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黄金の双剣士  作者: ひろよし
四章:王宮にて
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第71話:リーニャの考察

「へ~、そんなことがあったんだ」

「ええ、今でこそそれなりに落ち着いてはいますが、昔のフラン様はそれはもう少し目を離した隙に何処へ行くか分かったものではありませんでした」

「今も一緒じゃない?」

「・・・あれでもだいぶ良くなったのですよ?」


騎士団長ガレムの公開処刑(?)が決まったその頃、執行人となるレキはリーニャと談笑していた。


初めて来たお城でフラン達と別れ、部屋で一人おもてなしを受ける形となったレキだが、一緒に残ったのがリーニャのおかげで退屈はしなかった。

おいしいお茶とお菓子と、レキの知らない様々な話のおかげでもある。


今も、フランが今より更に幼い頃の、やんちゃで可愛いらしいエピソードを聞かせてくれている。

フラン付きの侍女が話す内容としてどうかとも思えるが、レキはフランの恩人にして親友でもあるし、そもそも王女付きの侍女であるリーニャが問題のある内容を話すはずがない。


内容は多岐に渡った。

元々一般的な知識すら足りていないレキである。

王宮はおろか国の事すらろくに知らない為、気心の知れた者が話す内容なら、どんなことも興味深く聞けるのだ。


内容が王国の建国記とか国の風習などであれば、興味は示さなかっただろう。

リーニャもそこは理解しており、先ほどからフランやフィルニイリスの普段の様子や騎士団や魔術士など、レキの興味を引けそうな話題ばかりを話していた。


暇つぶしの相手、という意味ではリーニャ以上の適任者はいないだろう。

ミリスは雑談向きでは無いし、フィルニイリスは説明は得意でも何でもない会話はあまりしない性質である。

フランは・・・お話より走り回る方が好きなので、王宮内を案内するのじゃ!とレキを連れ出しかねない。

何より、リーニャは何気ない会話の中に騎士団や魔術士団の役割を混ぜたり、レキが知りたがっている王都の話をしたりと、レキの興味を引きながらこの国の知識を語っているのだ。

ミリスやフィルニイリス同様、リーニャもまたレキを王宮に住まわせようと頑張っているのである。


「フィルニイリス様も普段は・・・」

「失礼いたします」


さりげなくレキの持つカップにお茶を注ぎつつ、フィルニイリスの普段の生活ぶりを暴露していたリーニャに、王宮の騎士から声がかかった。


「レキ殿、お迎えにあがりました」

「あら、どうやら準備が整ったようですね・・・レキ君、大丈夫ですか?」

「えっと・・・フランのお父さんに会うんだよね?」

「ええ。

 フラン様のお父上にしてフロイオニア王国国王、ロラン=フォン=イオニア陛下ですね」

「ろらん、ふぉん、い、いにあ・・・?」

「ふふっ、王様で構いませんよ」

「う、うん」


呼びに来た騎士の案内に従い、リーニャについて城内を歩くレキ。

このまま謁見の間に、と思っていたのだが・・・先導する騎士の足は別の方へと向いていた。


「あの・・・」

「はい、なんでしょうかリーニャ殿?」

「いえ、どちらに向かわれているのかと・・・」

「ああ、これは失礼いたしました。

 これからレキ殿には我が騎士団の団長ガレム様と試合をして頂きます」

「・・・はい?」


いきなりの話にリーニャが首を傾げた。

フランを助け、ここまでの護衛をも務めたレキに対し、まずは陛下が礼を述べ、その後歓迎の宴を開くという流れだとばかり思っていたのだ。

それが何故か試合。

リーニャで無くとも疑問に思うのは当然だろう。


「何故そのような話に?」

「レキ殿のお力を見てみたいと陛下が望まれましたので」

「・・・陛下が?」

「はい」


何故その様な事になったのでしょう?

リーニャが頭のなかで必死に考えを巡らせた。


レキの力を見てみたい、と言うのは分かる。

まだ子供のレキがフランの命を救ったというだけでも信じがたいのに、相手が魔の森のオーガとあれば信じろと言うのが無理という話。

ミリスやフィルニイリスが説明した所でそれは変わらないだろう。

それでも、レキがフランの命を救ったことは事実。

王都までの旅の間レキの強さにはリーニャ達とて何度も助けられている。

野営時も、食料調達やら索敵やらでレキは大活躍だった。

それは途中で合流した騎士団長のガレムも把握している事であり、そのガレムも話し合いに参加しているのであれば、少なくともレキの実力だけは保証されたはず。


にもかかわらずいきなり実力を見せろと言うのは、つまりミリスやフィルニイリスの説明を信じなかったという事なのだろうか。

いや、専属護衛とはいえ小隊長のミリスはともかく、宮廷魔術士長にして前王からの王家の相談役であるフィルニイリスの言葉を、幼少期からの付き合いである現王が信じないとは思えない。


実力を見せるのはおそらく王以外の誰か。

相手が王国最強の騎士であるガレムというのも、その何者かに分かる形でレキの実力を見せる為。


つまり、試合を通じて何者かをけん制するのだろう。


迎えに来た騎士との会話でそこまで推理したリーニャだが、理解は出来ても納得はいかなかった。


フランの恩人にして友達となった少年に、王宮に招いていきなり試合をしろというのはどうなのでしょう?


どんな理由があろうと、恩人に対し礼を述べるより前に力を見せてみろというのは無礼である。

もしレキが機嫌を損ねて帰ると言い出したらどうするつもりなのか。

そうなったら誰が止めるのか、否止められるのかと・・・。


礼をしたいと言うのも王宮に留まらせたいと言うのもこちらの都合であり、レキはただ自分達と一緒に居たいと願い、ここまで来てくれたのだ。

にもかかわらず、礼より先に戦え、恩人である事を証明して見せろとは・・・。


ここまでの道中、レキは本当に楽しそうだった。

色んな物を見て、色んな物に触れて、色んな物を食べて・・・。

魔の森では決して味わえなかったであろう様々な事を、この道中で体験していたのだ。

それはここまで一緒にいた自分達が良く分かっている。

一緒に旅をし、一緒に街を歩き、一緒に食事をして、一緒に朝を迎えた。

一緒にいたいというレキの願いは、ここまででも十分に叶っている。


もちろんこれで満足したつもりはなく、何よりリーニャ達だってこれからも一緒にいたいと願っている。


だが、いくらレキでも無礼が過ぎれば森に帰ってしまうかも知れない。

そうなったら、もはや自分達ではどうにもできない。


(そもそも何故こんな事態になったのでしょうか?

 フィルニイリス様達はいったいどのような説明したのでしょう。

 試合と言うのは分からなくもないですが、流石に今すぐと言うのはレキ君だって嫌なのでは・・・。)


「申し訳ありません。

 何故今すぐ試合というお話になったかお聞きしても?」

「そう言われましても・・・

 私はただ宮廷魔術士長様にそう言われ、案内しているだけでして」

「フィルニイリス様が?」

「ええ、ガレム団長は試合の準備があるので、代わりにと」


(ということは、これはフィルニイリス様も了承済みという事?

 フィルニイリス様でもどうにも出来なかった事態、となればやはり貴族側への牽制?

 まさかこんなに早く貴族の方が横槍を入れてきたという事でしょうか?

 ならば今すぐ試合と言うのも分からなくは無いですが・・・。)


ガレムではなくフィルニイリスの命令でやってきたという騎士の言葉で、リーニャは試合をする理由を何となく察した。


フィルニイリスの事だ。

レキの功績を述べて礼をする際、そこに居合わせる者達からの横槍を危惧したのだろう。

先にその力を見せつける事で余計な口を挟ませないようにした・・・という話であればこの強引な手段もなんとか理解できる。


それでも納得は出来ないのだが。


(レキ君の力のみにとらわれ、まだ子供である事を忘れているのではないでしょうか?

 いきなり城に連れてこられ、礼も述べず碌な持て成しもせず、いきなり試合をしろ力を見せろだなどと・・・。

 それがまだ八歳の子供にする事ですか?

 レキ君だっていきなりそんな事言われても困るでしょうし・・・)


リーニャとてレキを王宮へ迎え入れたいという思いは強い。

だがそれは、あくまでレキが望んだ上での話だ。

護衛や武術指南役、レキの魔術の有用性などと言った理由は全てこちら側の都合、というよりレキを王宮に迎える為の方便でしか無い。

フランだけはそんな事お構いなしに接しているが、それなら王都のどこかにレキの家を用意し、時折遊びに行くだけで十分。

まぁ、フランは納得しないだろうが。


レキを王宮に招き入れる為、何より重要なのはレキの意思である。

レキが心からここにいたいと願う事で、初めてレキを王宮に迎え入れる事が出来る。

望まないままにレキを抱えてしまっては、それはもう王宮に監禁するのと同じだろう。


レキはまだ、王宮に住まわせて欲しいという望みを言葉にしていない。

にも関わらずここまで強引に事を運んでしまったら・・・。


考えれば考える程、リーニャは今回の仕打ちに立腹した。

だが、自分の憤りより大事なのはレキの気持ちである。

レキの機嫌さえ悪くなければ、試合をする事に問題はない。


決して好戦的とはいえないレキだが、戦い自体は嫌いでは無いのだろう。

男の子でもあるし、魔物との戦いにも慣れている。

試合、というなら相手は騎士だろう。

普通の男の子なら、王宮の騎士は憧れの対象であり、そんな騎士と手合わせ出来るとあればそれは一生の記念になるだろう。


普通の男の子なら・・・。


ちなみに、普通ではないレキは先程から黙って歩いている。


そこら中に絵画やら壺やら鎧やらが飾られている通路である。

好奇心旺盛なレキが黙って歩くとは思えない。

普段のレキなら、それこそ「うわぁ~」などと声を上げながらせわしなく辺りを見渡し、時折リーニャに「あれ何?」などと聞いてくるはず。

それがどうだろうか・・・。


後ろから黙って付いてきているレキを確認し、もしかしてまずいのでは?とリーニャは思った。

今すぐ帰るなどと言い出すとは思えないが、機嫌が悪くなっている可能性はあった。


(せめて何故試合をするかくらいは説明してあげないと・・・)


何故か静かなレキを見て、リーニャはそう考えていた。


「到着しました。

 レキ殿、まずはこちらの部屋にて準備を・・・」


試合場に到着したレキは、まず併設された控室へと案内された。


「それでは今より御前試合を行って頂きます。

 まずはレキ殿、お使いになる武器をこちらよりお選びください」


控室には椅子やテーブル、そして様々な武器が並べられていた。

大剣、長剣、短剣に始まり、槍や斧、杖に棍棒と言った王宮の騎士が使わないような武器までも。

もちろん剣などは刃引きされており、殺傷能力は限りなく低い。

それでも当たりどころが悪ければ、良くて骨折、悪ければ命を落とす場合もある。


どう考えても八歳の子供にさせる事ではない。

いくらレキが凄まじい力を持っていたとしてもだ。


(本当に、何を考えているのでしょうか・・・)


王やフィルニイリスが何故このような決断を下したのか、心底納得できないリーニャである。

それでもこれは王の決定であり、王宮の侍女であるリーニャに逆らう事は出来ない。

今できるのは、せいぜいレキの緊張(?)をほぐす事くらいだろう。


そう考え、レキに声をかけようとするのだが・・・


「・・・」


当のレキは、並べられた武器をキラキラした目で眺めていた。


「・・・」


今までの考えは杞憂だったのでは?

と思い返すリーニャだった。

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