第607話:レキとゾダン=ソ
『まるで決勝戦と見紛うほどの熱戦でしたっ!
制したのはフロイオニア学園のアラン選手っ!
二年連続の決勝進出です!!
フィルニイリス様、いかがだったでしょうか?』
『アランは剣技だけでも勝てたはず。
魔術も使ったのは純人は剣も魔術も使えるのだと教える為
プレータ―学園はいい加減魔術対策をしなければ、次からは勝てる試合も勝てなくなる』
『どの学園も無詠唱魔術を会得しておりますからね。
ダーム選手もアラン選手の魔術をかわす事が出来なかったようですし。
いよいよプレーター学園一強の時代も終焉が近いようです!』
昨年の大武闘祭でも、剣と魔術、双方を使うレキとアランが一位と二位を勝ち取った。
今年もまた、まずはアランが決勝に進出。
レキもほぼ確実に決勝へと勝ち進むだろう。
鍛冶士である山人の学園、マウントクラフ学園はそもそも戦闘自体が二の次である。
商人の国マチアンブリの学園も己の実力より財力で有用な騎士や冒険者を雇うべきと教わっている。
それ以外の学園では、まずフロイオニア学園が、次にフォレサージ学園とライカウン学園が、それぞれ無詠唱へと至りその実力を大いに伸ばした。
惜しくもアラン以外敗退してはいるが、翌年以降は更に実力を伸ばしてくるに違いない。
魔術が不得手であるとは言え、せめて対抗策くらい講じておかねば、武術と狩りのプレーター学園は後れを取り続けるに違いない。
『自分が使えなくとも対策は必要。
いつまでも脳筋ではその内マチアンブリ学園にも勝てなくなる』
これは別に皮肉でも何でもない。
他学園が魔術の実力を上げれば上げるほど、マチアンブリ商国でも魔術関連の武具を取り扱うようになる。
先回から出始めた魔術反射の盾。
対魔術士用の武具ではあるが、このような武具が生まれ市場に出回るようになれば、その内魔術反射の盾すら効かないほど魔術の効果を上げる杖などが生まれ出回るかも知れない。
あるいは魔術士でなくとも魔術が使える杖なんかも、あるいは生まれるかもしれない。
そうなった時、魔術に関して碌に対策を練っていないようでは、大武闘祭はおろか世界からも遅れてしまう。
今のうちに対策を始めるべきなのだ。
――――――――――
『続いて準決勝第二試合!
昨年一年生にして初出場、そして初優勝を飾った最強の生徒。
今年の優勝候補第一位!
フロイオニア学園代表、レキ選手!!』
『きゃ~~~!!!』
先程のアラン以上の大歓声に大闘技場が実際に揺れた。
レキの魔力と上位系統すら無詠唱で扱うその魔術に、今年の会場であるフォレサージ森国の住人がこぞって見学に来ているからだ。
一回戦、二回戦共に見事なまでの魔術を披露したレキは、その魔術の実力が噂以上であると認められ、多くの住人から尊敬を集めている。
そんな大歓声に応えるように、レキが全身から魔力を漲らせた。
黄金に輝く眩いばかりのレキの姿に、歓声が更に大きくなった。
「・・・あぁ~」
「あ、ファラ~」
同時に、そこかしこから感激のあまり意識を失う者も表れたようだ。
『続きまして!
その実力は本物か!
力だけなら誰にも負けない、プレーター学園代表ゾダン=ソ選手!』
一点、ゾダン=ソへの声援はほとんどない。
レキへの歓声に完全に押しつぶされたのか、あるいは一回戦、二回戦の試合内容があまりにも目に余ったのか。
元より仲の悪い森国での大武闘祭。
プレータ―学園の生徒にとっては完全にアウェーではあるが・・・。
もちろん誰も応援していない訳では無い。
武術はさておきその暴君なまでの力に魅了されてしまう者も中に入るのだ。
ただ、レキに比べれば圧倒的に少ない。
あるいはそれは、誰もレキには勝てないだろうと察しているからか。
非難の声すら上がらないのは、そもそも誰もゾダン=ソに注目していないからかも知れない。
そんな誰からも期待されていないゾダン=ソはしかし、これまでの試合同様けだるそうに両手斧を引きづるかのようにのそのそと登場した。
『さ~て、こちらも注目の一戦です。
圧倒的な技量と魔力を併せ持つレキ選手と、圧倒的な力を誇るゾダン選手。
体格もさることながらその戦い方も対極的。
勝つのはどちらだっ!!』
等と語るヤランではあるが、そのヤラン自身レキが勝つだろうと思っている、いや分かっている。
それでも過去のレキの試合から、ある程度は互角に戦うだろう事もだ。
昨年の大武闘祭の様に、相手に悔いを残さぬ様、全ての力を出させ、受け止め、そして勝つのがレキの試合。
ゾダンには出し切るだけの技量はないが、それでもゾダンの全力の一撃を受け止めるくらいはするだろう。
その攻防を見逃さぬ様、ヤランも熱が入る。
「聞いたぞぉ~。
おめぇが去年の優勝者だってなぁ~。
ぐふふ・・・おめぇに勝てば俺が最強だぁ~」
「・・・?」
それまでのけだるい様子が嘘のように、突然やる気を見せるゾダン=ソ。
両手斧を片手でぶんぶん振り回し、試合開始を今か今かと待ち通しそうだ。
そんなゾダン=ソの様子を訝し気に見ながら、レキは先程アランに頼まれた事を思い返していた。
――――――――――
「レキ、この試合一瞬で終わらせてくれ」
「一瞬?」
「そうだ。
相手に何が起きたか分からない様、一撃で決めて欲しいのだ」
レキがこれから戦うゾダン=ソという選手は、ラリアルニルスの幼馴染であるミリアルニルスの仇だ。
仇と言っても死んだわけでは無いが、公衆の面前であのような暴行を繰り返したゾダン=ソを、試合を見ていたラリアルニルスが許すはずが無い。
ミリアルニルス本人も借りを返したいと言っているらしい。
下手にレキがボコボコにしてしまっては、最悪心が折れ団体戦に出てこない可能性があるのだ。
ゾダン=ソは子供だ。
体ばかりが大きくなり、精神が未熟なままの暴れる子供。
力任せに斧を振り、手も足も出ない状況では体ごとぶつかりに行く。
レキに負けても認めず、試合後だろうとお構いなしに暴れる可能性もあるが、状況を認められず逃げ出す恐れもある。
正直ミリアルニルスやラリアルニルスの問題ではある。
レキに圧倒され、ゾダン=ソが再起不能になろうとも自業自得ではある。
それでもアランは、仲間の為、仲間の幼馴染の為に、出来るだけ本人達に任せたいと思っているのだ。
心が折れる暇すら与えず試合を終わらせれば、少なくとも団体戦を棄権するような真似はしないだろう。
何が起きたか本人が分からなければ、後で聞かされても信じず団体戦で借りを返そうとするはず。
もちろん団体戦でもレキが先に当たる可能性はあるが、少しでもチャンスがあるならその機会を与えてやりたいのだ。
「お前にしか頼めない。
それに、お前なら容易いだろうしな」
レキの実力なら確かに容易い。
全力を出そうとも「レキなら当然」と皆も納得して貰える。
レキの実力を知らぬ者は、おそらくはゾダン=ソだけ。
ならばそのゾダン=ソには何も分からないまま退場してもらおうという考えである。
「う~ん、分かった」
「すまんな」
誠心誠意説明しお願いしたところ、アランのお願いならばと理解できぬままに了承してもらえたようだ。
やる事は簡単。
試合開始と同時に一撃で昏倒させるだけ。
ゾダン=ソの強靭な体も、レキの攻撃に耐えられず筈がない。
むしろ加減を誤らないかの方が心配である。
――――――――――
「最強になれば誰も俺様に逆らわねぇ。
今度は俺が皆を虐める番だぁ」
ゾダン=ソは誰かに勝ちたい訳では無い。
同じ代表であるダーム=ギのような、強い者と戦いたいわけでも無い。
ただ己を見下していた相手を蹂躙し、自分の強さを認めさせたいのだ。
負ける事が何よりも嫌いで、惨めな思いをしたくない。
ましてや自分より遥かに小さく弱そうな相手になど。
「おめぇなんかに俺様が負けるはずがねぇんだ。
おめぇみてぇな小さい奴になぁ」
レキは同い年の男子生徒の中では比較的小柄である。
成長期を迎え、身長も伸びてはいるが、女子の中でも小柄なフランやユミと大差なく、こういっては何だが強そうには見えない。
対してゾダン=ソは獣人の中でも大柄である。
大人と子供。
それほどの違いがある。
レキの実力を知らぬゾダン=ソが侮るのは仕方ないのかも知れない。
一・二回戦がどちらも魔術主体の戦いであったのも、ゾダン=ソがレキを侮る理由かも知れない。
もっとも、どちらもゾダン=ソは見ていない為、結果は変わらなかっただろうが。




