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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第73話:今更

「父上~」

「おぉ、フランっ!」


試合場に設けられた観覧室。

今から始まるレキと騎士団長ガレムの試合を見届ける為、一足先にこの部屋へと来ていた国王と宰相、そしてフィルニイリスの三名。

そこに、王妃を伴いフランがやってきた。


「父上、ただいまなのじゃ!」

「フィルニイリスから聞いておるぞ。

 よくぞ無事に戻った」

「ふふん。

 レキのおかげじゃ!」


父親に抱きつきながら満面の笑みでそう答えるフランに、父親であるフロイオニア王も笑みで応じた。


「レキか。

 話には聞いたがすさまじい少年だそうだな」

「うむ、レキはすごいのじゃぞ!

 こう、えぃ!ってやるだけで・・・」


コンコン


フランによるレキ自慢が始まろうとしたその時、観覧室をノックする音がした。


「リーニャです」

「おぉ、リーニャじゃ!」


ノックしたのはリーニャ。

先ほど試合場控室でレキと別れてから、急ぎやってきた。

フランに呼ばれたからというのもあるが、レキの試合を見逃さない為と、何より彼女には問いたださなければならない事があったから。


「うむ、入れ」

「失礼致します、陛下、王妃様。

 フラン様、お呼びにより参上いたしました」

「うむ、ご苦労じゃなリーニャ。

 それでレキはどうじゃ?

 寂しがってないか?」

「フランじゃあるまいし、大丈夫だろう。

 なぁリーニャよ?」

「はい、控えの間では大変お行儀よくしていましたよ。

 こちらが用意したお茶やお菓子も堪能していたようですし。

 ただ、試合場への移動中は何か考え事をしていたようですが・・・」

「むぅ、そうなのか?」

「ええ、ですが試合場の控室に着いてからは用意された武器に興味を惹かれていましたので大丈夫かと」

「はっはっは、どれほどの武力があろうとも武器に惹かれるのは男の子の証拠だな」

「レキは武器を使ってもすごいのじゃぞ!

 こう、ゴブリン共にえぃ!って・・・」


控えの間に一人置き去りにしたレキをフランも気にはなっていた。

だが、それは単に友人を置いて来てしまったが故の気遣いであり、レキの心配をしているわけではないのだろう。

実際、レキの事を聞くフランは笑顔であり、試合を楽しもうとする思いが見えた。

フロイオニア王もまた、フラン同様笑みを浮かべている。

こちらは、仕込みを済ませ後はゆっくりと試合を観覧するのみとなった者の、余裕から出る笑みだ。


「レキは大丈夫?」

「フィルニイリス様・・・」


フランが再びレキ自慢を始めたのを見計らい、フィルニイリスがレキの様子を尋ねた。

こちらは無表情ながらもレキを心配しているらしい。

とはいえ・・・。


「いきなりなんの説明もせず試合を仕組んでおいて、大丈夫も何も無いと思いますが?」

「むぅ・・・」


だったら初めからこんな真似をするな、と言わんばかりにリーニャが毒を吐いた。

これにはさすがのフィルニイリスも言葉を飲んだが。


「コレには理由がある」

「はい、おおよそは理解しています。

 ですが」


レキを王宮に住まわせる為に、この試合はどうしても必要な物だった。

リーニャもそれは推察し、そして理解している。

それでもリーニャには言いたい事があった。


「礼も、挨拶すらも無しにいきなり力を見せろというのは、いささか無礼なのでは?」

「礼をするにはレキの功績は大きすぎる。

 何より真実味が無い」

「だから先に力を見せ、説得力をもたせようと?」

「そう」


リーニャの言葉にフィルニイリスが応じる。

王女であるフランを救い、ここまで無事連れてきた者に対し、通常なら王直々に礼を述べ、その後歓迎の宴でも開くのが筋である事はフィルニイリスとて理解している。

だが、それを成したのが若干八歳の子供では、誰もがその功績を疑うだろう。

礼を述べる際ですら、何者かが因縁やら横槍やらを入れる恐れがある。

だからこそ先に力を見せつけようと考えたのであり、王や宰相もフィルニイリスの考えには賛同している。


「レキを城へ住まわせるには理由が必要。

 騎士団長を圧倒しするほどの武力を見せつければ、新たな護衛に任命しても誰も文句を言わないはず」

「そうですか・・・やはり」


フィルニイリスの言葉を聞き、リーニャが嘆息した。

この頃になると、観覧室の誰もが二人のやり取りに耳を傾けていた。


「レキ君を王宮へ招くという事とその為の理由。

 どれも理解はしています」

「では」

「でも、です。

 それは全て私達の事情です。

 レキ君が望んだものではありませんよ」

「・・・?」


リーニャの言葉にフィルニイリスが首を傾げた。

聞き耳を立てていた王や宰相も怪訝な顔をする。

フランは良く分かっていないような顔をし、王妃は困ったような顔をしている。


「リーニャ殿、それはどういう・・・」


リーニャの言葉が理解できなかったのか、宰相アルマイスが口を挟んだ。

今回の試合を行うに際し、宰相であるアルマイスもいろいろ働きかけている。

それもこれもレキという新たな力を王国へ引き入れる為であり、その力を自分を含め多くの者達が確認し、納得する為でもある。


だが、それは本人が望んでいなければ意味が無い。

本人の意思を無視して取り込んでもろくな事にはならないからだ。


武功を立てたものを強引に騎士にしたところで忠義は期待できず、忠義を持たぬ騎士は窮地の際には役に立たないだろう。

真っ先に逃げ出すか、最悪こちらに剣を向ける恐れすらある。

裏切りを防ぐ為に相手の弱みを握り、あるいは家族や恋人を人質にして言う事を聞かせるという手段もあるが、そんなことで忠義の騎士など生まれはしない。


ただ、強大過ぎる力を縛り付ける為にはそれなりに有効な手段でもあるが。


レキにそういった弱みは無く、そもそもレキの意向を無視してまで取り立てようなどとは誰も考えてもいない。

国の主義に反するからのだ。


レキが望んでいないという言葉は、王国の国政の頂に立つ者として看過できなかった。


「レキ君の望みは私達と一緒にいることで、地位も立場も、褒美すら望んではいません」

「では、フラン様の護衛として傍に置くという話は?」

「魔の森でフラン様を救われた私達が、レキ君を王宮へ招く理由として持ちだしたものです。

 レキ君は良く分かっていませんでしたが・・・」

「道中護衛を務めたと言うのは?」

「率先して魔物を倒してくれましたが、護衛を務めたというより魔物がいたから倒したか、あるいは食料の確保と言ったところでしょうか」

「フィルニイリス殿達は?」

「私が察知するより先にレキが倒した。

 レキの索敵範囲は広すぎる」

「・・・それでは」

「はい、レキ君はただ、私達と一緒に居たいだけです。

 それ以外はなにも望んではいません」


きっぱりとそう断言するリーニャに宰相は口を噤いだ。


では、この試合は一体何の為に・・・。

観覧室にはしばし、無言の時が流れた。


「の、のう・・・リーニャ」


その沈黙を破ったのは、この中で最もレキと共にありたいと願う少女、フランだった。


「レキはその・・・城には住みたくないのか?」

「住みたくないか、と問われると難しいですね。

 フラン様と一緒に暮らしたいですか?

 と聞けば、「うん!」と答えてくれるとは思いますが」

「そ、そうか!

 じゃあ大丈夫じゃな!」

「いえ、そのための理由として護衛を任せようと・・・」

「そんなもんいらんのじゃ!」

「で、ですが」

「レキがいらんというならいらんのじゃ。

 レキが嫌がる事をしてはダメじゃ!」

「しかし」

「それでレキに嫌われたらどうするのじゃ!」


まだ政治の事が分からないが故に、純粋な思いを語るフランである。


周りが納得しない。

だからこそ護衛という立場を与え、なんの憂いもなく、レキ自身も気兼ねする事無く王宮に招き入れようという計画なのだが、そもそもレキが望まなければ王宮に招くどころではない。

レキに嫌われては元も子もないのだ。


フランの言葉にハッとする者がいた。

ミリスとフィルニイリスの語る内容からレキの脅威を感じ取り、この計画を支持した宰相アルマイスである。

フランの「レキに嫌われたらどうするのじゃ!」という言葉は、まさにアルマイスがこの計画を進めた理由であった。


レキという強大な力を持つ存在と敵対しない為に。

この試合も、試合を通してレキの力を見せつけ、誰にも反対されることなく国へ引き入れる為だ。


本人が望んでいなければ・・・。

この試合も、それで得られる王女の護衛という立場と栄光も、何もかもがただの押し付けになってしまう。

本人が望まぬものを押し付け、嫌がるレキを国に縛り付けたなら、最悪この国と敵対してしまうかも知れない。

ふとそんな考えがよぎった宰相アルマイスがリーニャを見れば、リーニャもまた何やら考え込むような表情をしていた。


「リーニャ殿」

「・・・まだ、大丈夫かと」

「そうですか」


リーニャが発した言葉に、アルマイスはそっと胸を撫でおろした。


「おっ、出てきたのじゃ!」


誰もがレキの様子を気にし始めたが、今更手遅れ。

とりあえずリーニャの発言を信じる事にして、皆、試合を見守る事にした。


観覧室から見下ろす試合場では、レキとガレムの試合が始まろうとしていた。


先に姿を見せたのは騎士団長ガレム。

王国騎士団の団長にして王国最強の騎士、オーガイータの異名を持つ男である。

その姿はまさに威風堂々。

これが通常の試合であり、相手がレキでなければ、誰もがガレムの勝利を疑わなかっただろう。


続いて、ガレムとは反対側の控室から出てきたのはただの子供。

両手に短剣を持つその姿は、フラン達のよく知るレキだった。


「レキ~!

 頑張るのじゃぞ~!」


大人達の懸念をよそに、フランは純粋にレキを応援する。


――――――――――


控室で一生懸命武器を選んでいたレキは、部屋にいた騎士の一人から声をかけられた。

試合の準備が整ったとの事で、並べられていた武器の中から使いやすそうな剣を二本選び手に取る。

レキが持っていた剣、エラスの街で購入したミスリルの剣は控室で既に預けてある。


今から行われる試合は、あくまでレキの力を見る為のもの。

よって、万が一にも相手の命を奪うような事が無いよう、武器は刃引きされた物が用いられる。

とはいえ、レキが全力で振るえば刃引きされようとも意味は無い。

カランの村でゴブリン相手にレキが振るった、剣に風の魔術を纏わせたあの一撃は、刃引きされようとも関係が無い。

剣というより魔術なのだから当然だろう。


元々、レキは森で拾った粗雑な剣でオーガを屠るほどの力を持っている。

それは無意識に剣に魔力を流し、強度と切れ味を強化していたからだが、鋼の剣すら通さないオーガの皮膚をやすやす切り裂くほどの一撃を、レキは粗雑な剣で放ててしまうという事である。

武器の優劣など、レキには関係ないのだ。


それでも殺傷力の高いミスリルの剣より、頑丈だが刃引きされた鉄の剣の方がまだ安心できる。

もちろんそれを知るのはミリスやフィルニイリスなど、レキの実力を間近で見た者だけだが。


エラスで手に入れ、まだ一月も経っていたミスリルの剣はレキにとって宝物である。

初めて訪れた街で買った剣であり、魔の森での狩りの成果を売って手に入れたお金で買った剣。

父親も使っていたミスリル製の剣であり、そしてフラン達と一緒に買った剣だからだ。


そんな宝物とは違い、試合用の剣を手にレキは控室を出た。

今から行われるのはあくまでレキの力を見る為の試合であり、勝敗は関係ない。

だが、それを知らないレキからすれば、今から行われる試合は自分のこれからを決める一世一代の戦いであった。


勝てばみんなとこれからも一緒にいられる。

負ければここでお別れ。


だから勝とう。

絶対に。


これからもフラン達と共にいる為、レキは全力で試合に挑むつもりだ。

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