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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三十一章:学園~二度目の大武闘祭・個人戦~
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第604話:暴君 その二

『レキ選手見事な魔術っ!

 ラーラ選手も善戦したように思いますがレキ選手には及びませんでした~!』

『レキの機動力を削ぐという意味では間違っていなかった。

 ただあれではレキを封じ込めるには足り無い。

 赤系統か黄系統で封じ込めるのが一番』

『えっと・・・確かにラーラ選手の魔術を真正面から打ち破っていましたが・・・』

『相手が魔術士だからレキも魔術で対抗した。

 剣ならもっと楽に打ち破ってた』

『お、おぉ、そう言えば今回もレキ選手は剣を使っていませんね~。

 さすがレキ選手。

 相手に合わせて戦い、完勝しております!』


相変わらず相手に合わせて戦うのは癖になっているレキである。

それでいて圧勝するのだから文句は言えず、むしろ大会的にも相手選手も満足のいく試合となっている。


――――――――――


『それでは二回戦最後の試合ですっ!

 一回戦をその有り余る力で勝ち抜きました、プレーター学園代表代表ゾダン=ソ選手!

 対するは優先枠最後の選手です、マウントクラフ学園代表ジグ=リックプライン=ハマアイク選手!』


「あ~・・・面倒くせぇ」


両手斧を片手で引きづるように持ち、けだるそうにまず登場したのはゾダン=ソ。

一回戦の相手でありラリアルニルスの幼馴染でもあったミリアルニルスを徹底的にぶちのめした。

両手斧を振り回し、力任せに戦うその姿は、彼の傲慢さも合わさりまさに暴君と呼ぶにふさわしい。


対するはジグ=リックプライン=ハマアイク。

こちらもまた重量武器である大槌を携え、ようやく訪れた出番に意気揚々と武舞台へと上がった。


試合への意気込みは正反対。

だが武器はどちらも重量級。

体格はと言えば、獣人族の中でも特に大柄な象の獣人ゾダン=ソに対し、山人らしい筋骨隆々ながらも背の低いジグ=リックプライン=ハマアイク。

力に関しては互角だろうが、後はどれほど戦闘に長けているかが勝負を分けるに違いない。


「貴様は武具の扱い方を間違えている」

「なんだぁ~?」

「斧はただ振り回せばよいという訳ではない。

 正しく扱えば盾にも槍にもなる。

 それが斧だ」

「うるせぇなぁ・・・。

 俺様の武器をどう使おうが俺様の勝手だろうがぁ~」

「そうはいかぬ。

 山人として見過ごせぬのだ」

「・・・あぁん?」

「この試合で教えてやろう。

 正しい武器の使い方という物を」

「・・・ふ~ん」


どうやら、ジグ=リックプライン=ハマアイクはゾダン=ソの戦い方に不満があるらしい。

両手斧を片手で軽々しく振り回す力は見事だが、武器にはそれぞれ適した使い方がある。

ゾダン=ソの使い方はまるで木の枝を振り回しているのと同じ。

恐らくゾダン=ソ本人も、両手斧を選択した理由など無いのだろう。

精々が大きく自分にとって扱いやすいとか、振り回すだけで相手がぶっ飛んでいくからとか。

棍棒では無く両手斧なのは先端の両側に刃が付いているからなのかも知れない。


こだわりはなく、武器なら何でもよい。

力任せに振り回し、近づいてきた相手を容赦なくぶっ飛ばす。

獣人では無く獣、あるいは魔物のごとき戦い方に、武器を作る者として不満が募った。


ジグ=リックプライン=ハマアイクだけではない。

ゾダン=ソの戦い方や振る舞いは、先の試合を見ていた多くの者から反感を買っている。

試合として不正があったわけでは無く、卑怯な手段を用いた訳では無い。

だが、これはあくまで行事であり、六学園の交流を主とした試合だ。

相手もまた学園の代表。

最低限の敬意をもって挑まねばならず、それが出来ない時点で学園の代表たる資格はない。

そう、ジグ=リックプライン=ハマアイクは考えていた。


「貴様の性根、吾輩が叩き直してやろう」

「出来るもんならやってみろぉ~」


『二回戦第四試合、始めて下さいっ!』


「始めっ!!」


「ぬぅん!!」

「うぅらぁ~!」


二回戦最後の試合は、両者の武具の激しい激突音から始まった。


――――――――――


「ぬぅ・・・」


全力での衝突、勝ったのはゾダン=ソ。

両手斧という重量武器を力任せに振るっただけだと言うのに、力でなら獣人にも勝る山人のジグ=リックプライン=ハマアイクの大槌を見事にはじき返した。


「弱ぇ弱ぇ~。

 俺様強ぇ~」

「まだであるぞっ!

 ぬぅりゃ!!」


試合前の向上に多少はいらだっていたのだろう。

大言を吐いたジグ=リックプライン=ハマアイクに力で勝った事にゾダン=ソが嬉しそうに斧を振るう。

まるで子供のようにはしゃぐゾダン=ソに、ジグ=リックプライン=ハマアイクが再び仕掛けた。


「うおぉ~!?」

「どうじゃ!」


次に勝ったのはジグ=リックプライン=ハマアイク。

たった一撃競り勝っただけで勝ち誇っていたゾダン=ソの隙を突いた一撃は、ゾダン=ソの斧を吹き飛ばす。


とは言え今回はゾダン=ソがまともに力を入れなかったからでもある。

それでも力と力の衝突はこれでイーブン。

改めて大槌を構えるジグ=リックプライン=ハマアイクに対し、飛ばされた両手斧を拾い上げたゾダン=ソが、ギロリとジグ=リックプライン=ハマアイクを睨みつけ。


「雑魚が粋がってんじゃねぇぞぉ~!!」


再び力任せに両手斧を振るった。


――――――――――


「ふんぬっ!!」

「うらぁ~!!」

「ぬありゃ!!」

「おらぁ~!!」

「どりゃ~!!」

「だあぁ~!!」


ガキンガキンと、試合開始からずっと武舞台上で激しい金属の衝突音が響く。


どちらも力任せの全力の一撃。

技も駆け引きも何もない純粋な力の衝突。

拮抗している様に見える両者。

だが・・・。


「だああぁ~!!」

「ぐぬぅ・・・」


全力での振り下ろしに、ジグ=リックプライン=ハマアイクが苦痛に顔をゆがめつつ後ずさる。

大槌で受け止めはすれど、流石に象の獣人の全力の一撃はそう何度も受け止められる物では無い。

魔力こそ多くないゾダン=ソではあるが、象の獣人の筋力は獣人でもトップクラス。

その凄まじい筋力を身体強化する事で、力だけならオークにも勝る。

そのゾダン=ソの全力の振り下ろし。

後ずさったジグ=リックプライン=ハマアイクが元いた場所には、両手斧によって砕かれた武舞台の石材があった。


「技術も何もない・・・。

 武具が泣いている」

「うぅるせぇ~!!

 勝てりゃいいんだぁ~!!」


今までもゾダン=ソはそうして周囲を黙らせてきた。


一年前は誰もゾダン=ソの声を聴いてくれなかった。

止めてくれぇと何度も言った。

だが誰も耳を傾けてくれなかった。

まるでゾダン=ソの声が聞こえないかのように、誰もが笑いながら攻撃してきた。


攻撃が止まったのは、ゾダン=ソがその力を振るったから。


相手が自分の声を聴いてくれないなら、自分だって相手の声を聴く必要は無い。

止めてくれぃと言っても止めなかったのだから、自分も止める必要は無い。

相手が泣きながら懇願するから、ゾダン=ソは以前の相手の様に笑いながら攻撃を続けた。


それがゾダン=ソのやり方。


何かと小うるさいジグ=リックプライン=ハマアイクを黙らせる為に、ゾダン=ソは今まで通り笑いながら攻撃を続ける。


――――――――――


「くぅらぁえぇ~~!!」

「ぬぅん!!」


ゾダン=ソの横なぎの一撃に合わせ、ジグ=リックプライン=ハマアイクが大槌を下から掬い上げるように振るう。

攻撃の軌道、速度、全てを見極め振るわれたジグ=リックプライン=ハマアイクの大槌がゾダン=ソの斧を見事にとらえ、上空へと打ち上げた。


「ぬおっ!?」

「今じゃあ!!」


唖然とするゾダン=ソにジグ=リックプライン=ハマアイクの追撃が迫る。

まるで降参するかのように両腕を上にあげた状態のゾダン=ソの、その無防備な脇腹めがけジグ=リックプライン=ハマアイクの大槌が迫る。


「ぬぅりゃぁ~!!」

「うあぁ~~!!!」


虐められ続けた習性か。

迫りくる攻撃に、ゾダン=ソが思わず尻餅をつく。

反射的な行動ではあったが、後ろに倒れた事でジグ=リックプライン=ハマアイクの大槌から逃れる事が出来たゾダン=ソ。


「ぬぅん!!」


攻撃をかわされた形となったジグ=リックプライン=ハマアイクではあるが、ゾダン=ソと違い彼は武具を扱う上での鍛錬も行ってきた。

もちろん試合でどう扱うかを学ぶ為、模擬戦なども行っている。


かわされたところで慌てる事は無く、冷静に追撃を行うジグ=リックプライン=ハマアイク。

横なぎがかわされた事で振り回す事となった大槌を、その勢いを利用し一回転から斜め上へと振り上げ、そして振り下ろす。


「どりゃあ~!!」

「うわぁあ~~!!!」


迫りくる大槌に、ゾダン=ソが両腕で頭を庇う。

ジグ=リックプライン=ハマアイクの狙いを察した訳では無い。

ただ顔を殴られるのが嫌で庇ったに過ぎないが、その行動もまたジグ=リックプライン=ハマアイクの攻撃を耐える結果となった。


身体強化された象の獣人の防御力は下手な鎧を上回る。

加えて横暴でありながら臆病でもあるゾダン=ソは、大武闘祭用にと厚手の鎧も身に付けている。

全力での防御。

ジグ=リックプライン=ハマアイクの攻撃を見事に受けきった。


「むぅ・・・さすがに硬いのう。

 だがっ!!」

「うぅ・・・」


更なる追撃。

亀の様に丸くなったゾダン=ソの、その甲羅のような防御を崩そうと連続で大槌を振るうジグ=リックプライン=ハマアイク。

もはや試合とは言えない光景となったが、ジグ=リックプライン=ハマアイクが攻撃の手を緩める事は無い。


『一方的な試合となりましたっ!

 ジグ選手の苛烈な攻撃にゾダン選手防戦一方ですっ!!』

『ジグの攻撃はゾダンに届いていない。

 まずはあの防御を崩し鎧に覆われていない場所を攻撃しなければ意味はない』

『さすがは象の獣人っ!

 防御力も高い高いっ!!』


そう、これほど攻撃を続けても、ゾダンにはさほどダメージを与えられていないのだ。

無防備な場所に当てる事が出来ればその防御も崩せるだろう。

これもまたいじめられ続けてきた習性なのか、ダメージの大きそうな場所を必死で庇うゾダン=ソに、ジグ=リックプライン=ハマアイクの大槌が届く事は無かった。


そして・・・。


「うぅ・・・うわぁ~~!!!」

「なぬっ!?」


一向にやまない攻撃に、ゾダン=ソの過去のトラウマが蘇る。

このままでは殺されてしまうのでは、という恐怖に精神の限界が訪れ、突然叫んだかと思えば振り下ろされた大槌を両腕ではじく。

まさか己の大槌を素手ではじかれるとは思っていなかったのだろう、驚くジグ=リックプライン=ハマアイクにゾダン=ソが思いっきり体当たりを行った。


「がふっ!!」


ゾダン=ソにとってはこれ以上攻撃されない為の防衛手段の一つだった。

なまじ距離があるから大槌を振るわれる。

組みついてしまえばこれ以上は攻撃されないだろうと。


ゾダン=ソにとって予想外だったのは、体格差と勢い、そしてこの一年で得た身体強化のおかげで組みつくだけでなく押し倒せてしまった事。

ジグ=リックプライン=ハマアイクにとって最悪だったのは、攻撃から逃れてなお、ゾダン=ソは冷静さを欠いていた事だった。

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