る国王陛下に、レキがぽかんとした表情を見せている。


そんなレキの様子を気にする事もなく、騒ぎが収まったのを見計らい国王が勝者であるレキに賛辞を贈る。


「皆も見たであろう。

 これが我が娘フランを救い、またフランを守り続けた者の力である。

 レキ殿の実力は今の試合によって明らかとなった。

 身体強化をせずとも我が国の騎士団長と渡り合い、全力を用いた一撃は騎士団長をも吹き飛ばした。

 これこそが王女を救いし英雄の一撃である」


国王が讃える。

自分の娘でありフロイオニア王国王女フラン=イオニアを救いし者を。

国王の言葉が真実である事は、ここにいる誰もが目撃した。

ガレムの実力を知るが故に、騎士達はレキの力を称賛し、微笑ましいと言いつつ子供だと侮っていた貴族達は、今は言葉も無い。


「その力に反し、レキ殿はいまだ子供である。

 我が娘フランを救いここまで護衛を務めていただいたその心根は正しく、故にその力も正しいことに振るわれるであろう。

 だが、その心根がいつまでも正しくあるかは不明である」


そんな騎士や貴族達に言い聞かせるかのように、国王が言葉を続ける。

レキがフランを救い、ここまで連れてきたのはレキが正しい心を持っているから。

打算も何もなく、レキはただ友人としてフランを守ってきた。

その心が変わらない内は問題は無い。

だが、変わってしまえば、ガレムを沈めた一撃が王国に向けられるかも知れない。


「なればこそ、その心根が正しく有り続けられるよう我が国はレキ殿を支援しようと思う。

 今後は我がフロイオニア王国にて様々な知識を学び、将来の糧として頂きたく思う。

 我が娘フランを救い、ここまで護衛を務めて貰った礼もある。

 どうか、レキ殿が新たな道を見つけるまで、我が城に滞在して頂ければと思う」


そんな懸念に対し、国王が提案したのはレキを王宮に住まわせるという事だった。

ある意味、強大な力を持つレキをフロイオニア王国へ取り込もうという話である。

レキの力があれ程とは思っていなかった貴族や騎士達。

その力が強大であればあるほど、敵対した時の事を考えざるを得ない。

それが国王が伝えた懸念であり、その不安を払拭する手段をこの場で提示したのだ。


恩人に対する礼という名目で王宮に住まわせ、子供であるという理由で知識を与える。

王国側の利益としても申し分ない提案。

王宮に軟禁しつつ自分達に都合の良い知識を植え付けるとも取れる言葉に、一部の聡い者達が感心したように頷いた。

王国最強の騎士を一蹴するほどの力だ。

放置するには危険であり、敵対したなら国が滅ぶ。

そんな存在を自国に引き入れた国王の手腕に、貴族達は感服した。


実のところ、国王の思惑は違っていた。

レキを王宮に住まわせる口実として、フランを救ってくれた礼だけでは足りないと判断したが故に出した苦肉の策なのだ。


レキが望んだのはフラン達との生活であり、フラン達も同じようにレキと共にいる事を望んでいる。

これからも一緒に、というレキが望んだささやかな願い。

それを叶えるべく王が持ち出したのが、レキをフロイオニア王国の庇護下に入れるという手段なのだ。


「我が娘フランの護衛に任ずると共に、レキ殿を城に住まわせ正しき知識を与える。

 それが我が娘フランを救い、ここまでの護衛を務めて頂いたレキ殿への礼としたいと思うがどうだろうか?」


そんな国王の発言に、貴族や騎士達は立ち上がり拍手で応えた。

歓声を上げ、フロイオニア王やレキの名前を叫ぶ。


同じようにレキの名を呼ぶフランや満足気なフィルニイリス、苦笑交じりの笑顔のリーニャの姿もあった。


なお、話の主役であり今最も讃えられている当の本人はと言うと・・・。

話についていけず、戸惑いながらも、皆がどうやら自分に対して称賛をしてくれている事が分かったのだろう。


武舞台上で、笑顔で両手を振っていた。

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