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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第65話:旅の終わり

「だ、ダメだよそんなの!」


三人からの王都出奔を聞かされ、ぐうの音も出なくなったガレムに代わり、焦ったのはレキだった。


「レキ、どうした?」

「だ、だって、みんなお城からいなくなったらお城の人困っちゃうよ!?」

「大丈夫、今の宮廷魔術士達は優秀だから」

「私は所詮小隊長だしな」

「王宮の侍女も私以外たくさんいますから」


自分のせいでリーニャ達が城を出ると聞かされては慌てずにはいられないわけで、レキが両手を振って必死に抗議した。

久しぶりに見るレキの慌てよう、加えてその理由が自分達の事だからか、これまでレキの行動に慌てさせられる事の方が多かった三人がここぞとばかりに笑顔になった。


「みんないなくなったらフランも困るしっ!」

「それなら大丈夫ですよレキ君。

 フラン様も一緒ですから」

「えっ!?

 そうなの?」

「私達が王宮に戻らないと言えば、姫も絶対着いてくる」

「いいの?」

「問題ない」

「いえ、無くはないですが・・・。

 でもそうですね、少しばかり帰還が遅くなると思えば」

「幸い姫様の無事はここにいる騎士団全員が確認済みだ。

 多少帰還が遅れる程度、問題はあるまい」

「そっか」


身振り手振りを加えて必死に説得を試みたレキだったが、逆に説得されてしまった。

この状況でフランまでもが王宮に戻らないとなれば問題しかないのだが、あいにくレキに難しい事は分からない。

リーニャ達が大丈夫というのだからきっと大丈夫なのだろう、と納得してしまった。

フランが王都へ向かうのは家に帰るようなものだと思っているのだ。

フランの無事をガレムというフランの家の人が確認したのだから、そんなに急いで帰る必要は無いとでも考えたのだろう。

次の街も、その次の街もフランと一緒に見て回る約束をしている事だし、大丈夫だと解釈したようだ。


言うまでもないが、今まで行方不明だった王女が見つかったのだから、生存報告を兼ねて一刻も早く戻らねばならない。

野盗に襲われ、魔の森へ逃げ込んだという報告がされている以上、生きている姿を国王を始めとした王宮の者達に見せるべきである。


フランと合流した時点でガレムも早馬を飛ばしてはいるが、フラン自身が生きて王宮に戻る方が重要なのだ。


そんな事はレキを除いた全員が理解している。

していないのはレキと、いつの間にか夢の世界に旅立ったフラン本人くらいだろう。


「姫はレキを王都へ連れて行きたいとは言ったが、城へ帰りたいとは言っていない」

「そうだっけ?」

「いつもお城を抜けだしてはリーニャに叱られてばかりいるからな。

 よほど窮屈なのだろう」

「あら、ただお城を出るだけなら叱る事は無いのですよ?

 ただ、フラン様が城を抜けだそうとするのは決まってお勉強の時間なので・・・」

「あぁそれはダメだな」

「姫も勉強は苦手。

 代わりに体を動かすのは好きらしい。

 ある意味騎士団と一緒」

「まて、私達も鍛錬ばかりしているわけでは・・・」


城に戻らなくて良い理由、というよりレキが納得しそうな理由を適当にでっち上げるつもりの三人だったが、フランがこの旅を楽しんでいる事実から、城に戻りたくないという内容に話がずれていった。


「王族としてのマナーもそろそろ身につける頃なのですが・・・」

「今の姫には無理」

「あのアラン様ですらそれなりに身に着けたというのに・・・」

「ねぇ?」

「はい、なんですかレキ君」

「本当にお城戻らないの?」

「それも仕方ないかと」

「あんなに頑張ったのに?」

「旅に苦労は付き物。

 レキのおかげで今回はとても楽だった」

「ああ。

 もうしばらく旅を続けても良いかと思うくらいにはな」

「ん~・・・」


三人との会話で、城に戻る必要は無さそうだと首を傾げつつも納得してしまうレキ。

さすがにこれ以上レキをからかうのは良くないだろうと、三人は顔を見合わせた。


「・・・ふふっ、流石に揶揄いが過ぎましたね」

「嘘は言っていない」

「いや、そもそも前提が間違いなのだがな」

「・・・えっと?」


顔こそまだ笑顔だが、話の雰囲気が変わった事にレキが更に首を傾げた。

そんなレキに対し、三人が話を続ける。


「そもそもレキ君をお城へ連れて行くのは決定事項なのですよ?」

「あれっ?

 でも・・・」

「ガレムは騎士団の団長として、見ず知らずの子供を城へ招く事に懸念を抱いた。

 それは騎士団長としては正しい・・・でも」

「レキを城へ招くと言い出したのは他ならぬ姫様だからな。

 王族である姫様の決定を覆すなど、騎士団長といえど不可能なのだぞ」

「そうなの?」

「ガレムがどう言おうとレキは城へ連れて行く。

 コレは姫の命令」

「そして我々はその命令を確実に遂行しなければならない、ということだ」


魔の森で命を救われたフラン本人がレキを王宮へ招くと言い出した。

理由も、命を救われた事に対するお礼という正式なもの。

実際はただ気に入った友達を家に連れていきたいというだけなのだろうが、それでも王族であるフランが願ったのだ。

フランに仕えるリーニャが、宮廷魔術士フィルニイリスが、王国騎士のミリスがその願いを叶えるべく全力を尽くす事は当然だった。


ガレムの懸念も理解できるが、だからと言ってフランの命を救い、ここまで護衛を務めた功績を無視するわけにはいかない。

加えて、フランが直々に王宮へ招いたのだから、今回レキを連れて行くは確定事項なのだ。


「あれっ?

 じゃあお城に行けないっていうのは?」

「ああ、その時はみんなで旅に出ようという話か?」

「うん」

「ふふっ、それだけ私達にとってレキ君が大切だということですよ」

「・・・」

「・・・照れてる?」

「う~・・・」

「ははっ」


今ひとつ、自分の重要性が理解できていないレキにとって、今回のやり取りは良い薬だった。

カランの村での出来事以降、人の感情に敏感になっていたレキ。

力は時に人々を怖れさせ、時に感謝される事もある。

フラン達は感謝し、カランの村人は怖れ、トゥセコの街では称賛された。


そんなレキだからこそ、自分達はこんなにもレキを大事に思っているのだと伝えなければならなかった。


ガレムの懸念を知ったレキが、みんなの迷惑になるくらいならと魔の森へ帰ってしまう可能性もあった。

魔の森にあるレキの小屋へ、リーニャ達だけで会いに行くのは難しく、下手をすれば二度とレキに会えないかも知れないのだ。

そうならない為にも、自分達がどれだけレキに感謝し、レキの事が大好きなのか知ってもらう必要があった。

レキが一緒にいるのは迷惑でも何でもなく、むしろレキがいなくなる事の方が迷惑なのだ。


もしレキが王宮に入れないなら、自分達もレキと一緒に城を出る。

そのくらい自分達はレキを気に入っているのだと。


王宮にレキを知る者はいない。

中にはレキを平民だと見下す者もいるだろう。

素性の知れない子供だと、粗雑に扱う者もいるかも知れない。

レキの力を知った者が、レキを怖れるかも知れない。


時間さえかければレキに対する印象は変わるだろう。

そもそもがフランの恩人なのだから、表面上はレキを粗雑に扱う事はないはず。

だが、カランの村人が怖れた事をレキが察してしまったように、城の者達がレキを見る目をレキ自身が察するかもしれない。

もし、レキにとって王宮の居心地が悪ければ・・・。

王宮にレキの味方が誰もいないなどと、レキが思ってしまったなら・・・。


そうならない為にも、今の内から自分達はレキの味方だと教えておく必要があった。

何があってもレキの味方だと、レキの事が大好きなのだとレキに理解してもらう必要があったのだ。


本来なら、王都へたどり着くまでの間にゆっくりと知ってもらうつもりだったのだが、ガレム達捜索隊と合流してしまえばその時間も無くなる。

立ち寄る街でフランと共に過ごせば、レキも子供らしく自分達と楽しく過ごしてもらえたはず。

その時間が無くなってしまった為、リーニャ達はやや強引にでもレキへの好意を知ってもらう事にしたのである。


ガレムの懸念が理解できるからこそ、今のうちに知ってもらいたかった。

レキはすっかり照れてしまったが、それでも伝えたい事は伝わったようだ。


「も~っ!」


少しやり過ぎたようだ。


いずれにせよ、レキを王宮へ招く事に関する懸念はある程度晴れたといって良いだろう。

晴らした、というよりフィルニイリス達が強引に黙らせたと言った方が良いが、もともとレキの人柄に問題は無かったのだ。

フランの命を救い、ここまで護衛を務めた恩人に何もせず追い返したとあっては、騎士団はおろか国としての矜持にかかわってしまう。

ガレムも本当のところでは分かっていたからこそ、最終的には黙ったのだろう。


あとは無事、王都へとたどり着くだけ。

魔の森で出会ってから幾日、レキ達の旅がいよいよ終わろうとしていた。


――――――――――


「それでガレム。

 レキの人柄は?」

「むぅ・・・」

「見た通りレキはまだ子供。

 私達を助けたのはたまたまであり、レキに後ろ暗いものは無い。

 当然レキの背後に誰もいない。

 城へ招いたのは姫の意思であり、レキが望んだ事ではない。

 何より私達はレキを信頼している」

「まぁ、お前達があの少年を信頼しているのは良く分かった。

 そして少年が見た目道りの子供だという事もな」

「当たり前」

「いや、その少年の功績が見た目にそぐわないからだな・・・」

「見た目で判断するなど愚か者のすること。

 間違っても騎士団長がして良い事ではない」

「ぐっ・・・」

「まぁ脳筋だから仕方ない」

「ぐぬぬっ・・・」

「それで、レキを城へ招く事に異論は?」

「・・・無い」

「それで良い」

「まぁ、お前らのおかげであの少年の人柄は大体わかったからな。

 フラン様のご友人にして命の恩人であるレキ殿を、我々騎士団が責任をもって王都まで連れて行く事を誓おう」

「うん」


――――――――――


それからの道中は実に順調だった。

トゥセコから次の街まで三日。

ガレム達と合流した地点からは二日の距離を、レキは騎士団と共にのんびりと進んだ。

流石にこの辺りには野盗などおらず、魔物ですら時折姿を見る程度。

その魔物も騎士団を恐れたのか、ほとんどが近づく事すらしなかった。

一日後には街で分かれた二中隊の一つが、更にその半日後にはもう一中隊が合流し、フラン達の捜索に出向いた騎士団が勢揃いしていた。


これだけの人数では街によるわけにも行かず、結局王都へ着くまでは野営が続いてしまった。

必要な物資のみ、騎士数名が街へ購入に赴き、街からやや外れたところで休息をとる。

せめてフラン達だけでも街の宿に、という意見もあったが・・・ただでさえ野盗の襲撃にあい、逃げ延びた魔の森でオーガに食われかけたフランを騎士団の目の届かない所に泊める事に、ガレム以下騎士団全員が難色を示した。

街を目の前にしながら立ち寄る事が出来なかったフランが全力で不満を訴えたが、レキが狩ってきた魔物を一緒に料理するうちに機嫌を治したようで、食事後はいつもの様にレキと一緒にそこら中を笑顔で駆け回っていた。


王都へ着くまでの食料は主にレキが狩っていた。

騎士団とて食料が無いわけではないが、あくまで遠征用の食料であり、余裕のある今となっては好んで食べたい物ではなかった。

近隣の街での購入という手も考えたが、騎士団三個中隊の食料を一度に確保するのは難しく、ならば合流初日のレキの様に魔物を狩れば良いという結論に達したのだ。

しいて言えば、付近に三個中隊分の食料となるほどの魔物がいないという事だろう。


そもそもレキは近くとは言えない場所で魔物を狩っており、レキのように狩りをするならそれこそ移動だけで半日以上を費やす必要がある。

レキの狩りの成果については初日に合流した騎士団全員が見ているが、魔物の少ないこの辺りであれほどの成果を出すのはレキ以外には不可能だった。

レキ自身狩りには積極的であり、ついでにフランが胸を張ってレキを自慢したので任せる事にしたのだ。


途中で合流した騎士団も最初こそ疑ってはいたが、山積みの魔物を前にして疑いの声は驚愕に、そして賛美へと変わった。

ミリス曰く実力主義な、フィルニイリス曰く脳筋の集まりの騎士団。

レキの実力に難癖をつける事なく素直に認めるあたり、あながち間違っていないようだ。


このように、レキは騎士団と合流した後も相変わらず狩りに全力を尽くし、結果騎士団全員からの信頼を得た。

それを見たフィルニイリスがちくちくとガレムに何か言っていたようだがそれはまた別の話。

ついでに言えば、こうも早く騎士団の信頼を得られたレキに対し、自分達の懸念は何だったのでしょうかとリーニャがこっそり悩んだ事もまた別の話である。


狩りの成果に加え、移動中や食事後などの無邪気な様子から、騎士団内のレキの評価は「凄まじい力を持った子供」となったようだ。


力こそ凄いが、それでも子供である事に変わりはないという評価である。

化物などという不当なものではなく、当然ながらカランの村の様に怖れられる事も無かった。


自分達の分まで魔物を狩ってくれた事への感謝、そしてフランと戯れる無邪気な様子。

小隊長であるミリスから聞いたレキの武勇、特にフランを救ったという話が加わった結果である。


王都までの道中、レキは合流した騎士団員から感謝を抱かれつつ温かく見守られながら過ごした。


そして・・・レキが魔の森を出てから約一月。

レキ達一行は、ついに王都へと辿り着いたのである。

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