第584話:親の心、子に伝わらず
「お二方がファラスアルムのご両親と言う事でよろしいか?」
「え、ええ」
「そ、そうです」
力いっぱい思い一杯娘を抱きしめ、涙すら流していたファラスアルムの両親。
よく聞き取れない言葉を発しながら娘を抱きしめ、時折顔を見ては更に抱きしめる。
と言った行動を繰り返しつつ、落ち着いたのはしばしの後。
「良く帰ってきた」「どこに行ってたの?」「こんな事ならもっと」などと繰り返していたが、とりあえず娘を迎え入れる心持ではあるらしい。
「フミルスアルムです」
「ライカスアルムと申します」
男性はフミルスアルム。
女性はライカスアルム。
二人は間違いなくファラスアルムの両親だと言う。
とは言え事前にファラスアルムから聞かされた両親とはかけ離れた様子に、ファラスアルム自身も困惑しっぱなし。
そんなファラスアルムに代わり、レイラスが矢面に立った。
「私達は後日行われる六学園合同主催の大武闘祭に出場する為、ルの大樹へと向かう途中です。
フロイオニア学園の代表生徒であるお二方のご息女ファラスアルムの実家がこちらにあると言う事で立ち寄ったのですが」
「ファラが代表生徒?」
「大武闘祭ですって?」
寝耳に水だったのだろう。
レイラスの言葉に過剰に反応する両親である。
「ファラが、娘が学園の代表?」
「そ、それは本当の事ですか?」
「っ」
困惑する理由はやはり、ファラスアルムの才能のせいか。
一系統しか使えず、落ちこぼれと称されていたファラスアルムが、他種族の学園とは言え代表の座に上り詰めたと言う事が信じられないのだろう。
気持ちは分からなくもない。
だが、娘の前でとる反応では無かった。
驚愕と共に漏れた両親の言葉に、娘のファラスアルムが顔をしかめた。
明らかに傷ついた表情、それを見せまいと顔を背けた。
「ええ。
あなた方のご息女は非常に優秀です。
座学は一位、魔術においても入学後無詠唱魔術に至った初めての生徒です」
「む、無詠唱・・・」
「ファ、ファラが・・・」
無詠唱魔術。
今から二年ほど前、フロイオニア王国から広まり各国にも浸透しつつある技術。
あの「魔術など不要、むしろ詠唱している隙に距離を詰めて殴ればいい」と豪語していた獣人達ですら、無詠唱で放てる魔術を脅威に感じ、習得しようとする者も表れているほど。
それほど無詠唱魔術は有用であり、同時に高度で難度の高い技術だ。
先行していたフロイオニア王国でも、会得しているのは宮廷魔術士達を除けばごく一部。
学生でもほんの一握りの生徒が使える程度。
他国にいたっては、魔術に長けるフォレサージ森国と、とある理由で死に物狂いで鍛錬しているライカウン教国を除けばほとんどいない。
それほどまでに高度な技術を、落ちこぼれと称されていた娘が会得した事に、ファラスアルムの両親はなかなか受け入れられないようだった。
――――――――――
「先生ならご存知でしょうが、娘は生まれつき一系統しか魔術を扱えませんでした。
魔術の系統は生まれつきの才能によるところが大きく、後天的に他系統の魔術を扱えるようになる者もいるのはいるのですが、並大抵の努力では至れないと聞いています」
しばしの後、レキ達は改めてファラスアルムの家に迎え入れてもらった。
なお、ここにいるのはファラスアルムとレキ達二年生最上位クラスの生徒と担任のレイラス。
アラン達四年生は護衛の騎士団と共に宿に残り、アリルやライカ達他の者達もそれぞれの宿に向かった。
ファラスアルムの学園に来る前の扱いは落ちこぼれと称されていた事からもある程度は分かる為、悪い結果になった場合仲の良い友人だけの方が良いだろうと配慮した結果だ。
とは言え、このような状況になるとは誰も思っていなかったが。
「フィルは赤系統苦手だったって言ってたけど」
「フィルニイリス殿も相当な努力と時間を費やしていたはず」
森人の多くは複数系統に適性を持って生まれる。
大抵の者は扱える系統を極めようとし、新たな系統を得ようとする者は少ない
長い生を持つ森人でも、他系統を得るのはそれだけ難しいと言う事だ。
フィルニイリスも元々は青・緑・黄の三系統で赤系統の適性は無かった。
並々ならぬ努力の末、身に付けたのだ。
逆を言えば努力さえすれば他系統も扱えるようになると言う事。
ただし・・・。
「複数系統を扱える者ならその応用で他系統を得る事も出来るでしょう。
だが、一系統しか扱えない者は、他系統を扱う、あるいは切り替えると言う感覚が生まれつきなく、他の系統を会得するのはかなり難しいと・・・」
ファラスアルムの様に生まれつき一系統の才能しかない者は、複数系統を扱うと言う感覚が掴めず扱えるようにならないと言う。
フィルニイリスのような例もある為、不可能とまではいわないが、相当な努力と時間が必要となる。
少なくともファラスアルムが在学中に会得するのはまず無理だろう。
これは何もファラスアルムのような一系統しか扱えない者だけの話では無い。
二系統扱える者も、三系統扱える者も、扱える系統を増やすのは非常に困難なのだ。
フィルニイリスが例外なだけで、持ち得る系統を伸ばし上位系統を目指すのが普通である。
「娘は、ファラは幼い頃から魔術が好きで、初めて魔術を扱えた時はそれはもう嬉しそうに見せてくれました。
そんな娘にあなたは魔術の才能が無いなどとどうしていえましょうか」
ただでさえ一系統しか扱えず、周囲の者から落ちこぼれと言われていたファラスアルムである。
両親にまで才能が無いなどと言われれば、あるいは魔術士の道を諦めていたかも知れない。
「それで無関心を?」
「褒めて伸ばすと言う手段は慢心を生み傲慢になりかねず、厳しくしては魔術士の道を断念させかねなかった」
才能がある者ほど傲慢になり易く、無い者は挫折し易い。
ファラスアルムは後者であり、周囲の者が他系統扱える以上褒めても慰めにしかならず、かと言って厳しくしては断念する。
ファラスアルムの両親が選んだのはどちらでもない、無関心を装う事だった。
「それは・・・」
「な、なにもしなかった訳ではありません。
私達は私達なりに、娘の将来を憂いて・・・」
「後天的に他系統を会得する方法や上位系統に至る為の鍛錬方法など、娘が学園に入る前に何としても見つけたかったのです。
それが・・・」
そのどちらも見つからず、それでも最後まであがいていた両親。
そんな両親から関心を向けられなかった娘のファラスアルムは、両親に見切りをつけて他国の学園へと一人向かった。
まあ、何というか・・・
「会話が足りない」
「はい」
「ごもっともです」
レイラスの言う通りだった。
――――――――――
「そ、それでは・・・」
「ファラ?」
「わ、私に関心が無かったわけでは・・・」
両親の想いを聞き、ファラスアルムが信じられないような表情をしながら改めて二人に問いかけた。
ファラスアルムが何をしても両親は「そうか」の一言で済ませてきた。
それはフロイオニアの学園に向かうその日まで続いており、彼女は両親に見捨てられたとすら思っていた。
それがまさか、両親がファラスアルムの為にいろいろと考え、研究すらしていたとは。
流石に即信じられる内容ではなかったが、それでも信じようと言う気持ちがあるのはファラスアルムにとって二人が両親だからだろうか。
あるいは見捨てられたものと一度は諦めた感情が再燃したからか。
ファラスアルムは何も両親を嫌った訳ではない。
むしろ両親の方が彼女を嫌った為、潔く家を出たまでの事。
もし、両親が本当にファラスアルムの事を大切に思ってくれているなら・・・。
今更家に、フォレサージ学園に編入する気持ちは無いにせよ、やり直す事は出来るかも知れない。
そう思ってしまったファラスアルムである。
「あ、当たり前だ」
「あなたの事を蔑ろにしたことは謝るわ。
でも、私達はあなたの為に必死に・・・」
娘の言葉に、二人が机を強くたたきながら立ち上がった。
それは娘の反応に対する感情か、あるいは娘に勘違いさせてしまった自分達のこれまでの言動に対する怒りか。
「いえ、今更ですね。
でも信じて。
私達は本当にあなたを愛しています。
あなたが魔術に、あるいは自分に絶望しない為。
新たな道を示したくて今まで頑張ってきたつもりなのです」
「お前が他国の学園に行くほど思い悩んでいたなんて・・・。
私達は親失格だな」
「ええ、本当に・・・」
親は娘の為に目を背け、娘は親に目を向けてもらいたくて一人悩んでいた。
見事なすれ違いを行っていた一家は、ようやくお互いに目を向けられるようになったのだった。
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