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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三十章:学園~フォレサージ森国
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第588話:別の再会

事務所にて大武闘祭に関する諸々の手続きを終えたレキ達は、フォレサージ学園教師リミアスリアルの案内で魔術演習場へと向かった。


プレーター学園に武術場が多いように、フォレサージ学園には魔術演習場が多い。

昨年の大武闘祭以降、武術場で武術の鍛錬を行う生徒も増えているらしいが、それでもやはり魔術演習場を使用し魔術の練習を行う生徒は多く、どの演習場も生徒達でにぎわっていた。


プレーター学園もフォレサージ学園も、授業後や休暇中も学園の施設を利用する事が出来る。

プレーター学園では武術の鍛錬に狩りの練習、フォレサージ学園では魔術の鍛錬に加え学園にある書庫が解放され自由に借りられるらしい。


「素晴らしいですね」

「はいっ!」


どの生徒も休暇返上で己の研鑽に務めている。

もちろん休暇を満喫する生徒もいるが、学園ごとの武闘祭を終え、大武闘祭が近いだけあってどの生徒もやる気に満ちていた。


そんな中で魔術を披露するとあり、最初は緊張していたファラスアルムであったが、フォレサージ学園の慣れ親しんだ雰囲気に緊張もほどけたらしい。

元々はファラスアルムも通う予定だったフォレサージ学園。

何か思うところがあるかもと危惧していたルミニア達だったが、ファラスアルムの表情に陰りは見当たらなかった。


「私、フロイオニア学園に入って本当に良かったと心から思っているんです。

 だってルミニアさんやフランさん、ユミさんにミームさん、ルーシャさん、それにレキ様と出逢えたのですから」


もしファラスアルムが魔術の際に溢れ、フォレサージ学園に入っていたとしたら・・・。

勉学に励み、不得手な武術の鍛錬からも逃げず、才が無いと言われても諦めず魔術を鍛錬し、無詠唱魔術に至ったファラスアルムである。

フォレサージ学園でもきっと自己研鑽に務め、優秀な生徒になっていたに違いない。

ただ、無詠唱魔術に至る事は無かっただろうし、これほどまでに明るくもならなかった。


フォレサージ学園では手に入らなかったたくさんの物を、今のファラスアルムは持っている。

だからこそ、自分が入るのを諦めたフォレサージ学園にいざ足を踏み入れても、何も思うところは無い。


「うぅ・・・」


などと行くはずもなく、ルミニアの背に隠れるようにしながら学園内を歩くファラスアルム。

彼女の性格は確かに後天的な面もある。

魔術の才に恵まれず、両親からも関心を持たれず(誤解だったが)、結果自分に自信を持てなかった。

内気で弱気で引っ込み思案、それがファラスアルムと言う少女であり、それらはおそらく生まれつきのモノでもあるのだろう。

魔術の才能が有り、両親がちゃんと構っていればとも思うが、彼女の本質はおそらく変わらなかっただろう。


内気なのは他者に頼らず自分で何とかするから。

弱気なのは自分に満足していないから。

引っ込み思案なのも思案に耽ってしまうから。


例え魔術の才能があっても、それらは変わらない。

何故ならそれは、ファラスアルムの美点でもあるのだから。


とは言え、他者の視線にビクビクするのは欠点だろう。

ここはある意味敵地。

これから大武闘祭と言う場で倒さねばならない相手がいる場所。

そんなところに堂々と乗り込んでくる他国の生徒が注目を浴びないはずが無い。


幸いなのは生徒達の視線に敵意も害意も無い事か。


「あ、ほらあの方が」

「もっと強そうな見た目をしてると思った」

「優しそう・・・」

「かっこいい」

「え~、可愛いよ~」


先頭を歩くレキに対しては、情報が既に伝わっているのだろう好意的な視線が多い。

背も伸びているとはいえ、母親似の顔は男らしいとは言えず、今はまだ可愛らしいという表現が似合う。

だがそれが庇護欲を誘うらしい。

王宮にいた頃、女性の騎士が良く野営中などに一緒に寝よっかと誘ってきたのも、生い立ち含め母性をくすぐるからだろう。

そんなレキも成長するに従い、少しずつ子供っぽさは抜けてきている。

あと数年もすれば、さぞかし女性を誘う甘い顔になるだろう。

フォレサージ学園の女子生徒達からの評価も上々である。


その後ろに続くルミニアは伊達に公爵家の子女ではないのか、その佇まいにも気品が溢れただ者では無いと言う雰囲気を醸し出している。

残念ながらフランからはそのような気品は漏れていないようだが、レキ以上に幼く見えるその容姿に侮蔑するような視線は向けられない。

ユミは使用人見習いとして働いていた経験からか、その所作に隙は無く、ちらりと目があればペコリと会釈しては口を開ける隙を与えなかった。


ライカウン教国でそういった作法を習っていたのだろう、ルーシャも問題は無い。

ただ、精霊学を学ぶ者として精霊を祖とする森人はある種崇敬の対象でもある。

その森人の学び舎とあって、少々落ち着きを欠いているようだ。


男子側もガージュとユーリは流石貴族の出なだけあって落ち着いていた。

ガージュは元々他種族の優秀さを暗に認め、だからこそ純人である自分はより一層の努力をしなければならないと考えていた。

そんな他種族の、魔術に優れる森人の学び舎に興味がない訳では無いが、伯爵家の嫡男であるその矜持からか実に堂々としたたたずまい。

そんなガージュを揶揄いつつ余裕を見せるユーリと、二人は実に良いコンビである。

なんだかんだ容姿に優れる二人も、フォレサージ学園の生徒から好機の視線が送られている。


問題なのは・・・平民であるカルクと獣人のミーム。

カルクは他国の学園であるからと興味を隠そうとせず、魔術が不得手なミームは逆に興味を欠片も示さない。

キョロキョロと無遠慮に辺りを見回し歩くカルクと、退屈そうに歩くミームに、生徒達から何あの子と言った若干の侮蔑を含む視線が遠慮なく注がれていた。

それをまったく気にしないのも、ある意味二人の長所だろうか。


後に続くアランは堂々と、ローザは淑女然とした様子で高貴な様子を醸し出し、続くフィルアはまさに護衛の騎士と言った様子。

ジガは相手の感情お構いなしに手を振り、ラリアルニルスもファラスアルム同様故郷の学園である事から興味があるのか、カルクほどではないが先ほどから「ほう」と感心したような声をあげ・・・


「ラリアっ!?」

「・・・ミリア、か?」


ある女子生徒に呼び止められ、目を丸くした。


――――――――――


「なんであんたがここにっ!」


怒り心頭な様子でラリアルニルスに詰め寄る女子生徒。

フォレサージ学園の制服を着ている事から、彼女もここの学生である事は分かる。

加えてラリアルニルスの名を知っている事から、おそらくは学生になる前からの知り合いであるだろう事も。


彼女の名はミリアルニルス。

ラリアルニルスと同じルの大樹出身の森人であり、ラリアルニルスとはいわゆる幼馴染の関係である。


「お、おちつけミリア。

 そりゃお前に何も言わずフロイオニア学園に入ったのは悪かったが・・・」

「今更っ!!」

「ぬぉっ!」

「大体っ!

 一緒に強くなろうって言ったのはあんたでしょうがっ!」

「わ、分かったから少しは」

「何が分かったのよっ!!」

「くっ!」


ラリアルニルスに飛び掛かり、拳や蹴りを繰り出すミリア。

意外にも洗練されたその攻撃。

ここが獣人の国プレーターの学園なら日常茶飯事な光景なのだろうが、あいにくとここは魔力と魔術を重んじる学園フォレサージ。

魔術は精霊がもたらした崇高な力であると言う考えの下、基本的には研究と自己研鑽に明け暮れる中、このような武術を習得している森人は比較的珍しい。

そもそも廊下で、それも他国の生徒の前で挑みかかる時点で珍しいを通り越して事件である。


「っ!

 レキっ、止めろっ!!」

「あ、うん」


と、そんな悠長な事を言っている暇はない。

いち早く事態を理解し収拾すべくアランが手短に指示を出し、それを受けたレキが動いた。

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