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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三十章:学園~フォレサージ森国
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第585話:研究者とその娘

「それにしても・・・」


極端と言うかなんというか。

娘の為の研究に没頭しすぎて肝心の娘をほったらかしにしていたファラスアルムの両親。

何でも、ファラスアルムが五歳の頃から両親は自室にこもりがちになったと言う。

五歳と言えばファラスアルムが初めて魔術を使った頃。

種族的に魔術の適性が高い森人の子供なら特におかしい事は無く、むしろ少々早いぐらいだ。

「流石は私達の娘」とその時は大いに喜び、「他に使える魔術は無いの?」などと無邪気に喜んだ。


適性のある者は一度でも魔術を使えば他系統も難なく使える事が多い。

おそらく、基本や初級魔術なら魔力の扱いさえ分かれば使えるようになるのだろう。


青系統の基本魔術であるルエを使って以降、ファラスアルムが他系統を使う事は無く、そこで両親は己の娘には青系統以外の適性が無いことを察してしまった。


初めて魔術を使えた時の娘の嬉しそうな顔。

その顔が何時か悲しみに染まり、果ては魔術そのものから遠ざかってしまうかも知れない。

もう二度とあの時の笑顔が見れなくなってしまう。


そうならない為、両親は後天的に他系統の適性を得る方法や、一系統を極める為の効率の良い鍛錬方法、一系統のみで名を遺した偉人の話など、とにかく娘の為に手を尽くした。

加えて、娘のこれからを考えなるべく甘やかさず厳しく接しようと模索したのだが・・・目に入れても痛くないこの世界で最も愛する娘に鞭を打つような真似は出来ず、むしろふとした拍子に甘やかしてしまいそうになる己にむしろ鞭を打った結果・・・無関心を装うのが精いっぱいだったそうだ。


「才能に恵まれ、周囲からもてはやされた結果傲慢になる。

 そういった事例は多い」


レイラスの様に、貴族だろうが王族だろうが魔の森で生きてこようがお構いなしに容赦なく鉄拳を振る舞える者はそうはいない。

ましてやそれが実の娘であれば・・・。

貴族の家なら臣下に任せると言うのも手だろう。

ファラスアルムの家はフォレサージの中でも中流の家で、他者に委ねる事は出来ない。


ある程度大きくなるまでは各家で基本的な知識を身に付けさせ、その後学園に入る年齢まで他の家の子供と共に魔術を習うのがフォレサージ森国の風習である。

ファラスアルムもそれに倣い、十歳になるまでは他の子供達と共に魔術の練習に励んだ。


最初は良かった。

他の子供もいきなり複数系統を扱えなかった。

才能に恵まれた一部の子供は使えたがほんの一部。

殆どの子供は共に励むうちに他の系統も扱えるようになる。


ファラスアルムだけは、どれほど励もうと青系統以外を扱えるようにはならなかった。


ファラスアルムの三つ上にカリルスアルムと言う才能に溢れた子供がいたのも不幸だった。

彼は三系統の魔術を扱い、周囲から褒めそやされた結果傲慢になり、更には一系統しか扱えないファラスアルムを落ちこぼれと見下した。

他の子供もそれに倣い、一緒になって彼女を見下した。

結果、ファラスアルム自身も自分を落ちこぼれと思うようになり、鍛錬にも次第に参加しなくなってしまった。


ファラスアルムの家には沢山の書物があり、逃避するには十分。

そんなファラスアルムを見かね、何とかしようと両親は研究を始め、娘に構う時間も減っていた。

その結果ファラスアルムはますます書物の世界へと逃避するようになり、最終的には家からも逃げる為フロイオニア学園へとやってきた。

彼女の知識は、いわば逃避の産物なのだろう。


それでも、だ。

その知識が、経験が、過去があったからこそファラスアルムはフロイオニア学園でかけがえのない友人達と出逢い、更には無詠唱魔術を会得するのだから皮肉なものだ。

彼女に魔術の才能が、適性があればスの大樹の子供達と共にフォレサージ学園に通っていた。

当然レキ達と出逢う事は無く、無詠唱魔術も学園を通じて知るのみで、会得にはさらに時間がかかったか、あるいは会得すら出来なかったかも知れない。

才能が無かったからこそ無詠唱魔術に至る事が出来た。

ファラスアルムが一系統しか適性が無かったのも、全ては無詠唱魔術に至る為だった、あるいはそう考える事も出来る。


故に、ファラスアルムは自らの決断を後悔していないし、両親へのわだかまりも・・・こちらは残念ながら解消されたとは言えなかった。


――――――――――


因みに、ファラスアルムの両親の研究に関してはある程度成果が出ている。


「赤系統と青系統は火や水を変化させる為の力が必要となります。

 ただ生み出すのではなく、生み出した火や水を制御する力。

 それこそが上位系統に至る為の力です」


赤は火から炎になる事で真紅に、青は水から氷へと変化する事で紺碧に、緑は風を集め雷を起こす事で新緑に、黄は土から石や岩を動かす事で雄黄に。


上位系統に至る為に必要なのは魔術を制御する力。


ただ魔力を高め放つだけでは、火は炎にならず、水は氷に変化せず、風が雷を起こす事は無く、土は動かせど石や岩を動かす事は出来ない。

火を炎に、水を氷へ、雷を起こし、魔力で石や岩に干渉する。

と言った魔力の更なる制御が必要となり、それには今までのようなただ魔力を練り威力を高めるだけではダメなのだ。

己の魔力を制御し、魔力によって発生した様々な現象に干渉する力。

火を生み出した後に炎へと至らせ、水を生み出した後に氷へと変化させ、風を生み出した後に集めて雷を起こし、土のみならず石や岩にまで魔力を行き渡らせる。

そう言った高度な技術が必要なのだ。


「なぜレキは出来るのだろうな」


ガージュの呟きに、フランまでもが頷いていた。


――――――――――


レキの魔力は常人とは比べ物にならない。

その有り余る魔力で強引に魔術を放っている、と言うのはレキが無詠唱で魔術を放てる理由だった。

ただ、それでは無詠唱魔術に必要な魔力を強引にねん出しているだけで、魔術の規模や威力が増大する事はあっても上位系統の魔術を発動できる理由にはならない。

何故なら、上位系統の魔術を行使するには魔力のみならず制御する能力も必要だからだ。


有り余る魔力で強引に魔術を行使しているレキに、魔術を制御するなど出来るだろうか?

実際に上位系統の魔術を行使出来ている以上、制御しているはずなのだが、ガージュ達はおろかレキ本人までもが首を傾げた。


「そちらは?」


それまで蚊帳の外だったレキ達ではあったが、ガージュの呟きにファラスアルムも反応した事で、ファラスアルムの両親もようやく目を向けた。


「私達はファラさんのクラスメイトです。

 こちらはレキ様。

 おそらくはご存知かと思いますが・・・」

「レキ殿と言うと・・・」

「あの黄金の魔力を用いて上位系統の魔術を自在に操るという・・・」


いったいレキはどのように周知されているのだろうか。


ライカウン教国では半ば神格化すらしているレキは、フォレサージ森国では大魔術士とでも言うべき存在になっていた。

それこそ、研究ばかりで引きこもりとかしていたファラスアルムの両親の耳にも届くほどに。


「レキ殿がファラの学友とは」

「これも精霊の導きか」


ただ、ライカウン教国がレキを崇敬しているのに対し、フォレサージ森国でのレキはあくまで憧れや尊敬の対象。

崇敬とか神格化していない。

レキの黄金の魔力を光の精霊の申し子だと言っているのもライカウン教国の者達であり、森人にとってレキは素晴らしき膨大なる黄金の魔力を持った存在と言う認識だ。

レキはあくまで純人。

ただ輝かしくも眩き黄金の魔力を持ち、人の身には有り余るであろう膨大なる魔力を持った少年である。

と言うのが森人の認識である。


ただちょっと、その輝きに目が眩んだり、感激のあまり意識を失うだけ。

カリルスアルムの様に気にしない者は気にせず、敵愾心を抱く者だっている。


学者肌であるファラスアルムの両親にとって、レキはファラスアルムの学友ではなく、学生の身でありながら無詠唱魔術や上位系統魔術を身に付けている存在である。

娘であるファラスアルムが目指すべき頂に立った、娘の目標にして手本となりえる相手なのだ。

娘の為、一系統しか才能のない娘が魔術士として成功する為には、他の系統を身に付けるかその一系統を極めるしかない。

純人でありながら全ての系統を扱い、更にはその全てで上位系統に至っているレキほどファラスアルムの手本として相応しい存在は無いだろう。


「レキ殿。 

 そなたの魔術、ぜひ我々にも拝見させていただきたい」

「娘の為にも、私達の研究の為にもぜひ!」


言うまでもないが、レキは学園で、ファラスアルムの目の前で何度も上位系統の魔術を使っている。

ファラスアルム達への手本として、レキ自身の鍛錬の為に、授業の度に使っている。

手本としてはもう十分すぎるほど披露したと言って良い。

ただし、肝心のファラスアルムが感激しては意識を失いまくっていた為、参考になったかどうかは定かではない。


とは言え、学園には宮廷魔術士長にして無詠唱魔術の第一人者であるフィルニイリスがいる。

彼女の指導の下であれば、ファラスアルムも遠からず上位系統に至れるに違いないと、誰もが思っている。


実際、ルミニアは間接的ではあるが上位系統の魔術を発動して見せている。

レキの魔術は凄すぎて参考にしづらいが、ルミニアの魔術であれば大いに参考になったはずだ。


それでもファラスアルムの両親に見てもらう事で、何か分かる事もあるかも知れない。

レイラスの許可を取り、レキ達はとりあえず家の裏手にある演習場へと向かった。


ファラスアルムの家はそれなりに裕福で、家も広く、裏手にはそれなりに立派な魔術の演習場があった。

もちろん学園のそれより遥かに狭いが、一~二人が練習するには十分である。


「ここは・・・」


ファラスアルムも昔はここで練習していた。


ここは幼いファラスアルムが魔術の練習をしたいと両親にお願いし、用意してもらった場所。

魔術が好きで、両親が大好きで、両親の様な魔術を使ってみたいとキラキラとした目でお願いされ、二つ返事で用意した。

その日から、ファラスアルムは両親と共にここで魔術の練習に励んだ。


そんな、思い出の場所である。


「レキ殿、お願いします」


今、その場所にレキが立っていた。

ファラスアルムの両親にお願いされ、外ならぬファラスアルムの為にと言われ、魔木で出来た的の前に立つ。

手をかざし、ファラスアルムの手本になるように使うのは青系統の上位である紺碧系統。

入学試験などでも使ったアズル・ランスを、レキは一応手加減した上で放った。


「お、おおっ!」

「す、素晴らしい・・・」


「ふぅ~」

「あっ、ファラ」


加減したとは言え上位系統。

加えてレキの全身から溢れ出す黄金の輝きに、ファラスアルムの両親はそろって感激し興奮し始め、そして娘は意識を失った。

G/W 連続投稿 9/9

次回より日曜更新に戻ります

引き続きよろしくお願いいたします

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