第603話:もう一人のプレーター学園生徒、そしてレキ
『いや~、さすがは昨年の準優勝選手。
魔術の練度といい剣技といい、凄まじい練度ですね~』
『アランは今もレキに勝とうと鍛錬を続けている。
レキに近づこうとする者と、レキを追い越そうとする者。
その違いが実力に出た』
『おぉ~・・・』
ライカウン教国の者は基本的にレキを崇敬するあまりもはや別の存在であるかのように認識している。
レキに近づきたいというのも、レキと同じ無詠唱魔術を会得し、レキと同じように武術も修めようとするだけで、実力的に近づこうと思っているわけでは無い。
むしろ神のごとき存在であるレキに追いつけるはずも無いとすら考えている。
反面、アランにとってレキはあくまで後輩である。
フランの恩人であり仲の良い友人でもあるが、決して別の存在などではない。
今はまだ勝てずともいつかは勝つつもりでいるし、勝つつもりで鍛錬を続けてきた。
今のアランの実力は相当な物。
武術なら王宮騎士団、魔術なら宮廷魔術士を超え、冒険者ランクでも銀以上はあるかも知れない。
才能の無いアランがここまで強くなれたのも、ひとえにレキに勝とうと言う意識からだ。
レキを目標に頑張ってきたアラン。
今大会への意気込みは、おそらく他の選手を大きく上回っている事だろう。
――――――――――
『続きまして二回戦第二試合!
一回戦を勝ち進んだマウントクラフ学園代表、ジル=ノームコート=クラビイク対、優先枠からの出場ですプレーター学園代表ダーム=ギ選手!』
己の背丈を超える大棍棒を担いで現れたのは、一回戦を勝ち抜いたジル=ノームコート=クラビイク。
己を軸に、まるで竜巻の様に大棍棒を振り回したり、上段から全力で振り下ろし武舞台に深刻なダメージを与えたりと大暴れした選手。
山人の恵まれた力が無ければ到底振り回せそうにないその大棍棒もまた、山人であるジル=ノームコート=クラビイクの力作だ。
対するダーム=ギは狼の獣人。
ミームと同じく徒手空拳で戦うようで、両手に小手を、両足に脛当などを付けている。
狼の獣人は力も強く素早さも高い。
武術に関する適性もあり、高レベルで修める事が出来る。
戦闘における学習能力も高く、戦えば戦うだけ強くなっていく。
まさに戦う為の種族だ。
その分魔術の適性は低いのか、獣人の中でも特に狼人は魔術を不得手としている者が多い。
これまで魔術などに頼らずとも勝ててきた為、今更習う必要が無いと考えているのかも知れない。
『大棍棒対徒手空拳の戦い。
勝つのはどちらでしょうかぁ!!』
「っつってもなぁ・・・」
「うむ、相性の問題があるからのう」
接近して連続攻撃を繰り出す徒手空拳のダーム=ギと、遠距離から一撃必殺の大攻撃を繰り出すジル=ノームコート=クラビイクの大棍棒では、はっきり言って勝負にならない。
ただでさえ素早い狼人のダーム=ギを超重量武器で捉えるのは至難である。
懐に入られれば、ジル=ノームコート=クラビイクはなす術も無く敗れるだけだ。
「分かってんじゃねぇか」
「元より我らは鍛冶士。
戦士ではないのでな」
そもそもジル=ノームコート=クラビイクを始めとするマウントクラフ学園の目的は己の武具を試す為。
何が何でも勝ちたい訳では無く、勝てるとも思っていない。
「おぬしが棍棒使いであればその技量を確かめたいとは思うが」
「わりぃが俺の武器はこの拳だ。
武器は性に合わねぇ」
「であろうな」
『二回戦第二試合、始めて下さいっ!!』
「とは言えこれは大会。
試合はせねばならぬ」
「手は抜かねぇぜ」
「当然であろう」
「始めっ!!」
「ふんっ!!」
「おせぇ!!」
試合である以上手を抜くわけにもいかず、何より戦士相手に手を抜けるはずも無い。
鍛冶士は優れた使い手に敬意を払う者。
それは己の生み出した武具に関係なく、全ての戦士に対する敬意だ。
鍛冶士は使い手がいなければ存在意義を失う。
どれだけ優れた武具を生み出しても、使い手がいなければただの置物である。
故に、例えダーム=ギが武器を使わぬ戦士であろうとも、鍛冶士であるジル=ノームコート=クラビイクは敬意をもって全力でぶつかるのだ。
上段から全力で振り下ろした大棍棒を、ダーム=ギは持ち前の足でかわしつつ懐へと入る。
「終わりだぜっ!」
武舞台が再び割れ、土煙が上がるなか懐へと入り込んだダーム=ギが連撃を叩きこむ。
大棍棒を手放せば多少は防御も出来ただろう。
だが、鍛冶士であるジル=ノームコート=クラビイクは、戦士であるダーム=ギの力量を計るべくその全身で彼の攻撃を受け止めた。
「・・・見事である」
「・・・てめぇもな。
見上げた根性だ」
二回戦第二試合、勝者はダーム=ギ。
――――――――――
『始まってみれば一瞬!
ダーム選手の猛攻に、ジル選手なす術も無く敗れましたっ!!』
『さすがに相性が悪い。
ジルの大棍棒ではダームの速度を捉えられない。
あの大棍棒を小枝の様に振るえたなら勝負は違った』
『それほどの力を持つ選手などそうはいないと思いますが・・・』
『身体強化を更に高めれば可能』
仮にジル=ノームコート=クラビイクが大棍棒を小枝までは行かずとも剣の様に振るえたならジル=ノームコート=クラビイクが勝ったかもしれない。
だが、仮にそうならジル=ノームコート=クラビイクは更に大きな大棍棒を作っただろう。
己が振るえる限界の大きさと重さ。
それがジル=ノームコート=クラビイクの生み出した大棍棒の目標なのだから。
『続きまして二回戦第三試合ですっ!
フォレサージ学園の選手を魔術で打ち破ったレキ選手対、優先枠からの出場となりますライカウン学園代表ラーラ=リラー選手っ!!』
会場が割れんばかりの大歓声を受け、控室からまず登場したのはレキ。
今大会最も注目されているレキは、そんな大歓声の中いつも通り悠々と現れる。
対するラーラ=リラーはと言えば・・・。
「・・・感謝を」
「えっと」
「レキ様と出逢えた事、レキ様と直に対峙出来た事、レキ様にお声をかけて頂けた事。
レキ様と直接魔術をかわせる事。
その全てに感謝を」
足早に武舞台上に上がったと思えば、レキを前にして跪き、祈りを捧げ始めた。
――――――――――
『え~、そろそろよろしいでしょうか?』
「はい」
正直ライカウン学園の選手がレキを前にこういった行動をとるのは分かり切った事。
むしろ祈りの邪魔にならぬ様、司会のヤランもしばし無言で見送ったほど。
なお、ラーラ=リラーに合わせるかのように、観客席にいる者や貴賓室にいる某教皇も祈ったらしい。
「よろしくお願いいたしますレキ様」
「うんっ!」
『それでは二回戦第三試合始めて下さいっ!』
「始めっ!」
最後に深く礼をし、ようやくレキとラーラ=リラーの試合が始まる。
「レキ様を相手に手加減するなど烏滸がましい、最初から全力で行きます。
・・・はあっ!!」
祈るように杖を掲げ、魔力を練り上げたラーラ=リラーが、その杖を武舞台上に突き魔術を発動する。
当然の様に無詠唱だったのは、この一年間の研鑽をレキに見せる為か。
武舞台に突いた杖を中心に魔力が放出され、レキとラーラ=リラーを包み込む。
そして、二人を囲うかのように円状に水の壁が生み出された。
青系統上級魔術、ルエ・サークル。
水の壁で周囲を囲い、自身と仲間を全てから守る魔術。
ラーラ=リラーはそれを、レキと己を隔離する事に用いた。
「お~・・・」
「レキ様に感心されるなど・・・ああ、生きててよかっ・・・ではありません。
次行きますっ!
はあっ!!」
生み出された水の壁に更に魔力を流し、次なる魔術へと繋げる。
水の壁がラーラ=リラーの魔力によって動き始め、レキを基準にその範囲を狭める。
「う~ん・・・やっ!」
このままでは四方から迫る水の壁に閉じ込められ、息が出来ず敗北するかも知れない。
そう考えたレキが、まずは正攻法で打ち破ろうと魔術をぶつけた。
風の塊が水の壁にぶつかり破裂。
一瞬水の壁が霧散したが、周囲の水によってすぐさま復活した。
「お~・・・」
「ああ、また・・・」
予想していた結果とはいえ、見事な魔術にレキが更に感心し、そんなレキの反応に感無量とばかりにラーラ=リラーが恍惚とした表情を一瞬見せた。
一瞬、魔力の制御が乱れ水の壁が崩れかけたが、すぐさま元に戻ったようだ。
「じゃあ次は・・・えいっ!」
ワクワクした様子にレキが手を地に付け魔力を流す。
水の壁を押しのけるように現れたのは土の壁だ。
黄系統中級魔術エル・ウォール。
四方から迫るくる水の壁。
それを押しのけるように武舞台から生み出された土の壁。
魔術系統の相性的に水は黄に弱く、土で出来た壁は水の壁を分断するかのようにそびえ立つ。
「・・・さすがですレキ様。
これほどの土壁を一瞬で」
水の壁を下から両断するかのように生み出された土の壁に、術者に関係なく感心するラーラ=リラー。
土で出来ているとは思えないほどの堅牢さ。
自身が生み出したルエ・ウォールを遥かに超える高さの土壁。
防ぐのではなく両断する事で、水の壁はレキを避けて流れていくだろう。
もっとも、その土壁の向こうにレキはもういない。
生み出した土壁が高く伸びていくのと同時に、その土壁の上にレキが飛び乗っているからだ。
「いくよっ!」
そして、頭上からレキが魔術を放つ。
「くっ!」
連続で放たれる風の塊。
それを新たに生み出した水の壁で防ぐラーラ=リラー。
だが、レキの魔術速度、そして魔力量に押され、水の壁は徐々に綻んでいき・・・。
「きゃうっ!」
修復されるより早く、風の塊がラーラ=リラーを直撃し破裂した。
「う・・・参りました」
二回戦第三試合、勝者はレキ。




