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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第62話:レキの頑張りとミリスの評価

「これは?」


驚愕に固まるガレムに代わり、フィルニイリスが問いかけた。

ガレムと違い予想が付いている、と言うか見慣れている為、問いかけと言うより確認、あるいはガレムに聞かせる為あえて聞いたに過ぎない。


「獲ってきた!」


そんなフィルニイリスの問いかけに、レキが胸を張って答える。

天幕内でガレムと話し合っている間の、わずかな時間でどこぞへ飛んで行って狩ってきたようだ。


「レキ君、それでは伝わりませんよ?」

「えっ、そうなの?」

「ええ、ですから私が」


道中、レキの狩りに散々お世話になっていたリーニャ達である。

おかげで食材に困る事は無く、あえて言うなら魔の森を出た当初は野菜や調味料の類が無かった事くらいだろう。

エラスでもトゥセコでも、そういった物ばかり購入していた。


今更レキの狩りの成果を見てもリーニャ達は慌てない。

だが、それはレキの力を知っているからだ。

知らない者が見ればどうなるかは、ガレムが良い例だろう。


そんなガレム達に聞かせる為、レキに代わりリーニャが説明を始めた。


ガレムに誘われ、天幕へ入っていくフラン達を見送ったレキは、最初はおとなしく待っていた。

だが、周りには多くの子供が憧れる王国の騎士団がいる。

冒険者ほどではないが、一揃えの綺麗な武具を身にまとった屈強な騎士団には、レキもついつい目を惹かれてしまった。

そんな子供らしい様子のレキを騎士が粗雑に扱う事はなく、むしろフラン達と仲良さそうにしている少年に少なからず興味があったようで、遠征中に立ち寄った街や村で出会う子供達同様、愛想よく接してくれた。

嬉しくなったレキは騎士の武具を見せてもらったり、実際に剣を振るう姿を見学したりしていたところ、騎士団が準備していた食事に目がいき、そして・・・。


「どうせなら騎士団の方々にも同じ物を食べてもらおうと」

「狩りに出かけた、と?」

「ええ」

「それでこの山・・・か」

「うん!」

「お~、さすがレキなのじゃ!」

「へへ~」


山積みの魔物の前で和やかに談笑する五人と、それを声もなく見守る騎士団及びその団長。

レキの凄さに慣れた者と初見の者という、分かりやすい構図である。


「なぁ」

「はい、なんでしょうガレム様」


ようやく衝撃から復活したガレムがリーニャに声をかけようとして・・・。


「いい加減お腹空いたのう」

「あ、俺も!」

「先ほど仕込んだ鍋は?」

「先ほど火にかけなおしました。

 そろそろ食べごろですね。

 ガレム様もご一緒にどうですか?」

「あ、ああ・・・」


空腹の王女に中断させられた。


なお、山積みの魔物はレキからの好意という事で騎士団に提供される事となった。


「それにしても良くこれだけの数の魔物を狩ってきたな」

「というか何処にこれほどの群れが?」

「えっとね、あっち」

「あっち?」


レキの指差す方に目を向けるミリスだが、残念ながらその先には平原しかなかった。

以前にも、自分達がギリギリ目視できるほど遠くにある丘までひと狩りしてきた事のあるレキである。

指さす方に何があるかは分からないが、レキなら何でもありだろうと半ば諦めの境地にいるミリス達。


「相変わらずだな」


今回も、いつもの事だと苦笑一つで済ましてしまった。


「あの少年は何者だ?」

「・・・さぁ」


もちろんこのやり取りはガレムを含めて騎士団全員が見ている。

皆、レキに対して非常に興味深げな目を向けていた。


その視線に、畏怖の感情が宿っていないのが救いだろう。


今騎士団が向けている視線は、レキという存在を見極めんとする観察者の目だ。

レキの実力を正確に測り、国やフランに対して害があるかどうか。

害があれば即座に排除に出るだろう。

例え敵わずとも、それが騎士団の務めなのだから。


畏怖しなかった理由はいくつかあるが、そのうちの一つに今回狩ってきた魔物がダークホーンだからというのが挙げられた。


ダークホーン。

鋭い角を持った牛の魔物。

その角を前面に出した体当たりは騎士の鎧をたやすく穿ち砕く。

体格は通常の牛より大きく、筋肉と毛皮で覆われている為剣も通りにくい。

肉は非常に美味で、内臓もほとんどが食せる。

代名詞となる角は硬く、そのまま武器として使う事も可能なほどだ。

毛皮も、加工すれば服や敷布、毛布などに利用できるだろう。

冒険者で言えば魔鉄級冒険者が討伐を担当する魔物である。


そんなダークホーンだが、実のところ同列の魔物より比較的狩り易い。

鋭い角は厄介だが、真正面から体当たりしかしてこない為、慣れた物なら十分避ける事が出来る。

速度もソードボアより遅く、フォレストウルフの様に小回りもきかない為、生息地が平地である事も重なって比較的安全に討伐できるのだ。


難点といえば、ゴブリンやフォレストウルフ同様群れで行動する事と、剣が通じにくい為力の弱い者では討伐に時間がかかってしまう事だろう。

それも、魔術士が遠距離から魔術で数を減らしつつ、傷ついた個体を順に仕留めていくという戦術でなら問題なく殲滅する事ができる。

ただし、その場合は毛皮は素材として使い物にならなくなり、肉もまた血抜きが出来ず不味くなってしまう。


討伐後の素材の事を考えればある程度の実力が必要だが、ただ倒すだけなら問題の無い魔物、それがダークホーンである。


とはいえ、一人であれほどの数を仕留めるのは難しいが、それでも不可能ではない。

騎士団長であるガレム、剣姫と称されるほどの実力を持つミリスと言った手練れなら、時間さえかければ同程度の数を討伐する事は出来るだろう。

宮廷魔術士であるフィルニイリスなら、遠距離から魔術を放てば単独で殲滅する事も可能だ。

もちろんあれほど上手く、余計な傷をつけずに倒すのは無理だが。


レキほどの子供が行った行為と、倒されたダークホーンの毛皮や肉の有用性を見れば異常だが、それさえ除けば自分達でも出来る。

それが、今回騎士団がレキを畏怖しなかった理由の一つである。


「レキ君はもう少し加減を覚えませんとね」

「リーニャ?」


騎士団からの視線が変わった事をリーニャも察したようだ。

森で救われた際、レキの心の一端に触れたリーニャは、レキの幼さを知る一人である。

だからこそ、今回の行動の裏にある理由にも気づいていた。


「レキ君は少しばかり頑張りすぎただけなのですよ」

「どういうこと?」

「憧れの騎士の皆さんに美味しい物を食べてもらおうと、頑張ったのでしょう」

「ほう」

「先ほど騎士の一人が私達の用意した鍋を見て美味しそうだと言っていましたし、折角だから同じものを食べてもらいたかったのだと思います」

「さすがレキなのじゃ!」

「なるほど、分かった」


レキの心情を知り、思わず笑顔になるミリス達。

反面、己の心情を的確に言い当てられたレキは少しばかり恥ずかしそうにしていた。

別段隠すようなことではなく、むしろ褒められる行為なのだが、自分で言うのと他人に言われるのとではいささか違うらしい。

フランはいつも道り誇らしげで、レキの代わりに料理された鍋の前で何故か胸を張っていた。


山積みの魔物。

それを僅かな時間、たった一人で狩るレキを遠巻きに見ていた騎士団も、レキとフィルニイリスのやり取りにある程度調子を取り戻したようだ。

先程までの視線は鳴りを潜め、変わりに込められたのは歳相応の子供を見る暖かな目と、自分達のため魔物を狩ってきてくれた事に対する感謝の目だった。


騎士団総出でレキが狩ってきた魔物を解体し、それぞれが鍋で煮込む。

次々と感謝の言葉を告げる騎士達に、レキも笑顔を見せた。


――――――――――


日はとうに沈みきっていたが、そこかしこに設けられた篝火のおかげで周囲一体は昼間のように明るい。

そんな空間を、一足先に食事を済ませたフランとレキが楽しそうに歩き回っている。


フランは久しぶりに会った騎士団の面々にレキを紹介し、レキはレキで騎士達の剣や鎧にキラキラした目を向けながら挨拶している。

騎士達も、街や村の少年に接するように、剣を見せたり鎧に触らせてあげたりと温かく接していた。

そこには、食事のお礼以上にフランの恩人への敬意と謝意が込められているようだ。


普通ならあんな幼い少年がフランの命の恩人だなどと信じるはずもない。

ただ、リーニャやミリス、フィルニイリスまでもが口をそろえて恩人だと語った。

何より山積みのダークホーンが証明となったようだ。


実際にレキがダークホーンを狩る場面を見たわけではないが、黄金をまとって野営地から飛んで行く姿や、何体ものダークホーンを抱えて戻ってきたレキを目撃した騎士は多く、いささか現実離れした光景ではあったが疑う余地は無かった。


ちなみに、ダークホーンを単独で倒せるのは騎士団でいえば小隊長クラスだろう。

実力主義を旨とする騎士団の中で、どの程度の魔物を仕留められるかは実力を示す分かり易い指標と言える。

もちろん実力だけで階級が上がるわけではない。

知識や指揮能力、人柄なども考慮に入るが、それでも実力の伴わない者が上の階級に上がる事はまずない。

騎士は民を守る為、民の前に立って戦わなければならないからだ。


なお、騎士団の中には特殊な事情により実力にそぐわない階級の者がいる。

と言っても実力が不足しているのではなく、むしろ実力がありながら低い地位にいる者である。

中隊長はおろか大隊長クラスの実力を持ちながら、小隊長の地位にいるミリスもそのうちの一人だった。


そんなミリスはと言えば、先ほどより詳しい話と報告をする為、ガレムに呼ばれて天幕へと赴いていた。

食事は、周りの騎士に悪いと思いながら一足先にフラン達と済ませている。


「それで、あの少年の話は本当なんだな?」

「はい、間違いなく」

「・・・そうか」


今回呼び出された内容は、フィルニイリス及びフランの話の補足、並びにミリスの視点から話を聞きたがったからだ。

フィルニイリスは必要以上の事は話さないし、フランはフランで余計な事ばかり話したので、ミリスの観点からの説明を求めたのである。


しかし・・・。


「魔の森でオーガを圧倒、森の主であるシルバーウルフと友誼を結び、森を出てからもアースタイガーを初め様々な魔物を瞬殺。

 エラスの街では初級魔術で悪漢を倒し、カランの村では100匹程のゴブリンの群れを一撃で仕留め、就寝中にも拘わらず遠くの外敵を察知したと・・・」

「はい」

「・・・本当に純人族か?」

「はい」

「・・・そうか」


改めて見ればとんでもない内容だが、魔の森からずっとレキを見てきたミリスにとっては今更の事である。

そんなレキにミリスも救われているのだ。


「ふむ、一先ずお前の話は分かった・・・」

「はい」

「それで本題だが・・・」

「はい」

「・・・」


別に、ガレムはミリスの話を疑っているわけではない。

フィルニイリスは揶揄いはすれど嘘はつかず、フランは誇張すれど嘘がつけない性格をしている。

ミリスに至っては馬鹿正直という言葉がふさわしい気質であり、むしろもう少し肩の力を抜け・・・などと余計な心配をしてしまうほどだ。

だからこそミリス達の報告に疑う余地は無いが、騎士団長として確認しなければならない事があった。


「彼は、信用できるのか?」

「もちろんです」


出会ってからまだ数日。

これまで一緒に旅をして、寝食を共にした仲とはいえ、信頼しすぎではなかろうか?

レキの素性を知らないガレムにとっては当然の意見だった。


だが、それはあくまでガレムの話。

ミリスとしては、自分はおろか主君であるフランの命の恩人にしてこの数日間何かと世話になってきた少年である。

疑いの気持ちなど欠片も抱いていない。


「・・・そうか」

「はい」

「・・・誓えるのだな?」

「はい、騎士の誇りにかけて」


再度の確認、いや念押しにミリスは言い切る。

これが騎士に成りたての者なら、その言葉に重みは無かっただろう。

だが相手は真面目すぎるほどのミリスである。

その言葉に嘘偽りが無い事は、騎士団長であるガレムが良く知っていた。


「・・・わかった」


ミリスの言葉を受け、ガレムが頷いた。


ミリス達の言葉を信じるならば、レキという少年は大変危険な存在と言える。

魔の森でオーガを瞬殺、ゴブリンの群れを一撃で仕留め、先程もダークホーンの群れを一人で狩ってきたという。

普通に考えれば、王宮へ招き入れるのは危険である。


だが、その危険性のみに注視して王宮への立ち入りを禁止すれば、これはこれで厄介な問題となってしまう。

フランの機嫌を損ねるだとか、フィルニイリスを敵に回すだとか、リーニャに汚物を見るような視線を向けられるだとか。

個人的に立ち直れないダメージを食らうとはいえ、被害がガレム一人に留まるならむしろ上々だろう。


問題なのは、レキが王族であるフランの命の恩人にしてこれまでずっとフランを助けてきたという事実にある。

宮廷魔術士長フィルニイリスを始めとして、小隊長ながらにして専属護衛を務めるミリスや、フラン王女付きの侍女リーニャの証言もあれば疑う余地は無い。


カランの村での出来事もある。

ゴブリンの群れを撃退したという話は、フロイオニア王国に属するカランの村を救ったという事でもあるのだ。


これらを総合すれば、王宮へ招き入れてその功績を正しく評価し、何らかの形で報いる必要がある。

レキが見せた実力も、功績の裏付けとなるだろう。


つまり、今更レキを王宮へ招く事は拒否出来ないのだ。

それは同時に、レキという危険な存在を王宮へ立ち入らせるという事にもなる。


「団長?」

「ん?」

「あまり心配する必要は無いのでは?」

「・・・何故だ?」


何かあってからでは遅い。

特に今回、フランを助けたレキは間違いなくフランの両親である王と王妃と直接対面する事になるだろう。

万が一レキに王家を害する意思があったのなら・・・。

その時は、おそらくフロイオニア王国が血で染まる事になる。


そんなガレムの心配を他所に、ミリスは何の心配も無いとその根拠を述べた。


「レキの人柄はリーニャが、素性はフィルニイリスがそれぞれ保証します。

 及ばずながら私も、レキの性根のほどは見極めているつもりです。

 彼はまだ幼く、魔の森でずっと一人で過ごしてきた少年です。

 団長が危惧するような野心などまず無いと思って良いかと・・・」

「・・・う~む」

「第一」

「ん?」

「我々が危惧している事くらい、フィルニイリスが考えないはずもないでしょう」

「・・・」

「フィル曰く、我々は脳筋部隊ですからね」

「・・・ミリス」

「そういう小難しいことはフィルに任せて、我々はただ姫様を守れば良いのです。

 誰が敵で味方かはフィルが判断してくれますから」

「お前・・・フィルニイリスを信頼しているというか、ただ単に開き直っただけというか・・・」

「まぁ、そもそもレキを敵に回した時点で我々に勝ち目はありませんから」

「・・・そうか」


結局、ガレムとミリスの一番の違いはレキをどれだけ知っているかという点にあった。


レキを知るミリスは、レキと敵対する事の愚かさと、その可能性が皆無である事を理解している。

フロイオニア王国騎士団全てを持ってしても、カランの村を襲ったゴブリンの群れのように一撃で全滅してしまうだろう。

その光景が容易に想像できるからこそ、ミリスはそれ以上考えないのだ。


レキは敵か?


その問に、ミリスはこう答える。

「レキが敵なら、我々になす術はありません」と。


そうきっぱりと、胸を張って答えたミリスに、ガレムはそれ以上の言葉を持たなかった。

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