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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三十一章:学園~二度目の大武闘祭・個人戦~
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第600話:暴君

森人と言えど身体強化を行えば十分な威力が出る。

ゴブリンはおろか、ソードボアやオークだろうと立ち回れるだろう。


ミリアルニルスの斬撃は確かにそれほどの威力があった。

だが、その一撃はゾダン=ソに軽々しく受け止められてしまった。

両手斧を片手で振り上げ、いかにもけだるそうな様子で。


「森人の女の剣が俺様に通じるはずねぇなぁ・・・」

「くっ!」

「うらぁあ・・・」

「きゃっ!!」


受け止めた状態から更に力を入れ、片手だけでミリアルニルスを押し返す。


体重差もあったのだろう、ミリアルニルスの抵抗はあって無いような物。

下手に抵抗するより仕切り直した方が良い、そう判断したミリアルニルスが押された勢いを利用して後方へと跳んだ。


「ならばっ!

 はあっ!!」


それは魔術士の間合い。


剣士であると同時に、彼女もまた無詠唱に至った魔術士。

幼い頃から剣を振り回していた彼女の幼馴染であるラリアルニルスも、脳筋なイメージに反して魔術も使える。

そんな幼馴染に剣でも魔術でも負けぬ様研鑽を続けた結果、彼女もまた魔術剣士となった。


全てはいつか再会した時の為、自分はこんなに強くなったのだと伝える為。


『ミリアルニルス選手の魔術攻撃。

 ゾダン=ソ選手まともにくらいました~!!』

『ダメ』

『えっ!?』


魔術に手を抜いていた訳では無い。

だが、彼女の魔術では、象の獣人であるゾダン=ソにダメージを与えることは出来なかった。


――――――――――


「くっ」

「そんな魔術が俺に通じるかぁ・・・」


象の獣人は獣人族の中でもひときわ防御力に秀でている種族だ。

筋肉と分厚い脂肪を身に付け、更には身体強化によって防御力を高めた彼等象の獣人は、下手な防具などいらないほど。

更にはレキの影響でプレーター学園も魔術にも力を入れるようになった。

魔術士と呼べるほどの生徒はまだいないが、魔術を学ぶ過程で魔力操作にも力を入れ、結果身体強化にも磨きがかかった。


その恩恵を最も受けた生徒が、実はこのゾダン=ソである。


――――――――――


ゾダン=ソは元々強かったわけでは無い。

むしろ、昨年までの彼は下から数えた方が早いほどの弱い生徒だった。


鈍重な体。

力はあれどそれを活かせぬ度胸の無さ。

両手斧を振り回せはすれど、隙だらけで大柄な体は絶好の的で、いつも自分より小さな生徒達に良い様にやられてきた。


身体強化を行う事で多少防御力は上がったが、それは他の生徒も同じ。

むしろどれだけ攻撃しても倒れない的として、格好の餌食だった。


転機は昨年の大武闘祭。

レキが見せた黄金の魔力と身体強化。

プレーター学園がレキの身体強化を見習い、魔力操作に力を入れた結果、誰もがその力を大きく向上させた。

素早さを高めた、力を向上させ、中には魔術を身に付けた生徒もいる。

そんな中ゾダン=ソが手にしたのは、身体強化による絶対的な防御力と、両手斧すら片手で振り回せるほどの力だった。


いつも通りゾダン=ソをまるで的の様に扱う生徒達。

「やめてくれぇ・・・」

泣きながら懇願しても止めないクラスメイト達に、ゾダン=ソはいつものように手を振り抵抗した。


生徒達も魔力操作や身体強化が向上したのだろう。

いつもより苛烈な攻撃に、ゾダン=ソもまた身体強化で対抗した。

全身に魔力を流し身体を強化。

筋力が向上し、何より防御力が飛躍的に上がった。


強くなった生徒達の攻撃をものともしないゾダン=ソ。

いつもなら音を上げる頃だと言うのに、一向に降参しないゾダン=ソに生徒達の攻撃は増す一方。


一向にやまない攻撃。

いい加減やめて欲しいと、ゾダン=ソが意味も無く斧を振り回す。


これまでは両腕で振り回していた斧を、生徒達の攻撃も苛烈さもあってか片手で無理矢理振り回した。

その斧が偶然、生徒の一人に当たってしまい・・・。

次の瞬間、その生徒は遠く闘技場の壁までふっ飛んでいった。


「・・・は?」

「お、おい・・・」


突然の事態に他の生徒達も攻撃を止め、吹っ飛んでいった生徒の方へと集まる。

その生徒は意識を失っていた。

ゾダン=ソの斧が当たった個所は凹み、骨も折れているようだった。


「て、てめぇゾダン!」

「な、なにしやがった!」


今までろくに反撃もしてこなかったゾダン=ソの攻撃に、生徒達は警戒より先に憤慨した。

ゾダン=ソが闘技場の真ん中でうずくまったままだったのも、先ほどの一撃が偶然だったのだと思う理由だった。

偶然などであれほどの力が出るはずも無い。

そんな当たり前の事を、頭に血が上った生徒達は理解できなかったようだ。


もっとも、何が起きたか分かっていないのはゾダン=ソも同じ。

これまでずっといじめられ続け、己の鈍重な攻撃など一度も当たった事が無かった。

今のもただの偶然。

決して狙って攻撃した訳では無く、反抗したわけでも無い。


早く起き上がって謝らなければ・・・。


そう考え重い体を起こそうとして、それより先に生徒達の追撃が始まった。


またも蹲り耐えるゾダン=ソ。

さっきのはやはり偶然だったのだと確信する生徒達。

それでも仲間がやられた事で頭に血が上っていたのだろう、攻撃は苛烈さを増していき・・・。


先に根を上げたのはやはりゾダン=ソ。

「も、もうやめ、やめて・・・やめろぉ~!!!」

このままでは死んでしまうかも知れないと必死だった。

必死に立ち上がり、斧を振り回した。

無意識に身体強化を全力で行い、ただ我武者羅に斧を振り回した。

結果、闘技場に立っていたのはゾダン=ソだけだった。


――――――――――


それからだ。

ゾダン=ソが、そして周囲が変わったのは。


虐めていた生徒達はゾダン=ソの攻撃で深手を負い、治癒魔術で治ったとはいえその痛みの記憶は消えず、ゾダン=ソに絡むのを止めた。

他の生徒達は、元よりゾダン=ソやその周囲にかかわるのを良しとしなかった為、その事件以降も相変わらず距離を取った。

そしてゾダン=ソは・・・。


虐められる事の無くなったゾダン=ソだが、やりすぎだと教師に注意されるもお前もやればできるのだと認めても貰った。

自分でも何が起きたか分からなかった為、教師に教わった通り身体強化をしてみた所、確かに重いはずの両手斧を片手で振り回せるようになった。

鈍重だった体も身体強化すれば人並みに動けるようになった。

何より周囲が、ゾダン=ソが身体強化を行う度、斧を振り回す度に怯え距離を取った。


ゾダン=ソが、自分は強いと思うには十分だった。


今まで消極的だった武術の授業にも率先して参加し、最初はあまり強くない生徒と模擬戦を行い、勝ち続ける内に自信がつき、今まで虐めてきた生徒を標的にした。

授業という建前を利用し、「俺が恐ぇのかぁ~?」などと挑発し、武舞台に上がらせては全力でぶちのめした。


いじめられっ子だったゾダン=ソはいじめる側になり、暴君へと変貌したのだ。


――――――――――


今のゾダン=ソは去年までのゾダン=ソではない。

代表の座にまでその暴力でのし上がった、プレーター学園最強の生徒だ。


模擬戦では全戦全勝。

生半可な攻撃は寄せ付けず、習いたてのプレーター学園の生徒の魔術など通じず。

全てをその力で薙ぎ払う暴君。


そんなゾダン=ソにミリアルニルスの細腕の斬撃が通じるはずも無く、初級程度の魔術もまた通じない。


「これならっ!」


先程はなったリム・ボールに代わり、ミリアルニルスが放ったのは同じ初級のリム・ブラスト。

風の塊を放ち、当たると同時に破裂する威力の高い魔術だ。


ただの風の塊ではダメージは与えられずとも、破裂する風ならと考えたのだろう。


「うおぉっ!?」

「どうですかっ!?」


これにはゾダン=ソも面を喰らったらしい。

プレーター学園では今もまだ魔術を使える生徒が少ない。

精々が、最初にミリアルニルスが放ったボール系の魔術で、圧縮し当たると同時に破裂させる必要のあるブラスト系の魔術を使える生徒などまずいない。


ゾダン=ソもブラスト系の魔術を見るのは初めてだった。

先程のリム・ボールと同じだろうと無警戒に当たり、破裂した衝撃に驚いた。


「てめぇ・・・」


ダメージはさほどでもなかったらしい。

破裂した際の音と衝撃に驚き、腰を抜かしそうになったゾダン=ソは、恥をかかされたかのように顔を赤くし、ミリアルニルスを睨みつける。


いくら強くなろうと性根は変わらない。

暴君であるのは臆病を隠す為、あるいはこれ以上他者に見下されぬ為。


元々象の獣人は穏やかで争いごとを好まない性格の者が多く、ただそれが己を鍛え他者と競うプレーター学園に合わなかっただけで、最初から全力を出していれば強く優しい生徒として穏やかに過ごせたに違いない。

ただちょっとゾダン=ソを気に入らない生徒がいて、ただちょっとゾダン=ソが臆病過ぎただけ。

ただそれだけの事でいじめに発展し、耐え切れず反撃してしまい、強すぎた為に過信し、暴君となっただけ。

性根は相変わらず臆病なまま。

だがそれではまた虐められてしまうかも知れない。

臆病な自分を必死に隠し、傷つけられるくらいなら傷つけてしまおうと考えを改め、見下されるくらいなら見下そうと横暴になった。


大武闘祭は己の強さを見せつける為の場。

同じ獣人だろうと他種族だろうと舐められるわけにはいかない。

驚かされた事に憤慨し、やり返さねば気が済まぬとゾダン=ソが斧を振り回しミリアルニルスへと突っ込んで行く。


「そんな見え見えの攻撃っ!」

「うぅらぁあ~!!」


ゾダン=ソは武術など身に付けていない。

頑強な体は相手の攻撃を避ける必要が無く、大振りの斧はただ振り回すだけで誰も近づいてこない。

そのまま突っ込んで行けば、相手は逃げ場を失い吹っ飛んでいく。

ただ強いのだ。


そんなゾダン=ソに対し、ミルアシアクルは入学以前から剣と魔術を研鑽し続けてきた。

剣の技量はフォレサージ学園一位で、他の学園でも十分通じるだろうと言われている。

魔術も手を抜かず無詠唱に至った。


ゾダン=ソが生まれ持った力のみで戦う獣なら、ミリアルニルスは鍛錬によって身に付けた技で戦う人である。

だが、その技量も通じなければ意味が無い。

ミリアルニルスの剣はゾダン=ソを傷つける事が出来ず、ミリアルニルスの魔術をゾダン=ソは物ともしなかった。

逆に、ゾダン=ソの一撃は掠っただけでミリアルニルスを武舞台の端へと吹き飛ばした。


ラリアルニルスと再会していなければ。

彼に己の今の実力を見せようなどと思わなければ。

早々に諦めたかも知れない。


何度ぶっ飛ばされても立ち上がり、果敢に挑む。

時には更に距離を取り、中級魔術をも放って見せた。

多少なりともダメージを与えたようだが、それ以上にゾダン=ソを怒り狂わせ、斧すら使わない体当たりでぶっ飛ばされた。


かろうじて武舞台上に残ったミリアルニルスをゾダン=ソが踏みつけ、首を手に持ちあげ顔を殴った。

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