第66話:いざお城へ!
「うわぁ~・・・」
「ふふっ、レキ君はお城を見るのは初めてですか?」
「うんっ!」
「ふふん、ならばわらわが案内してやるのじゃ!」
「その前に陛下へ帰還の報告」
「むぅ」
「そうですよフラン様。
陛下だってご心配されていたのですから」
「わ、分かっておる。
ちゃんとただいまを言うから安心するのじゃ」
「はい、よろしい」
初めて見る王都の街並みと、王都の中心に位置する白亜の城を見ながらレキが感嘆の声を漏らした。
王都から遥か遠くにあった辺境の村に生まれ、その後は魔の森で生きてきたレキである。
王都について元冒険者である両親から聞いた事はあったが、レキからすれば物語の世界の話だった。
その王都と城を初めて見たレキは、自分が物語の世界に入り込んだような・・・そんな感動を味わっていた。
馬車から身を乗り出して城を見るレキを、リーニャ達は微笑ましく見守る。
王族であるフランなどは、実際に住んでいるだけに大変自慢気だ。
今すぐにでもレキの手をとり、王宮内探検ツアーに乗り出したくて仕方ないという様子である。
もちろんその前にやるべき事は多いのだが。
王都の門をくぐり、せわしなく周囲を見るレキを落ち着かせながらも、ようやく王国が誇る白亜の城、フロイオニア城の門前に到着した一行。
野盗に襲われ、必死で逃げていた時などは、命を賭してでもフランを王宮へなどと考えていたのだが、気がつけばリーニャ達すら道中をすっかり楽しんでいた。
合流した騎士団長ガレムを揶揄う際に述べていた「レキが受け入れられない場合は皆でこのまま旅を続ける」という言葉も、案外悪くないかもと本気で思ったりもしている。
フランなど、後でそのやり取りを聞かされて非常に乗り気で、あろうことか騎士団の目を盗んで脱走しようと目論んだくらいだ。
レキがいれば目を盗まずとも力づくで抜け出す事も出来ただろう。
もしかしたら今頃は、どこか別の街をのんびり散策していたかも知れない。
それをしなかったのは、レキが「ちゃんとただいまって言わなきゃだめだよ」とフランを叱ったからだ。
レキにそう言われてしまえば、さすがのフランもおとなしく帰るしかなかった。
言いたくても「ただいま」を言えない人もいるのだ。
そんなやりとりを経て、レキ達はようやくフロイオニア城へと辿り着いた。
純人族の国の中心とも言えるこの城は、まだこの大陸が種族間で争い続けた頃から存在しているだけあって、荘厳かつ堅牢で威厳に満ちた美しい城だ。
フロイオニア城を中心として建設された王都もまた非常に整理された街並みで、見た目の美しさ以上に機能性にも長けた造りをしている。
王都を囲う城壁もこれまで立ち寄った街より頑強で、その全てが戦乱の歴史を感じさせるものだった。
もちろん、戦争を知らないレキにそんな事分かるはずもないが。
「今までの街より綺麗だねっ!」
「ふふっ、王都ですから」
「純人族の国はこの大陸に三つある。
フロイオニア王国は純人族の中心とも言える国。
城も王都もそれにふさわしい作りをしている」
「へ~・・・」
レキは、ただただ馬車から見える王都の街並みに感激していた。
その様は、まさに初めて王都に来た田舎の子供といった様子だった。
もちろんそれを馬鹿にする者などここにはいない。
「ふふんっ!
ここが我がフロイオニア王国の王都じゃ!」
自分の生まれ育った王都を褒められ、自慢気に胸を張るのはフロイオニア王国王女フラン=イオニアである。
「うんっ!
すごいっ!」
「ふふん。
そうじゃろ!」
「あっ、あれ何っ!?」
「あっちはのう・・・」
レキの反応にご機嫌なフランと、そんなフランにあれこれと尋ねるレキ。
王都を立って一月半程。
一時は命すら危うかったフラン達は、ようやくフロイオニアの王都へと帰ってきた。
これからフロイオニア城へと向かうわけだが、レキとフランの意識は城下街へと注がれているようだ。
「あっ、武具屋!」
「あの店は王都でも一番人気らしいのう」
「へ~・・・すごいなぁ」
「うむ、ならば行ってみるのじゃ!
ミリス!」
「ダメです。
まずは帰還の報告が先です」
「にゃぁ・・・」
騎士団長ガレム率いるフラン捜索隊と合流して以降、レキ達は全ての街や村をスルーしている。
レキ達はともかく、騎士団もとなれば街へ立ち寄るのは迷惑になるからだ。
フロイオニアの王都の前に立ち寄るはずだったいくつかの街。
街へ立ち寄り、みんなと一緒に散策しようと楽しみにしていたレキとフランは、その予定がなくなってしまった事に若干の不満を抱いていた。
王女であるフランが行方不明となり一月以上。
捜索に出た直後に見つかり、フランの無事は早急に王宮へと伝えられたものの、無事なら早く連れ帰るのは当然である。
そんな事も知らず、話でしか知らない王都の街並み、それを眺めるレキがキラキラとした目で訴えてくるものだから、フランも自慢したくて案内したくて一緒に街を見て回りたくて仕方なかった。
野盗に襲われ、魔の森へ逃げ込み、あわやオーガに食べられそうになり、命からがら王都へ帰還した事など既に忘れているのかも知れない。
大好きな友人と一緒に王都へやって来た、どこにでもいる女の子がそこにはいた。
王都はフランが生まれ育った場所であり、今までも散々歩きまわった場所である。
だが、今は隣にレキがいる為か、いつも以上にはしゃいでいるようだ。
これまで立ち寄った街でもはしゃいでいた為、いつも通りと言えなくもないが。
「王都の散策ならこれからいつでも出来ますよ」
「うむ」
「もちろんその時はレキ君も一緒にですね」
「うん!」
まずは城へと注意されて落ち込むフランと、お上りさん状態でただ眺めるだけで感動しているレキの温度差は以外と大きい。
とはいえ、フランもいつまでも落ち込んでいるわけでは無く、レキの隣で見飽きたはずの王都を楽し気に眺め始めた。
――――――――――
フロイオニアの王都は城を中心に広がっており、城から東西南北へと広く道が通っている。
それらは四方に設置された門に真っ直ぐ繋がっており、それぞれ東通・西通・南通・北通と名付けられていた。
南門から王都へ入ってきたレキ達は、門から城へと繋がる南通をゆっくりと移動中である。
数日前、この南通を騎士団三個中隊が凄まじい勢いで駆け抜けた。
その様子は当然王都の住人の注目を集めており、王都の住人はそれぞれ何事かと噂し合っていた。
魔物の大群が攻めてきた、いや大規模な野盗の討伐だ、龍退治では?といった具合である。
中には不可侵領域である魔の森の調査に国が乗り出したのでは?といったものまであった。
そんな騎士団がわずか数日で戻ってきたとあれば王都の住人の噂はさらに加熱するだろう。
そこに、行きには見られなかった馬車が騎士団に守られるように存在していたならば、住人の注目は間違いなくその馬車へと注がれてしまう。
馬車に乗っているのが。一月以上前に王都を発ったフラン王女とあれば、加熱どころか混乱と化すに違いない。
混乱は憶測を呼び、事態を収拾するのに支払われる労力はどれほどになるか・・・。
そういった点を考慮に入れ、フラン達は騎士団とは別に王都へ入っている。
その御蔭で王都の街並みをゆっくり見られたレキはご満悦。
隣で楽しそうにレキにあれこれ街並みを教えるフランもまたご満悦。
そんなフランとレキを見守るリーニャとフィルニイリスもご満悦。
ついでに、お子様二人が御者席側に身を乗り出している為、レキとフランに挟まれているミリスもご満悦だった。
この一行を見て、誰が野盗や魔の森のオーガに襲われ、命からがら逃げてきた一行だと思うだろうか。
初めて来た王都にはしゃぐ子供と保護者にしか見えなかった。
王都の南通を真っ直ぐ進み、一行はフロイオニア城の城門へと到着した。
門前には数名の騎士が油断なく立っている。
当然フラン達の乗る馬車にも目を止めたが、御者を務めるミリスに気付くとさっと敬礼をした。
心なしかその表情は緩んでいて、中には目に涙を浮かべる者もいるほどだ。
フランが行方を断ったという報は、騎士団全員に通達されていたようだ。
騎士達に見送られ、馬車はゆっくりと城内へ進んでいく。
「うわぁ~・・・すごいすごいっ!」
「ふふん、そうじゃろそうじゃろ」
生まれて初めて入ったお城に興奮するレキ。
平民の子供が王都はともかく城内へ入る事などまず無い。
何かしらの功績を上げるか、村長や領主を通り越して何か訴えを起こさない限り、生涯を通じて無縁であってもおかしくは無いだろう。
そんなお城に、素性はただの平民でしかないレキが興奮するのも当然であった。
馬車を騎士に預け、一行は城内へと入っていく。
キョロキョロと辺りをせわしなく眺めながら、フラン達に連れられてレキは城内を進んで行った。
緊張しないのは城内の珍しさが勝っているからか、または一緒にいるのがフラン達だからか、それとも単純に緊張とは無縁の性格だからか。
とにかく珍しい物だらけの城内を進むレキは、間違いなくただの子供だった。
レキが落ち着いたのは、謁見を待つ部屋で一息ついてからだった。
「申し訳有りませんが、レキ君はこちらのお部屋でしばしお待ち下さい」
「うん」
「これからレキ君は国王陛下、つまり王様にお会いになって頂きます・・・が、通常王様に会うには様々な手続きや準備が必要になります。
今回はレキ君がフラン様の恩人であり、ここまで護衛も務めたという事もあって、煩わしい手続きこそありませんが、それでもいろいろと準備は必要なのです」
「ふ~ん」
良く分かっていない様子のレキに、リーニャが苦笑を見せた。
フロイオニア王国王女フラン=イオニア。
彼女の恩人との謁見となれば、王国側としても迎える準備が必要である。
謁見の間では、今頃その準備に追われている事だろう。
あらゆる行程を飛ばし、直接王に拝謁できるという栄誉。
レキには良く分からない世界の話である。
「レキ君はフラン様の命を救い、ここまで連れて来てくれましたよね?」
「うん」
「そんなレキ君に、フラン様のお父上である王様が直接お礼を述べたい、という事です」
「そっか~」
レキにわかりやすく、肝心な部分のみを伝えるリーニャである。
一国の王が直々に礼をする、それがどれほどの事かはあえて伝えない。
余計な不安や緊張を招いても仕方ないと判断したからだ。
・・・伝えても分からないだろう、とも思ったが。
「フランのお父さんって王様なんだね」
「うむ」
案の定、レキは今更な質問をしてきた。
知ったところで何か変わるわけでもないのだが、フランが姫でありその父親が王様である事は理解できたようだ。
道中、身分を隠す為、誰もフランを王族扱いしていなかった事もあり、レキの中でフランはただの女の子でしかない。
フランが王族らしくないというのも、一役買っているのだろう。
「フランが姫かぁ~」
「うむ、わらわは姫じゃ」
「姫って何する人なの?」
「・・・知らんのじゃ」
「え~」
王女である事は理解しても、それがどういった存在なのかまでは分かっていなかったようだ。
フラン自身王族としての自覚がなく、王族がどういった存在であるかも良く分かっていない。
フロイオニア王国で一番偉いのが王様であり、フランはその娘であるという事。
王様は国中の人達に命令が出来る立場にあり、フランもそれに準ずる事が可能である事。
だからこそ王族には相応の責任があり、フランにもその一端がある事など。
「王族には権利と義務があります。
フラン様も陛下ほどではありませんが、王族として民を導く義務があるのですよ?」
「ふ~ん・・・」
「う~む・・・」
リーニャに説明され、レキとフランは仲良く首を傾げた。




