第72話:レキ、やる気になる
リーニャが心配している事に気づかず、レキは並べられた武器に目を輝かせていた。
控えの間に飾られた鎧に始まり、廊下に飾られている壺や絵画、目の前に並べられた武器と、様々な物が飾られ並べられた王宮は、まさに物語の中にあるお城そのものだった。
移動中、レキが黙っていたのは考え事をしていたからだ。
控えの間で、用意されたお茶やお菓子をレキは心から堪能していた。
気力もお腹も満たされ、いよいよフランのご両親と対面するとばかり思っていた為、廊下を歩く間こんな立派なお城に住む王様はどんな人なのだろうかと、廊下のあれこれを見ながら想像していたのだ。
(フランのお父さんならフランに似てるのかな?
でもオレはあんま父さんに似てないし、フランもそうかも。
でもオレ母さんには似てるから、フランがお父さんに似ててもおかしくないのかな?
そういや偉い人なんだっけ?
じゃあ髭もすごいのかな?
う~ん、村長さんは村で一番偉くて髭も一番長かったからなぁ・・・王様は村長さんより偉いんだから髭もすごいんだろうなぁ)
思考の結果、短い金髪に地面まで届く髭を蓄えたフラン似の男というイメージが浮かび、一人で納得していた。
そんな事を考えつつ、更には廊下に飾られていた物にも意識を奪われていたレキ。
レキが無言だったのは、そういう理由があったのである。
リーニャがもう少し注意深く見ていれば、上の空でくだらない事を考えるレキに気付いただろう。
案内の騎士がいる手前レキの方を振り返る事が出来なかった事と、いきなり試合という予定外の出来事に思考を奪われ、若干混乱していたのがリーニャの敗因(?)であった。
「レキ君?」
「ん?
何?」
「いえ、今から試合ですが、大丈夫ですか?」
「試合?
誰と?」
「・・・レキ君、もしかして聞いていませんでしたか?」
「・・・ごめん」
移動中どうでもいいことばかり考えていた為、自分が何処に移動しているかも分かっていなかったようだ。
もっとも、王宮の造りを知らないレキは、考え事をしていなくともどこに向かっているかなど分からなかっただろうし、言われるがままついて行っただろう。
控えの間に並べられた様々な武器にも気を取られ、何しに来たかすら分かっていなかった。
「レキ君はこれからガレム様と試合をするのですよ」
「ガレム様って、騎士団長のおじさん?
なんで?」
「あくまで想像ですが・・・。
レキ君の力を皆に見せつける為でしょうね」
「俺の力?」
「ええ。
ミリス様やフィルニイリス様が説明されたのでしょうが、信じていただけなかったのでしょうね」
「ふ~ん」
まだ子供のレキがオーガを、それも魔の森の個体を倒したという話は当事者でなければ信じられる話ではない。
フロイオニア王国最強の騎士であるガレムですら、他の騎士や魔術士の補佐が無ければ通常の個体すら倒せないのだから、ある意味当然の話だ。
カランの村でゴブリンの群れを一撃で倒したという話も、八歳のレキがそれほどの威力の魔術を放てるはずがないと、疑問を深める結果となってしまった。
「理由も無くレキ君を王宮に住まわせるというのは難しいのでしょうね。
フラン様の護衛という肩書が必要となったのだと思います」
「かたがき?」
「王宮での立場みたいなものですね」
「たちば?」
指南役という形で住まわせるには、レキの剣術は我流が過ぎる。
魔術に至っては膨大な魔力に任せて強引に行使しているようなもの。
そもそもフィルニイリスから魔術の基礎を少し習っただけで、他人に教えられるような知識も経験もない。
レキをフランの傍に置くには、護衛という形でしかない。
ミリスやフィルニイリスとも事前に相談していたリーニャは、今から行われる試合にもそういった側面があるのだろうと予想していた。
フランの護衛となるレキのお披露目を兼ねているのだと。
護衛に必要なのは何よりも実力である。
注意力や対応力など必要なものは他にもあるが、一番は護衛対象を守り抜くだけの力だ。
その点、魔の森のオーガを容易く屠るレキの実力は護衛としては過剰すぎるほどに十分だろう。
見た目で侮られる可能性はあるが、逆を言えば周囲を威圧することなく自然と傍にいられるという事でもある。
服装にさえ気を付ければ、レキとフランはどこにでもいる子供にしか見えない。
それは魔の森を出てから今日までで十分証明されている。
数年後、フランが学園に通う際にも同い年のレキは何かと都合が良いはず。
だからこそ、レキの実力を疑いようのないものにする為、大勢の前で披露するのだろう。
状況が把握できていないレキに、リーニャが試合の理由について自身の考えを語った。
恩人であるレキにいきなり試合をしてみせろという無礼な行為に、レキが機嫌を損ねて帰ると言い出さない為でもあった。
もちろんレキはそんなこと露程も思っていない。
どころか、騎士団長と試合をすると聞いて心なしか嬉しそうにしていた。
改めて説明してみれば、レキの反応は思ったより悪くなかった。
肩書云々は良く分かっていないようだが、試合については問題が無いようだ。
なお、レキが理解したのは以下の通り。
とりあえず今から試合をするらしいという事。
相手は自分達を迎えに来た騎士団長のおじさんという事。
自分の力をみんな見たがっているらしいという事。
お城に住むには"かたがき"というのが必要で、それを貰う為に試合をしなければいけないらしいという事。
騎士団長というくらいだからきっと強いのだろう。
オーガより強いに決まってる。
それでもフラン達と一緒にいる為には"かたがき"が必要で、それを貰う為には勝たなきゃダメらしい。
他の騎士の人達よりも大きく、記憶の中の父親よりも大きく見える騎士団長ガレム。
レキの考えた通り、少なくともフロイオニア王国騎士団の中では最強の騎士である。
レキも自分がそれなりに強いという自覚はあるが、それがどれほどかは良く分かっていない。
比較対象が魔の森の魔物しかおらず、その魔物がこの世界でどれほど危険視されているかもレキは知らないのだ。
単純に言って、レキに勝てる存在などこの世界にはいない。
だが、それを知らないレキは、これから始まる試合を精いっぱい頑張ろうと思った。
これからも、みんなと一緒にいる為に・・・。
並べられた様々な武器を眺めながら、レキは静かにやる気を出していた。
――――――――――
「リーニャ殿。
フラン殿下がお呼びです。
観戦の間までお願いします」
「そうですか・・・」
傍から見てやる気を感じさせないレキを、せめてその傍から応援しようと思っていたリーニャだが、命令に背くわけにはいかない。
「すいませんレキ君。
本当ならここから応援しようと思っていたのですが・・・」
「大丈夫!
頑張る!」
「そう、ですね。
レキ君ならなんの問題もないとは思います。
ですが、仮にも相手はこの国の騎士団長ですので・・・」
本来なら万が一を恐れて油断しないで下さいなどと伝えるところなのだが、どう考えてもレキが負けるとは思えなかった。
相手はオーガイーターの異名を持つフロイオニア王国最強の騎士。
だが、対するレキもまた、正しくオーガイーターである。
しかもただのオーガではなく魔の森のオーガを、だ。
どうしたって、レキが勝つだろう。
「えっと、頑張って下さいね」
結局、ありきたりな言葉しかかけることが出来ないリーニャだった。
――――――――――
リーニャの励ましを受けたレキは、やる気をさらに漲らせた。
ガレムの実力も知らず、何より自分自身の力を知らずに。
レキがこれまで倒してきた魔物。
そのほとんどは魔の森の個体であり、通常の個体よりはるかに強い。
だが、一般的な知識に疎いレキは、魔の森がどれほど危険な場所なのか良く分かっていない。
ましてや、その森で三年もの間生き延びた自分が、どれほど人外な存在であるかも。
(ガレムのおじさんは魔の森もオーガより強いのかな?
ううん、騎士団長っていうくらいなんだから絶対強いよね)
ミリスが聞いたら全力で否定し、フィルニイリスが聞いたら鼻で笑うかも知れない事を考えながら、レキは一生懸命武器を選ぶ。
「程々にな、あくまで模擬戦だからな?」などというガレムの涙交じりの懇願が聞こえてきそうだが、そんなものがレキに届くはずもない。
何せレキは、今から行われる試合に勝たなければお城から追い出されると思っているからだ。
これからも、みんなと一緒にいる為。
魔の森を出てからずっと続いていた楽しい日々を、これからも送る為に。
ある程度良い試合をして見せれば良いだけのはずだった。
だが、レキは己の未来を勝ち取る為、全力で挑むつもりでいる。




