第69話:レキの扱いについて
誤字報告感謝です。
「レキの力は有用。
剣術は我流で魔の森のオーガをたやすく屠る事が出来る。
魔力は膨大、無詠唱で魔術を放てるほど。
一先ずは姫の護衛として登用し、ゆくゆくは宮廷魔術士にすれば必ずこの国の力になる」
「姫様と同い年で、何よりその姫様がとても懐いています。
今後姫様が移動をする際の護衛としても、二年後姫様が学園に通う際の護衛としてもきっと力になれるでしょう。
将来は王国騎士団の隊長にすら成れるはずです」
会議の間では、ミリスとフィルニイリスがレキの有用性について語っていた。
もともとレキを王宮に連れて行くと言い出したのはフランだが、フィルニイリス達も賛同している。
レキの力にはフィルニイリスも興味を抱いており、フランが言い出さずとも研究対象(?)として個人的に招いていただろう。
ミリスはミリスで、主であるフランを救ったレキには多大なる恩義を抱いている。
フランの様に懐いているわけではない。
興味はあるがフィルニイリスほどでもない。
だが、王宮に招くにあたっては一も二もなく賛同している。
仮にフランやフィルニイリスが招かずとも、何かの形で恩を返しただろう。
皆の希望は、レキを王宮に招き入れるところまでは叶っている。
現時点ではフランを救った事に対する礼をどうするかという段階。
通常なら国から幾ばくかの謝礼が支払われて終わるのだろう。
あるいはその功績を讃え、国に仕える事を許すという事例もある。
レキはまだ子供であり、騎士として招き入れるには年齢が足りなく、魔術士として招くには知識や経験が足りない。
身体能力は高く、魔力は膨大でも、それだけで城に仕えられるほど王宮という場所は甘くは無いのだ。
それが分かっている為、ミリスもフィルニイリスも将来的には騎士や魔術士にと話しているのだ。
レキとしては、別に王宮で働きたいと思っているわけではない。
騎士への憧れはあれど、「騎士団に入るか?」と問われれば首を横に振るだろう。
レキの将来の夢は冒険者である。
王宮に来たのは友達であるフランがお家に誘ってくれたからで、お礼と言うのもフランの両親にありがとうと言ってもらう為。
報酬が目当てなどでは決してなく、そもそも貰えるとすら思っていない。
レキ自身、これからもフランやミリス達と一緒に居たいと思ってはいるが、だからと言って王宮に招いて終わりでは国としての体裁も悪い。
何らかの形で礼をしなければならないのだ。
今のところレキの望みはフラン達と共にいる事。
三年もの間魔の森で一人で生きてきたレキが、三年ぶりに味わった誰かと過ごす日々。
人の温もりを思い出したレキが、再び独りになりたいとは思わないだろう。
フラン達も、今更レキを孤独にするつもりはない。
冗談半分で言った「騎士団の宿舎」や「フィルニイリスの部屋へ住まわせる」という話も、この際考慮に入れても良い。
なんなら王都にレキの家を用意するのもこの際構わない。
レキが王都にいるなら、王族であるフランはともかくミリスやフィルニイリスなら何時でも会いに行けるのだ。
その場合「ミリスやフィルだけずるいのじゃ!」とフランが拗ねるだろうが・・・。
レキの望みを叶えつつフランの希望も叶えるなら、やはりレキは王宮に住まわせるのが一番だろう。
それならリーニャも恩を返せるだろうし、レキに常識を含め様々な知識を与える事も可能だ。
二年後、フランと共に学園に通わせる上でも、最低限の知識はあった方が良い。
カランの村の娘、ユミとの約束もある。
レキも学園に通う事に反対はしないはずだ。
つまり、レキへの最初のお礼はレキを王宮に住まわせる事。
生活の全ては謝礼の一環として国が持てば良く、無理だとしてもリーニャ、ミリス、フィルニイリスの三人ならレキの面倒を見る事は出来る。
王女付きの侍女、騎士団の小隊長にして王女の剣術指南役、宮廷魔術士長にして王女の魔術指南役。
この三人の給金は、一般人のそれを遥かに凌いでいるのだ。
要するに、レキを王宮に住まわせさえすれば後はどうとでもなるという話であり、すなわちミリスとフィルニイリスのやるべき事は一つ。
レキを王宮に住まわせる為、王や宰相を説得する事である。
説得が成功し、レキが王宮に住む事になれば、フィルニイリス以下魔術士団とミリス以下騎士団との間でレキの取り合いが発生する事は目に見えている。
ついでに言えば、そこにフランが介入して更に混沌とするまで軽く予想できるが、先の事よりまずはレキを王宮に住まわせなければならず、ミリスとフィルニイリスの説得は続いていた。
二人の後ろでは、騎士団長のガレムが渋い顔をしている。
それは、レキを王宮に住まわせる事に対して肯定も否定もできないからだ。
レキの力はガレムも認めている。
ミリスやフィルニイリスの語る内容については未だ半信半疑だが、それでも自分より強いだろうとは思っている。
王都までの交流で人柄においても知る事が出来た。
実力はガレム以上でも、内面はただの子供。
年相応な純粋さを持った、素直な少年だ。
ミリスが述べたように、騎士団はレキに対して多大なる恩義がある。
レキを王宮に招いた理由がそれに対する礼という事であれば、ガレムに文句をいう筋合いはないのだが・・・。
礼の内容がレキを王宮に住まわせるという事であれば、流石にそれは過ぎたものではなかろうか?とガレムは考えてしまうのだ。
ただの平民、しかも魔の森の小屋に一人で住んでいた子供という、素性だけ見れば間違いなく怪しい少年。
その少年を、姫を危機から救ったという理由だけで王宮に住まわせるというのはさすがに問題があるのだ。
先程から聞いている限り、それだけでは理由として弱いと思ったのだろう、あの手この手でレキを王宮に住まわせようと必死になって語っている二人がいる。
合流直後に言っていた"姫の命令"は今回の会議では使えない。
何せ相手がこの国の王と宰相なのだ。
二人にかかれば姫の命令などただの我侭に過ぎない。
だからこそ、ミリスとフィルニイリスは言葉を尽くしているわけだが・・・。
「お二方の意見は分かりました」
レキの有用性に始まり、この国の発展の為などと語りだしたフィルニイリスを、宰相であるアルマイス=カラヌスの言葉が遮った。
「分かったとは?」
「レキ殿のお力がこの国に有用である事、また姫様にとってかけがえのない友人である事は理解できました」
「では」
「ただし・・・その力が本当ならばの話です」
「・・・今更?」
「いえ、これ私の意見ではなく他の貴族の方々の意見と考えてください」
「・・・なるほど」
「どういうことだ?」
宰相の語る言葉にフィルニイリスは納得し、ミリスは首を傾げる。
後ろでは、ガレムがミリス同様首を傾げている。
そんな二人に宰相とフィルニイリスが同時に嘆息し、王が苦笑する。
実はこの光景、この場で行われる会議のありふれた物だった。
「レキの力の有用性は私達が保証できる。
でもレキの力を知らない者からすれば、レキは攻撃対象になる」
「何故このような子供が王宮に、と言われるでしょう。
レキ殿はただの平民、しかも素性の知れない子供なのですから・・・」
首を傾げたミリスにフィルニイリス達が説明を始めた。
後ろではガレムも耳を傾けている。
ちなみに、レキの素性についてはミリスとフィルニイリスも語っていない。
単純に、本人の許可無く語る事をどちらも良しとしなかったのだ。
レキの過去を伝えた所でレキがただの平民であることに変わりはなく、住んでた村が滅び両親が亡くなった時点でレキは身寄りの無い孤児となる。
同情は買えても孤児院を紹介されて終わる可能性があった。
だからこそレキの過去は語らず、とにかくレキの有用性のみを強く語ったのだ。
「だからこそレキの実力について説明したのではないのか?」
「それで王やアルが納得しても、他の貴族は納得しない」
「いくら陛下がお認めになったとしても、良くは思われないでしょう。
むしろレキ殿を王宮や姫様から遠ざけようと画策するはずです」
「なっ!」
レキがフランの傍にいることを良く思わない貴族は必ず出てくるだろう。
王族であるフランには、現時点では明確な婚約者がいない。
そこに現れた同年代の異性。
いくらレキが姫の護衛という名目で傍にいるとしても、必ずレキを排除しようとする者は現れるだろう。
加えてレキの身分はあくまで平民である。
ただ王宮にいるだけで、良く思わない者は現れるに違いない。
アルマイスの意見にミリスが強く反応した。
それは、恩人たるレキに対して無礼を働こうとする貴族に対する反応かそれとも・・・。
「レキをどうにか出来るはずもない」
反面、フィルニイリスは淡々としている。
アルマイスの語る内容は、フィルニイリスも危惧していた事である。
もちろん周りの貴族がなんと言おうとも、王が決めた事に反対など出来るはずもない。
宮廷魔術士長であるフィルニイリスだってレキの味方なのだ。
だからこそ良く思わない者が残念ながら現れる。
とはいえ・・・。
武力で排除しようにも、レキを排除できる者などこの国にはいない。
騎士団の総力を上げても勝てない魔の森のオーガを瞬殺したレキである。
もはや力でどうにかなる存在では無いのだ。
「とはいえ、やりようはあります」
「・・・」
武力で勝てないのであれば、武力以外を使えば良い。
むしろ武力に頼らない戦いの方が貴族の専売特許と言えるだろう。
どんなに強い騎士や屈強な冒険者であろうとも、金がなければ日々の生活に困窮してしまう。
食べる物が無ければ人は生きていけず、着る物がなければ人としての尊厳を保てない。
寝床ですら金が必要な場合がある。
例えば騎士や冒険者なら、活動の為の武具が必要だろう。
使い続ければ武具はいずれ壊れる。
そうならない為の整備、あるいは壊れた後で新たな武具を買う金がなければ、騎士や冒険者はやってはいけない。
貴族の権力があれば、そういった者達に武具を売らないという事はおろか、依頼を出さない事すら可能となってしまう。
貴族が治める領地のみであればまだ救いはあるだろうが、ここに貴族同士の繋がりを持ち出す事で、その者達はこの国で活動が出来なくなる怖れすらある。
フロイオニア王国王女フランの婚約者を巡る争いが起きた場合、まずは目障りな存在であるレキを排除する為、貴族同士が手を取り合う可能性があるのだ。
「レキ殿の武力がどれほどのものかは分かりませんが、フロイオニア王国内の貴族が団結したなら少なくとも王宮からは排除されるでしょう。
例え陛下といえども、全ての貴族を敵に回すわけにはいきませんので」
「アルの話は理解できる。
でも、アルは分かってない」
「ほう?」
「レキはその気になれば何処でも生きていける。
三年もの間魔の森で生きてきたのだから・・・」
「・・・は?」
「何故私達が魔の森でレキに助けられたか・・・それはレキが魔の森に住んでたから。
レキが魔の森にいたからこそ、私達は魔の森でレキに出会い、ここまで戻ってこれた」
宰相アルマイスの言葉をフィルニイリスが否定した。
貴族がその気になれば、確かに子供一人をこの国から排除するくらい容易いだろう。
王宮と言えども貴族の影響が無いはずもなく、王都以外の街ならなおさらその地を治める貴族の影響が強い。
他領に逃れても貴族同士の繋がりがある為、すぐに追われる事になるだろう。
フロイオニア王国内で生きる為には、貴族を敵に回すわけにはいかない。
宰相であるアルマイスが告げたのはそういう意味なのだ。
だが、それはただの子供の場合。
いや、子供でなくともただの人であるならば、貴族を敵に回せば生きてはいけないのだろう。
ただの人ならば・・・。
三年もの間誰も手も借りず、この世界で最も危険な場所である魔の森で一人生きてきたレキ。
そのレキを敵に回したなら・・・。
武力で勝り、権力にも屈せず、金銭にすら興味を抱かず、そもそも必要ともしていない。
そんな少年に貴族の権威がどこまで通用するか。
街から追い出されたなら他の街へ、国から追い出されたなら他の国へ、それすら不可能ならば魔の森へ。
それが出来てしまう唯一の存在、それがレキなのだ。
その気になれば貴族どころかフロイオニア王国全てを敵に回しても勝ててしまう少年。
国中の貴族を敵に回した所で、おそらくなんの支障も無いだろう。
むしろ全ての貴族を失う事を懸念したほうが良いくらいだ。
つまり、宰相アルマイスが心配すべき事は「レキをどうするか」ではなく「レキと敵対しない為にはどうするか」であった。
「仮に全ての貴族がレキ殿と敵対した場合、我が国はどうなるとお思いでしょうか?」
「簡単。
敵対した貴族がこの世から消え去り、国が機能しなくなる」
「・・・それほどとは」
「魔の森のオーガを瞬殺し、剣の一振りでゴブリンの群れを殲滅する者を相手に無事で済むと思うほうがおかしい」
「・・・確かに」
フィルニイリスの言葉に、宰相アルマイスもようやく理解を示した。
本来なら、個人の武力など権力の前に屈してしまう。
優れた者であれば・・・例えばエラスの街の領主の様に、功績を認められて新たな領主に、すなわち貴族に迎えられる事もあるだろう。
だが所詮はその程度。
貴族の一員になれたとしても、それで他の貴族達に対抗できるはずもなく、せいぜい自分の権力の及ぶ範囲で力を振るえる程度だ。
レキは違う。
レキの武力ならば、貴族どころかフロイオニア王国そのものを落とす事すら可能なのだ。
それほどの武力を前に、貴族の権威などなんの意味があるだろうか。
むしろ余計な手出しをしてレキを敵に回さないよう、貴族間で徹底した方が良いくらいだろう。
貴族の権威や権力を持って、レキという存在と友好関係を結ぶ。
コレこそが正しい方法である。
「・・・良く、分かりました」
「分かればいい」
「いえ、分かったのはレキ殿の危険性です」
「危険?
レキは安全」
「確かに味方のうちは安全なのでしょう。
ですが一度敵に回せば・・・」
「そうならない為に城へ招いた。
レキと私達の間には確かな信頼関係がある。
その関係を元に、更に友好を深めるべき」
「ええ、そうでしょう。
最低でも敵対関係にならない程度には友好を深めるべきです」
アルマイスとフィルニイリスの間に温度差があるものの、レキと友好的であるべきという点では一致を見た。
敵対しなければそれで良しとするアルマイスと、味方にすべきと主張するフィルニイリスではあるが、少なくともレキを王宮へ招き入れる事には問題はない。
問題はその後、レキを王宮に住まわせた場合の貴族への対策であるが・・・。
「レキ殿を王宮に住まわせる理由が必要ですね」
「姫の恩人と専属護衛、ついでに魔術の指南役」
「恩人は分かりますが後は難しいでしょう」
「子供だから?」
「ええ、フィルニイリス殿が語った功績をそのまま信じる者などおりますまい」
現実離れし過ぎていますから」
「・・・むぅ」
森で勧誘した際の名分を再び持ちだしたフィルニイリスだが、あっさりと却下された。
どれほど強く実績があっても、子供のレキではどうしても説得力にかけてしまうのだ。
見た目と実力がそぐわない者などこの世界には大勢いるが、護衛や指南役には実力以上に知識や経験が必要な場合が多く、子供のレキにはそれが圧倒的に足りていない。
そもそも実力の時点で疑われているのだから、その他の理由など二の次だろう。
「ふむ、ならばその少年の実力を見せつけてやれば良いではないか」
「・・・陛下?」
今まで会議を静観し続けていたフロイオニア王が口を開いたのは、打開策が出ないまま会議に沈黙が降りようとしたその時だった。




