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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三十一章:学園~二度目の大武闘祭・個人戦~
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第596話:相変わらずのマチアンブリ学園

『さて、今年も始まりました大武闘祭。

 進行役は昨年に引き続き私、ヤランが務めさせていただきます!』


昨年の司会が好評だったのだろう、今年も司会進行役に任じられたマチアンブリ商国のヤランである。

もうすっかり大武闘祭にも馴染んだようで、その司会進行ぶりも板についている。


『そして今年も解説をお願いいたしましたのはフロイオニア王国宮廷魔術士長のフィルニイリス殿です!』

『よろしく』


そして各種解説はこれまたお馴染みのフィルニイリス。

フロイオニア王国の宮廷魔術士長にしてレキ達フロイオニア学園の魔術講師。

その名は故郷であるフォレサージ森国を始め各国にも広まり、その知識はフォレサージ森国森王も認めるほど。


『昨年はフロイオニア学園の無詠唱魔術が目立ちました。

 今年はどうでしょうか!?』

『レキとアランが見せた無詠唱魔術は他国の学園にも脅威だったはず。

 少なくともフォレサージ学園は負けていられない。

 ライカウン学園も、レキに少しでも近づくべく身に付けたはず。

 今年は無詠唱が当たり前。

 それにどう対処するかが勝敗を決めるはず』

『ほうほう、わずか一年でそれほどまでに浸透したと言う事ですね』

『森人の矜持と教国の威信にかけて、身に付けなければならない』


用はプライドの問題である。

今回の場合、相手がレキだけなら光の精霊の申し子様だからですんだが、アランまでもが詠唱せず魔術を放ってしまった為、純人族に出来て森人族に出来ないはずが無いと火が付いた形だ。

ライカウン教国に関しては、アラン殿下にも出来たのですから私達にも出来るはずと、少しでも光の精霊の申し子に近づこうと、不可能ではないのだからと努力したのだ。

その結果どうなったかは、間もなく始まる個人戦で分かるだろう。


『プレーター学園も無詠唱魔術は無視できない。

 どう対処するか見もの』

『ふむふむ、どの学園も昨年とは違うという事ですね』

『そう』


以前なら魔術など詠唱している隙に距離を詰めれば敵ではないと豪語していた獣人達も、その詠唱が無くなってしまえば距離を詰めるどころではない。

それどころか、こちらの手が届かぬ距離から一方的に魔術を放たれ、何も出来ず負けてしまう恐れすら出てきた。


無詠唱魔術自体はプレーター獣国にも伝わっている。

会得出来ずとも、対処法を考える事は出来たはず。

加えて無詠唱魔術を会得する過程で魔力操作や魔力の練り方高め方も習ったはず。

応用すればこれまで以上の身体強化を会得する事だって出来ただろう。


無詠唱魔術こそ使えずとも、それに対処できるだけの技術は身に付けたはずだ。


もちろん他の二国も、何らかの形で対処できるようになったはず。

いや、対処できなければ試合にならない。


山人は己の生み出した武具を、商国は己の才覚で得た武具の性能を通じて目利き能力を。

それぞれアピールする為、何も出来ず敗退する訳にはいかない。


無詠唱魔術と言う新たなる技術を切っ掛けに、大会そのものが新たなる次元へと上がる事になったのだ。


――――――――――


『それでは一回戦第一試合を始めたいと思いますっ!!

 マチアンブリ学園代表、サクス=ナーラ選手』


いよいよ始まった大武闘祭個人戦。

最初に登場したのはマチアンブリ商国の学園代表、サクス=ナーラ。

己の才覚で得た武具を用い、戦うスタイルの学園は、勝利する事で己の目利きが優秀であることをアピールする事を目的に出場している。

優勝する事はそれほど大事では無く、相手次第では顔を立てる為にあえて敗北を選ぶ事すらある。

例えばアランのような王侯貴族が相手なら、無理に勝たずとも知己を得られるだけで十分な場合すらあるのだ。


もっとも、アラン相手にそのような真似をすれば間違いなく悪印象を与えるだろう。

そういった見極めもまた、彼等には必要となる。


『対するはライカウン学園代表、フィルス=ミーリス選手です』


続いて登場したのはライカウン教国の学園代表のフィルス=ミーリス。

創生神や精霊を信仰し、神話を学ぶ学園で勉学に勤しむ生徒達にとって、この大会は正直さほど重要では無かった。

六ヶ国の交流も目的の一つである為、仕方なく出場すると言うのが本音であり、他者と競う事すら忌避感を感じていたりする。

試合には主に魔術を用いるが、これだって精霊に通じていると言う理由で学んだに過ぎず、あるいは精霊を祖としている森人に倣い学んでいるだけ。

そもそもライカウン学園が得意とし率先して学ぶのも治癒魔術の多い青系統で、試合に用いるには不向きなのだ。


そんなライカウン学園ではあるが、今年からは率先して大会に参加している。

なんならそれまで行われなかった代表を決定する為のトーナメントすら開催されたほど。


光の精霊の申し子であるレキが出場すると言うのがその理由であり、大会に出られればレキ様と直接お会いする事が出来るとあっては、張り切らない者はいない。


そのし烈な戦いを制したのがフィルス=ミーリスなのだ。


大会に対する意気込みは圧倒的にフィルス=ミーリスが上。

実力に関しては不明だが、武具だよりなサクス=ナーラと魔術を磨き上げたフィルス=ミーリスでは自力が違う。

フィルス=ミーリスがおそらく扱えるであろう無詠唱魔術を、サクス=ナーラがどう対処するかが勝敗を決めるだろう。


――――――――――


『サクス=ナーラ選手はマチアンブリ商国でも有数な商家の跡取りだそうです。

 当然その武具も、彼の実家で融通された優秀な武具であります』

『生まれ持った環境をどう使うかも商人には大事。

 持てる手段を使うのは当然』


『対するフィルス=ミーリス選手は成績優秀才色兼備、魔術の実力も随一。

 今年の聖女でもあります』

『去年からどれほど魔術が向上したか。

 無詠唱に至ったか。

 楽しみ』


ヤランの紹介と共に武舞台上へと上がる両名。

サクス=ナーラは魔術対策なのだろう、表面が輝く盾を片手に、もう片方の手には槍を持っている。


対するフィルス=ミーリスはライカウン学園特有の装備。

純白のローブに杖というスタイルだ。


『サクス=ナーラ選手の盾は、もしかして・・・』


「せや!

 魔術を反射する盾やで。

 昨年の阿呆な先輩とちごうてこれは本物や!」


「なんやと!」

「後輩のくせに生意気や!」


武舞台上で胸を張るサクス=ナーラに対し、観客席からヤジが飛ぶ。


『そう言えば昨年のマチアンブリ学園の選手も魔術を反射する盾を持っていましたね~。

 さぁ、サクス=ナーラ選手の盾は本物なのでしょうか!?』


魔術を反射する盾。

これ以上ないほどの魔術対策である。

例え相手が無詠唱で魔術を放とうとも、この盾があれば恐れる事は無い。


もっとも、魔術を反射する盾であろうと全ての魔術に対し有効という訳ではない。

上位系統の魔術は反射しきれず、魔術が当たった際に生じる衝撃などもそのまま伝わる。

火や水、風といった魔力によって生み出された現象は反射するが、魔力で固めた土そのものは反射できない。

と言った具合である。


それでも通常の魔術ならほぼ無効化出来る為、魔術士対策には十分だろう。


もちろん本物であれば、の話だ。


「ふふんっ!

 これは知るものぞ知る店で買うた本物や!

 昨年の不甲斐ない先輩らが買うたバッタもんちゃうで~!」


「なんやと・・・?」

「・・・なあ、その店て」


見せつけるように盾をかざすサクス=ナーラに対し、観客席の不甲斐ない先輩二人が首を傾げた。


「ワイらが騙された店ちゃうか?」

「しっ!

 だまっとこうや」


不甲斐ない先輩達は昨年、魔術を反射すると言う盾を入手し、大武闘祭で披露した。

マチアンブリ商国の北区、酒場の横の路地を真っ直ぐ行き、突き当りを右に曲がった先にある、知る者ぞ知る隠れた店。

その店に行きつく為には情報が必要で、その店を利用する為には更に情報が必要。

店に並ぶ品々は他の店ではお目にかかれない最上級の物ばかりで、当然値もはる。

だが、学園の代表になれるほどの生徒ならたどり着くことは容易く、もちろん金だってある。


その稼ぎをすべてつぎ込み入手した魔術反射の盾。

昨年の不甲斐ない代表二名はその偽物を掴まされ、あえなく敗北した。


さて、今年のマチアンブリ学園代表は・・・。


「なんでや~!!」


『あ~・・・また偽物だったようですね』

『不甲斐ない』


ダメだったようだ。


「・・・なんだったのでしょうか?」


一回戦第一試合、ライカウン学園代表フィルス=ミーリスが開始早々青系統中級魔術を無詠唱で放ち、勝利した。

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