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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第78話:レキの一撃

方々でそんなやり取りをしている最中、武舞台上ではレキとガレムの言い争いが行われていた。


「身体強化が魔術じゃないって知らなかったしっ!」

「だから試合前に言われただろうっ!」

「魔術ダメってしか聞いてないしっ!」

「それはレキが悪いっ!」

「でもっ!」


剣と盾を交えた戦いから口喧嘩へと移行した二人。

魔術禁止=魔力の使用禁止=身体強化も禁止だと勝手に思い込んでいたレキが、ガレムも同じ条件で戦っているとばかり思っていたのに、実はガレムは身体強化をしていたという事を知り「ずるいずるい」と言い出したのだ。

「おじさんだけずるい」という、いかにも子供らしい言い分であった。


ガレムが悪い訳ではない。

身体強化が魔術ではない事は、魔術を学ぶ上で誰もが知る基礎的な知識である。

フロイオニア王国は当然の事、他国でも常識となっている知識であり、魔術を扱う者なら誰もが知っている。

レキが知らないのは、こう言ってはなんだが常識を知らないレキの落ち度とも言える程だ。


とは言え、五歳の頃から一人で生きてきたレキに常識を問うのは酷だろう。


「魔術がダメなら身体強化だってダメだと思ったのに・・・」

「いやだから魔術と身体強化はだな」

「そんなの知らないよっ!」


そんな理屈が通じるほどレキは大人ではない。

なんでちゃんと説明してくれなかったのかと、今もガレムに噛み付いている。


事前の説明が不足していたという点に関しては確かに王国側の落ち度かも知れない。

それは身体強化に関する説明に限った話ではなく、レキを王宮に招き入れてから試合に至るまでの経緯を、王国はレキに対して碌に説明していないのだから。


「あ、あの」

「ん?」

「何だ?」

「そろそろ試合の方を」

「「・・・あっ!」」


このままでは試合その物が中断されてしまいそうだと、焦った審判役の騎士がやむなく仲裁に入った。

幸い、試合を見ている者達は先程までの試合展開に満足しており、中断はむしろ一息入れる効果があったようだ。

ただ、二人のやり取りは引き続き注目されていたようで、当然今行われていた口喧嘩も皆が見ていた。


「団長もよろしいですね?」

「うむ。

 すまんな」

「レキ殿も」

「うん」

「・・・それでは」


「始めっ!」


仕切り直し、いやむしろこれからが本番だと言わんばかりに、審判役の騎士が合図を出した。


「・・・さあ、こい!」


先程と同様、ガレムは盾を前面とした待ちの構えを取る。

ある意味これも様子見。

ただし、先程まで身体強化なしの状態で自分と渡り合っていたレキに対し、油断など微塵も無い。

レキの全力を受け止める覚悟で構えを取っている。

その構えは試合開始直後とほぼ同一であり、違うのはガレムの表情と体中に巡らされる魔力、そして気合。


よく見ればわかる程度には違うガレムに対し、レキの方は先ほどまでとは明らかに違っていた。


『・・・おぉ!』


ガレムの前に立つのは黄金に輝く少年。

全身から眩いばかりの黄金の魔力を溢れ出し、レキは両手の剣を構える。

構えこそ試合開始時と同じだが、その顔は試合前と比べれば実に自然であり、これこそがレキの全力なのだろうと言うのが見て分かった。


「あれじゃ!

 あれがレキじゃ!」


観覧室からフランのはしゃぐ声が聞こえた。


あの姿こそがフランの知るレキである。

全身から黄金の魔力を溢れ出す、双剣の戦士。

フラン達を救い、これまで共に旅をしてきた黄金の双剣士の姿。


フランの英雄がそこにいた。


試合を見守る者達が息を呑んだ。

初めて見る黄金の魔力。

全身からほとばしる輝きはまばゆいほど。

あれほどの魔力など、宮廷魔術士長のフィルニイリスですら持ち得ていないだろう。

それほどの魔力を、目の前の少年が全身から放出している。


先程まで身体強化なしで戦っていたという少年。

もしかしたら知らず知らずのうちに使っていたのでは?という考えは、目の前の光景で否定された。

目の前の少年は、本当に、身体強化無しで、王国最強の騎士ガレムと戦っていたのだ。


その少年が身体強化を発動した。

これからが少年の全力。


騎士達は当然、先程まで試合の展開に理解が及ばなかった貴族達もまた、騎士達同様言葉が出せないでいた。

先ほどまでの試合内容すら理解できず、にもかかわらずたかが少年と侮っていたが故にレキを貶めるような発言すらしていた貴族達。

だが、宮廷魔術士長であるフィルニイリスを交えてのやり取りと目の前の光景に、レキがただの少年では無い事にようやく気付いたのだ。


まさか身体強化もせずに騎士団長と戦っていたとは。


冗談にも程がある。

と言いたいところだが、フィルニイリスもガレムもその手の冗談を好まない。

レキの全身からほとばしる黄金の魔力。


たかが少年などと言ってはいられない。

目の前の少年は、自分達が理解できない存在である。

その少年が、今から全力を持って王国最強の騎士に挑む。


貴族達もまた、固唾を呑んで試合を見守る。


そして・・・。


「・・・よしっ!」

「こいっ!」


全身から黄金の魔力を迸らせたレキが、一つ頷いた。

それが合図となったのだろう、ガレムが全身に力を込め、武舞台を踏みしめる。


レキが足に力を込め、ガレムの懐へと飛び込み剣を振るった。


「えぃっ!!」

「なっ、ぐっ!」


ズガンッ!!


レキの掛け声と同時に振るわれた剣。

一瞬で詰め寄られたガレムがかろうじて盾で防いだが、その力に耐える事は出来なかったようだ。


ドゴッ!!


「がはっ!!」


そのまま吹き飛ばされ、試合場と観客席を隔てる壁に激突したガレムが苦痛の声と共に肺の中の空気を吐き出し、そのまま意識を失った。


試合を見守る者達は、その一瞬の攻防にしばし呆然となった。

後に残ったのは、剣を振り抜いたレキの姿だけだった。


――――――――――


「あれっ?」


黄金の光を纏ったままのレキが、剣を振り抜いた姿勢のまま武舞台上に立っている。

魔力の光と、壁が崩壊した際起きた土煙で表情までは良く見えないが、自分がやったと言うのに呆気にとられているようにも思える。


『なっ・・・』


そんなレキに、誰もがただ唖然としていた。


レキはただ一足飛びにガレムの懐に入り、そのまま剣を振るっただけ。

開始直後と同様、右の剣を思いっきり叩きつけただけだ。


「え~っと・・・勝ったのかな?」


黄金を纏ったレキの攻撃は、盾ごとガレムを吹き飛ばした。

ガレムに一瞬で詰め寄るその速度もさることながら、威力がまるで違う。

吹き飛ばされたガレムは、壁に激突したまま起き上がる事も出来ないでいる。


「おぉ!

 やった、やったのじゃ!

 レキが「えいっ!」ってしたのじゃ!

 父上っ!母上っ!

 あれがレキじゃ!」


観覧室では、ようやく見れたレキの「えいっ!」に喜びはしゃぐフランの声が響く。


「あっ、フランだっ」


一撃で終わるとは思わなかったのか、武舞台上で戸惑っていたレキ。

試合場が静まり返っていたおかげか、そんなレキにフランの声が届いた。


とりあえず試合には勝ったらしいレキが、フランに笑顔で手を振る。


「フラン~!

 勝った~!」

「うむっ!

 見てたぞ~!」


レキとフラン。

二人が今いる場所、それが二人の身分差を表していた。

だが、そんなものは関係ないとでも言わんばかりに、二人は笑顔で手を振り合う。

そこには王族と平民という差は無く、ただ勝利を喜び合う友達同士がいた。


「うん。

 流石レキ」


そんなフランの隣では、フィルニイリスがレキを見ながら満足気に頷いている。

レキからは見えないが、後ろに控えるリーニャも嬉しそうだ。


「・・・」

「やはりこうなったか。

 まぁ、当然だな」


観客席では、全ての騎士達が唖然とする中、ミリスだけが納得の行く結果にこちらも満足げに頷いていた。

それでこそレキだと、どこか誇らしげにも見えた。


反応できたのは四人だけ。

他の者達は、目の前の結果に声を上げることすら出来ないでいた。


「・・・はっ!

 だ、団長!」


ようやく我に返った審判役の騎士が、慌ててガレムに駆け寄る。

激突した壁は崩れ、その残骸に埋もれるように見えるガレムの姿。

あれほどの勢いで叩きつけられれば万が一すらありえるその惨状に、他の騎士達もようやくガレムの心配を始めた。


「・・・フィルニイリス殿」

「大丈夫、多分」


観覧室でも宰相アルマイスが不安気な声でフィルニイリスに尋ねた。

激突した勢いのせいで土煙がもうもうと上がっている為、観客席より高い位置に設けられたその場所からはガレムの様子は良く分からない。

かろうじて見える崩れた壁と、それに埋まっているらしいガレムの姿。

尋ねられたフィルニイリスですら確証を持ち得ない惨状であった。


「大丈夫ですよ。

 レキ君はああ見えて手加減は得意なのですから」

「そう、なのか?」

「はい。

 レキ君は優しいですから」


リーニャがレキの対人戦を目撃したのは四回。

その全てに置いて、レキは誰の命も奪っていない。

もっとも、魔の森で襲ってきた野盗の、蹴り飛ばしたその後は不明だが。

場所が場所だけに魔物に食われた可能性は低くない。

それでもリーニャ達の知る限り、レキが直接人を殺めた事は無かった。


そもそもレキが本気で攻撃したならあの程度では済まないだろう。

魔の森のオーガを吹き飛ばすほどの一撃だ。

ガレムはおろか、周囲の壁をすべて吹き飛ばしてもおかしくは無い。


「だ、団長?」


一部が崩れた試合場の壁。

その壁に埋もれるガレムに、審判役の騎士がおそるおそる声をかけた。


レキの強烈な一撃を受けきれず、吹き飛ばされ壁に激突したガレム。

いくら盾と鎧を身に着けていたとは言え、あの一撃は下手をすれば致命傷になりかねない。

強固な壁はもろくも崩れ、ガレムの手や足がかろうじて見える状況だ。


「い、生きてますか?」


もしや死んだのでは?

そう考え、思わず訪ねてしまった騎士。

近づいて良く見れば、手足などがかろうじてピクピク動いていた。

意識こそ無いものの、どうやら生きてはいるようだ。


とりあえず最悪の事態は免れたらしい。

安心した審判役の騎士が、ガレムをそのままに武舞台上へと舞い戻り・・・。


「ガレム団長は気絶。

 試合続行不可能と判断し、勝者、レキ殿!」


レキの勝利を、高らかに宣言した。

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